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全国約190店の果汁工房果琳を支える熟度管理と育成DXの仕組み

by 白石 葵
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約190店を動かす果汁工房果琳の課題設定

果汁工房果琳を展開する青木フルーツは、1924年に福島県郡山市でバナナ加工卸売業として創業した老舗企業です。2002年に小売・飲食業へ軸足を移し、2010年に果汁工房果琳ブランドを立ち上げました。公式発表では2026年2月時点でフルーツジュースバー事業は全国189店舗、同年4月の外部企画では約191店舗とされ、現在は約190店規模のチェーンです。

この規模で難しいのは、単に店舗数を増やすことではありません。果物は工業製品ではなく、産地、季節、熟度で味が変わります。さらに飲食店は人手不足と離職の影響を受けやすく、新人スタッフでも同じ価値を届ける仕組みが欠かせません。青木フルーツの立て直しは、レシピの標準化だけでなく、熟度管理、産地との関係、人材育成、顧客アプリを一体で設計した点に特徴があります。

味のばらつきを抑える熟度中心の商品設計

鮮度信仰から熟度管理への転換

果汁工房果琳の特徴は、フルーツを「鮮度」だけでなく「熟度」で見ている点です。公式サイトでは、食べ頃とされる熟度まで追熟しなければ本当のおいしさは引き出せないと説明し、フルーツマイスターが選別・熟度管理した適熟フルーツを使うとしています。ここに、バナナ問屋を起点とする青木フルーツの歴史が重なります。創業時からバナナを追熟させて販売してきた経験は、ジュースバーの品質管理にも引き継がれています。

ジュースチェーンでは、氷やシロップで味を均一化する道もあります。しかし果汁工房果琳は、注文を受けてから作るバイ・オーダー型を掲げています。作り置きよりオペレーションは重くなりますが、果物そのものの香りや食感を価値に変えやすい方式です。言い換えると、同社の商品力は「完成品を配送する力」ではなく、「店舗で未完成の素材を完成させる力」にあります。

このモデルでは、原料の調達、追熟、カット、計量、接客までが品質の一部になります。現場スタッフが熟度を見誤れば、同じメニューでも酸味や甘みが変わります。だからこそ、商品設計は厨房内だけで完結しません。フルーツファクトリー、物流拠点、市場内拠点、店舗教育をつなぐサプライチェーン全体が、味の再現性を支えています。

ジュース向け栽培と規格外品の出口

青木フルーツの強みは、売り場の後ろ側にもあります。同社はサステナビリティ方針の中で、生産者の労力軽減と利益向上を目指し、「ジュース用」など用途別に特化した栽培や出荷方法を提案していると説明しています。形やサイズの理由で市場に流通しにくい規格外品を商品開発に生かす取り組みも掲げています。

これは、食品ロス対策としてだけでなく、チェーン経営の視点でも重要です。生食用ギフトは見た目の美しさが重視されますが、ジュースでは糖度、香り、加工しやすさが価値になります。用途ごとに求める規格を変えれば、生産者は過度な選別負担を下げられ、店舗側は原料の調達余地を広げられます。規格外品を安く買うという発想ではなく、用途に合った価値を定義し直す発想です。

農研機構が公開する品種「af01」は、青木フルーツとの共同育成による業務需要向けのいちご品種です。ジュースやケーキに使いやすく、調製作業の省力化が期待できる特性が示されています。こうした上流の研究開発に関わる姿勢は、単なる小売・飲食チェーンとは異なるものです。素材の個体差を現場の努力だけで吸収するのではなく、品種、規格、用途の段階からオペレーションしやすい状態へ近づけています。

国内では食品ロスの削減も大きな政策課題です。農林水産省は2024年度の事業系食品ロス量を237万トンと公表しています。果物は傷みやすく、見た目で価値が左右されやすい商材です。青木フルーツのモデルは、傷やサイズ違いを抱える果実に「ジュース」という出口をつくり、同時に店舗の季節商品へ転換する点で、産地支援と収益機会を重ねています。

早期離職を下げるオンボーディングの再設計

ウェルカムブックが担う初日体験

もう一つの柱が、人材育成の再設計です。飲食店は人手不足の影響を受けやすく、帝国データバンクの2026年4月調査では、非正社員の不足を感じる「飲食店」の割合が59.1%でした。厚生労働省の新規学卒就職者の離職状況でも、令和4年3月卒の3年以内離職率は、宿泊業・飲食サービス業で高校卒64.7%、大学卒55.4%と高い水準です。

こうした環境では、店長の経験と気合いに頼る育成は限界を迎えます。パーソル総合研究所の導入事例によると、青木フルーツでは店舗急拡大の過程で、新人スタッフの受け入れ体制や早期離職、店長負担が課題になっていました。そこで新人向けの「ウェルカムブック」、教育担当者向けの「トレーナートレーニングブック」、店長候補向けの育成プログラムを整えています。

