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無料訪問は怪しい?ホームスタートが孤立する親子を支える仕組み

by 小林 美咲
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「無料訪問」への警戒をほどく支援の輪郭

「見知らぬ人が無料で家に来る」と聞けば、身構えるのは自然な反応です。しかし、ホームスタートはボランティアが突然訪ねてくる活動ではありません。利用者の申し込み後、地域の運営団体が面談とマッチングを行い、合意した日時と内容に沿って訪問する家庭訪問型子育て支援です。

特徴は、家事や育児を代行するのではなく、親の話を聴き、親と「一緒に」取り組むことにあります。外出や相談そのものが難しい家庭へ支援者が出向くことで、子育てひろばや相談窓口だけでは届きにくい孤立を防ぎます。

無料である理由、安全を支える仕組み、利用できない支援、効果を示す数字の読み方まで知れば、自分の家庭に合うかを冷静に判断できます。

傾聴と協働で親の力を取り戻す訪問設計

家事代行でも託児でもない伴走型支援

ホームスタートは1973年に英国で始まり、現在は世界各地に広がる親同士の支援モデルです。日本では、研修を受けた地域の子育て経験者を「ホームビジター」と呼びます。

標準的な活動は週1回、約2時間の訪問を4〜6回行う形です。話を聴く「傾聴」と、親子と一緒に家事や育児、外出をする「協働」が中心になります。

例えば、親と一緒に離乳食を作る、子どもと遊ぶ、公園や子育てひろばへ同行する、健診や買い物に出かけるといった活動です。悩みに正解を与えるより、気持ちを受け止め、親が自分なりの方法を見つけられるよう支えます。

この点は、料金を払って作業を任せる家事代行やベビーシッターと異なります。ホームビジターに子どもだけを預けることはできず、親が不在の間に家事を済ませてもらうサービスでもありません。

「代わりにやってもらえないなら意味がない」と感じる人もいるでしょう。しかし、作業を一緒に経験し、小さな成功を積み重ねる過程には、親が自信や生活上の工夫を身につける学習的な意味があります。支援が終わった後も使える力を育てる設計です。

利用料が無料でも、運営費までゼロというわけではありません。ホームビジターが無償で活動し、地域団体の人件費や研修費は自治体の委託、助成金、寄付などで支えられます。愛知県西尾市のように、自治体の委託事業として実施する地域もあります。

基本的な利用対象は、実施地域に住む妊婦や未就学児のいる家庭です。所得制限や明確な診断がなくても相談できます。一方、2026年度から学齢児家庭への支援拡大が進められており、対象年齢や回数は地域によって異なるため、申し込み先への確認が必要です。

申し込みから終了までを支える二層体制

安全性の鍵を握るのが、ホームビジターとは別に配置される「オーガナイザー」です。オーガナイザーは初回に家庭を訪ね、困り事や希望、家族の状況を確認したうえで、相性を考えてホームビジターを選びます。

その後、オーガナイザーとホームビジターが一緒に紹介訪問を行い、活動内容や日程を確認します。定期訪問の終了時にもオーガナイザーが振り返りを行い、必要に応じて延長や別の支援先への接続を検討します。

つまり、利用者とボランティアを一対一で放置する仕組みではありません。相性が合わない、予定していないことを求められた、活動中に不安を感じたといった場合には、ホームビジター本人ではなくオーガナイザーへ相談できます。

ホームビジターの養成講座では、傾聴、子どもの発達、家族支援、守秘義務、地域資源、訪問実務などを学びます。さらに地域の運営委員会には、行政職員、保健師、助産師、研究者などが参加し、専門的な助言や関係機関との連携を担う仕組みです。

個人情報については、利用者本人の同意を前提に必要な範囲で扱う方針が示されています。ホームスタート・ジャパンは苦情受付窓口も公開しており、申し立てを記録し、内容に応じて事務局や理事会で対応するとしています。

通常は、申し込み、オーガナイザーの初回訪問、ホームビジターとの紹介訪問という順序です。この手続きを経ず、団体名や担当者名を示さない人物が突然訪ねてきた場合は、玄関を開けず、自治体や公式サイトに掲載された地域団体へ確認するのが安全です。

孤立の連鎖を断つ効果と制度上の役割

外出困難な家庭へ支援を届けるアウトリーチ

孤立は、単に一人でいる時間が長いことだけを意味しません。助けが欲しいときに相談相手が見つからない、困り事を言葉にできない、支援の存在を知っていても利用場所まで行けない状態も含まれます。

内閣府の2024年調査では、孤独感が「たまにある」以上の回答を合計すると約4割でした。「しばしばある・常にある」という強い孤独感は20代と30代で高く、子育て期と重なりやすい世代にも無視できない課題があります。

乳幼児を連れて外出するには、荷物、授乳、昼寝、きょうだいの送迎などを調整しなければなりません。双子や多子、障害や疾病のある子どもを育てている場合、車がない場合、転居直後で地域情報がない場合には、施設へ行くこと自体が高い壁になります。

心身の不調も「自分から助けを求める力」を弱めます。厚生労働省の健康情報では、出産後の女性の10〜20%が産後うつを経験するとされ、睡眠不足や強い不眠症状がリスクを高めると説明されています。

国立成育医療研究センターが5歳以下の子どもがいる1万9139世帯を分析した研究では、親と同居せず乳幼児を育てるシングルマザーの11%に、こころの不調の可能性が示されました。同センターは、孤立状態にある人へさらなる自助努力を求めるだけではなく、支援者が出向くアウトリーチの必要性を指摘しています。

