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2000万人の慢性腎臓病が映す日本の高齢化と食塩過多の生活構図

by 河野 彩花
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成人5人に1人へ広がるCKDの現在地

慢性腎臓病(CKD)は、ひとつの病名というより、腎臓の障害や腎機能の低下が3カ月以上続く状態をまとめた概念です。血液検査のeGFR、尿検査の尿蛋白やアルブミン尿などで評価され、自覚症状が乏しいまま進みやすい点が最大の厄介さです。

日本では、CKD患者が約2000万人、成人の5人に1人にのぼると推計されています。問題は、透析が必要になる人だけの話ではありません。CKDは心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患リスクとも結びつき、働く世代の健康寿命、家計、医療費にまで影響します。

本稿では、CKDが「新しい国民病」と呼ばれる背景を、高齢化、糖尿病・高血圧、食塩摂取、健診での見落としという4つの軸で整理します。40代から確認したい検査値と、食事・服薬で見直すべき実践点も具体化します。

日本で患者推計が膨らむ高齢化と血管リスク

日本でCKDが広がる最大の土台は、世界でも突出した高齢化です。内閣府の令和7年版高齢社会白書によると、2024年10月1日時点の65歳以上人口は3624万人で、高齢化率は29.3%です。75歳以上だけでも2078万人、総人口の16.8%を占めます。

腎臓は、血液をろ過して老廃物や余分な水分を尿として排出し、血圧、電解質、酸塩基平衡、赤血球産生、骨代謝にも関わる臓器です。細い血管が密に集まった臓器であるため、血管の老化や動脈硬化の影響を強く受けます。年齢を重ねれば誰でも腎機能低下の余地を抱えますが、そこに高血圧や糖尿病が重なると、低下速度は個人差を超えて速まりやすくなります。

年齢とともに下がるeGFRの落とし穴

健診結果でまず見るべき数値がeGFRです。eGFRは血清クレアチニン値、年齢、性別などから推算される糸球体ろ過量で、腎臓が血液をどれくらいろ過できているかを示します。厚生労働省の解説では、eGFRは正常値がおおよそ100mL/分/1.73平方メートルで、値が低いほど腎臓の働きが落ちていると判断します。

注意したいのは、eGFRが少し低いだけでは体調変化が出にくいことです。むくみ、だるさ、息切れ、食欲低下などを感じた時点では、すでに病状が進んでいることがあります。40代では「まだ若いから腎臓病ではない」と受け止めがちですが、肥満、高血圧、血糖高値、喫煙、睡眠不足がある人は、年齢よりも血管年齢の影響を強く受けます。

CKDの判定は、eGFRだけで完結しません。尿蛋白が陽性であれば、eGFRが大きく落ちていなくても腎障害を疑う必要があります。逆に、尿蛋白が目立たないまま腎機能が下がるタイプもあります。血液と尿の両方を見なければ、初期のサインを取りこぼしやすいのです。

糖尿病と高血圧が透析原因を押し上げる構図

日本透析医学会の2023年末調査では、国内の透析患者数は34万3508人でした。前年に続いて減少したとはいえ、人口100万人あたり2762.4人という高い水準です。2023年の新規透析導入患者は3万8764人で、導入患者の平均年齢は71.59歳でした。

原疾患を見ると、維持透析患者で最も多いのは糖尿病性腎症の39.5%です。新規導入患者でも糖尿病性腎症が38.3%で最多です。加えて、腎硬化症は維持透析患者で14.0%、新規導入患者で19.3%を占め、2019年から新規導入原因の第2位となっています。腎硬化症は高血圧や動脈硬化と関係が深く、まさに血管リスクの蓄積が腎臓に表れた病態です。

ここに日本の生活習慣病構造が重なります。令和6年国民健康・栄養調査では、糖尿病が強く疑われる人は約1100万人と推計され、継続して増加しています。糖尿病の可能性を否定できない人も約700万人です。血糖、血圧、脂質、体重の管理が後回しになるほど、腎臓の細い血管には長い時間をかけて負荷が積み上がります。

