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地銀困窮度ランキングで読む金利上昇下の含み損と預金流出リスク

by 松本 浩司
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金利復活で地銀決算が変わる理由

地方銀行の収益環境は、超低金利期とは別物になりました。日本銀行は2024年3月にマイナス金利政策を解除し、その後も政策金利を段階的に引き上げました。2026年4月28日の金融政策決定会合では、無担保コールレートを0.75%程度で推移させる方針が示されています。

銀行にとって金利上昇は、貸出金利や有価証券利息を押し上げる追い風です。一方で、過去に低利回りで積み上げた国債の価格下落、預金者への金利還元、地域経済の貸出需要という三つの制約も同時に強まります。地銀の「困窮度」を見るうえでは、利益が増えたかどうかだけでなく、金利上昇の恩恵と副作用のどちらが大きいかを分けて読む必要があります。

好調地銀を押し上げる貸出金利の追い風

資金利益の改善と貸出残高の伸び

金融庁が集計した地域銀行の2025年3月期決算では、当期純利益は1兆3,088億円と前年同期比37%増えました。資金利益は4兆2,367億円、コア業務純益は1兆9,582億円に伸びています。長く続いた低金利下では、銀行の本業である預貸業務の利ざやが縮み、投資信託販売や経費削減で補う構図が目立っていました。金利上昇は、この収益構造を再び預貸中心に戻す力を持っています。

より新しい地銀協の2025年度中間決算でも、同じ方向が確認できます。地方銀行のコア業務純益は前年同期比30.7%増の1兆565億円、中間純利益は29.6%増の7,712億円でした。国内店分の貸出金残高は262兆円と前年同期比4.4%増え、貸出金利回りは1.18%に上昇しました。一方、預金利回りは0.09%にとどまり、預貸金利回り差は1.08%です。

ここに、地銀が「金利ある世界」で利益を伸ばす基本メカニズムがあります。貸出金利は、新規融資や変動金利貸出の更新を通じて比較的早く上がります。預金金利は競争環境に左右されるため、ただちに同じ幅では上がりません。その時間差が資金利益の増加として表れます。

北関東・九州勢に見える収益力の回復

個別行の決算を見ると、金利上昇を収益に転換できた銀行の姿がはっきりします。常陽銀行と足利銀行を傘下に持つめぶきフィナンシャルグループは、2026年3月期の親会社株主に帰属する当期純利益が841億円となり、前期比44.5%増でした。貸出金は前年度末比7,945億円増の13兆9,976億円、預金等は1,828億円増の18兆1,079億円です。

ふくおかフィナンシャルグループも、2026年3月期の純利益が854億円と18.4%増えました。貸出金は法人部門を中心に1兆3,365億円増え、20兆3,068億円に達しています。経常収益の増加は、資金運用収益の増加が主因です。地盤となる九州で企業投資や住宅関連需要を取り込めることが、利上げ局面での収益拡大に結びついています。

ただし、好調行でも無条件に楽になったわけではありません。ふくおかFGの預金利息は、2025年3月期の227億円から2026年3月期には482億円へ増えました。預金調達費用が上がっても、それを上回る貸出金利息や有価証券利息を確保できる銀行だけが、金利上昇の恩恵を純利益に残せます。この点が、好調行と苦戦行の最初の分岐点です。

含み損と預金流出が映す困窮度

円債ポートフォリオの評価損リスク

金利上昇局面で最も見えにくい負担は、有価証券の含み損です。債券価格は金利が上がると下がります。長期国債や地方債を低金利期に多く保有した銀行ほど、金利上昇時に評価損を抱えやすくなります。

地銀協の2025年度中間決算資料では、その他有価証券に係る債券評価損は2025年9月末に2兆6,489億円でした。株式の含み益が全体の評価損益を支える銀行もありますが、債券単体では損失が膨らんでいます。日本銀行の金融システムレポートも、円債の評価損が拡大していると指摘しています。

もっとも、これは直ちに金融危機を意味しません。日銀は、金融機関全体では円貨金利リスク量が自己資本対比で低位に抑制され、総じて十分な損失吸収力を持つと評価しています。地銀の多くも、円債残高の削減やデュレーションの短期化を進めています。問題は、全体平均ではなく、調整が遅れた個別行です。

困窮度が高い銀行は、含み損を抱えたまま高利回り資産へ入れ替える余地が小さくなります。債券を売れば損失が実現し、売らなければ低利回り資産が残ります。自己資本が厚く、株式含み益や本業利益で債券損を吸収できる銀行と、損失処理を先送りせざるを得ない銀行の差は、金利上昇が続くほど開きます。

