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減塩しても血圧が下がらない人が見落とす6つの盲点

by 河野 彩花
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はじめに

日本の高血圧患者数は推計4300万人にのぼり、そのうち適切に血圧がコントロールされているのはわずか1200万人程度とされています。残りの約3100万人は管理不良の状態にあり、高血圧は依然として日本人の健康を脅かす最大の生活習慣病です。

「塩分を控えて、体重を落として、運動する」という王道の対策を実践しているのに、なかなか血圧が下がらない方は少なくありません。実は、減塩だけでは改善しない背景には、体質的な要因や見落としがちな生活習慣、さらには隠れた病気の存在など、さまざまな「盲点」が潜んでいます。

この記事では、減塩しても血圧が下がらない人が見落としやすい6つのポイントを、最新の医学的知見をもとに解説します。

盲点1:食塩感受性の個人差 ― そもそも減塩が効きにくい体質がある

食塩感受性と非感受性とは

高血圧と塩分の関係を考えるうえで最も重要な概念の一つが「食塩感受性」です。食塩感受性とは、塩分の摂取量に対して血圧が大きく変動する体質のことを指します。

日本人の高血圧患者のうち、食塩感受性が高い人は約4割とされています。残りの約6割は「食塩非感受性」に分類され、塩分を減らしても血圧への影響が比較的小さいことがわかっています。つまり、高血圧の人の半数以上にとって、減塩だけでは十分な降圧効果が得られない可能性があるのです。

食塩感受性に影響する要因

食塩感受性には遺伝的な要因が大きく関わっています。腎臓でのナトリウムの排泄能力には個人差があり、ナトリウムをうまく排泄できない体質の人は、塩分を摂ると血液中の水分量が増え、血圧が上がりやすくなります。

また、加齢とともに食塩感受性は高まる傾向があります。東京大学の研究グループは、高齢者では腎臓のナトリウム排泄機能が低下し、食塩感受性高血圧を発症しやすくなるメカニズムを解明しています。自分が食塩感受性かどうかは、尿中のナトリウム排泄量を測定する検査で推定できます。

盲点2:「隠れ塩分」の存在 ― 実は減塩できていない

意外な食品に潜む塩分

「減塩しているつもり」でも、実際には十分に減塩できていないケースは非常に多いです。日本人の食塩摂取量の目標は1日6g未満(高血圧治療ガイドライン2019)ですが、実際の平均摂取量は約10gと大きく上回っています。

特に見落としやすいのが、調味料以外の食品に含まれる塩分です。パンや麺類には製造過程で意外と多くの塩分が使われており、食パン1枚に約0.8g、うどん1玉に約0.5gの塩分が含まれます。また、加工食品やコンビニの総菜、外食メニューには想像以上の塩分が含まれています。

正確な塩分摂取量を把握する方法

自分の塩分摂取量を正確に知るには、24時間蓄尿検査が有効です。1日分の尿をすべて集め、尿中のナトリウム排泄量から実際の塩分摂取量を算出します。簡易的には、夜間尿や随時尿から推定する方法もあります。

食事記録アプリを活用して、毎日の食事内容を記録するのも効果的です。数日間にわたって記録することで、自分では気づかなかった塩分摂取源が見えてくることがあります。

盲点3:カリウム・マグネシウム不足 ― 「出す力」が足りない

ナトリウムを排出するミネラルの重要性

減塩と同じくらい重要なのが、体内のナトリウムを排出する働きを持つミネラル、特にカリウムとマグネシウムの摂取です。カリウムは腎臓でナトリウムの再吸収を阻害し、余分な塩分を尿として排出する作用があります。

マグネシウムは血管の収縮を抑え、拡張を促す効果があります。カルシウムの働きをバランスよく調整することで、血管の緊張を和らげ、血圧の安定に寄与します。

DASH食の効果

アメリカで開発された「DASH食(Dietary Approaches to Stop Hypertension)」は、カリウム・カルシウム・マグネシウムの3つのミネラルと食物繊維を豊富に含む食事法です。臨床試験では、DASH食を2か月間続けた結果、最高血圧が平均11.4mmHg低下したと報告されています。

具体的には、野菜、果物、ナッツ類、大豆製品、乳製品を積極的に摂取します。バナナやアボカドにはカリウムが豊富で、アーモンドやほうれん草にはマグネシウムが多く含まれます。減塩だけでなく、これらの「排出を助ける栄養素」を意識的に増やすことが重要です。

盲点4:睡眠の質の低下と睡眠時無呼吸症候群

睡眠不足が血圧を上げるメカニズム

睡眠と血圧には密接な関係があります。睡眠不足や睡眠の質の低下は、交感神経を過度に活性化させ、血管を収縮させることで血圧を上昇させます。通常、夜間の睡眠中には血圧が10〜20%低下する「ディッピング」が起こりますが、睡眠の質が悪いとこの低下が不十分になります。