高齢化だけでは説明できないメタボの重なり

CKDの急増を高齢化だけで説明すると、40代や50代のリスクを見誤ります。日本腎臓病協会は、肥満、運動不足、飲酒、喫煙、ストレスなどの生活習慣がCKDの発症に大きく関与し、メタボリックシンドロームでも発症率が高まると説明しています。

内臓脂肪が増えると、血糖、血圧、中性脂肪、尿酸が同時に悪化しやすくなります。腎臓は余分な塩分や水分、老廃物を処理する臓器であるため、こうした代謝の乱れを静かに受け止め続けます。肝機能や血糖の異常には注目しても、eGFRや尿蛋白を読まずに健診票を閉じてしまう人は少なくありません。

40代で重要なのは、透析を恐れて極端な食事制限を始めることではありません。血圧、血糖、体重、食塩、喫煙、睡眠を同時に整え、健診で腎機能の変化を追うことです。腎臓の状態は一回の数値だけでなく、前年からの変化で見えてきます。

食塩過多と健診の見落としが重なる日常要因

日本ならではの事情として外せないのが、食塩摂取の多さです。令和6年国民健康・栄養調査では、食塩摂取量の平均値は9.6gでした。この12年間で最も低い値とされる一方、健康日本21(第三次)の目標値である7gより高い状況が続いています。

食塩は血圧を押し上げ、血圧上昇はCKDの発症・進行だけでなく脳卒中や心筋梗塞の大きな危険因子になります。日本腎臓学会は、CKDの人について、血圧の値にかかわらず1日食塩摂取量6.0g未満の塩分制限を勧めています。ただし、治療中の人は主治医と相談することが前提です。

減塩目標に届かない食卓の現実

減塩というと、しょうゆやみそを少し減らすだけで十分だと考えがちです。しかし食塩は、調味料だけでなく、麺類の汁、漬物、佃煮、ハム、かまぼこ、パン、加工食品、インスタント食品にも含まれます。外食や中食が多い人ほど、本人の味つけ意識とは別に摂取量が増えます。

管理栄養の観点では、最初から完璧な6g未満を目指すより、食塩の「入り口」を減らすほうが続きます。麺類の汁を残す、調味料を直接かけず小皿につける、だし・酸味・香辛料を使う、加工肉や練り物の頻度を下げる、栄養成分表示の食塩相当量を見る、といった行動です。1食単位で0.5gでも減らせれば、1日では意味のある差になります。

一方で、腎機能が低下している人が自己判断でカリウムを多く含む代用塩や野菜・果物を増やすのは危険な場合があります。高カリウム血症は不整脈につながることがあるため、すでにCKDを指摘されている人は、減塩と同時に検査値に合わせた食事指導を受ける必要があります。

尿蛋白とeGFRを同時に見る意味

日本には職場健診、自治体健診、特定健診という仕組みがあります。これはCKDの早期発見に有利な環境です。特定健診の基本項目には、血圧、血糖、脂質、検尿(尿糖・尿蛋白)が含まれます。一方、血清クレアチニン検査は詳細な健診項目で、一定の基準のもと医師が必要と認めた場合に実施されます。

この構造は、見方によっては弱点にもなります。尿蛋白が基本項目に入っていても、eGFRを把握できなければ腎機能低下の全体像はつかみにくいからです。逆に、血液検査でeGFRが出ていても、尿蛋白やアルブミン尿を見なければ、腎障害の程度と将来リスクを評価しにくくなります。

日本の医療現場のデータを解析したScientific Reports掲載研究では、CKD基準を満たす患者23万5059人のうち、CKDの診断コードがあったのは16.9%でした。蛋白尿データがない患者の診断率は5.9%にとどまる一方、定量的な蛋白尿検査がある患者では43.5%でした。尿蛋白を測ることが、診断と管理につながる重要な入口になっていることがわかります。