預金ベータ上昇と地域人口の逆風

もう一つの焦点は、預金です。預金残高は地銀の資金調達基盤であり、長年は低コストで安定した負債と見なされてきました。しかし、金利が戻ると預金者は金利差に敏感になります。ネット銀行、メガバンク、証券口座、個人向け国債など、家計の資金移動先は増えています。

金融庁の分析ノートは、預金残高全体は増加傾向でも、業態や預金種類によって状況が異なると整理しています。2023年9月末から2024年9月末にかけて、分析対象全体の預金残高伸び率は1.2%でしたが、残高が減少している金融機関も多く見られました。個人の要求払預金は3.0%増えた一方、個人の定期性預金は2.3%減少しています。

この動きは、地方銀行にとって二つの意味を持ちます。第一に、預金者が金利や利便性を比較するようになると、預金金利を上げない銀行は残高を維持しにくくなります。第二に、預金金利を上げれば資金利益が削られます。貸出金利の上昇分を預金金利の上昇分がどれだけ食うか、いわゆる預金ベータが重要になります。

人口動態も無視できません。日銀は金融システムレポートで、国内の人口や企業数の減少が構造的な借入需要の下押し圧力になると指摘しています。IMFも、地方銀行は大手銀行よりも、人口減少や地方の与信需要の弱さにさらされやすいと見ています。預金と貸出の両方が地域人口に依存する地銀ほど、金利上昇の恩恵を長期的な成長に変える難度は高くなります。

利上げ継続局面で強まる再編圧力

金利上昇が緩やかに進む場合、地銀全体の利益にはなお追い風が残ります。既存の固定金利貸出が更新され、法人融資や住宅ローンの新規実行利回りが上がるためです。政策金利が低すぎた時代には採算が合わなかった小口融資や地域企業向け支援も、適切に価格を付けられれば収益源になります。

一方で、長期金利が急上昇する場合は別です。債券含み損がさらに増え、自己資本やその他包括利益を圧迫します。市場が銀行の含み損を厳しく見るようになれば、株価や調達環境にも影響します。低金利期に長い年限の債券を多く抱えた銀行ほど、収益改善よりもバランスシート調整が優先課題になります。

預金競争が激しくなるシナリオも要注意です。地銀は地域密着で預金を集めてきましたが、スマートフォンで口座を移せる時代には、店頭網だけでは防波堤になりません。高齢層の相続、若年層の都市流出、法人の資金管理高度化が重なると、地域預金は自然増だけでは支えにくくなります。

信用コストは、金利上昇の影響が遅れて出る分野です。金融庁集計では2025年3月期の不良債権比率は1.64%まで低下し、与信関係費用も前年より改善しました。しかし、人件費、仕入れ価格、借入金利が同時に上がると、地域の中小企業の返済余力は徐々に削られます。現在の低い不良債権比率を、将来の安全余裕と読み替えすぎない慎重さが必要です。

この環境では、再編や提携の圧力が強まります。システム投資、サイバー対策、人材採用、非金融サービスの展開は、単独行では負担が重い分野です。金利上昇で短期的に利益が増えている間に、不採算店舗の見直し、債券ポートフォリオの入れ替え、法人向けコンサルティングの高度化を進められるかが分かれ目です。好決算はゴールではなく、次の調整に使える時間を買ったにすぎません。

投資家が確認すべき地銀三指標

地銀の困窮度を見極めるには、最終利益の増減だけでは足りません。第一に見るべきは、コア業務純益と資金利益です。債券売却益や株式売却益で底上げされた利益ではなく、本業の預貸利ざやが改善しているかを確認する必要があります。

第二は、有価証券評価損益とデュレーションです。債券含み損が自己資本や株式含み益に対して過大であれば、将来の損失処理余力は限られます。第三は、預金残高と預金利息の伸びです。貸出金利が上がっても、預金流出を防ぐための金利負担が急増すれば、利ざや改善は長続きしません。

「金利ある世界」は、地銀に一律の追い風を吹かせる局面ではありません。営業地盤に貸出需要があり、預金基盤を維持し、含み損を処理できる銀行には好機です。反対に、地域人口の減少、低利回り債券の重さ、預金競争への対応遅れを抱える銀行では、金利上昇が弱点を表面化させます。地銀を見る読者は、利益の大きさよりも、金利上昇に耐えるバランスシートの質を点検すべきです。

参考資料:

松本 浩司

マクロ経済・国際経済

国際経済の潮流を、通商政策・為替・新興国の動向から多角的に分析。グローバル経済の「次の震源地」を見極める。

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