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株高の裏側で膨らむ地銀債券含み損とSBI提携行の資本増強リスク

by 高橋 翔平
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株高でも消えない地銀の債券含み損

地方銀行の決算は、表面だけを見ると久しぶりに明るい数字が並んでいます。日銀のマイナス金利解除後、貸出金利息や日銀当座預金の付利収入が増え、金融庁集計の地域銀行2025年9月期決算では、当期純利益が前年同期比26%増の9030億円となりました。

しかし、収益改善と同時に進んでいるのが、保有債券の評価損拡大です。金融庁の同資料では、債券等関係損益が2482億円の赤字となり、前年同期から赤字幅が1193億円拡大しました。株高で政策保有株や株式投信の含み益が膨らむほど、円債の損失は有価証券全体の数字に埋もれやすくなります。

銀行株を評価する際の焦点は、単純な増益率ではありません。有価証券評価損益の内訳、自己資本比率、債券売却損を処理できる収益力を同時に見る必要があります。とくに株式含み益が薄い地銀や、SBIグループと資本業務提携する中小規模行では、金利上昇が資本政策に直結しやすい構図です。

決算データが示す収益改善と評価損の併存

金利上昇で改善した本業収益

地銀の2025年度中間決算では、預貸ビジネスの改善がはっきり出ました。全国地方銀行協会によると、地方銀行の2025年9月期のコア業務純益は1兆565億円で、前年同期比30.7%増でした。経常利益も1兆637億円、中間純利益も7712億円と、それぞれ約3割の増益です。

背景にあるのは、貸出金利回りの上昇です。地銀協の国内店ベースでは、2025年9月末の貸出金残高は262兆円、貸出金利回りは1.18%でした。預金利回りも0.09%まで上がりましたが、貸出金利回りとの差は1.08%に広がっています。低金利期に圧迫されていた利ざやが、ようやく銀行収益の押し上げ要因になったということです。

2026年3月期の地域銀行決算も同じ流れです。ニッキンの集計では、80行・グループの連結純利益は前年同期比37%増の1兆7756億円で、74行・グループが増益または黒字転換となりました。金利のある世界は、地銀にとって収益回復の追い風です。

有価証券運用に残る時価下落圧力

一方で、金融市場の変化は貸出収益だけを改善するわけではありません。金利が上がれば既発債の価格は下がり、低金利期に買った長期債ほど含み損が大きくなります。日銀の金融システムレポートも、金融機関全体では十分な損失吸収力を持つとしつつ、円債の評価損が拡大している点を指摘しています。

地銀協の資料では、地方銀行の2025年9月末のその他有価証券残高は76兆4897億円でした。このうち債券は42兆4636億円、株式は8兆1201億円、その他は25兆9058億円です。債券残高は有価証券運用の中核であり、金利変動の影響を避けて通れません。

ここで重要なのは、有価証券全体の評価損益だけではリスクを読み切れない点です。毎日新聞が公開した2025年9月期の地銀主要計数を基に、第一地銀61行の「うち債券損益」を単純合算すると、約2兆5627億円のマイナスになります。一方、その他有価証券評価損益の単純合算は約3兆3714億円のプラスでした。株式含み益が債券評価損を覆い隠す構図が、数字にも表れています。

規制資本と市場評価のずれ

国内基準行では、満期保有目的債券の評価損が自己資本比率規制に直ちに全額反映されるとは限りません。日本総研も、満期保有目的に分類すれば規制上の時価評価は不要だが、評価損の積み上がりは経営判断を難しくし、将来の健全性問題に波及し得ると整理しています。

会計上も、その他有価証券評価差額金は純資産を上下させます。金融庁の有価証券運用モニタリングレポートは、評価損益の増減が資本の増減をもたらすため、平時からポートフォリオの脆弱性分析とアクションプランが必要だとしています。つまり、規制上の最低基準を満たしていても、市場は含み損、売却余力、配当余力を別途評価するということです。

ワースト行に共通する株式含み益の薄さ

大手地銀にも広がる債券評価損

2025年9月期の主要計数を見ると、債券評価損は中小地銀だけの問題ではありません。第一地銀の中で債券損益のマイナスが大きかった行には、静岡銀行、八十二銀行、福岡銀行、中国銀行、千葉銀行、京都銀行など、地域の有力行も含まれます。

