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空室4割超の団地が人気物件に変身した再生戦略とは

by 佐藤 理恵
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はじめに

全国で高度経済成長期に建設された住宅団地の老朽化と空室化が深刻な社会問題となっています。国土交通省の調査によると、公営住宅の72%が築30年を超え、入居者の高齢化や若年層の流出により、コミュニティの衰退が各地で進行しています。

そうした中、神奈川県中郡二宮町にある「二宮団地」が注目を集めています。一時は空室率が40%を超えてガラガラの状態だったこの団地が、独自の再生プロジェクトによって人気物件へと変貌を遂げました。東京まで約60分という立地を活かし、家賃3万〜5万円台という手頃な価格帯で、20代・30代の若年層を呼び込むことに成功しています。

本記事では、二宮団地が実践した団地再生の具体的な取り組みと、その成果について詳しく解説します。

二宮団地の歩みと空室化の背景

高度成長期のベッドタウンとして誕生

二宮団地は昭和40年代(1960年代後半)に神奈川県住宅供給公社が開発した大規模住宅団地です。約87ヘクタールの丘陵地を切り開いて建設され、28棟・856戸の賃貸住宅で構成されていました。東京のベッドタウンとして多くの勤労世帯が入居し、二宮町の人口増加を支えた存在です。

特徴的なのはその配置です。一般的な団地のように住棟が密集するのではなく、20を超える住棟が大きく間隔を開けて点在しています。周囲には里山の自然が広がり、緑豊かな環境が残されています。

空室率40%超の危機

しかし、建設から約50年が経過する中で状況は大きく変わりました。建物の老朽化に加え、都市部の住宅価格の下落や産業構造の転換による若年勤労層の流出が進みました。二宮町の人口は2000年頃をピークに減少傾向が続き、二宮団地の空室率は40%を超える深刻な事態に陥ります。

入居者の高齢化も顕著で、団地内の商店街は空き区画が目立ち、かつての活気は失われていました。この状態が続けば、さらなる人口減少とコミュニティの崩壊は避けられない状況でした。

「さとやま@コモン」プロジェクトの全貌

里山を活かした団地再編構想

2016年(平成28年)4月、神奈川県住宅供給公社は団地再編プロジェクト「湘南二宮 さとやま@コモン」を始動させました。このプロジェクトの核となるコンセプトは「里山と共にある暮らし」です。

単なる建物の改修にとどまらず、二宮団地周辺に広がる豊かな里山環境を最大の資産と位置づけ、都市にはない暮らしの価値を打ち出しました。具体的には、28棟856戸を18棟580戸へとコンパクトに再編。余剰スペースを活用してコミュニティ施設や農園を整備する計画が進められました。

地域材を活用したリノベーション

リノベーションには隣接する小田原市産の杉材が積極的に使用されています。無垢のフローリングやキッチン周りに神奈川県産の杉材を採用することで、コンクリート造の住戸に木のぬくもりを加えました。

特に注目すべきは「セレクトリノベーション」という仕組みです。入居者が設備の向上や間取りの変更など、複数のリノベーションメニューから好みのプランを選択できます。選んだメニューに応じた加算額が基本家賃にプラスされる方式で、入居者一人ひとりのニーズに合わせた住まいづくりが可能です。

この手法は、地域経済への貢献という地方創生の観点も取り入れており、地元の木材産業の振興にもつながっています。

YADOKARIとの連携による暮らし方提案

プロジェクトの推進には、「世界を変える、暮らしを創る」をビジョンに掲げるYADOKARI株式会社が参画しています。YADOKARIは団地での新しいライフスタイルを提案する「暮らし方リノベーション」を展開しました。

二拠点生活を楽しむ人、部屋をセルフリノベーションする人、地域住民と積極的に交流する人など、多様なバックグラウンドを持つ入居者の暮らしぶりを発信。「団地=古い・不便」というネガティブなイメージを覆し、「自分らしい暮らしを実現できる場」としてのブランディングに成功しました。

