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動画教材で成績が伸びない理由とわかったつもりを破る数学学習法

by 小林 美咲
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動画学習が広がる時代の成績停滞

わかりやすい動画教材は、学習の入口として大きな力を持っています。図解や音声、板書の流れを組み合わせれば、教科書だけではつかみにくい概念を短時間で見渡せます。数学でも、因数分解、関数、三角比、微分積分のように手順と意味が重なる単元では、動画の利点は明らかです。

それでも「毎日動画を見ているのに点数が上がらない」という悩みは消えません。理由は、動画の質が低いからとは限りません。むしろ説明が滑らかで、画面の情報が整理されているほど、学習者は自分で再構成する前に「もう理解した」と感じやすくなります。

学校でも家庭でもICT活用が広がる今、問うべきは教材の見栄えではなく、動画の後にどの学習行動が起きているかです。成績を伸ばすには、視聴時間を増やすだけでは足りません。正解を見ないで思い出し、時間を空けて解き直し、自分の誤りを説明する工程が必要です。

わかったつもりを生む動画教材の構造

視聴の流暢さと理解感のずれ

学習科学では、学んだ内容をどれだけ覚えているかについての自己判断が、実際の成績とずれることが知られています。KoriatとBjorkの研究は、学習時には答えや手がかりが目の前にあるため、テスト時にそれを思い出せるかを過大評価しやすいと説明しています。数学の動画学習でも同じことが起きます。

たとえば講師が「ここで両辺を2乗します」と言えば、その場では自然に見えます。次の行に式変形が示され、色分けで重要部分が強調されると、手順の必然性まで理解したように感じます。しかしテストでは、どの変形を選ぶか、なぜその条件でよいのか、どこで場合分けをするかを自分で判断しなければなりません。

見る学習では、判断の多くを講師や教材が代行しています。学習者は「解説を追えた」ことを「自分で再現できる」ことと混同しやすいのです。成績が伸びない生徒ほど、この二つの差を測る場面が少なくなります。

この錯覚は、技能学習でも確認されています。KardasとO’Brienは、他者の実演を繰り返し見ると自分もできるという感覚は高まる一方、実際の能力は必ずしも上がらないことを、6つの実験で示しました。動画を見て手順を把握することと、自分の体や頭を使って実行することの間には、実践でしか埋まらない距離があります。

認知負荷を下げる教材の効用と限界

動画教材には本来、学習を助ける設計上の利点があります。Brameによる教育動画のレビューは、効果的な動画には認知負荷の管理、学習者の関与、能動的学習の促進という観点が必要だと整理しています。短い動画に分ける、重要箇所を強調する、余計な装飾を減らす、視覚情報と音声説明を対応させるといった工夫は、初学者の混乱を減らします。

ただし、認知負荷を下げることは、学習を楽にすることと同じではありません。新しい概念を理解する最初の段階では、よく設計された動画が助けになります。一方で、テストや入試で問われるのは、整理済みの説明を追う力ではなく、混ざった条件の中から使う知識を選び、途中式を組み立て、誤答を修正する力です。

この力は、ある程度の負荷を伴う練習で育ちます。答えを隠して思い出す、自分で式変形を選ぶ、似た問題を混ぜて解く、別解を比較する。こうした活動は動画視聴より手間がかかりますが、その手間こそが記憶と理解を鍛える材料になります。

見る学習と解く学習の決定的な差

Dunloskyらのレビューは、広く使われる学習法を比較し、練習テストと分散学習を高い有用性のある方法として評価しました。一方、線を引く、読み直す、暗記術に頼るといった方法は、条件によって効果が限られると整理されています。動画を何度も見る学習は、読み直しに近い使い方になりやすい点に注意が必要です。

KarpickeとRoedigerの検索練習研究も重要です。外国語語彙を対象にした実験では、いったん正答できた後にさらに読み直すだけでは遅延後の再生に大きな効果が見られず、繰り返し思い出す練習が学習を強めました。さらに、学習者の成績予測が実際の成績と対応しにくいことも示されています。

