小中高生の学校外学習2割減で広がる家庭学習ゼロ層と学び格差の今
学校外学習2割減が示す変化の射程
小中高生の学校外学習時間が、この11年で約2割減ったという調査結果は、単に「最近の子どもは勉強しなくなった」という話ではありません。学校の宿題、宿題以外の家庭学習、学習塾を合計した時間が減る一方で、学習意欲や目的意識、学び方を自分で調整する力にも弱まりが見えています。
ベネッセ教育総合研究所と東京大学社会科学研究所の共同研究は、全国の親子を長く追跡してきた点に特徴があります。2025年調査の分析では、1日あたりの学校外学習時間が高校生で22分、中学生で19分、小学4〜6年生で17分、小学1〜3年生で9分減りました。すべての学校段階で、ほぼ2割の減少です。
この数字が重いのは、減った時間の内訳です。学習塾の時間だけでなく、学校の宿題と、宿題以外の家庭学習が減っています。つまり、学校が課す勉強量の問題と、子どもが自分から取り組む学習の問題が同時に起きています。本稿では、教育政策、家庭環境、生活時間、学校現場の制約を重ねて、学校外学習時間の減少が何を示すのかを整理します。
宿題減少だけでは説明できない学習意欲の弱まり
追跡調査が捉えた時間の内訳
今回の調査でいう「学校外の学習時間」は、学校の宿題、宿題以外の家庭学習、学習塾での学習を合わせたものです。対象は小学1年生から高校3年生までで、小学1〜3年生は保護者が回答し、小学4年生以上は子ども本人が回答しています。学習塾の時間は通塾回数と1回あたりの時間をもとに1日平均へ換算するなど、複数の学習場面を足し合わせる設計です。
減少幅を見ると、高校生の22分減、中学生の19分減、小学4〜6年生の17分減は、平日1日の時間配分として小さくありません。部活動、習い事、通学、スマートフォン利用、睡眠を含めると、放課後の可処分時間はもともと限られています。その中で20分前後の学習時間が消えることは、週単位では1時間半から2時間近い差になります。
ただし、宿題が減ったことだけを原因とみなすのは危険です。調査は、宿題以外の家庭学習も減っていることを示しています。宿題は学校からの外発的な課題ですが、宿題以外の学習は、復習、予習、問題集、読書、調べ学習などを含む、自律的な学びに近い領域です。ここが減ると、学校で習った内容を自分の理解へ定着させる時間も細ります。
国立教育政策研究所の全国学力・学習状況調査も、児童生徒質問調査や保護者調査を通じて、学習習慣と学力の関係を継続的に見ています。調査の目的は、全国的な学力や学習状況を把握し、教育施策や学校の指導改善に生かすことです。学習時間だけで学力は決まりませんが、学習習慣は教育機会の公平性を測る重要な指標です。
目的意識と自己調整の同時低下
より深刻なのは、時間の減少と同時に、学びへの意識も弱まっている点です。ベネッセと東大の分析では、「勉強が好き」と答える割合がとくに小学生で減り、「何のために勉強しているのかわからない」と答える割合が各学校段階で増えています。さらに、自分に合った勉強のやり方を工夫する自己調整も、小中学生で減少しています。
これは、宿題の量を増やせば元に戻る種類の問題ではありません。自己調整とは、わからない箇所を見つけ、学習方法を選び、計画を立て、結果を振り返る力です。学校教育が「主体的・対話的で深い学び」や「個別最適な学び」を掲げるほど、家庭や放課後での学びにも、与えられた課題をこなすだけではない力が求められます。
文部科学省は、現行学習指導要領のもとで、児童生徒が見通しを持ち、粘り強く取り組み、学習を振り返って次につなげることを重視しています。中央教育審議会の答申も、全ての子どもの可能性を引き出すために、個別最適な学びと協働的な学びを一体的に進める方向を示しました。政策の方向は、量を一律に積ませる教育から、子どもが学び方を身に付ける教育へ移っています。
その方向自体は妥当です。しかし、学校内で「主体的な学び」を掲げても、家庭で学習を始めるきっかけや、続ける環境がなければ、理念は一部の子どもにしか届きません。勉強の目的がわからない子どもほど、自分で家庭学習を設計するのは難しくなります。宿題が少なくなった時に、自分で復習や探究へ移れる子どもと、何もしない時間に流れる子どもの差が広がるわけです。
OECDのPISA 2022では、日本の15歳の宿題時間は典型的な学校週で1日2時間とされ、80カ国・地域中6位という長い部類に入っています。国際比較では、日本の子どもはまだ多く宿題に向き合っています。それでも国内で11年の減少が起きていることは、日本の学習文化が崩れたというより、従来の「宿題と塾で支える」仕組みが変質していると見るべきです。
