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南鳥島レアアース採掘の商業化を阻む精錬脱中国依存という高い壁

by 高橋 翔平
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南鳥島沖の実証成功が示した国産資源の現在地

南鳥島沖でのレアアース泥回収は、日本の資源安全保障にとって大きな前進です。JAMSTECは2026年の試験で、水深5,569メートルの海底下から連続揚泥を確認し、海水を除いたレアアース泥を約50トン回収しました。回収物のレアアース総量では、中重レアアースが約54%を占めたとされています。

ただし、これは「国内鉱山が完成した」ことと同義ではありません。資源量を確定し、荒天下で安定稼働し、泥から用途別の高純度材料を取り出し、最終的に磁石などへ加工するまでには、複数の難所があります。

最も重要なのは、採掘成功を中国依存からの離脱と短絡させないことです。南鳥島の価値は、採掘量だけでなく、分離精製・金属化・磁石製造までを含む一貫供給網を、日本と同志国でどこまで構築できるかによって決まります。

6000メートル海底から生産へつなぐ採鉱の難所

5569メートルで確認した閉鎖型循環方式

南鳥島周辺のレアアース泥は、海底面近くにある堆積物です。石油や天然ガスのように地層圧で自然に湧き出す資源ではないため、泥を装置内でほぐして海水と混ぜ、スラリーとして長い揚泥管を通じて船上へ運ばなければなりません。深海での採鉱は、単に掘削管を長くすれば済む作業ではありません。

今回用いられたのは、採鉱対象を装置内に取り込み、海水と混ぜた泥を循環させる閉鎖型循環方式です。懸濁物の海中への漏出や拡散を抑えることを狙う設計ですが、商業規模で同じ性能を維持できるかは、今後の検証事項です。試験中には波高約7メートル、風速約20メートルの荒天も記録され、機器と揚泥管の降下には予定を上回る日数を要しました。

資源の存在自体は学術調査で裏付けられています。南鳥島EEZでは、14本のコア試料の分析から、合計REY濃度が400ppmを超える泥や、より高濃度の層が確認されました。しかし、地質学的な存在確認と、採算の取れる鉱区としての資源量確定は別の仕事です。濃集帯の広がり、層の厚さ、品位のばらつき、回収時の希釈を一体で測る必要があります。

投資判断で見落としやすいのは、品位の高い地点だけを採っても商業化はできない点です。実運転では、装置を移動させる時間、採掘対象でない堆積物の混入、揚泥管の保守、船舶の稼働率までが生産原価に跳ね返ります。深海資源は「埋蔵量の大きさ」よりも、「年間を通じて何日動き、どの回収率で製品にできるか」が価値を左右します。

350トン毎日を実証する物流と稼働率

次の焦点は、日量350トンを目標に掲げる本格採鉱試験です。計画では、揚泥したスラリーを南鳥島へ船で運び、島で脱水してマッドケーキ化したうえで本土へ送ります。ここで初めて、採掘、海上輸送、一次処理、陸上輸送、分離精製という商業化に必要な工程が接続されます。

スラリーのまま大量の海水を運べば、輸送する価値のない重量が増えます。一方、海上での脱水設備を大型化すれば、船上設備や電力、保守の負担が増します。南鳥島でどこまで減容できるのか、処理水をどう管理するのか、本土の化学処理設備へどの形態で引き渡すのかは、鉱山開発と同じ重みを持つ設計課題です。

政府の工程では、2027年の本格試験を経て、2028年3月までに経済性を含む総合評価を実施する予定です。見るべき指標は日量だけではありません。採掘した泥に含まれる目的元素の回収率、設備停止を含む実稼働率、物流費、薬剤・電力使用量、処理残さの管理費までを、元素別に開示できるかが問われます。

環境面も同様です。今回の試験では、環境DNA採取、映像観察、水中音響、船上バイオアッセイを組み合わせたモニタリングが実施され、鉱物由来の環境汚染リスクは低いとの初期評価が示されました。ただし、観測データの解析は継続中です。回収試料で有害物質と放射性物質の有意な数値が検出されなかったことも前向きな材料ですが、長期・大規模運転時の影響評価を不要にするものではありません。

脱中国依存を阻む分離精製と磁石製造の構造

混合物を用途別材料に変える分離精製工程

レアアース泥を引き揚げても、それは製品ではありません。泥の減容と選鉱を経て、化学的に元素を溶かし出し、複数のレアアースが混じる溶液から、ネオジム、プラセオジム、ジスプロシウム、テルビウムなどを個別の酸化物へ分離します。その後も、金属化、合金化、磁石粉末化、焼結という工程が続きます。

最大の壁は、レアアース同士の化学的性質が非常に似ていることです。個別元素の価値は大きく異なるのに、分離には多数段の溶媒抽出など高度な工程管理が必要になります。NEDOが重レアアースの分離で、従来の大型ミキサーセトラーより設備を小さくし、処理速度を高める技術を開発しているのも、この工程が経済性の核心だからです。

