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団塊ジュニア老後格差を広げる年金目減りと賃金断層の不都合な現実

by 松本 浩司
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団塊ジュニア老後格差を読む視点

団塊ジュニアの老後不安は、個人の貯蓄不足だけで説明できる問題ではありません。1971〜74年生まれの大きな人口層が、就職氷河期、長い賃金停滞、年金給付水準の調整、物価上昇を順に経験しながら50代に入っているためです。

一方で、親世代は高い持ち家率や相対的に厚い年金、長期雇用の恩恵を受けやすい時代を生きました。さらに現在は人手不足を背景に若年層の初任給が急上昇しています。団塊ジュニアは、上の世代の「逃げ切り」と下の世代の「賃上げ」の間で、相対的に沈みやすい位置にあります。本稿では、人口・年金・賃金・家計資産のデータを重ね、老後格差の構造を読み解きます。

ここで見るべき格差は、世代間だけではありません。同じ団塊ジュニアでも、大企業の正社員として勤続できた人、非正規から抜け出せなかった人、親の住宅や金融資産を引き継げる人、介護負担を背負う人では、老後の出発点が大きく異なります。世代全体の不遇と、世代内の分断が重なっている点が、この問題を複雑にしています。

就職氷河期が残した賃金と資産の傷跡

第2次ベビーブームの人口集中

厚生労働省の人口動態統計によると、出生数は1971年が200万973人、1972年が203万8682人、1973年が209万1983人、1974年が202万9989人でした。4年間だけで約816万人が生まれた計算です。団塊ジュニアは、戦後日本の人口ピラミッドで大きな膨らみをつくった世代です。

この人口の厚みは、若い時期には競争圧力として働きました。大学進学、就職、住宅取得、子育ての各局面で同世代が多く、景気が悪い時期には選別が厳しくなります。特に1990年代後半から2000年代前半の新卒市場は、金融危機後の企業の採用抑制と重なりました。最初の職を得る段階で正社員の入口を逃した人は、技能形成や賃金カーブの面で後から不利を取り戻しにくくなりました。

老後格差にとって重要なのは、50代時点の年収だけではありません。20代から40代にかけて厚生年金の保険料をどれだけ納めたか、企業年金や退職金のある職場に長くいたか、住宅ローンを計画的に組めたかが、65歳以降の生活を左右します。就職氷河期は一時的な雇用ショックではなく、生涯所得と老後資産に尾を引くマクロ経済ショックでした。

資産形成では、時間の効果も大きく働きます。20代で安定収入を得て積み立てを始めた人は、30年近い運用期間を確保できます。逆に、雇用が不安定なまま30代を過ごすと、貯蓄の元本をつくる時期そのものが遅れます。団塊ジュニアの老後問題は、退職直前に突然始まるのではなく、若年期の雇用環境が複利で積み上がった結果です。

正社員化支援が示す遅れた救済

政府もこの問題を認識し、就職氷河期世代への支援を続けています。内閣官房の資料では、2020年4月から2025年9月までにハローワーク専門窓口などを通じた正社員就職は延べ63万778人、助成金による正社員転換は16万1643人とされています。

ただし、支援実績が積み上がったことは、裏返せば問題の長期化も示しています。同資料は、2024年時点の41〜50歳について正規雇用比率71.2%、不本意非正規比率9.3%、無業者比率2.5%を示しています。中心層が50代に入り始めても、安定雇用に移り切れない層が残っているのです。

団塊ジュニアの不利は、単に「運が悪かった」という感情論にとどまりません。労働市場に入った時期の景気が、長期の賃金、保険料納付、資産形成に影響するという点で、経済政策上の世代リスクです。就職氷河期対策が中高年支援へ名前を変えて続くのは、採用時点の傷が老後準備の段階に移ってきたためです。

しかも、正社員化できたとしても、40代後半や50代からの再出発では退職金や企業年金を十分に積み上げにくいという制約があります。雇用の肩書が安定しても、過去に失った勤続年数は完全には戻りません。政策評価では就職件数だけでなく、賃金水準、社会保険加入、職業訓練後の定着まで見なければ、老後格差の縮小度合いは測れません。