家庭学習ゼロ層を広げる生活時間と格差構造
スマホ時代に変わった放課後の競合
放課後の時間を奪い合う対象は、この11年で大きく変わりました。スマートフォン、動画配信、オンラインゲーム、SNS、短尺動画は、学習時間の単純な代替ではありません。細切れの空き時間を吸収し、集中を切り替える回数を増やします。学習机に向かう30分を確保するには、以前より強い自己管理が必要になっています。
こども家庭庁の「青少年のインターネット利用環境実態調査」は、インターネットの利用率だけでなく、利用内容、機器別の利用時間、目的別の利用時間を継続して調べています。これは、子どもの生活時間を考える上で、ネット利用が無視できない基礎条件になったことを示しています。学習アプリや動画教材も増えた一方で、同じ端末上に娯楽も常に並んでいます。
GIGAスクール構想により、小中学校では1人1台端末と高速通信環境の整備が進みました。文部科学省は、ICTを活用して個別最適な学びと協働的な学びを実現することを目的に掲げています。端末は学習を支える道具ですが、家庭に持ち帰った時には、学習と娯楽の境界が見えにくくなる道具でもあります。
ここで必要なのは、スマートフォンや端末を敵視することではありません。問題は、デジタル環境の中で、学習に入る導線が設計されているかどうかです。学校が配信した課題が単なる提出物にとどまれば、子どもは最短で終わらせようとします。逆に、学習ログ、復習問題、振り返り、教師からのフィードバックがつながっていれば、短い時間でも学びの密度は高まります。
SES差が学習機会を左右する構図
調査が示すもう一つの焦点は、家庭の社会経済的地位、いわゆるSESによる差です。ベネッセと東大の分析では、SESが低い層ほど、宿題以外の家庭学習時間が短い傾向があり、この11年で高い層との差が広がっています。SESは、保護者の学歴、職業、世帯年収をもとにした指標です。
2025年時点で、宿題以外の家庭学習をしない「家庭学習0分層」は、小学1〜3年生で42.4%、小学4〜6年生で42.7%、中学生で40.9%、高校生で51.4%に達しています。どの学校段階でも4〜5割です。しかも、この層は成績下位層ほど、またSESが低い層ほど多く出ています。これは学習時間の減少というより、学習機会の偏りです。
家庭学習0分層が増えると、学校の授業が終わった後に、理解を補う機会がなくなります。成績上位層は、自分で学ぶ方法を持ち、必要なら塾や通信教育も使えます。一方、勉強の目的が見えず、学習方法もわからず、家庭に支援資源が少ない子どもは、宿題以外の学習に入る前で止まりやすくなります。
文部科学省の「子供の学習費調査」は、学校教育費、学校給食費、学校外活動費に加えて、世帯の年間収入も調べています。学習塾費や通信教育、家庭教師費などは学校外活動費に含まれ、家庭の支出余力と結びつきやすい項目です。塾へ行くかどうかだけでなく、静かな学習場所、参考書、端末、保護者の伴走、進路情報へのアクセスも、家庭差を拡大させます。
不登校の増加も、学校外学習の議論と切り離せません。文部科学省の令和6年度調査では、小中学校の不登校児童生徒数が約35万4千人と過去最多になり、高校でも約6万8千人に上りました。不登校の子どもがすべて学習から離れているわけではありませんが、学校への参加が不安定になるほど、家庭や地域での学びの保障が重要になります。
つまり、学校外学習時間の減少は、子どもの努力不足ではなく、家庭内の学習資源と生活環境の差が表に出やすくなった現象です。宿題以外の学習は、表面上は自由です。しかし、自由に任せるほど、学び方を知っている家庭と、そうでない家庭の差が出ます。自由化は、支援の設計なしには格差を広げることがあります。
宿題増量に戻れない学校現場の制約
教師の働き方改革と課題設計
学校外学習時間が減ったと聞くと、反射的に「宿題を増やすべきだ」という議論が起きます。たしかに、基礎的な読み書き計算や英単語、漢字、計算演習には反復が必要です。宿題が一定の学習習慣を支えてきた面も否定できません。
しかし、学校現場には、宿題を単純に増やしにくい事情があります。文部科学省は教員勤務実態調査を継続し、学校における働き方改革を進めています。宿題は出すだけでは終わりません。採点、確認、個別コメント、未提出者への対応、保護者連絡まで含めると、教師の業務になります。課題の量を増やすほど、授業準備や子どもへの直接支援に使える時間が削られる可能性があります。