数学に置き換えれば、解説を見て納得したあとに、同じ問題を白紙から解けるかが第一関門です。次に、数字や条件が少し変わった問題を解けるか。最後に、どの公式を使うか明示されていない混合問題で選択できるか。この三段階を通過して初めて、動画で得た理解は得点力に変わります。

動画教材が悪いのではありません。問題は、動画が「理解の入口」で止まっていることです。入口の先に、検索練習、間隔学習、誤答分析、説明練習を置かなければ、勉強時間は増えても答案は変わりません。

得点力を伸ばす検索練習と間隔学習

正解を見ない時間が記憶を鍛える仕組み

成績を伸ばす学習では、正解を見る時間より、正解を見ない時間をどう設計するかが重要です。検索練習とは、覚えた情報を頭の中から取り出す練習です。単語カード、ミニテスト、白紙再現、公式の導出、途中式の再構成など、形はさまざまです。

大切なのは、最初から完璧に思い出せなくてもよい点です。思い出そうとして詰まり、答えを確認し、どこが出てこなかったかを特定する。この過程が記憶の手がかりを強くします。National Academiesの「How People Learn II」も、検索練習、間隔を空けた練習、混合・変化をつけた練習、要約や説明を有望な学習方略として整理しています。

動画を使うなら、視聴後すぐに同じ範囲の問題を解くよりも、まず1分だけ画面を閉じて「今の説明の要点は何か」「最初の一手は何か」「間違えやすい条件は何か」を書き出すと効果的です。短い白紙再現でも、ただ続けて視聴するより理解の抜けが見えます。

その後に例題を解きます。解けなかった場合も、すぐ次の動画へ進まないことです。どの行で止まったのか、公式を忘れたのか、条件の読み取りを誤ったのか、計算処理で崩れたのかを分類します。分類しない復習は、次の問題で同じ失敗を繰り返しやすくなります。

数学で効く例題と自力演習の組み合わせ

数学学習では、完全な自力演習だけを増やせばよいわけではありません。初学者にとって、解法の型を学ぶ段階では、解き方が示された例題にも価値があります。米国教育省のWhat Works Clearinghouseの実践ガイドも、解答例と問題演習を組み合わせること、図と説明を統合すること、時間を空けて復習することを推奨しています。

問題は、例題を「読んで終わり」にすることです。効果的な使い方は、例題を一度見たあとに、解答を隠して同じ流れを再現することです。途中式を一行ずつ隠し、「次に何をするか」を言語化します。解説を丸写しするより、なぜその一手を選んだのかを説明するほうが、答案の再現性は高まります。

さらに、同じ単元の問題だけを連続で解く練習にも限界があります。二次関数の最大最小だけを10問続けると、学習者は問題文を深く読まなくても型に乗れます。しかし定期テストや模試では、二次関数、確率、図形、数列が混ざります。そこで必要になるのが、単元を混ぜた練習です。

混合練習は、解いている最中には難しく感じます。似た問題を連続で解くより正答率が下がることもあります。けれども、その難しさによって「どの考え方を選ぶか」を鍛えられます。成績表に表れるのは、学習中に楽に解けた感覚ではなく、初見問題で適切な道具を選ぶ力です。

メタ認知で勉強時間を配分する設計

成績が伸びない学習では、時間の配分もずれています。得意な単元の動画を見直すと安心できますが、苦手な問題を白紙から解くより負荷は低くなります。勉強した満足感は残る一方、点数を落としている箇所は放置されます。

ここで必要になるのがメタ認知です。Vanderbilt Universityは、メタ認知を自分の認知過程を明示的に扱い、学習目標を立て、進み具合を確認し、計画を修正する力として説明しています。学習法を知っているだけでは不十分で、自分がその方法をいつ、どの単元に、どの程度使うべきかを判断する力が要ります。

実践するなら、学習記録は「何分勉強したか」より「何を見ずにできたか」を中心にします。動画30分、問題集20分という記録ではなく、公式を見ずに導出できた、例題を白紙から再現できた、混合問題で単元を判別できた、計算ミスの型を一つ消せた、といった形で残します。