ホームスタートの価値は、診断や深刻な問題が明らかになる前から利用しやすいことです。「相談窓口へ行くほどではない」「大変さを説明できない」という段階で、定期的に話せる相手との関係をつくれます。

こども家庭庁の「子育て世帯訪問支援事業」も、家事・育児への不安や負担を抱える家庭を訪ね、傾聴や生活支援を行う制度です。ただし、実施方法や利用条件は自治体ごとに異なります。住民ボランティアによるホームスタートは、公的制度や保健師の専門支援と競合するものではなく、その間をつなぐ地域資源と捉えるのが適切です。

調査データから読む効果と検証上の限界

ホームスタート・ジャパンの集計によると、2025年度には3271家庭へ延べ1万6000回を超える訪問が行われました。日本で活動を始めてからの累計は約2万1100家庭、14万9000回で、登録ホームビジターは約4200人、地域団体は33都道府県の128地域に達しています。

同団体が2025年度に行った利用者調査では、38地域の団体を通じて1573件に回答を依頼し、426件を回収しました。有効回答は425件で、回収率は27.1%です。

利用前の困り事を尋ねた自由記述では、「ワンオペ育児」に関する記述が187件、「話し相手や気軽に相談できる相手がいない」が84件ありました。ほかにも、複数の子どもの育児、家事が進まないこと、精神的不調、外出の難しさなどが挙げられています。

利用後の自己評価では、「孤立感が解消した」に肯定的な回答をした人が94.6%、「不安感が減少した」が93.4%、「日常のイライラやストレスが減少した」が90.1%でした。「周囲の人に助けを求められるようになった」も80.9%で、人に頼る力の回復が示唆されます。

ここで注意したいのは、94.6%という数字を「利用すれば誰でも孤立が解消する確率」と読めないことです。回答者は利用経験者の一部であり、利用しなかった家庭との無作為比較ではありません。満足した人ほど回答しやすい可能性や、時間の経過、家族状況の変化など別の要因もあります。

2017年に日本社会福祉学会の学術誌へ掲載された質問紙調査では、ホームスタート利用者112件と有償支援利用者78件が比較されました。非専門職による訪問では傾聴が重要であり、傾聴と協働が利用者満足につながる可能性が示されています。

海外にも、親のウェルビーイングや養育行動の変化を追跡した研究があります。ただし、国によって福祉制度、訪問期間、利用者層が異なるため、その結果をそのまま日本へ当てはめることはできません。

現時点のデータは、孤立感や不安の軽減に期待できることを示す一方、医療的な治療効果や虐待防止効果を直接証明するものではありません。今後は、第三者による継続調査、地域差の検証、利用できなかった家庭も含む評価が求められます。

信頼性を見極める安全確認と支援の限界

ホームスタートを利用する前には、運営団体名、自治体との関係、担当オーガナイザー、活動日時、緊急時の連絡先を確認しましょう。訪問中に得た情報を誰と共有するのか、キャンセルや担当変更が可能かも、最初に聞いておくと安心です。

研修時間については、ホームスタート・ジャパンの公式ページ間でも「20時間以上」と「30時間以上」という表記の違いが見られます。制度更新の時期や地域講座による違いも考えられるため、利用する地域団体に最新の養成基準と継続研修の有無を確認することが大切です。

また、ホームビジターは医師、保健師、心理職の代わりではありません。強い抑うつ、自傷の恐れ、家庭内暴力、虐待の疑い、子どもの急病など、専門的・緊急的な対応が必要な状況では、医療機関や自治体、警察など適切な窓口への相談が優先されます。

活動の広がりにも地域差があります。全国で利用できるわけではなく、ボランティア不足によって開始まで待つ可能性もあります。学齢児家庭への拡大では、不登校や発達、学校との関係など、乳幼児期とは異なる知識と連携体制が必要です。

無料の善意に過度に依存すれば、担い手の疲弊やサービス格差を招きます。行政の安定した財源、オーガナイザーの専門性、ボランティアの継続研修を組み合わせ、支援の質を地域任せにしないことが今後の課題です。

親子が最初の一歩を選ぶための確認事項

ホームスタートは、親の代わりに家庭を切り盛りするサービスではありません。定期的に話を聴き、家事や育児を共に行い、親が地域とのつながりと自分の力を取り戻すための伴走支援です。

利用を考えるときは、次の4点を確認すると判断しやすくなります。

  1. 公式の地域団体や自治体ページに掲載された窓口か
  2. オーガナイザーによる事前説明と紹介訪問があるか
  3. 希望しない活動を断り、担当変更や中止を相談できるか
  4. 医療、産後ケア、家事支援など別の制度も併用できるか

実施地域にホームスタートがない場合も、自治体のこども家庭センター、保健センター、産後ケア、子育て世帯訪問支援事業などに相談できます。「もっと大変な家庭が使うもの」と遠慮せず、孤立が深まる前に支援の選択肢を尋ねることが、親子にとって重要な一歩です。

無料であることだけを信頼の根拠にする必要はありません。一方で、無料というだけで怪しいと決めつける必要もありません。運営主体、手続き、監督者、支援の限界を確かめたうえで、自分と子どもに合う関係かを選ぶ姿勢が大切です。

参考資料:

小
小林 美咲

キャリア・教育

キャリア形成・教育改革・リスキリングなど、人と学びの接点を取材。変化する時代に求められる「働く力」を問い続ける。

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