MAGA派も分裂するイラン戦争の深い亀裂
イラン軍事作戦で深まるMAGAの亀裂
2026年2月末、米国とイスラエルがイランへの軍事攻撃を開始してから1カ月以上が経過しました。トランプ大統領は4月1日のホワイトハウスからの演説で「2~3週間で終わる」と述べましたが、戦争の先行きは不透明なままです。
この軍事作戦をめぐり、かつて一枚岩だった「MAGA(Make America Great Again)」運動に深刻な亀裂が走っています。タッカー・カールソン氏やスティーブ・バノン氏といった保守系の有力インフルエンサーが公然と反対の声を上げる一方、トランプ氏の支持基盤であるMAGA有権者の大多数は依然として大統領を支持しています。本記事では、MAGA内部の分裂の構図、経済への波及、そして中間選挙への影響を整理します。
イラン戦争の経緯と現状
議会承認なき軍事作戦の開始
2026年2月下旬、米国はイスラエルと共同でイランへの大規模な軍事攻撃を開始しました。この攻撃はイランの最高指導者アリ・ハメネイ師を標的とし、海軍施設や弾道ミサイル関連施設も対象としたとされています。注目すべきは、この軍事行動が議会の承認を経ずに実行された点です。
共和党のトーマス・マッシー下院議員は「議会の承認なき戦争行為」と批判し、戦争権限決議案の共同提出者となりました。しかし、この決議案は下院で212対219の僅差で否決されています。上院でも同様の決議が53対47で否決され、共和党からはランド・ポール上院議員のみが賛成票を投じました。
トランプ大統領の4月1日演説
戦争開始から1カ月以上経った4月1日、トランプ大統領はゴールデンタイムに全米向け演説を行いました。しかし報道によれば、戦争の終結時期や明確な出口戦略について具体的な回答を期待していた国民に対し、明確な答えは示されませんでした。大統領は「2~3週間で終わる」と述べつつも、「まだ破壊し始めてすらいない」とイランへの追加攻撃を示唆しています。
MAGA内部の分裂構図
インフルエンサー層の公然たる反対
MAGA運動の分裂で最も目を引くのは、保守系メディアの有力者たちによる批判です。タッカー・カールソン氏は自身のポッドキャストで「これはイスラエルの戦争であり、アメリカの戦争ではない」と明言しました。スティーブ・バノン氏もカールソン氏との対談で、国内政策である移民問題やフェンタニル危機こそ優先すべきだと主張しています。
キャンディス・オーウェンズ氏やメーガン・ケリー氏も「アメリカ・ファースト」の理念に基づき、イラン戦争への反対を表明しました。ローレン・ボーバート下院議員は「軍産複合体に私たちの税金が流れることにうんざりしている」と述べたとされています。
トランプ氏の反撃
こうした批判に対し、トランプ大統領は強い反発を示しました。インタビューで「MAGAはあの二人(カールソン氏とケリー氏)ではない」と述べ、さらに「タッカーは道を見失った」「MAGAはアメリカ・ファーストであり、タッカーはそのどれでもない」と一蹴しています。
政権内部からの離反:ジョー・ケント氏の辞任
2026年3月17日、国家テロ対策センター(NCTC)長官のジョー・ケント氏が辞任しました。ケント氏は辞表の中で「イランは我が国にとって差し迫った脅威ではなかった」「イスラエルとその強力な米国内ロビーからの圧力でこの戦争を始めたことは明らかだ」と記したとされています。
これはトランプ政権の高官によるイラン戦争に対する最も大きな抗議の辞任となりました。ケント氏はMAGA運動の熱心な支持者でもあり、その離反は運動内部の亀裂の深さを象徴しています。トランプ大統領はケント氏の辞任について「安全保障に非常に弱い」人物が辞めたのは「良いこと」だと応じました。
支持基盤の実態:世論調査が示す複雑な構図
一方で、MAGA有権者の大多数は依然としてトランプ大統領を支持しています。自称「MAGA支持者」の92%が大統領を支持しているとの調査結果もあります。ただし、この数字も戦争開始前と比べると5ポイント低下しています。
より広い範囲を見ると、イランへの軍事行動を「支持する」と回答した米国民は34%にとどまり、開戦直後の調査から7ポイント下落しました。不支持は66%に達し、強い反対は43%と12ポイント上昇しています。共和党支持者の間でも28%が軍事行動を不支持としており、党内の亀裂は世論にも表れています。
経済への打撃と政治的リスク
