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マロリーポーク全国30店へ、失敗を月商1800万円に変えた設計

by 伊藤 大輝
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全国30店への急拡大を支えた失敗の蓄積

豚の塊肉を山に見立てた「マロリーポークステーキ」が、2026年6月末時点で直営10店、フランチャイズ20店の全国30店に達しました。大手町店の最高月商は1800万円、わずか7坪の横浜店も月商750万円と報告されています。

ただし、この数字を「映える料理が当たった成功物語」だけで理解すると、本質を見誤ります。運営会社が蓄積したのは、カレー、いくら丼、サーモン丼、居酒屋と業態を変えるたびに得た需要、原価、時間帯別売上のデータでした。その学習を、商品と調理工程、店舗、広報、加盟店運営へ落とし込んだ点に成長の核心があります。

いくら丼の薄利から塊肉へ至る業態転換

カレーで見えた味覚評価のばらつき

今野健二社長は飲食業へ本格参入する前、地域密着型フリーマガジンを展開していました。最盛期には横浜周辺の30以上のエリアで、それぞれ1万5000~2万部を発行したと説明しています。取材と記事広告を通じて、繁盛店の見せ方や失敗する業態を観察できたことが、後の店舗開発につながりました。

最初に研究したのは、国民食で市場も大きいカレーです。しかし、辛さ、粘度、スパイス、具材に対する好みが細分化され、「おいしさ」の共通基準を設定しにくいと判断して事業化を断念しました。これは単なる商品開発の失敗ではありません。多店舗化するには、顧客が価値を瞬時に理解でき、店舗が変わっても評価の軸がぶれにくい商品が必要だという条件が見えたのです。

次に注目したのが、見た瞬間に価値が伝わりやすいいくら丼でした。2016年に自由が丘で開いた「波の」は、高級食材を手頃に提供する専門店として、開業時には北海道産いくらの丼を780円で訴求しました。専門性、価格、写真映えを組み合わせたプレスリリースがテレビやネットメディアに波及し、行列店になります。

行列と利益を切り分けた海鮮丼

「波の」は9坪で月商300万~400万円を売り上げた一方、粗利は大きくなかったと今野社長は振り返っています。高価ないくらを低価格で盛るほど、客数が増えても利益は残りにくくなります。行列やSNS投稿は需要の存在を示しますが、事業の持続可能性までは保証しません。

もう一つの問題は時間帯でした。いくら丼と、翌年に出したサーモン丼はランチに強い半面、ディナー需要が弱い業態です。夜は低価格の居酒屋に切り替えて売上を補いましたが、一つの厨房で昼と夜に異なる価値を提供すれば、食材、仕込み、教育、販促が複雑になります。売上を足す施策が、同時に管理コストも増やす構造でした。

この経験から得られたのは、「高級食材を安く売る」だけでは不十分という教訓です。原材料費を抑えながら高級感を演出でき、昼は一人客、夜はグループ客を取り込める商品が必要でした。

閉業店の人気商品を次へ運ぶ検証法

その後に展開した居酒屋「デイリーマサヨシ」は閉業しましたが、店内で支持された肉料理のデータは残りました。コロナ禍で居酒屋業態が苦戦する中、その人気料理を切り出して2020年に開いたのが、マロリーポークステーキです。

注目すべきは、失敗した店舗を丸ごと否定しなかった点です。海鮮丼からは「専門店」「手頃なぜいたく」「視覚的な強さ」を継承し、居酒屋からは肉料理の需要を抽出しました。一方で、原価率の高い食材、昼夜で分断された需要、多すぎる調理工程は引き継いでいません。

製造業に置き換えれば、不採算製品を廃止しても、そこで得た顧客データや加工技術まで捨てる必要はないという考え方です。業態ごとの損益を終点とせず、次の商品仮説をつくる実験ラインとして扱ったことが、塊肉専門店への転換を可能にしました。

月商1800万円を生む商品と工程の設計

牛肉の体験価値を豚肉へ移植した商品設計

商品開発の着想は、高級ステーキ店で大きな牛肉を複数人で分ける体験でした。今野社長は、その楽しさを豚肉なら大幅に安く提供できると考えたと説明しています。重要なのは牛肉を豚肉に置き換えただけでなく、高級店の「塊を切り分ける非日常感」を残したことです。

公式メニューでは200グラムの「日和山・天保山級」から、450グラムの「富士山級」、1キログラムの「キリマンジャロ級」、3キログラムの「須弥山級」まで用意されています。重量という無機質な規格を山の名前に変換したことで、注文、会話、写真投稿のきっかけが生まれました。

サイズ展開には、客層を広げる機能もあります。200~350グラムは一人客、700グラム以上は家族や宴会客によるシェアに対応できます。専門店でありながら、一人のランチから複数人のディナーまで同じ主力食材で受け止められる設計です。

平均客単価は約2500円とされ、飲み放題付きコースも設定されています。低価格だけに依存せず、セット、酒類、グループ利用によって客単価を積み上げられる点が、ランチ偏重だった海鮮丼との違いです。

低温調理と仕上げ焼きの工程分離

巨大な塊肉は、注文後に生肉から焼けば提供時間が長くなり、焼き手の技量によって品質も変わります。そこで採用したのが、真空状態で先に低温調理し、注文後に表面を高温で焼く方式です。