年金目減りと若年賃上げが生む二重圧力

財政検証が示す年金の下方圧力

2024年の公的年金財政検証では、モデル年金の所得代替率は2024年度の61.2%から、最終的には高成長実現ケースで56.9%、成長型経済移行・継続ケースで57.6%、過去30年投影ケースで50.4%になる見込みです。過去30年投影ケースでは、実質的なモデル年金額も2024年度の22.6万円から、給付水準調整終了時の2057年度に21.1万円になる見通しです。

制度が直ちに破綻するという話ではありません。むしろ財政検証は、一定の成長を仮定すれば所得代替率5割以上を維持できると説明しています。問題は、団塊ジュニアの多くが65歳に到達する2030年代後半から2040年前後に、基礎年金部分の調整がなお重く残りやすいことです。

会社員として厚生年金に長く加入した人は、報酬比例部分によって一定の支えを得られます。しかし、非正規や自営業、無業期間が長かった人ほど基礎年金への依存度が高くなります。財政検証が示す基礎年金の調整長期化は、まさに就業履歴が弱い人ほど痛みを受けやすい設計です。

ここで見落としやすいのは、年金額の名目値と生活実感のずれです。物価や賃金が上がれば年金額も一定程度は改定されますが、マクロ経済スライドの下では伸びが抑えられます。医療、介護、住居、食料といった固定的支出の比率が高い高齢期ほど、年金の購買力がわずかに下がるだけでも家計への圧力は大きくなります。

初任給上昇と賃金カーブの平坦化

一方、若年層の賃金は明確に変わり始めています。労働政策研究・研修機構が厚生労働省の賃金構造基本統計調査を整理したデータでは、2025年の新規学卒者の所定内給与額は、大学卒男性が264.9千円、大学卒女性が259.7千円でした。2024年は男性251.3千円、女性244.9千円だったため、1年で大きく上がっています。

2026年春闘でも賃上げ基調は続いています。連合の第1回回答集計を報じたJILPTによれば、平均賃金方式の賃上げ率は5.26%で、3年連続の5%超となりました。ベースアップなど賃上げ分が明確に分かる組合では3.85%となり、2015年以降の集計で最高水準です。

この変化は日本経済にとって必要です。長く続いたデフレ型賃金を抜け出すには、若い労働力の希少化を賃金に反映させる必要があります。ただし、企業が採用競争に対応するため初任給と若年層に原資を厚く配分すると、既存の40〜50代の賃金テーブルは相対的に押し下げられます。

若年層の賃上げは、労働市場の価格シグナルとしては合理的です。人口減少で新卒採用が難しくなり、企業は入口の賃金を上げなければ人材を確保できません。ただ、その調整が賃金表全体の再設計を伴わない場合、入社時期によって処遇の歪みが生まれます。団塊ジュニアの不満は、若者の給与が高いこと自体ではなく、自分たちの低かった入口賃金が後から補正されない点にあります。

JILPTの長期統計は、1976年、1995年、2025年の賃金カーブを20〜24歳を100として比較しています。年功的に上がるカーブはなお残るものの、企業は人件費総額を無限に増やせません。若手の処遇改善と中高年の人件費抑制が同時に進むと、団塊ジュニアは「過去には若手として低賃金、現在は中高年として伸び悩み」という二重の不利を受けます。

親世代モデルの継承を阻む制度リスク

公的負担と物価が削る可処分所得

親世代の老後モデルは、持ち家、退職金、公的年金、医療費負担の相対的な軽さに支えられていました。ところが団塊ジュニアが老後を迎える時期は、社会保障費の増加と現役世代の縮小が重なります。内閣府の高齢社会白書は、2070年に65歳以上の割合が38.7%へ上昇し、65歳以上1人を15〜64歳の1.3人で支える社会になると推計しています。

財務省の国民負担率見通しでは、2025年度の国民負担率は46.2%、財政赤字を加えた潜在的国民負担率は48.8%です。社会保険料と税の負担が高いままでは、50代から老後資金を積み増す余力は限られます。

物価も無視できません。総務省統計局の2025年度平均の消費者物価指数は、総合で前年度比2.6%上昇、生鮮食品を除く総合で2.7%上昇、生鮮食品及びエネルギーを除く総合で3.0%上昇でした。名目賃金が上がっても、食料、光熱費、保険料が同時に上がれば、老後準備の実感は改善しにくくなります。

