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日本企業の管理職罰ゲーム化を解く若手離れと名ばかり昇給の限界

by 小林 美咲
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はじめに

「管理職罰ゲーム化」という言葉が広がる背景には、単なる昇進嫌いでは片づけられない職場の変化があります。昇進すれば責任は増えますが、裁量や人員、教育機会、報酬が十分に増えない。しかも若手は、その姿を日々の上司像として見ています。

この問題は、管理職本人の胆力や若手の意欲不足ではなく、企業が管理職という仕事をどう設計し、どう育て、どう支えるかという教育・キャリア形成の課題です。本稿では、政府統計や人材会社の調査をもとに、管理職が敬遠される構造と、現場が取り得る処方箋を読み解きます。

管理職罰ゲーム化の現在地

昇進忌避を示す複数の調査

労務SEARCHが2026年に会社員300人を対象に実施した調査では、将来的に管理職になりたいかという問いに対し、「あまりなりたくない」が63.3%に達しました。自社の管理職が罰ゲーム化していると「非常に感じる」「ある程度感じる」を合わせた割合も56.7%です。

同調査では、管理職になりたい、またはなりたくない理由として「責任・プレッシャーが増えるから」が52.3%で最多でした。「長時間労働になりそうだから」が33.3%、「部下育成や人間関係が面倒だから」が32.0%と続きます。報酬や給与が上がることへの期待は31.3%にとどまり、負荷への懸念が経済的な魅力を上回っています。

リクルートマネジメントソリューションズの2026年調査でも、一般社員の管理職就任意向は低く、「なりたい」「どちらかといえばなりたい」は18.1%でした。一方、「どちらかといえばなりたくない」22.9%と「なりたくない」44.0%を合わせると、否定的な層が過半を占めています。

ただし、管理職そのものが完全に魅力を失ったわけではありません。マイナビの2025年調査では、正社員全体の昇進・昇格意欲は46.2%でしたが、課長級は61.1%、部下のいる管理職は63.6%に上ります。管理職に就いた人ほど、役割の意味や成長機会を見いだしている面もあります。

パーソル総合研究所の「働く10,000人の就業・成長定点調査」に基づく分析でも、若手社員の約半数が管理職になりたくないとされます。同時に、実際に管理職として働くミドル社員は、同年代の一般社員よりも仕事や職場への満足度、仕事を通じた幸せ実感が高いと整理されています。問題は、管理職の「大変さ」だけが若手に見え、「やりがい」が伝わりにくいことです。

名ばかり管理職と権限の不均衡

管理職罰ゲーム化の中核には、肩書きと実務のずれがあります。労務SEARCHの同調査では、回答者の39.7%が管理職で、12.3%は役職なしでも実質的にマネジメント業務を担っていました。両者を合わせると、52.0%が何らかの管理・調整業務に関わっています。

この状態は、単に「忙しい人が多い」という話ではありません。役職手当や公式な権限が十分にないまま、会議調整、若手指導、部署間交渉、炎上対応だけを担う人が増えると、組織は非公式な管理職に依存します。本人はキャリアとして評価されにくく、周囲からは「昇進すると損をする」という学習材料になります。

法的にも、会社内の「管理職」と労働基準法上の「管理監督者」は同じではありません。厚生労働省の「確かめよう労働条件」は、管理監督者を労務管理について経営者と一体的な立場にある者とし、名称ではなく実態で判断すると説明しています。職務内容、責任と権限、労働時間の裁量、地位にふさわしい賃金処遇が重要な判断材料です。

厚労省の管理監督者Q&Aも、多店舗展開企業の店長などで、十分な権限や相応の待遇がないのに管理監督者として扱われ、長時間労働を行わせる不適切事案があったことを通達の背景に挙げています。つまり、管理職罰ゲーム化は近年の流行語である前に、権限と責任の不均衡として長く存在してきた問題です。