採用サイトでも、フルーツジュースバー事業では入社後にウェルカムブックを手引きとして、フルーツの扱い方、接客の基本、商品製造、商品管理を学ぶと紹介されています。ここで大切なのは、マニュアルを「作業の一覧」にしなかった点です。新人が最初に何を不安に思うのか、誰に何を聞けばよいのか、接客で困った場面をどう扱うのかまで含め、初日体験を設計しています。

SaaSの世界では、利用開始直後に価値を実感してもらうオンボーディングが継続率を左右します。店舗運営でも同じです。新人が「自分はここで働けそうだ」と感じるまでの時間を短くできれば、店長の説明コストは下がり、現場の心理的負担も減ります。青木フルーツの育成施策は、紙のマニュアルというより、店舗スタッフ向けのオンボーディングプロダクトと見るほうが実態に近いです。

店長候補まで続く育成の階層化

同社の育成が興味深いのは、新人で終わらない点です。業務に慣れたスタッフには、教え方を学ぶトレーナートレーニングブックが用意されています。作業を指示するだけでなく、相手が安心して動ける伝え方を考える設計です。さらに店長候補には、人材や店舗のマネジメント、リーダーシップを学ぶ店長トレーニングプログラムが整えられました。

これは、属人的な「できる店長」を増やす発想ではありません。新人、教育担当者、店長候補という階層ごとに必要な行動を分解し、昇格の道筋を見える化する発想です。パーソル総合研究所の事例では、プログラム導入後に双方向コミュニケーションの仕組みができ、5年間で早期離職率やクレーム件数が下がってきたとされています。具体的な低下率は公表されていませんが、現場負荷の軽減と顧客体験の改善が同時に進んだ点は重要です。

外食チェーンの標準化は、しばしば「個性を消す」と受け止められます。しかし青木フルーツのケースでは、標準化の対象は接客の温度感まで含む「判断の土台」です。たとえば、ジュースをこぼした顧客への対応例を初期教育に入れることは、単なる例外処理ではありません。ブランドが大切にするおもてなしを、現場が再現できる言葉に変える作業です。

果物の熟度を見極める力も、接客で相手の不安を減らす力も、経験者の頭の中に閉じ込めたままでは拡張できません。青木フルーツの育成体系は、その暗黙知を分解し、学習順序を与え、店舗間で共有できるようにしたものです。ここに、危機からの立て直しを単なる人事施策ではなく、オペレーション資産づくりとして評価できる理由があります。

人手不足と果物離れが迫る次の投資領域

成長余地は大きい一方で、課題も残ります。厚生労働省の情報サイトによると、健康日本21では果物摂取量の目標を1日200gとしていますが、2023年の20歳以上の平均摂取量は約93gです。果物を全く摂っていない人の割合も40.1%とされます。果物を日常化する余地は大きいものの、ジュースは生の果物そのものを完全に代替するものではなく、糖質や食物繊維の観点では過度な健康訴求に注意が必要です。

次の投資領域は、店舗運営と顧客接点のデジタル化です。青木フルーツは2026年2月27日からブランド別の公式アプリを提供し、紙のポイントカードをデジタル化しました。果汁工房果琳公式アプリでは、税抜100円ごとに1ポイント付与、クーポン交換、誕生月クーポン、プッシュ通知、店舗検索、会員ランクなどを備えています。Google Playでは5万以上のダウンロード表示も確認できます。

ただし、アプリは値引き配信だけで終わると利益を削ります。真価は、季節商品への反応、来店頻度、店舗別需要を読み、仕入れや人員配置、食品ロス削減につなげられるかにあります。熟度管理と育成ブックで現場を標準化し、アプリで需要側のデータを得る。この循環を作れるかが、約190店から先の成長を左右します。

現場知を資産化する外食チェーンの条件

果汁工房果琳の立て直しから見えるのは、老舗企業の強みが「昔ながらの勘」だけではないということです。青木フルーツは、果物を見極める職人的な知識を、用途別栽培、規格外品活用、店舗教育、顧客アプリへ広げています。これは、現場知を再現可能な経営資産へ変えるプロセスです。

投資家や経営者が注目すべき指標は、店舗数だけではありません。新人の定着率、店長候補の育成速度、クレーム件数、アプリ会員の再来店率、食品ロス率、産地との共同開発の有無まで見る必要があります。外食チェーンの競争力は、看板商品の強さだけでなく、その商品を誰が、どの店舗で、何度でも同じように届けられるかで決まります。青木フルーツの「虎の巻」は、その当たり前を仕組みに落とした点に価値があります。

参考資料:

白
白石 葵

SaaS・DXスタートアップ

SaaS企業やDXスタートアップを、同世代の目線から取材。プロダクトの仕組みとビジネスモデルの両面から新興企業の実力を見極める。

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