コミュニティ創出が生んだ好循環

「うみちかキッチン」がつなぐ人と人

団地再生において、ハード面の改修と同じくらい重要だったのがコミュニティの再構築です。公社は団地中央にある商店街の空き区画をリノベーションし、コミュナルダイニング「うみちかキッチン」を整備しました。

この施設は、食をテーマに住民や地域の人々が自由に集える交流拠点として機能しています。料理イベントやワークショップが定期的に開催され、新旧の入居者や地域住民をつなぐ役割を果たしています。

農園・共同施設の充実

団地内の未利用地を活用して、コミュニティ農園も整備されました。入居者が共同で野菜を育てたり、収穫した食材を「うみちかキッチン」で調理したりと、農的な暮らしを身近に楽しめる環境が生まれています。

こうした施設は、単に住む場所を提供するだけでなく、「暮らしをつくる」という能動的な体験を通じて、住民同士のつながりを自然に育んでいます。

再生プロジェクトの成果と数字

空室率40%超から19%へ

プロジェクト開始から数年で、二宮団地の空室率は40%超から19%へと大幅に改善しました。2016年度から2019年度までの間に約191人の新規入居を実現し、そのうち約135人は二宮町外からの転入者です。

特筆すべきは入居者の年齢構成です。新規入居者の2割強を20代・30代の若年層が占めるようになりました。子育て予備軍ともいえるこの世代の流入は、団地コミュニティの持続可能性において極めて重要な成果です。

東京60分・家賃3万〜5万円の魅力

二宮駅はJR東海道線の停車駅で、東京駅まで約60〜80分でアクセスできます。上野東京ラインや湘南新宿ラインも利用可能で、横浜駅までは約40〜50分です。始発ではないものの、比較的座って通勤できることも利点とされています。

家賃は3万〜5万円台が中心で、都心部の相場と比較すると大幅に低い水準です。リモートワークの普及により、毎日の通勤が不要になった人々にとって、自然豊かな環境と手頃な家賃は非常に魅力的な選択肢となっています。

注意点・今後の展望

全国の団地再生への示唆

二宮団地の成功は、他の団地にもそのまま適用できるわけではありません。里山という独自の自然資源、東京圏へのアクセスの良さ、公社の積極的な投資判断など、複数の好条件が重なった結果です。

しかし、「建物のリノベーション」と「コミュニティの再構築」を両輪で進めるアプローチ、地域材の活用による地方創生との連動、民間企業との連携によるブランディングといった手法は、多くの団地再生に応用可能な知見といえます。

2025年問題と郊外住宅の未来

団塊の世代が全員75歳以上となる2025年を過ぎ、全国の住宅団地はさらなる高齢化と空室化の圧力にさらされています。総務省の統計では全国の空き家率は13.6%に達しており、特に郊外のニュータウンや団地では深刻化が加速しています。

一方で、コロナ禍以降に定着したリモートワークや多拠点居住の広がりは、郊外住宅にとって追い風です。二宮団地のように、従来のマイナス要素を逆手に取り、新しい暮らし方の価値を提案できる団地は、今後も選ばれる可能性があります。

まとめ

二宮団地の再生事例は、空室率40%超という危機的状況から、わずか数年で人気物件へと転換できることを示しました。その鍵は、建物のハード面の改修だけでなく、「里山と共にある暮らし」というコンセプトのもと、コミュニティを丸ごとデザインし直したことにあります。

郊外の団地に住むという選択が、「仕方なく選ぶもの」から「積極的に選びたいもの」へと変わりつつあります。全国に数多く存在する同様の課題を抱える団地にとって、二宮団地の取り組みは一つの有力なモデルケースとなるでしょう。住まい選びを検討している方は、こうした再生団地にも目を向けてみてはいかがでしょうか。

参考資料:

佐藤 理恵

企業分析・M&A

会計士としての経験を活かし、企業の財務構造やM&A戦略を深掘り。数字の裏にある経営者の意思決定を読み解く。

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