水滸伝ドラマのロケ地が中国と完全一致する理由
はじめに
2026年2月15日から放送・配信されてきたWOWOW×Leminoの連続ドラマ「北方謙三 水滸伝」が、3月29日に最終回を迎えます。織田裕二さんが主人公・宋江を演じる本作は、シリーズ累計発行部数1160万部を超える北方謙三氏の大河小説を初めて実写映像化した作品です。
注目すべきは、中国・北宋時代を舞台にした壮大な物語を、すべて日本国内で撮影したという点です。約8か月の撮影期間で訪れたロケ地は全国17都府県、50か所以上。移動距離は地球半周を超える2万5000キロに及びました。なかでも鳥取県の中国庭園「燕趙園」は、中国の風景と「完全に一致する」と話題になっています。本記事では、このドラマがいかにして日本国内で中国の世界を再現したのかを解説します。
日本最大級の中国庭園「燕趙園」の存在感
中国の職人が手がけた本格庭園
ドラマの撮影で最も象徴的なロケ地となったのが、鳥取県東伯郡湯梨浜町にある中国庭園「燕趙園」です。1995年に鳥取県と中国・河北省の友好のシンボルとして建設されたこの庭園は、総面積1万平方メートルを誇る日本最大級の本格的中国庭園です。
燕趙園の最大の特徴は、設計から資材の調達、加工まですべて中国で行われた点にあります。建物は一度中国国内で仮組みされた後に解体され、日本へ運ばれて中国人技術者の手で再度建設されました。屋根には皇帝のみが使用を許された黄色の瑠璃瓦が使用され、建物には中国人彩画師によって皇帝を象徴する五本爪の龍をはじめとした2000以上の彩画が施されています。
梁山泊の湖を映し出す東郷池
ドラマの制作スタッフが燕趙園を撮影場所に選んだ決め手は、高台から見渡せる湖の景色でした。燕趙園は山陰八景のひとつである東郷池(東郷湖)の南に位置し、この東郷池を借景として取り込んでいます。制作側によれば、高台から見渡す湖の景色はまさに「水滸伝に出てくる湖そのもの」だったといいます。
水滸伝の物語の中心となる梁山泊は、中国山東省済寧市梁山県に実在した広大な沼沢地です。11世紀末頃から、入り組んだ水路と島が盗賊や反乱者たちの拠点となり、北宋王朝を悩ませました。現在は沼沢の面影をほとんど残していませんが、燕趙園から望む東郷池の風景が、往時の梁山泊を彷彿とさせたのです。
園内では、七星橋や燕趙門、華夏堂などが撮影スポットとして使用されました。特に七星橋の上で登場人物・張藍が思い悩む場面は、味わいのある芝居として制作陣の印象に残ったとされています。
17都府県に広がるロケ地の全貌
書写山圓教寺が映す宋代の息吹
燕趙園以外にも、全国各地の名所がドラマの舞台として活用されました。兵庫県姫路市の書写山圓教寺もそのひとつです。966年に性空上人が開いたこの古刹は、標高371メートルの山上に位置し、荘厳な伽藍が山中に点在しています。
書写山圓教寺は、ハリウッド映画『ラストサムライ』のロケ地としても知られる場所です。水滸伝ドラマでは、二竜山や東京開封府の役所といった中国の建築物や風景を表現するために、この寺院の三之堂や摩尼殿などが使用されたとされています。日本の古い木造建築が持つ重厚な雰囲気が、宋代中国の世界観と見事に調和したのです。
オールロケにこだわった制作姿勢
本作の制作において特筆すべきは、大規模なセットに頼らず、実在する風景や建築をロケ地として活用するという方針を貫いた点です。雪山や洞窟など、自然の中での撮影も徹底して行われました。この「本物の場所」にこだわる姿勢が、映像に説得力と臨場感を与えています。
総監督の若松節朗氏のもと、17都府県にわたるロケーションハンティングが行われ、日本各地に点在する「中国に見える場所」が丹念に選び出されました。結果として、CGに頼りすぎない重厚な映像美が実現し、試写会でのアンケートでは満足度94.1%という高い評価を得ています。
中国と日本のロケ地文化の違い
中国には巨大な撮影専用施設が存在
中国でのドラマ・映画制作では、横店影視城(浙江省)や無錫影視基地(江蘇省)といった巨大な撮影専用施設が広く使われています。横店影視城は総面積5万平方メートルを超え、「中国版ハリウッド」と呼ばれるほどの規模を持ちます。2011年に制作された中国版「水滸伝」ドラマでは、山東省に梁山泊を含む大規模な専用セットが建設され、現在はテーマパークとして観光地になっています。
一方、日本にはそのような大規模な時代劇撮影施設が中国ほど多くはありません。しかし、燕趙園のように中国から直接資材を運んで建設された本格的な庭園や、書写山圓教寺のような歴史ある寺社仏閣を活用することで、独自のリアリティを持った映像を生み出すことに成功しています。
日本各地に眠る「中国的風景」の再発見
今回のドラマ制作は、日本国内に中国の風景と一致する場所が数多く存在することを改めて示しました。建築様式や自然景観の類似性は、両国の長い文化交流の歴史を物語っています。特に燕趙園は、中国の技術と素材で作られた建築物が日本の自然景観と融合した、まさに両国の文化が交差する場所です。
鳥取県のフィルムコミッションは、ドラマのロケ地特設ページを公開し、地域の観光資源としての活用にも力を入れています。ドラマをきっかけに、これまで注目されていなかった日本各地の「中国的風景」が再発見される動きが広がりつつあります。
注意点・展望
続編制作が決定、2027年放送へ
ドラマは3月29日の最終回で第1シーズン全7話が完結しますが、すでに続編の制作が発表されています。2027年の放送・配信が予定されており、若松節朗総監督によれば、続編では梁山泊と青蓮寺の双方に新たな人物が登場し、両陣営の攻防がさらにスケールアップするとのことです。
原作の「大水滸伝」シリーズは『水滸伝』全19巻、『楊令伝』全15巻、『岳飛伝』全17巻の3部作で構成されており、ドラマ化の素材は豊富に残されています。今後もさまざまなロケ地が登場することが期待されます。
ロケ地巡りの注意点
ドラマの影響で燕趙園をはじめとするロケ地への訪問者が増加することが予想されます。燕趙園は通常の観光施設として営業しており入場料が必要です。また、書写山圓教寺はロープウェイでのアクセスとなるため、天候や運行時間に注意が必要です。各ロケ地を訪れる際は、最新の営業情報を事前に確認することをおすすめします。
まとめ
WOWOWドラマ「北方謙三 水滸伝」は、日本国内のロケ地だけで中国・北宋時代の壮大な世界観を再現するという野心的な試みに成功しました。鳥取県の燕趙園を筆頭に、17都府県50か所以上のロケ地が中国の風景と「完全に一致する」場所として選び抜かれ、重厚な映像美を実現しています。
試写会での満足度94.1%、続編の制作決定という結果が、この挑戦の成果を物語っています。ドラマの最終回をきっかけに、日本各地に眠る「中国的風景」への関心が高まることでしょう。ロケ地巡りを通じて、日中の文化的なつながりを体感してみてはいかがでしょうか。
参考資料:
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