報酬だけでは埋まらない構造要因

役職賃金と体感リターンのずれ

厚生労働省の令和7年賃金構造基本統計調査では、雇用期間の定めのない一般労働者の役職別賃金は、男女計で部長級が月63.58万円、課長級が月52.92万円、係長級が月39.92万円、非役職者が月31.05万円です。非役職者を100とした賃金格差は、部長級204.8、課長級170.4、係長級128.6でした。

この統計だけを見ると、役職に就く経済的なメリットはあります。だからこそ、管理職離れを「今の若手はお金に関心がない」と単純化するのは危険です。問題は平均値ではなく、個々の職場で増える仕事量、残業代の扱い、評価責任、心理的負担、休日対応を含めた体感リターンです。

リクルートワークス研究所が全国就業実態パネル調査を用いて、2022年に非管理職、2023年に管理職へ昇進した人を分析した結果では、管理職昇進者の27.3%で週労働時間が増えていました。仕事がレベルアップしたとする割合は45.3%で、非管理職のままの人の21.8%を上回ります。成長機会は確かにあります。

一方で、幸福度が下がる人の割合は管理職昇進者で17.9%とやや多く、「ひどく疲れている」が新たに生じた割合は14.7%、「気が張り詰めている」は13.8%でした。平均年収が増えた人も58.8%いますが、昇進は報酬増、成長、疲労、緊張を同時に伴うイベントです。名ばかりの昇給だけでは、若手が見ている総合的な負荷を説明できません。

プレイングマネージャー化と孤立

管理職が疲弊するもう一つの理由は、マネジメントの仕事に専念できないことです。月刊総務の2024年調査では、ミドルマネジメント層のスキル不足を感じる回答が9割以上に上りました。スキル不足の理由として、プレイングマネージャーでありマネジメントスキルが乏しいこと、育成スキームの不十分さ、年数や年齢による昇格が挙げられています。

リクルートマネジメントソリューションズの2026年調査も、管理職と一般社員の時間外の働き方に大きな差があると示しています。管理職は勤務時間外の連絡、勤務時間外の業務、休日の業務対応の選択率が高く、会議が多く自分のタスクを行う時間がない、業務量が多く勤務時間中にゆとりがない、といった負荷も相対的に高い状況です。

さらに同調査では、組織から支援されているという認識が高い管理職の継続意向は65.2%で、低い管理職の41.6%を大きく上回りました。孤独感が低い管理職の継続意向は70.2%ですが、孤独感が高い管理職では40.6%に下がります。管理職の持続可能性は、本人の能力だけでなく、相談相手や支援の設計に左右されています。

JILPTの調査シリーズでも、管理職の決定権と決定プロセスへの関与には濃淡があります。事業所の業務・労務管理で決定権があるとされるのは部長クラス以上が中心で、課長クラスは決定プロセスへの関与にとどまる場面が目立ちます。責任は現場に落ちるが、決められる範囲は限られる。このねじれが、課長層を特に苦しくします。

JILPTの「働く人の仕事と健康、管理職の職場マネジメントに関する調査結果」でも、管理職や専門職は残業が多い傾向があり、管理監督者では実労働時間が長く残業も多いと整理されています。働き方改革が進んでも、管理職だけが調整弁として残るなら、若手はそのポストを学習されたリスクとして避けます。

若手の視線を変える職場設計

上司満足度と昇進意欲の連動

若手が管理職を敬遠する理由は、制度説明よりも日常観察にあります。職場で最も身近なキャリア教材は、研修資料ではなく上司の働き方です。上司が常に会議に追われ、上層部に詰められ、休日に連絡を返し、部下には余裕なく接しているなら、管理職は「目指す役割」ではなく「避ける役割」になります。

リクルートマネジメントソリューションズの2026年調査では、一般社員の上司満足度が高いほど、管理職を前向きに捉える傾向が確認されています。直属上司への満足度が高い一般社員ほど「管理職になりたい」と回答する割合が高く、満足度が低い層ほど「なりたくない」とする割合が高いという結果です。