薬とサプリが腎臓に残す盲点

腎臓は薬の排泄にも関わります。厚生労働省の高齢者向け医薬品適正使用指針は、処方薬だけでなく一般用医薬品や健康食品の使用状況を把握する重要性を示しています。消炎鎮痛薬、総合感冒薬、胃薬、糖尿病治療薬、抗菌薬、抗ウイルス薬などには、腎機能に応じた注意が必要なものがあります。

問題は、本人が「市販薬だから安全」「サプリだから食品」と考え、医師や薬剤師に伝えないことです。腎機能が落ちていると、薬が体内に残りやすくなったり、副作用が出やすくなったりします。複数の医療機関にかかる人、処方薬が多い人、痛み止めや風邪薬を頻繁に使う人は、お薬手帳に市販薬とサプリも記録しておくことが大切です。

CKD予防は、食事だけで完結しません。血圧計、健診票、お薬手帳を同じ生活管理の道具として扱う視点が必要です。腎臓は沈黙している分、生活の小さな負荷が長期間にわたり蓄積します。

透析予防へ広がる地域連携と治療選択肢

明るい材料もあります。CKDは早く見つけ、原因に応じて介入すれば、進行を遅らせられる可能性があります。厚生労働省は腎疾患対策として、CKD重症化予防の診療体制構築や多職種連携モデル事業を進めています。地域ごとに、かかりつけ医、腎臓専門医、管理栄養士、薬剤師、保健師が連携する仕組みづくりが始まっています。

日本腎臓学会は2024年に「CKD診療ガイド2024」と「患者さんとご家族のためのCKD療養ガイド2024」を刊行しました。CKD診療ガイドは12年ぶりの改訂で、早期発見、診療標準化、透析予防、心血管病予防、生命予後改善につながる要点を示す実践的な資料です。かかりつけ医から腎臓専門医への紹介基準も更新されています。

治療面では、SGLT2阻害薬の位置づけが大きく変わりました。日本腎臓学会は、SGLT2阻害薬が2型糖尿病を合併したCKDだけでなく、糖尿病を合併しないCKDにも使用可能になったと説明し、適正使用に関するrecommendationを策定しています。薬で腎臓を守る選択肢が広がったからこそ、早い段階でリスクを層別化する意味が増しています。

ただし、治療は一律ではありません。蛋白質制限は中等度から重度のCKDで検討されますが、エネルギー不足を招くとサルコペニアやフレイルにつながるおそれがあります。降圧薬も、蛋白尿の有無、脱水、季節、年齢、併存疾患で調整が変わります。インターネットの一般論を自分にそのまま当てはめるのではなく、検査値を持って医療者と方針を決める必要があります。

健診結果から始める腎臓を守る行動設計

読者が今日からできる第一歩は、直近の健診結果で「eGFR」「血清クレアチニン」「尿蛋白」「尿潜血」「血圧」「HbA1c」を確認することです。eGFRが60未満、尿蛋白が陽性、前年からeGFRが大きく下がった、糖尿病や高血圧を放置している、こうした場合は健診票を持って医療機関に相談する価値があります。

生活面では、食塩相当量を読む習慣をつけ、汁物・麺類の汁・加工食品・外食の頻度から減らすのが現実的です。体重管理、禁煙、適度な運動、睡眠の確保は、血圧と血糖の両方を通じて腎臓を守ります。市販薬やサプリを使う人は、腎機能の数値と一緒に薬剤師へ相談してください。

CKDは「症状が出たら考える病気」ではなく、「健診値の変化を読んで先回りする病気」です。40代で見つける小さな異常は、将来の透析や心血管病を遠ざけるための早期警報です。腎臓を守る行動は、特別な療法ではなく、血管を傷めない毎日の選択から始まります。

参考資料:

河野 彩花

健康・ライフスタイル

医療・健康・食の最新動向を、エビデンスに基づいて発信。管理栄養士の資格を活かし、生活に役立つ健康情報を届ける。

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