日本食糧新聞の取材では、豚肩ブロックを調味液と合わせて63度で4時間加熱し、一晩寝かせた後、注文に合わせて切り出す工程が紹介されています。提供直前にはラードを使って表面を短時間で焼き、注文から5~15分で提供できるとされています。

これは、長時間かかる「中心までの加熱」と、香りや焼き色をつける「最終仕上げ」を別工程にしたものです。工場の前工程で半製品を標準化し、需要が発生した時点で最終加工する仕組みに近く、ピーク時の厨房負荷を抑えられます。

食材の種類が少ないことも効率化につながります。2025年の業界紙取材では、17店で扱う豚肩ブロックが月間50トンを超えたと報じられました。同じ部位を複数のサイズに切り分けるため、メニューが多く見えても、調達と仕込みの軸は共通です。店舗数の増加が仕入れ量を増やし、さらに専門店としての調達力を高める循環が生まれます。

一部店舗では乳酸菌を使った仕込みも導入されています。ただし、公式サイトが明記するように対応状況は店舗ごとに異なります。新技術を全店へ一斉投入せず、店舗単位で検証している段階と見るべきでしょう。

小型店と大型店を併存させる店舗設計

2026年の経営者インタビューによると、大手町店は約40坪で最高月商1800万円、横浜店は7坪で月商750万円です。単純な坪当たり月商は、大手町店が約45万円、横浜店が約107万円になります。利益、賃料、営業時間が異なるため優劣は決められませんが、一つの商品が大型店と小型店の双方で成立していることは確認できます。

大型店では、グループによる塊肉のシェア、宴会、飲み放題で客単価を高められます。小型店では、少ない席数と単純なメニューを生かして回転率を上げられます。物件に商品を無理に合わせるのではなく、同じ調理基盤に異なる販売方法を載せているのです。

居抜き物件の活用も出店速度を支えます。フランチャイズ募集サイトでは、既存店からの業態転換なら最短約1カ月、開業総投資額は物件条件に応じて約600万~2000万円を想定しています。別業態から工事費60万円で転換し、月商が250万円から750万円になった事例も掲げています。

ただし、営業利益20%以上や最短1年の投資回収という数字は、加盟募集を目的とした運営会社側の提示です。全店平均や達成店舗の割合は公表されておらず、標準的な収益として扱うことはできません。加盟希望者は、モデルケースと実績分布を分けて確認する必要があります。

2026年6月末の30店は直営10店、フランチャイズ20店という構成です。少数食材、調理マニュアル、直営店での研修、月1回の臨店支援を組み合わせ、直営だけでは難しい速度で商圏を広げています。塊肉の外観そのものが広告素材になるため、新店のプレスリリースやSNS投稿を各地域で再現しやすい点も強みです。

30店超で表面化する調達と品質の壁

最大の課題は、店舗が増えても同じ食感と安全性を再現できるかです。低温調理は簡単な加熱法ではありません。厚生労働省は、豚肉を中心温度63度で30分以上、または同等以上の効果がある条件で加熱するよう示しています。低温調理では、中心温度への到達確認、保持時間の記録、加熱後の急速冷却まで管理対象です。

同じマニュアルを使っても、肉の厚さ、投入量、機器の温度差、保管時間、最後の焼き方で品質は変わります。5日間の加盟店研修と月1回の臨店だけで十分かは、今後の店舗数だけでなく、温度記録の逸脱率、再加熱率、返品や苦情の発生率で検証すべきです。

調達面では、カナダ産三元豚などを使用すると運営側は説明しています。農畜産業振興機構によると、2025年度の豚肉輸入量は前年度比3.9%減でした。一方、冷蔵品ではカナダ産が19.4%増え、輸入冷蔵豚肉の55.6%を占めました。現地相場、為替、疾病、物流の変化は、専門店ほど原価と供給量へ直接響きます。

外食市場全体も、客数が力強く伸びているわけではありません。日本フードサービス協会の2025年年間データでは、全店売上は前年比7.3%増でしたが、利用客数は0.7%増、客単価は4.3%増です。市場の成長は値上げの影響が大きく、店舗を増やせば自然に客数が伸びる環境ではありません。

今野社長が店舗数や年商の期限付き目標を置かず、人材の成長を優先すると語っているのは合理的です。今後は話題性よりも、再来店率、店舗別の品質差、加盟店の継続利益がブランドの耐久性を決めます。

外食経営者が検証すべき三つの数字

マロリーポークステーキの成長から学ぶべきなのは、奇抜な商品を模倣することではありません。第一に、商品一皿当たりの粗利と廃棄を含む実質原価、第二に、ピーク1時間当たりの提供数と必要人員、第三に、初回来店ではなく再来店した顧客の比率を継続して測ることです。

月商1800万円は強い実績ですが、1店舗の最高値であり、利益額や全店平均を示す数字ではありません。全国30店も到達点ではなく、工程の再現性をより厳しく試される段階への入口です。

同社が失敗を次の一手へ変えられた理由は、失敗を物語で美化せず、味覚のばらつき、粗利、時間帯、人気商品という具体的な情報に分解したことにあります。外食経営者に必要なのは、撤退を避けることではなく、撤退した業態から再利用できる顧客価値と工程を取り出す仕組みです。

参考資料:

伊
伊藤 大輝

テクノロジー・産業動向

製造業のDX・新素材開発からモビリティの未来まで、技術革新がもたらす産業構造の変化を現場視点で伝える。

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