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老朽インフラを支える建設人材不足と若者の職業選択の見えない壁

by 小林 美咲
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道路陥没が示した生活基盤の人材リスク

道路陥没は、突然起きた事故として受け止められがちです。しかし背景をたどると、下水道管、橋梁、道路附属物、水道管路などが同時に古くなる構造問題に行き着きます。さらに深刻なのは、点検や補修を担う人材が十分に育っていないことです。

国土交通省は、埼玉県八潮市で2025年1月28日に発生した道路陥没を伴う下水道管路破損事故を受け、全国の下水道管路を特別に調査しました。2026年2月末時点で対象535団体、5,332kmのうち5,121kmを調べた結果、対策が必要な延長は748km、地盤中の空洞は96箇所確認されています。

この数字は、インフラ老朽化が「どこかの自治体の問題」ではなく、生活圏の安全と通勤、物流、教育、医療に直結する課題であることを示します。本稿では、建設業の待遇改善が進んでも若者の入職が伸びにくい理由を、インフラ維持とキャリア教育の接点から読み解きます。

老朽インフラを抱える自治体の現場負担

橋梁と下水道で進む同時老朽化

高度経済成長期以降に整備された社会資本は、いま一斉に更新期へ入っています。国土交通省のインフラメンテナンス情報によると、道路橋は約73万橋あります。建設後50年以上を経過する割合は2023年3月時点で約37%ですが、2030年3月には約54%、2040年3月には約75%に達する見込みです。

トンネルも同じ傾向です。約1万2千本のうち築50年以上の割合は、2023年3月の約25%から2040年3月には約52%へ上がります。下水道管渠は総延長約49万kmで、同じ割合は2023年3月の約7%から2040年3月に約34%へ上昇します。水道管路や港湾施設も同時に古くなるため、地域の現場には複数分野の更新需要が重なります。

道路メンテナンスでも、老朽化の波はすでに見えています。2024年度末時点で、建設後50年以上経過した橋梁数は2018年度末の約13万橋から約23万橋へ増えました。一方、早期または緊急の措置が必要な判定区分III・IVの橋梁は約6.9万橋から約5.3万橋へ減っています。点検と修繕は進んでいますが、老朽化する母数の増加がそれを上回る速度で迫っているのです。

点検から補修へ進まないボトルネック

道路施設は、2014年度から橋梁、トンネル、道路附属物等について5年に1度の点検が義務づけられています。2024年度は3巡目の1年目にあたり、橋梁18%、トンネル17%、道路附属物等18%の点検が実施されました。制度としての点検サイクルは定着しつつあります。

ただし、点検結果を補修に結びつける段階で遅れが生じます。国土交通省は、2019年度点検で判定区分III・IVと診断された橋梁について、地方公共団体の修繕等措置の着手率が76%にとどまると公表しています。危険を見つけても、設計、発注、施工管理、現場作業の人員と予算がそろわなければ修繕は進みません。

この遅れは、自治体職員だけの問題ではありません。測量、土木設計、舗装、管更生、電気工事、交通規制、資材調達など、多数の事業者が連動して初めて工事は動きます。小規模自治体ほど、発注者側にも受注者側にも専門人材の余力が乏しく、災害対応や除雪、日常補修が重なると、予防保全は後回しになりやすくなります。

下水道の特別重点調査で見つかった空洞96箇所は、すべて対策済みとされています。これは重要な成果です。一方で、対策が必要な延長748kmという数字は、見つけた後に工事へ移す負担の大きさも示します。インフラを守る力は、単にセンサーや点検車を増やすだけではなく、発見を修繕へ変換する現場技能と施工体制に依存しています。

若者が建設業を選びにくい構造要因

待遇改善だけで崩れない職業イメージ

建設業は、かつての「きつい、汚い、危険」という印象だけで語れる産業ではなくなっています。厚生労働省の建設雇用改善計画では、2024年の建設業における企業規模10人以上の事業所の年間給与額は約565万円と試算され、全産業の同規模事業所の約527万円を上回ります。企業規模5人以上9人以下でも約446万円です。

国土交通省のCCUSレベル別年収でも、全国全分野のレベル1は標準値395万円から目標値535万円以上、レベル2は444万円から599万円以上、レベル4は572万円から754万円以上と示されています。経験や資格が処遇に反映される道筋を見せようとする制度設計は、以前より明確になっています。

公共工事設計労務単価も改善が続いています。2025年3月適用の単価は全国全職種単純平均で前年度比6.0%引き上げられ、必要な法定福利費相当額を加算する措置を行った2013年度改定から13年連続の上昇となりました。少なくとも「建設業は低賃金だから選ばれない」という単線的な説明は、現在の統計とはずれ始めています。

それでも若者の入職は十分ではありません。建設雇用改善計画によると、建設業就業者は1997年の685万人をピークに減少し、2024年には477万人となりました。技能労働者は1997年の455万人から2024年には300万人へ減っています。若年層である15から29歳の割合は2024年に11.7%で、全産業の16.9%を下回ります。