加えて、老後の支出構造は現役期と異なります。通勤費や教育費は減っても、医療費、介護関連費、住まいの修繕費は増えやすくなります。持ち家があっても修繕費を払えなければ生活の質は下がり、賃貸なら高齢期の住み替えリスクが残ります。親世代の生活設計をそのままなぞることが難しい理由は、収入側だけでなく支出側にもあります。

親の資産に左右される老後準備

団塊ジュニア内の格差をさらに広げるのが、親から受け継ぐ資産の差です。総務省の家計調査貯蓄・負債編では、2024年の二人以上世帯について、世帯主が50歳以上の各年齢階級では貯蓄超過で、60〜69歳の純貯蓄額が2389万円と最も多い一方、50歳未満の各年齢階級では負債超過とされています。

この数字は、親世代全体が豊かだという意味ではありません。平均値は資産を多く持つ世帯に引き上げられます。とはいえ、持ち家や金融資産を持つ親がいる人は、相続、贈与、同居、介護費用の分担で有利になりやすいのも事実です。反対に、親の介護費や実家の維持費を負担する側に回れば、50代の貯蓄形成は大きく崩れます。

厚生労働省の国民生活基礎調査をもとにしたJILPTの整理では、2024年の高齢者世帯は1720万7千世帯で全世帯の31.4%、高齢者世帯の平均所得は314万8千円です。その所得の63.5%を公的年金・恩給が占めています。親世代も年金依存が高い以上、子世代が親を支えながら自分の老後資金をつくる余裕は、家庭ごとに大きく異なります。

家計と政策が備えるべき三つの論点

50代から取り戻す就労年数

団塊ジュニアの老後格差を縮める第一の論点は、就労年数の延長です。50代で賃金が伸びにくくても、65歳以降も働ける職務、資格、地域ネットワークを持てるかで年金開始後の収支は変わります。重要なのは、漫然と定年延長を待つことではなく、現在の勤務先での継続雇用、転職、副業、職業訓練を早めに比較することです。

第二の論点は、家計の固定費です。住宅ローン、保険、教育費、親の介護費が同時に重なる50代は、投資リターンだけで老後不安を解消しにくい時期です。物価上昇が続く局面では、生活防衛資金を確保したうえで、長期・分散・低コストの資産形成に寄せる必要があります。高い利回りをうたう商品で一発逆転を狙うほど、老後格差はむしろ広がります。

社会保障改革で問われる分配設計

第三の論点は政策です。団塊ジュニアを「自己責任」で片付けると、2040年前後に低年金・低資産の高齢者が増え、生活保護、医療、介護の財政負担として戻ってきます。就職氷河期対策は現役期の雇用支援に加え、厚生年金の適用拡大、職業訓練、介護離職防止、低所得高齢者への住宅支援までつなげる必要があります。

若年層の賃上げは、日本経済の再生に不可欠です。問題は、その原資を中年層の賃金停滞と将来不安に押し込めたままにすることです。団塊ジュニアの老後格差は、親世代とZ世代のどちらが得かという世代対立では解けません。賃金が上がる経済へ移る過程で、過去の雇用ショックを受けた大きな世代にどう橋を架けるかが問われています。

読者にとっての実務的な出発点は、自分の年金見込み、親の資産と介護リスク、60代の就労可能性を同じ表に置くことです。政府と企業に求められるのは、若年採用の賃上げだけでなく、中高年の再訓練と処遇再設計を同時に進めることです。団塊ジュニアの老後は、個人の備えと制度の修正が間に合うかどうかで、大きく二極化します。

企業にとっても、団塊ジュニアを単なる高コスト層として扱う発想は危ういです。人手不足が深まるなか、経験を持つ50代を再訓練し、現場管理、顧客対応、若手育成へ活用できるかは生産性に直結します。賃金カーブの平坦化を避けられないなら、職務と成果に応じて中高年が納得できる昇給機会を残すことが、採用難時代の現実的な処方箋になります。

参考資料:

松本 浩司

マクロ経済・国際経済

国際経済の潮流を、通商政策・為替・新興国の動向から多角的に分析。グローバル経済の「次の震源地」を見極める。

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