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新NISA時代、SBI最安インデックス投信が挑むオルカン牙城

by 高橋 翔平
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新NISA資金が押し上げる全世界株式投信の主戦場

全世界株式インデックス投信をめぐる競争は、単なる手数料の引き下げ合戦から、運用会社の総合力を問う段階に入りました。新NISAの恒久化で長期保有を前提にした資金が入りやすくなり、投資家は「どの指数に、どのコストで、どの運用体制で乗るか」を以前より細かく比較するようになっています。

その中心にいるのが、三菱UFJアセットマネジメントの「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」、通称オルカンです。2026年5月末時点の月次レポートでは純資産総額が12兆2,379.8億円に達し、運用管理費用は年率0.05775%以内とされています。全世界株式投信の代名詞といえる規模です。

一方、SBIグループも低コスト商品を相次いで投入し、SBIアセットマネジメントの公募投信残高は2026年6月1日に6兆円を突破しました。ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズへの運用委託を活用したNASDAQ100連動ファンドも登場し、外部ETFを買うだけではない運用モデルへ踏み込み始めています。

この競争が重要なのは、勝者が1本の人気ファンドにとどまらないからです。新NISAでは一度積み立て設定をした投資家が長く同じ商品を保有しやすく、早い段階で標準商品になった投信には継続的な資金が入りやすくなります。運用会社から見れば、低い報酬率でも巨大な残高を獲得できれば、安定収益の基盤になります。投資家から見れば、競争が続くほど手数料低下と商品改善の恩恵を受けられます。

SBIが低コスト競争で積み上げた販売基盤

6兆円残高が示すネット証券経由の集客力

SBIの強みは、商品単体の安さだけではありません。SBI証券を中心とするネット販売網、低コスト商品の連続投入、グループ内の運用会社再編が重なり、資金流入を受け止める基盤が広がっています。SBIグローバルアセットマネジメントの発表では、SBIアセットマネジメントの公募投信残高は2025年12月の5兆円突破から約5カ月で1兆円を積み増し、2026年6月1日に6兆円を超えました。

グループ全体で見ると、SBIアセット、SBI岡三アセットマネジメント、レオス・キャピタルワークスを含む公募投信残高は約9.3兆円とされ、業界8位に入ったと説明されています。さらにSBIグローバルアセットマネジメントグループの運用資産残高は、2026年4月20日に13兆円を突破しました。これは「最安」を掲げるだけでは作れない、販売、商品企画、運用会社買収の積み上げです。

個人投資家にとって重要なのは、残高の大きさが必ずしも将来リターンを保証しない一方で、ファンド運営の安定性や商品継続性を測る材料にはなる点です。純資産が小さいファンドは、繰上償還や売買コストの相対的な重さが問題になりやすくなります。SBIはこの弱点を、SBI証券の口座基盤と低コスト訴求で乗り越えてきました。

残高拡大は、運用会社の交渉力にも影響します。指数会社、海外運用会社、カストディアン、販売会社との条件交渉では、見込める資金量が大きいほど商品設計の自由度が増します。SBIがステート・ストリートのような大手運用会社と組む意味もここにあります。単独で世界株を買い付ける体制を一から作るより、実績ある外部運用インフラを取り込んだほうが、早く低コスト商品を市場に出しやすいからです。

Vシリーズで実証した外部ETF活用モデル

SBIの低コスト戦略を象徴してきたのが、米バンガードのETFを主な投資対象とする「SBI・V」シリーズです。「SBI・V・S&P500インデックス・ファンド」は2019年9月に設定され、2026年6月3日に純資産総額3兆円を突破しました。信託報酬は年率0.0938%税込とされ、S&P500連動ファンドの中核的な存在になっています。

このモデルの利点は明確です。海外の巨大ETFを活用すれば、既に完成したポートフォリオ、低い経費率、高い流動性を国内投信の器で提供できます。NISAやiDeCoで投信を買いたい個人にとっては、米国ETFを直接買う手間を避けながら、代表的な指数に低コストでアクセスできる仕組みです。