求人倍率にも需給のひずみが表れています。2024年度の建設業関連職種では、土木作業従事者が6.10倍、建設躯体工事従事者が8.56倍、建築・土木・測量技術者が5.58倍です。全産業の1.25倍と比べると、人材獲得競争の厳しさは際立ちます。年収500万円級の可能性があっても、若者の選択肢に入りにくい構造が残っているのです。

進路指導で見えにくい技能職の成長経路

若者の側に怠慢があるという見方は、問題を単純化しすぎです。日本財団が17から19歳の1,000人に実施した2025年の18歳意識調査では、就職活動や働くことに「不安がある」と答えた人が約8割に上りました。企業選びで重視する項目は「給与や待遇が優れている」が52.6%でトップ、福利厚生35.7%、希望する業界33.2%、ワークライフバランス31.0%が続きます。

働く20代を対象にしたヒューマンホールディングスの調査でも、「自分らしい働き方」として最も多いのはワークライフバランスを保つことでした。プライベートの充実を重視する働き方を希望する人は60.9%に達しています。若者は楽をしたいのではなく、心身の安定、成長、将来の見通しを同時に求めています。

厚生労働省の労働経済の分析も、若年層ほど賃金水準への関心が高く、同時に自己成長や柔軟な働き方を重視する傾向を指摘しています。建設業がここで不利になるのは、賃金だけでなく「どんなスキルが身につき、何年後にどの役割へ進めるのか」が進路選択の段階で見えにくい点です。

現役高校生の職業意識にも、建設業の可能性はあります。ジンジブの2024年調査では、働きたい業界ランキングで「製造・ものづくり業界」が16.1%で1位となり、「建設・建築業界」も8.6%で上位に入りました。ものづくりや人の役に立つ仕事への関心は消えていません。課題は、その関心を「地域インフラを守る専門職」という具体的な進路へ翻訳できていないことです。

学校の進路指導では、大学進学、事務職、営業職、情報系職種の情報は比較的手に入りやすい一方、土木施工管理、配管、舗装、橋梁補修、下水道管更生、測量、重機オペレーターなどの成長経路は見えにくいままです。保護者世代の古いイメージも影響します。現場職を「学力が高くない人の選択肢」と見なす空気が残れば、待遇改善は若者の心理的ハードルを越えられません。

予防保全へ転換するための採用改革

建設業の働き方改革は、制度面では前進しています。時間外労働の上限規制は、建設業などの猶予が終わり、2024年4月から原則として適用されています。原則は月45時間、年360時間以内で、臨時的な特別事情がある場合でも年720時間、単月100時間未満、複数月平均80時間以内などの上限があります。

しかし、若者に届く採用改革にするには、休日や賃金を掲げるだけでは足りません。第一に、工事現場ごとの週休2日実績、残業時間、移動時間、宿泊の有無を求人票で具体化する必要があります。建設雇用改善計画では、2024年の完全週休2日制導入率は建設業で45.9%、全産業で56.7%です。改善の余地を隠さず示すほうが、信頼につながります。

第二に、CCUSや技能検定を「制度名」ではなく、キャリアの地図として見せることです。入職1年目に何を覚え、3年目にどの資格へ挑み、5年目にどの現場を任されるのか。賃金と役割の上がり方を、職種別に提示する必要があります。キャリア教育では、大学進学か就職かという二分法ではなく、働きながら専門性を積み上げる第三の進路として扱うべきです。

第三に、インフラ維持の仕事を「社会貢献」の美談で終わらせないことです。道路陥没を防ぐ仕事は社会的に重要ですが、若者は使命感だけで進路を選びません。安全装備、休暇、心理的安全性、ハラスメント対策、女性用設備、育児との両立をそろえて初めて、地域を守る仕事が持続可能な仕事になります。

建設業法・入契法改正では、処遇改善、労務費へのしわ寄せ防止、働き方改革と生産性向上が柱に置かれました。これは企業努力だけでなく、発注者の工期設定や価格転嫁にも関わる課題です。安すぎる発注や短すぎる工期が残れば、現場の魅力は改善しません。人材確保は、教育、企業、発注者、自治体が同じ方向を向く政策課題です。

進路選択で見直したい社会を支える仕事

インフラ老朽化の本質は、古い橋や管を新しくするだけではありません。地域の安全を支える仕事を、若者が将来を託せる職業として再設計できるかという問いです。道路橋の多くが築50年以上となる時代に、補修を担う人材が育たなければ、生活基盤のリスクは静かに高まります。

読者が進路や採用に関わる立場なら、建設業を古い印象だけで判断しないことが第一歩です。給与、休日、資格、技能の成長、地域への貢献を分けて確認すれば、見える景色は変わります。企業側は、若者に精神論を求める前に、働く条件と育成の道筋を透明に示す必要があります。

道路陥没を防ぐのは、点検技術だけではありません。現場で手を動かし、判断し、直す人がいて初めて、予防保全は実行されます。若者の職業選択を変えることは、インフラ政策そのものです。

参考資料:

小林 美咲

キャリア・教育

キャリア形成・教育改革・リスキリングなど、人と学びの接点を取材。変化する時代に求められる「働く力」を問い続ける。

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