採掘事業の採算は、希少な重レアアースだけで決まりません。レアアースは複数元素を同時に産出するため、相対的に低価格なセリウムやランタンなどの販路が不足すれば、高価な磁石向け元素の生産まで採算が悪化します。個別元素の需要と、原料中の元素構成が一致しない「共産物」の問題は、深海泥でも避けられません。

つまり、南鳥島の商業化に必要なのは、採掘設備への投資だけではありません。元素別の分離能力、酸や抽出剤の安定調達、廃液・残さ処理、品質保証、需要家の長期購入契約を束ねる必要があります。採掘から分離精製までの各工程が小規模に分断されれば、技術があっても固定費を回収できません。

鉱山より厚い中国の精製磁石ネットワーク

中国依存の本質は、鉱山の所在地ではなく中流・下流工程の厚みにあります。IEAによると、磁石向けレアアース4元素を基準に、中国は2024年の採掘で世界生産の60%、精製で91%、焼結永久磁石の生産で94%を占めました。原料を代替調達しても、分離精製や磁石加工を特定国に頼れば、供給途絶リスクは残ります。

2025年4月に中国が7種類の重レアアース、関連化合物、金属、磁石に輸出管理を導入した際、自動車業界では磁石の調達難が表面化しました。輸出量は後に回復したものの、許認可による時間差そのものが生産計画の不確実性になります。鉱物の価格だけでなく、必要な時に必要な規格の磁石を確保できるかが製造業の競争力を決めます。

中国の優位は資源量だけによるものではありません。低コストの設備・薬剤、熟練人材、既存の磁石工場、原料から完成品までの大量需要、長年蓄積した分離条件の知見が結び付いています。IEAは、中国以外で計画済みの2035年時点の能力でも、域外需要に対し採掘は約半分、精製は約4分の1、磁石は2割未満しか満たさないと見積もります。

日本にとって現実的なのは、国産深海泥だけで完結を急ぐことではありません。豪州で採掘しマレーシアで分離精製するLynasの供給網では、2025年中旬から重希土類の分離精製が始まりました。双日とJOGMECは、ジスプロシウムとテルビウムの最大65%を日本向けに供給する契約を結んでいます。こうした海外案件、国内の分離精製、リサイクル、備蓄を組み合わせ、複数の経路を持つことが合理的です。

廃EVや廃家電、磁石製造時の端材を国内で回収することも、精製能力を維持する意味で重要です。NEDOの事業は、廃ネオジム磁石などから重レアアースを相互分離し、国内事業化につなげることを目標に掲げます。再生資源だけで短期の不足を埋めることは難しくても、原料の種類を増やし、分離設備の操業経験を蓄積する土台になります。

商業化判断で外せない採算環境責任供給の検証

商業化の判断には、少なくとも三つの条件があります。第一は、日量350トンの目標を達成することではなく、荒天や保守を含めた年間稼働率と元素別回収率を示すことです。初回試験で得た50トンの回収実績は技術的成果ですが、連続生産の原価を確定するには、より長い操業データが必要です。

第二は、環境データの透明性です。閉鎖型循環方式は影響低減を意図する技術ですが、海底地形、底生生物、懸濁物の拡散、処理水、陸上で生じる残さまで含めた評価が欠かせません。初期試験の結果に加え、基準となる事前調査、独立した検証、操業中止を含む管理基準を示してこそ、事業の社会的許容性が生まれます。

第三は、価格変動に耐える収益設計です。中国以外の事業は、規模、環境規制、資金調達コストで不利になりやすく、安値局面では設備投資が止まりがちです。長期購入契約、価格の下限を支える制度、国家備蓄、需要家との共同投資を組み合わせ、供給安全保障の便益を価格に反映できるかが重要になります。

投資家が追うべき一貫供給網の進捗指標

南鳥島沖の成果は、日本が深海資源を実際に回収できることを示しました。しかし、短期的に中国依存を解消するニュースではなく、採掘から磁石までの供給網を再設計する長期プロジェクトと捉えるべきです。採掘量の見出しだけで企業価値を判断するのは危険です。

注目すべきは、第一に本格試験での連続稼働日数と回収率、第二に元素別の分離精製・残さ処理の実証、第三に国内外の磁石メーカーまで含む長期購入契約です。資源、化学、物流、電力、リサイクル、製造業のどこか一つが欠けても、脱中国依存は完成しません。

国産資源の開発は、調達先を一つ増やすためだけの事業ではありません。採掘技術を起点に、国内の分離精製能力と同志国の供給網を育て、供給途絶に耐えられる選択肢を増やせるか。その進捗こそが、南鳥島レアアースの商業的価値を測る尺度になります。

参考資料:

高
高橋 翔平

株式・投資戦略

株式市場の構造変化と投資戦略を、個人投資家の視点から分析。企業の財務データを読み解き、マーケットの本質に迫る。

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