ただし、これらの銀行が同じリスク状態にあるわけではありません。京都銀行は債券損益が約988億円のマイナスでしたが、その他有価証券評価損益は約1兆508億円のプラスでした。八十二銀行も債券損益は約1498億円のマイナスですが、その他有価証券評価損益は約4066億円のプラスです。歴史的に積み上がった株式含み益が、債券含み損を吸収しています。

投資家が注意すべきなのは、債券損益の絶対額だけではなく、株式含み益で相殺した後の純額と、自己資本に対する大きさです。債券評価損が大きくても、収益力と株式含み益が厚ければ、損失処理を段階的に進める余地があります。一方、株式含み益が乏しい銀行では、同じ100億円の債券損でも資本政策への圧力が強まります。

銀行名その他有価証券評価損益うち債券損益
静岡銀行2887億円▲1534億円
八十二銀行4066億円▲1498億円
福岡銀行▲3億円▲1447億円
中国銀行276億円▲1255億円
千葉銀行1561億円▲1080億円
京都銀行1兆508億円▲988億円
山陰合同銀行▲1118億円▲804億円
十八親和銀行▲224億円▲760億円

上表は2025年9月期の開示データを億円換算したものです。評価損益の純額がプラスの銀行とマイナスの銀行が混在しており、債券損失の痛みは一様ではありません。

含み損が実現損に変わる局面

有価証券の含み損は、保有し続ける限り期間損益に直接出ない場合があります。しかし、ポートフォリオを健全化するには、損失を実現して低利回り債を売却し、高い利回りの資産へ入れ替える必要が出ます。このとき、含み損は国債等債券損益の赤字として損益計算書に現れます。

東和銀行は、この典型例です。2025年9月末時点で、連結のその他有価証券評価差額金はマイナス276億円、純資産は925億円でした。その後、金利上昇で債券含み損が顕在化したとして、地方債や国債など約2280億円を売却し、約360億円の売却損を計上する方針が報じられました。これは一時的には赤字要因ですが、低利回り資産を抱え続けるより、将来の運用利回りを改善する効果があります。

問題は、損失処理をどれだけ自前の利益で吸収できるかです。金融庁の2025年9月期集計では、地域銀行の株式等関係損益は2957億円の黒字でした。株式売却益で債券売却損を埋める動きは自然ですが、政策保有株の売却余地が小さい銀行では同じ手法を続けられません。

信用リスクより金利リスクが主役

今回の地銀リスクは、不良債権問題とは性格が違います。金融庁集計では、地域銀行の2025年9月期の不良債権比率は1.59%に低下しています。地銀協資料でも、地方銀行の開示債権の対総与信比率は2025年9月末に1.51%でした。

つまり、現時点で主役になっているのは貸出先の倒産急増ではなく、銀行勘定の金利リスクです。IMFも日本の地方銀行について、総じて強靭性を維持している一方、大手行よりショック吸収力が限られ、有価証券の含み損、地方の与信需要の弱さ、人口動態の逆風を抱えると指摘しています。

銀行株の選別では、貸倒引当金や不良債権比率だけでは足りません。円債デュレーション、満期保有目的債券の含み損、その他有価証券評価差額金、株式含み益の厚さまで確認する必要があります。

SBI提携行と金利再上昇の資本圧力

第4のメガバンク構想の現実

SBIグループは、SBI新生銀行を核に地域金融機関との連携を広げてきました。2025年11月のSBIホールディングス資料では、東北銀行との提携により資本業務提携先が10行まで拡大したと説明されています。SBI新生銀行を含む総資産残高の単純合計は約37兆2916億円とされ、金融商品仲介、共同店舗、運用受託、次世代勘定系システムなどで接点を増やしています。

この構想は、地銀にとって収益源の多角化やシステムコスト削減の機会です。SBI側資料では、SBIアセットマネジメントが地域金融機関の自己資金運用向け私募投信を約2兆6837億円運用しているとも示されています。低金利期に貸出だけでは稼ぎにくかった地銀にとって、外部の商品・運用・デジタル基盤を使える点は魅力です。

ただし、金利上昇局面では、提携先の財務リスクもSBIの資本配分課題になります。ブルームバーグは2025年10月、SBIの北尾吉孝会長兼社長が地銀との資本提携について、出資引き揚げや新たな出資の可能性に触れたと報じました。提携先が増えるほど、すべての銀行に同じ濃度で経営資源を投じることは難しくなります。