慢性的な睡眠不足はストレスホルモン(コルチゾール)の分泌を増加させ、これも血圧上昇の一因となります。6時間未満の睡眠が続くと、高血圧のリスクが有意に上昇するという研究結果もあります。

見逃されやすい睡眠時無呼吸症候群

特に注意が必要なのが、睡眠時無呼吸症候群(SAS)です。睡眠中に繰り返し呼吸が止まることで、そのたびに血圧が急上昇し、慢性的な高血圧につながります。SASは肥満の方に多いとされていますが、やせ型の方にも発症することがあります。

SASの特徴的な症状は、いびき、日中の強い眠気、起床時の頭痛などです。降圧薬を複数使用しても血圧が十分に下がらない「治療抵抗性高血圧」の患者の約80%にSASが合併しているとの報告もあり、血圧が下がらない場合はSASの検査を受けることが推奨されます。

盲点5:薬やサプリメントによる血圧上昇

NSAIDs(鎮痛薬)の影響

市販の鎮痛薬や解熱薬に広く使われている非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、血圧を上昇させる作用があります。NSAIDsは腎臓でのプロスタグランジン産生を抑制し、腎血流の低下とナトリウムの再吸収増加を引き起こすことで血圧を上げます。

頭痛や腰痛などで日常的にNSAIDsを使用している人は、それが血圧管理を妨げている可能性があります。また、NSAIDsは降圧薬の効果を減弱させることもわかっています。

漢方薬に含まれる甘草の影響

意外な盲点として、漢方薬に含まれる「甘草(カンゾウ)」の成分グリチルリチンがあります。グリチルリチンは腎臓内のホルモン調節を妨げ、ナトリウムの過剰な再吸収を引き起こすことで血圧を上昇させます。

甘草は非常に多くの漢方処方に含まれており、芍薬甘草湯や葛根湯などのなじみ深い漢方薬にも配合されています。「漢方薬だから安全」と考えて医師に服用を申告しないケースがありますが、高血圧の治療中は必ず漢方薬の服用も医師に伝えることが大切です。数週間の中止で血圧が改善することも多いです。

盲点6:二次性高血圧の可能性 ― 隠れた病気が原因

原発性アルドステロン症

高血圧患者の5〜15%は、何らかの基礎疾患が原因で血圧が上がる「二次性高血圧」に該当するとされています。その代表格が原発性アルドステロン症(PA)です。

PAは副腎からアルドステロンというホルモンが過剰に分泌される病気で、このホルモンが腎臓でのナトリウム再吸収を促進し、血圧を上昇させます。PAの患者は本態性高血圧に比べて、脳血管疾患や心不全、不整脈、腎臓病のリスクが3〜5倍高いことがわかっています。

その他の二次性高血圧

腎動脈狭窄症(腎臓に血液を送る動脈が狭くなる病気)、甲状腺機能異常、クッシング症候群なども二次性高血圧の原因となります。減塩や降圧薬で血圧がなかなかコントロールできない場合は、これらの病気が隠れていないか精密検査を受けることが重要です。

二次性高血圧は、原因疾患を治療すれば血圧が劇的に改善する可能性があります。特に若年で高血圧を発症した場合や、複数の降圧薬を使っても血圧が下がらない場合は、二次性高血圧を強く疑う必要があります。

注意点・今後の展望

自己判断は禁物

ここまで6つの盲点を紹介しましたが、最も大切なのは自己判断で対処しようとしないことです。血圧が思うように下がらない場合は、かかりつけ医に相談し、原因を特定したうえで適切な治療方針を立てることが不可欠です。

特に、服用中の薬を自己判断で中止したり、降圧薬の量を勝手に変更したりすることは危険です。NSAIDsや漢方薬の影響が疑われる場合も、必ず医師の指導のもとで対応してください。

個別化医療の進展

近年、高血圧治療では「個別化医療」の考え方が広がっています。食塩感受性の遺伝的背景や、腎臓のナトリウム処理能力の個人差を考慮した治療法の開発が進んでおり、将来的にはより精密な血圧管理が可能になると期待されています。

家庭血圧の測定を習慣化し、日々の血圧変動を記録することも、自分に合った対策を見つけるための第一歩です。

まとめ

減塩は高血圧対策の基本ですが、それだけでは血圧が改善しないケースは決して珍しくありません。食塩感受性の体質差、隠れた塩分摂取、カリウムやマグネシウムの不足、睡眠の質の低下、薬の副作用、そして二次性高血圧の可能性という6つの盲点を知っておくことが重要です。

まずは自分の塩分摂取量を正確に把握し、DASH食の考え方を取り入れて栄養バランスを見直すことから始めましょう。それでも改善しない場合は、睡眠の質や服用中の薬を見直し、必要に応じて二次性高血圧のスクリーニング検査を受けることをおすすめします。血圧管理は「減塩」だけでなく、多角的なアプローチが求められる時代です。

参考資料:

河野 彩花

健康・ライフスタイル

医療・健康・食の最新動向を、エビデンスに基づいて発信。管理栄養士の資格を活かし、生活に役立つ健康情報を届ける。

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