同調査では、シェアド・リーダーシップが職場で発現していると認識する割合も、管理職就任意向あり群で高くなっています。たとえば「他のメンバーが新しいことを学ぶよう促している」は、就任意向あり群30.0%、それ以外14.7%でした。「失敗を次へのチャンスとみなすよう励ます」も、就任意向あり群33.3%、それ以外19.1%です。

これは、若手が管理職を単独の英雄的ポストとして見ている職場ほど敬遠し、メンバーも学び合い、挑戦を支え合う職場ほど前向きに捉えることを示します。管理職の魅力を高めるには、管理職だけを鍛えるのでは足りません。チーム全体でリーダーシップを分け合う経験を、若手のうちから積ませる必要があります。

管理職育成を教育課題として扱う視点

管理職育成は、昇進直前の研修だけで完結しません。若手が小さなプロジェクトで意思決定を経験し、先輩のフィードバックを受け、失敗を検証し、後輩支援を学ぶ一連の経験が必要です。教育の観点でいえば、管理職は突然任命される役割ではなく、段階的に学習する職能です。

パーソル総合研究所の若手管理職意向分析では、管理職になりたい気持ちにプラスに働く要因として、自由闊達で開放的な組織文化や、上司と自己開示できる親密な関係性が挙げられています。若手にとって管理職の重さを軽くするには、責任の分散だけでなく、相談しながら成長できる関係性が欠かせません。

女性管理職登用の文脈でも、同じ課題が見えます。リクルートマネジメントソリューションズの2025年調査では、主に上場企業の女性課長と管理職一歩手前の女性社員を対象に、昇進意欲は高いとはいえない一方、環境次第で意欲が引き出される兆しがあると整理されています。組織側の姿勢や信頼できる上司の存在が鍵です。

内閣府の男女共同参画白書令和7年版でも、都道府県職員の本庁課長相当職に占める女性割合は2024年4月1日時点で15.4%、本庁部局長・次長相当職は9.4%にとどまります。市区町村でも本庁課長相当職は20.4%、本庁部局長・次長相当職は12.6%です。管理職の魅力と支援環境を高めなければ、登用目標は候補者側の不安で止まります。

注意点・展望

注意すべきなのは、管理職罰ゲーム化を「管理職手当を上げれば終わる問題」と誤解することです。報酬は重要ですが、権限、人員、時間、教育、相談先が伴わなければ、手当は我慢料になります。若手はその差を敏感に見ています。

もう一つの誤解は、若手の昇進忌避を価値観の劣化と捉えることです。実際には、過剰な負荷に対して合理的に距離を取っている面があります。労務SEARCHの調査では、最低限の範囲で働くことを「いつも」「状況に応じて」意識する人が過半でした。努力が報われる構造が見えなければ、熱量を抑える選択は自然です。

今後は、管理職を「人を増やさずに責任を集めるポスト」から「意思決定と育成に集中する専門職」へ変える企業が有利になります。具体的には、プレイヤー業務の棚卸し、会議と承認の削減、ピープルマネジメントの評価反映、管理職同士の相談ネットワーク、若手向けの小さなリーダー経験の設計が必要です。

まとめ

管理職罰ゲーム化は、報酬だけの問題ではありません。統計上は役職賃金の上昇があっても、現場では責任、長時間労働、権限不足、孤立、プレイング業務が積み重なり、若手に「割に合わない役割」と映っています。

企業が取り組むべき次の一手は、管理職個人への叱咤ではなく、仕事の再設計です。管理職に意思決定と育成の時間を返し、若手が小さくリーダーシップを学べる場を増やすことです。その積み重ねが、上司の背中を「避けたい未来」から「選べるキャリア」へ変えていきます。

参考資料:

小林 美咲

キャリア・教育

キャリア形成・教育改革・リスキリングなど、人と学びの接点を取材。変化する時代に求められる「働く力」を問い続ける。

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