小規模行で重くなる評価損の比率

SBI提携行の中には、評価損が純資産に対して重い銀行があります。福島銀行の2025年9月期決算短信では、単体のその他有価証券評価損益がマイナス80億円でした。同じ時点の単体純資産は224億円で、債券だけでもマイナス41億円です。福島銀行は資本増強で自己資本比率を確保していますが、評価損の比率は軽視できません。

東和銀行も、2025年9月時点の連結自己資本比率は9.82%と国内基準を上回っていました。それでも、その他有価証券評価差額金のマイナス276億円は純資産925億円に対して大きな金額です。債券売却損を一括処理すれば、当期損益と自己資本の双方に一時的な圧力がかかります。

この局面で考えられる資本政策は、普通株の第三者割当増資、優先株、既存株主を薄める資本性資金、あるいは持株会社化や再編です。資本増強は預金者保護や地域金融の安定には有効ですが、上場株主にとっては希薄化や配当制約のリスクになります。

SBI側にも残る選別の必要性

SBIグループから見ると、地銀連携は金融商品販売、運用、システム、融資案件のディストリビューションを広げる成長戦略です。一方で、提携先の再建色が強まると、投資回収期間は長くなります。地銀の有価証券損失が一時的な会計問題で終わるのか、資本増強や再編を伴う構造問題になるのかは、SBI株の評価にも影響します。

投資家は「SBIが出資しているから安心」と短絡すべきではありません。SBIが経営資源に濃淡を付ける方針を示している以上、各行の自助努力、損失処理計画、地域での貸出成長力を個別に見極める必要があります。提携はセーフティネットではなく、再建と成長を同時に進めるための道具です。

金利再上昇で試される損失処理シナリオ

日銀の追加利上げが続けば、債券評価損はさらに広がる可能性があります。日銀は金融システムレポートで、金融機関が円債残高の削減やデュレーション短期化を進めているとしつつ、相場変動を想定したポートフォリオ管理を求めています。これは、金利リスクがすでに監督上の重点テーマになっていることを示します。

今後の焦点は三つです。第一に、含み損を抱えた債券を保有し続けることで、低利回り資産が固定化されるリスクです。第二に、売却損を出して入れ替える場合、単年度赤字や配当停止に耐えられるかです。第三に、株式市場が調整した場合、債券損を覆っていた株式含み益が同時に縮小するリスクです。

金融庁のモニタリング資料は、金利上昇が有価証券評価損益を悪化させる一方、貸出や運用利回りの改善を通じて中長期的には銀行収益にプラスになり得ると整理しています。したがって、すべての債券評価損を悲観材料と見る必要はありません。問題は、損失処理を先送りして収益改善の果実を食いつぶす銀行と、早めにポートフォリオを入れ替える銀行の差です。

上場地銀は2026年3月期に好決算が多く、株価にも金利上昇メリットが織り込まれやすくなっています。しかし、銀行株の上昇局面ほど、有価証券評価損益の内訳確認が重要です。増益という見出しの裏で、将来の赤字要因がどれだけ残っているかを見なければなりません。

投資家が確認すべき三つの財務指標

個人投資家が地銀株を選ぶ際は、まず「その他有価証券評価損益」と「うち債券損益」を分けて見ます。有価証券全体がプラスでも、債券だけで大幅なマイナスなら、株式含み益が剥落したときの耐性は低下します。

次に、その他有価証券評価差額金を純資産や自己資本比率と比較します。国内基準の4%を上回るだけでは十分ではありません。含み損を実現した場合に、配当、自己株買い、成長投資をどれだけ維持できるかが株主価値を左右します。

最後に、債券売却損を吸収する本業利益の厚さを確認します。コア業務純益が伸び、貸出金利回りが改善している銀行は、痛みを伴う入れ替えを進めやすいです。反対に、利ざや改善が弱く、株式含み益も薄い銀行は、資本増強や再編の可能性を織り込む必要があります。

地銀の有価証券問題は、危機ではなく選別の材料です。株高で見えにくくなった債券含み損を分解すれば、金利上昇を追い風にできる銀行と、資本政策に追い込まれやすい銀行の差が見えてきます。

参考資料:

高橋 翔平

株式・投資戦略

株式市場の構造変化と投資戦略を、個人投資家の視点から分析。企業の財務データを読み解き、マーケットの本質に迫る。

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