ただし、外部ETF依存には弱点もあります。投資対象ETFの経費率が下がれば国内投信側の実質コストも下げやすい半面、ETF側の仕様、配当処理、税務、為替、運用方針の変更を自社だけでは完全に制御できません。SBIは2026年2月、バンガードETFの総経費率引き下げを受け、複数ファンドの実質的な信託報酬を引き下げると発表しました。これは投資家還元として評価できる一方、コスト構造が外部商品に連動することも示しています。

そのため、SBIにとって次の課題は「安い海外ETFを選ぶ会社」から「安い指数運用を設計できる会社」へ移ることです。全世界株式の本丸でオルカンに挑むなら、ETFの経費率だけに頼らず、自社側で売買執行、配当再投資、現金比率管理、指数リバランスをどう最適化するかが問われます。ステート・ストリート委託は、この運用機能を補う手段として位置づけられます。

ステート・ストリート委託が変える運用の設計図

NASDAQ100で始まった直接投資型の布石

SBIが次の段階に進むうえで注目されるのが、ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ株式会社への運用委託です。2026年5月21日に設定された「SBI NASDAQ100インデックス・ファンド」は、SBIアセットの米国株式ファンドとして初の直接投資によるインデックス運用と説明されています。信託報酬は年率0.1958%税込で、設定額は139.85億円でした。

この動きが意味するのは、SBIが単に海外ETFを包む販売会社的な役割から、指数連動運用の設計をより深く握る方向へ進んでいることです。ステート・ストリートはSPDRブランドで知られ、世界のインデックス運用やETF市場で長い実績を持つ運用会社です。SBIがこの運用能力を国内公募投信に取り込めれば、低コスト化とトラッキング精度の両立を狙いやすくなります。

オルカンに挑むうえで、ここは「最後のピース」に近い意味を持ちます。全世界株式のような広範な指数では、地域、通貨、取引時間、流動性、税務、リバランスの管理が複雑です。単純に信託報酬を削るだけではなく、指数にどれだけ忠実に追随できるか、売買コストをどう抑えるか、巨大な資金流入をどう処理するかが問われます。

オルカンと雪だるまで異なる指数選択

全世界株式と一口に言っても、指数の違いは無視できません。オルカンはMSCIオール・カントリー・ワールド・インデックスに連動する設計です。2026年5月末の月次レポートでは組入銘柄数は2,463銘柄、国・地域別ではアメリカが62.4%、日本が5.0%でした。世界株式といっても、実質的には米国株の比重が極めて大きい商品です。

これに対し、SBIの既存の全世界株式商品である「SBI・全世界株式インデックス・ファンド」、愛称「雪だるま」はFTSEグローバル・オールキャップ・インデックスを対象にしています。SBIの発表では、2026年5月11日に純資産残高が4,021.45億円となり、設定から101カ月連続で純資金流入となりました。実質的な負担は年0.1022%税込程度とされています。

MSCI ACWIとFTSE Global All Capの差は、単なるブランドの違いではありません。SBIの資料では、MSCI ACWIの構成銘柄が約2,514銘柄であるのに対し、FTSE Global All Capは約10,172銘柄とされ、大型・中型株だけでなく小型株も対象にします。分散の広さを重視するならFTSE型には魅力がありますが、保有銘柄数が増えれば運用管理は複雑になります。

オルカンが圧倒的な支持を得ている理由は、最安水準のコストだけではありません。MSCI ACWIという分かりやすい指数、三菱UFJアセットマネジメントの継続的な信託報酬引き下げ、NISAで買いやすい販売網、そして12兆円を超える残高が生む安心感が重なっています。SBIが本気で牙城を崩すには、費用率でわずかに下回るだけでなく、指数選択と運用体制を投資家に納得させる必要があります。

最安競争だけでは測れない投信選びの死角

信託報酬が低いほど長期投資に有利なのは事実です。年0.1%の差でも、20年、30年と積み立てると手元資産に影響します。ただ、現在の主要インデックス投信では、上位商品同士の信託報酬差はかなり小さくなっています。投資家が見るべきなのは、表示された信託報酬に加え、実質コスト、トラッキングエラー、売買回転、分配方針、繰上償還リスクです。

