ミラノ五輪メダルラッシュを支えた食の秘密基地
はじめに
2026年2月、イタリア・ミラノで開催された冬季オリンピックで、日本選手団は冬季五輪史上最多となる24個のメダル(金5・銀7・銅12)を獲得しました。1998年の長野大会と並ぶ金メダル5個という快挙の裏側には、選手たちのパフォーマンスを「食」で支える大規模なサポート体制がありました。
JOCと味の素が共同運営する栄養サポート拠点「JOC G-Road Station」は、選手村近くに設置された日本代表の「秘密基地」です。コメ約800kgを船便で日本から輸送し、ミシュランシェフが監修したスペシャルメニューを提供するなど、その本気度は過去最大規模に達しています。
本記事では、メダルラッシュの陰に隠れた食のサポート体制の全貌を紹介します。
広域開催を支える過去最多のサポート拠点
6会場分散という前例のない課題
ミラノ・コルティナ2026冬季五輪の最大の特徴は、会場がイタリア北部の6か所に広く分散していることです。最も離れたミラノとコルティナの移動距離は400キロメートル以上、バスで約7時間という広大なエリアでの開催となりました。
この広域開催は、選手の食事サポートにとって大きな課題をもたらします。選手村が複数に分かれるため、一つの拠点だけでは全選手をカバーできません。JOCは本部と小本部を含む複数の拠点を設置し、味の素がそのすべてに栄養サポート体制を整えました。
リオから6大会連続の「G-Road Station」
「JOC G-Road Station」は、JOCが2016年のリオデジャネイロ大会から6大会連続で開設してきた栄養サポート拠点です。選手村の食事を補完する役割を担い、選手たちが日頃食べ慣れた和食を摂取できる場所として機能しています。
選手村では各国の料理が提供されますが、競技前のコンディション調整には食べ慣れた味が重要です。特に海外開催の大会では、日本食が手に入りにくいため、G-Road Stationの存在は選手にとって精神的な支えにもなっています。
味の素「ビクトリープロジェクト」の全貌
20年以上の歴史を持つ栄養サポート
味の素の「ビクトリープロジェクト」は、2003年にJOCとの共同事業としてスタートしました。トップアスリートが世界で勝ち抜くためのスポーツ栄養とアミノ酸によるコンディショニングサポートを科学的に提供する活動です。2016年からはJPC(日本パラリンピック委員会)とも連携し、パラアスリートへのサポートも展開しています。
20年以上にわたる活動の中で蓄積されたデータとノウハウは膨大です。各競技の特性に応じた栄養戦略の策定、選手個人の体質や嗜好に合わせたメニュー開発など、科学に裏付けられたサポートが選手のパフォーマンス向上に貢献しています。
コメ800kg、段ボール200箱の大輸送作戦
ミラノ大会に向けて、味の素は食材や調理器具を段ボール約200箱分空輸しました。さらに、日本米約800kgを船便で輸送。日本製の炊飯器も持ち込み、現地で炊きたてのご飯を提供できる体制を整えました。
海外の選手村で提供される米は、日本人が食べ慣れた品種とは異なることが多く、食感や味が大きく違います。炊きたての日本米を提供することは、選手にとって栄養面だけでなく、精神的なリラックス効果も期待できます。
ミシュランシェフが手がけるスペシャルメニュー
徳吉洋二シェフとの共同開発
今大会の目玉メニューは、ミラノで活躍する日本人ミシュランシェフ・徳吉洋二氏と共同開発した「Power Gyoza DON(パワー餃子丼)」です。このメニューは3日に1度のお昼に提供され、期間中に約300食が選手たちに届けられました。
徳吉シェフはイタリアの食材と日本の調理技術を融合させたメニュー開発に定評があり、選手たちが必要とする高タンパク・高エネルギーの栄養バランスを、美味しさと両立させることに成功しています。
家庭の味で「心」も整える
G-Road Stationでは、Power Gyoza DONに加え、「竹の子の含め煮」や「ぶり大根」といった家庭料理を思わせるメニューも提供されています。これらは日本からパウチ食品として持ち込まれ、現地で温めて提供されます。
競技のプレッシャーと異国での生活ストレスにさらされる選手たちにとって、食べ慣れた家庭の味は単なる栄養補給以上の意味を持ちます。味覚を通じて心身のリラックスを促し、最高のパフォーマンスを引き出すための環境づくりが、メダルラッシュの一因となりました。
注意点・展望
スポーツ栄養の進化と今後の課題
オリンピックにおける食事サポートは年々高度化しています。単に栄養バランスの良い食事を提供するだけでなく、競技特性に応じた栄養タイミングの最適化や、個人の代謝データに基づくパーソナライズドメニューの開発が進んでいます。
一方で、複数拠点にわたる大規模なサポート体制の維持にはコストがかかります。味の素のようなスポンサー企業の支援なしには成り立たない部分も大きく、官民連携のさらなる強化が今後の課題です。
2028年ロサンゼルス夏季大会への示唆
ミラノ大会での成功体験は、2028年のロサンゼルス夏季オリンピックにも活かされることになります。夏季大会は競技数・選手数ともに冬季大会を大きく上回るため、より大規模なサポート体制が求められます。6大会にわたって蓄積されたG-Road Stationの運営ノウハウが、次の大会でも日本選手団の活躍を支えることになるでしょう。
まとめ
ミラノ冬季五輪で日本選手団が冬季五輪史上最多の24個のメダルを獲得した裏には、JOCと味の素が構築した大規模な食の支援体制がありました。コメ800kgの輸送、ミシュランシェフとの共同メニュー開発、複数拠点での和食提供など、その本気度は過去最大規模です。
「食」は単なるエネルギー補給ではなく、選手のパフォーマンスと精神状態を左右する重要な要素です。20年以上の歴史を持つビクトリープロジェクトの知見と、現場スタッフの献身的な取り組みが一体となったとき、メダルラッシュという結果に結びつきました。
参考資料:
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