また、復習の予定は当日だけで閉じないことです。動画を見た日、翌日、3日後、1週間後に短い検索練習を入れます。間隔を空けると忘れているため不安になりますが、その忘れかけた状態で思い出すことが長期記憶を強めます。試験前日に長時間まとめて見直す学習は、短期的な安心感を生みやすい反面、定着の確認には向きません。

学校ICT時代に必要な学習行動の再設計

国内では、GIGAスクール構想以降、学習者用端末とデジタル教材の活用が教育政策の中心課題になっています。文部科学省は2025年度から2027年度までの学校ICT環境整備3か年計画で、ICT環境を単なる効率化の道具ではなく、個別最適な学びと協働的な学びを支える学習基盤として位置づけました。必要な事業費として単年度1,464億円、1人1台端末整備に関わる地方財政措置として単年度373億円も示しています。

この流れは、動画教材の利用をさらに広げます。授業の予習、欠席時の補習、苦手単元の学び直し、リスキリング教材まで、動画は学校教育と社会人学習の共通インフラになりつつあります。だからこそ、動画の利用時間だけを成果指標にするのは危険です。

OECDのPISA 2022は、デジタル機器の利用について示唆的な結果を出しています。学習目的で学校内のデジタル機器を1日1時間まで使う生徒は、使わない生徒より数学得点が平均で24点高く、社会経済的背景を考慮しても14点高い傾向がありました。一方で、1時間を超えると関係は負に転じるとされています。機器は多ければよいのではなく、使い方と目的が問われるということです。

日本のPISA 2022カントリーノートでも、授業中に自分のデジタル機器で気が散ると答えた生徒は5%で、OECD平均の30%より低い水準でした。日本は数学で高い成果を維持していますが、それは端末の有無だけで説明できません。授業規律、教師の支援、学習文化、家庭学習の設計が組み合わさって成績を支えています。

教育現場で重要なのは、動画を「自習に任せる教材」と見なさないことです。授業前に短い動画を見せるなら、授業冒頭で確認テストを行う。授業中に解説動画を使うなら、途中で停止して次の一手を予測させる。家庭学習に動画を出すなら、提出物は視聴完了画面ではなく、白紙再現や誤答ノートにする。ICTの価値は、学習者の頭の中の活動を増やして初めて発揮されます。

もう一つの課題は、学習格差です。自己管理が得意な生徒は、動画を見た後に問題を解き、弱点を記録し、再テストを組めます。自己管理が苦手な生徒は、動画を見た時間だけで勉強した気になりやすくなります。個別最適な学びを本当に機能させるには、教材の個別化だけでなく、学習行動の足場かけが欠かせません。

家庭と教室で確認すべき学習改善の指標

動画教材を成績につなげるには、学習の評価軸を変える必要があります。視聴時間、再生回数、ノートの量ではなく、見ずにできることが増えたかを確認します。家庭でも教室でも、動画を見た直後に「説明できること」「白紙から再現できること」「初見問題に使えること」を分けて測るだけで、学習の質は大きく変わります。

具体的には、1本の動画につき三つの行動を入れるとよいでしょう。第一に、視聴後に要点を3行で書く。第二に、例題を解答なしで再現する。第三に、翌日以降に類題を1問解く。この三つができれば、動画は受け身の娯楽ではなく、検索練習と間隔学習の起点になります。

数学で成績が伸びる生徒は、わかりやすい説明を集めるだけでなく、自分がどこで止まるかを正確に見ています。講師の解説がうまいほど、学習者自身の理解不足は見えにくくなります。だからこそ、動画を閉じた後の白紙、時間を空けた後の再テスト、誤答を言葉にする作業が必要です。

教育のデジタル化が進むほど、学力差は教材へのアクセス差から、学習行動を設計できるかどうかの差へ移ります。動画教材を活用する出発点は、もっと見ることではありません。見た後に、何を思い出し、何を解き、何を修正するかを決めることです。

参考資料:

小林 美咲

キャリア・教育

キャリア形成・教育改革・リスキリングなど、人と学びの接点を取材。変化する時代に求められる「働く力」を問い続ける。

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