さらに、宿題の質にもばらつきがあります。全員に同じプリントを大量に出す方法は、学力上位層には簡単すぎ、つまずいている子どもには重すぎることがあります。できる子は短時間で終え、苦手な子は時間をかけても理解が深まらない。結果として、学習時間の長さが努力の指標に見えても、実際には理解差が広がることがあります。
一律課題から個別支援への転換
今後の宿題設計では、量よりも「何を、どの目的で、どう振り返るか」が問われます。たとえば、授業後に全員が同じ問題を解くのではなく、理解度に応じた復習課題を選び、短い振り返りを書き、次の授業で教師がつまずきを拾う仕組みです。GIGA端末や学習ログは、この設計と相性があります。
ただし、ICTを使えば自動的に解決するわけではありません。ドリル教材が増えても、子どもがなぜその問題に取り組むのかを理解していなければ、学習は作業化します。逆に、家庭に端末や通信環境があっても、生活リズムが崩れていたり、学習の優先順位を決められなかったりすれば、課題は積み残されます。
必要なのは、学校が家庭学習を「家で勝手にやるもの」と見なさないことです。授業で学習方法を教え、短時間でも取り組める課題を設計し、提出の有無だけでなく、つまずきの内容を把握する。家庭には長時間の管理を求めるのではなく、学習を始める時間と場所を整える役割を明確にする。この役割分担がなければ、宿題は家庭の余力を測る装置になってしまいます。
地域の学習支援も重要です。放課後の学習教室、図書館、子ども食堂と連動した学習支援、オンライン相談、大学生や地域人材の伴走は、家庭だけでは補えない学習の入口になります。家庭学習0分層が4〜5割に達しているなら、支援対象は一部の困難家庭だけではありません。公教育の周辺に、低コストで参加しやすい学びの場を広げる必要があります。
家庭と学校が今確認すべき学びの条件
学校外学習時間の減少を、子ども個人の怠けや学校の宿題削減だけで説明すると、対策を誤ります。調査が示しているのは、学習意欲、目的意識、自己調整、生活時間、家庭資源が同時に揺らいでいる現実です。とくに宿題以外の家庭学習が減り、家庭学習0分層が広がっている点は、将来の学力差や進路選択の差につながりかねません。
家庭でまず確認したいのは、長時間勉強させることではなく、毎日同じ時間に10〜20分でも学習へ入れる導線です。机、端末、教材、通知を切るルール、終わった後の短い振り返りを整えるだけでも、学習開始の摩擦は下がります。保護者が教科内容を教えられなくても、始める時間を一緒に決め、終えたことを確認する支援はできます。
学校側は、宿題の量を戻す前に、家庭学習で何を育てたいのかを明確にする必要があります。基礎の定着、授業の振り返り、探究の準備、読書、進路への関心づくりでは、課題の形が違います。家庭学習を「提出物」ではなく「学び方を身に付ける訓練」と位置づければ、短い時間でも効果を高められます。
今回の2割減は、学力低下の単純な警報ではありません。学校外の学びが、誰にとっても自然に成立する時代ではなくなったという知らせです。だからこそ、家庭任せでも学校任せでもなく、放課後の学習機会を社会全体で再設計することが、これからの教育格差対策になります。
参考資料:
- ベネッセ教育総合研究所・東京大学社会科学研究所共同研究プロジェクト「子どもの生活と学びに関する親子調査2025」結果
- 東京大学社会科学研究所 プレスリリース「子どもの生活と学びに関する親子調査2025」結果
- 東京大学社会科学研究所 ウェビナー:子どもの学習時間減少を考える
- こどもとIT 子供の学校外学習時間が11年で約2割減
- 国立教育政策研究所 令和7年度 全国学力・学習状況調査 報告書 質問調査
- 国立教育政策研究所 データで見る日本の教育「全国学力・学習状況調査」
- 文部科学省 GIGAスクール構想について
- 文部科学省 「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実
- 文部科学省 教育課程の実施と学習評価
- 文部科学省 「令和の日本型学校教育」の構築を目指して 答申
- こども家庭庁 令和7年度「青少年のインターネット利用環境実態調査」報告書
- 文部科学省 結果の概要 令和5年度子供の学習費調査
- 文部科学省 子供の学習費調査 調査の概要
- 文部科学省 教員勤務実態調査について
- OECD Education GPS Japan Student performance PISA 2022
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