特に全世界株式では、指数の中身が投資成果を左右します。MSCI ACWI型は大中型株中心で、世界の時価総額の主要部分を効率的に押さえる設計です。FTSE Global All Cap型は小型株まで含めるため、より広い市場を取りに行く発想です。どちらが常に優れるという話ではなく、投資家が期待する「全世界」の定義が異なります。

また、残高が大きくなりすぎたファンドにも別の課題があります。巨大ファンドは償還リスクが低い一方、指数変更や大規模資金流入時の売買が市場に与える影響を抑える必要があります。オルカンはすでに国内公募投信の中でも突出した規模です。SBIが追う側であるうちは、柔軟な商品設計や低コスト訴求が武器になりますが、残高が大きくなれば同じ運用上の重さを背負うことになります。

新NISAの資金流入も、競争を加速させます。金融庁によると、2024年からのNISAは年間投資枠が最大360万円、非課税保有限度額が最大1,800万円となりました。2025年12月末時点の速報値では、NISA口座数は2,826万口座、買付額は累計71兆円です。低コスト投信の競争は、制度拡充で広がった長期資金をどの運用会社が取り込むかという争いでもあります。

もう一つの死角は、乗り換え判断です。特定口座で含み益がある投信を売却すれば課税が発生しますし、NISA口座でも売却した簿価分の枠が復活するのは翌年以降です。新しい最安ファンドが出たとしても、既存保有分を一気に移す合理性は、税コスト、非課税枠、今後の積立額によって変わります。低コスト化のニュースは歓迎材料ですが、投資行動としては「新規積立をどうするか」と「既存保有をどうするか」を分けて考える必要があります。

また、信託報酬の低さは運用会社の覚悟を映す一方、将来のサービス品質を保証するものではありません。問い合わせ対応、情報開示、月報の分かりやすさ、運用報告書での実質コスト開示も長期保有では重要です。特に初心者の資金が集まるNISA対象商品では、安さだけでなく、投資家が保有を続けられる説明責任も競争力になります。

個人投資家が見るべき比較軸の整理

オルカンとSBI系ファンドを比較するとき、最初に見るべきは信託報酬ですが、そこで判断を止めるべきではありません。オルカンは年率0.05775%以内という極めて低い運用管理費用、12兆円超の純資産、MSCI ACWIへの連動という分かりやすさが強みです。投信選びで迷う人にとって、標準解としての安心感があります。

SBI側は、SBI・Vシリーズで実証した販売力、雪だるまのFTSE型全世界分散、ステート・ストリートへの運用委託を使った直接投資型の展開が武器です。今後、全世界株式分野でさらに低いコストの商品を出せるなら、オルカン一強の構図は揺らぎます。ただし、投資家が乗り換える理由を持つには、信託報酬差だけでなく、実質コストや運用精度の実績が必要です。

実務的には、すでにオルカンを長期積立している投資家が、わずかな手数料差だけで急いで乗り換える必要性は高くありません。新規に選ぶ人は、MSCI ACWI型の分かりやすさを取るのか、FTSE型の広い分散を取るのか、SBIの新商品展開を待つのかを整理すれば十分です。競争が激しくなるほど、最終的な受益者は低コストで選択肢を得る個人投資家です。

SBIの挑戦は、オルカンをすぐに置き換える話ではなく、国内投信市場の価格決定権をめぐる戦いです。投資家は宣伝上の「最安」に飛びつくのではなく、指数、残高、実質コスト、運用会社の継続姿勢を同じテーブルで比べる必要があります。その比較を続けることが、新NISA時代の長期投資で余計なコストと不要な乗り換えを避ける最も現実的な方法です。

参考資料:

高橋 翔平

株式・投資戦略

株式市場の構造変化と投資戦略を、個人投資家の視点から分析。企業の財務データを読み解き、マーケットの本質に迫る。

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