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美団5000億円赤字の裏で進む即時配送覇権戦の代償と再編戦略

by 佐藤 理恵
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美団が5000億円赤字を選んだ理由

中国のフードデリバリー最大手、美団が2025年通期で約5000億円規模の赤字に転落しました。表面的には「価格競争のしすぎ」に見えますが、実態はもっと複雑です。中国のネット小売が成熟局面に入るなか、食事宅配は単なる手数料ビジネスではなく、30分から60分で何でも届ける「即時配送」の玄関口へ変わりました。

この市場を押さえれば、食品、日用品、医薬品、旅行、広告、金融へ送客できます。逆に負ければ、消費者接点そのものを失います。だからこそ美団は、利益を守るよりもシェアと利用頻度を守る選択を迫られました。この記事では、なぜ最大手の美団が巨額赤字を受け入れたのかを、競争構造、投資内容、規制の変化から整理します。

赤字転落を招いた競争構造

中核事業の利益を吹き飛ばした補助金競争

美団は2026年2月の利益警告で、2025年の純損失見通しを233億〜243億元と示しました。Longbridgeが伝えた要約によると、2024年に524.15億元の営業利益を稼いだコア・ローカルコマース部門は、2025年に68億〜70億元の営業赤字へ反転する見込みでした。赤字の主因として会社側は、消費者向け値引き、配達員インセンティブ、加盟店支援を含む「エコシステム全体への戦略投資」を挙げています。

この変化は、主力事業の採算が崩れたことを意味します。2025年11月のReuters報道では、Morningstar推計として美団は中国デリバリー市場で7割近いシェアを持つ一方、その防衛コストが急上昇しているとされました。首位企業にとって、値引き競争は新規参入者を迎え撃つ防衛策ですが、同時に最も利益を失いやすい戦い方でもあります。

JD.comとアリババが仕掛けた即時配送包囲網

競争を激化させたのはJD.comとアリババです。Reutersは2025年5月、JD.comが2月にフードデリバリーへ本格参入し、美団の主戦場に正面から乗り込んだと報じました。JD.comは加盟店への低手数料や販促で攻勢をかけ、自社決算でも2025年10〜12月期の利益悪化の背景にフードデリバリー投資を挙げています。相手も利益を削ってくる以上、美団だけが採算重視に戻る選択は取りにくくなります。

アリババも守勢ではありません。Reuters系報道やWSJ報道によれば、アリババは2025年6月にフードデリバリーのEle.meと旅行のFliggyを中核EC部門へ統合し、即時配送を中心に据える体制へ移行しました。さらに2025年末にはEle.meブランドも段階的にTaobao Instant Commerceへ吸収されました。これは、美団にとって競争相手が単なる宅配アプリではなく、巨大EC基盤を持つ総合プラットフォームへ変わったことを意味します。

美団が赤字を受け入れた経営判断

即時配送を将来の小売インフラと見る発想

美団の2025年通期業績を伝えた複数の市場情報では、売上高は3649億元前後と前年から約8%増えた一方、純損失は233.6億元、営業損失は約170億元でした。iMediaやQuartrの要約では、2025年10〜12月期の売上高は921億元、調整後純損失は151億元、コア・ローカルコマースの四半期営業赤字は100億元とされています。売上が伸びているのに損失が拡大しているのは、単価よりも利用頻度と配達網の支配を優先したためです。

即時配送は、食事宅配だけなら低粗利でも、日用品や医薬品、広告、会員制サービス、旅行予約につながればLTVを押し上げられます。美団が赤字を受け入れたのは、足元の損益よりも「生活インフラとしての入口」を失うコストの方が大きいと判断したからです。価格戦争は消耗戦ですが、同時に利用習慣を奪い合う戦争でもあります。

海外展開と周辺投資が重ねた負担

赤字の原因は中国国内の値引き合戦だけではありません。Longbridgeの利益警告要約は、海外事業への追加投資も損失要因として挙げています。Quartrや市場報道では、新規事業部門の損失は2025年に100億元規模へ拡大し、海外のKeeTa展開や食料品投資が重荷になったと整理されています。

さらに美団は2026年2月、叮咚買菜の中国事業を約7億1700万ドルで取得する契約も結びました。これは短期の損益改善には逆風でも、即時配送と生鮮サプライチェーンを一体運用するための布石です。美団は赤字を「守りの失敗」ではなく、「配送網と商品網を一体化する先行投資」と位置づけているとみるべきです。

1668億元現金と単位経済改善の焦点

破綻懸念よりも単位経済改善の焦点

もっとも、巨額赤字をそのまま危機とみるのは早計です。利益警告では、会社側は事業運営は安定しており、十分な現金を保有していると説明しました。市場要約でも2025年末の現金・現金同等物等は1668億元とされており、短期の耐久力は残っています。焦点は資金繰りではなく、1件当たり損益をどこまで改善できるかです。

転機になりそうなのは規制環境です。Reutersは2026年1月、中国当局が過剰補助金や価格競争を対象に調査へ乗り出したと報じました。3月には価格競争抑制への期待で関連株が上昇しており、市場は消耗戦の沈静化を織り込み始めています。ただし、規制が入ってもシェア争い自体は終わりません。値引きの形が、クーポンから会員特典、広告還元、物流優遇へ移るだけの可能性もあります。

即時配送市場の再編局面と美団の防衛成果

美団の5000億円赤字は、需要蒸発や経営失敗だけで生じたものではありません。JD.comとアリババが即時配送を次の小売インフラと位置づけ、補助金と組織再編で攻め込んだ結果、最大手の美団も利益を差し出して防衛に回らざるを得なかった構図です。

今後の注目点は、価格競争の収束そのものより、美団が赤字を通じて何を守れたかです。利用頻度、加盟店基盤、配達網、生鮮物流、海外展開のどこに競争優位を残せるかで、2026年以降の回復力は大きく変わります。今回の赤字は、美団の失速というより、中国即時配送市場が利益回収前の再編局面に入ったサインと読む方が実態に近いです。

参考資料:

佐
佐藤 理恵

企業分析・M&A

会計士としての経験を活かし、企業の財務構造やM&A戦略を深掘り。数字の裏にある経営者の意思決定を読み解く。

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