原油価格の高騰とホルムズ海峡封鎖
イラン戦争の経済的影響は甚大です。イランがホルムズ海峡を事実上封鎖したことで、世界の石油供給の約20%が途絶する事態に陥りました。米国の原油価格は1バレル110ドルを超え、10%以上の急騰を記録しています。
米国内のガソリン小売価格は2022年以来初めて1ガロン4ドルを突破しました。今後2週間で4.25~4.45ドルまで上昇する可能性も指摘されています。毎月の戦争継続で原油と石油精製品を合わせて4億5,000万バレルの供給損失が生じるとの試算もあります。
株式市場と防衛費の膨張
ウォール街も大きな打撃を受けています。S&P500先物は1.5%下落、ナスダック先物は2%下落と、市場は戦争の長期化リスクを織り込み始めています。
財政面でも懸念が広がっています。報道によれば、イラン戦争にはすでに少なくとも120億ドルが投じられ、国防総省はさらに2,000億ドルの追加予算を議会に要求する方針を示したとされています。ランド・ポール上院議員はこの財政負担について強い懸念を表明しています。
中間選挙への影響
経済的打撃は、2026年の中間選挙を控える共和党にとって深刻な政治的リスクとなっています。トランプ大統領の支持率は就任2期目で初めて40%を下回り、イラン情勢への対応について支持すると答えた国民は33%にとどまっています。
ガソリン価格の上昇と株式市場の下落は、有権者の生活に直結する問題です。共和党が議会の多数派を維持できるかどうかは、戦争の終結時期と経済の回復に大きく左右されることになります。
MAGA分裂の実態と戦争権限の焦点
「分裂」の実態を見極める必要性
MAGA運動の「分裂」については、慎重な見方も必要です。アルジャジーラの分析が指摘するように、インフルエンサーの批判が声高であっても、支持基盤の大多数がトランプ大統領を支持し続けている限り、政治的影響は限定的です。ただし、支持率の低下傾向が続けば、この構図は変わり得ます。
戦争の出口戦略が最大の焦点
トランプ大統領は「2~3週間」での終結を示唆しましたが、具体的な出口戦略は示されていません。戦争の長期化は経済的コストを膨らませ、国内の反対世論を強める悪循環に陥る可能性があります。議会が戦争権限をめぐる議論を再燃させるかどうかも注目点です。
大統領権限と議会の関係
今回の軍事行動が議会の承認なく実行された点は、米国の統治構造にとって重要な問題を提起しています。戦争権限決議案は否決されましたが、僅差の結果は議会内にも一定の危機感があることを示しています。戦争が長引くほど、この議論は激しさを増すでしょう。
原油高と中間選挙に揺れるMAGA結束
トランプ大統領のイラン軍事作戦は、MAGA運動の内部に「アメリカ・ファースト」の理念をめぐる根本的な問いを突きつけています。カールソン氏やバノン氏らインフルエンサーの反対、ケント氏の辞任、そして世論調査に見る支持率の低下は、運動内部の緊張を如実に示しています。
原油高騰やガソリン価格の上昇という経済的打撃が加わり、中間選挙を前に共和党は難しい局面にあります。戦争がいつ、どのような形で終結するかは、MAGA運動の結束と米国政治の行方を大きく左右する問題です。今後数週間の動向が、2026年の政治地図を決定づける可能性があります。
参考資料:
- Tucker Carlson and Steve Bannon Lead MAGA Resistance to Iran War - Newsweek
- Joe Kent, a top counterterrorism official, resigns citing Iran war - NPR
- Trump Iran war speech paints a grim picture for oil markets - CNBC
- What Americans thought about Trump’s Iran strategy - CNN
- Iran strikes were launched without approval from Congress - NPR
- The Lone Republican Who Voted In Support of Limiting Trump’s War Powers on Iran - TIME
- MAGA crackup? Influencers pan Iran war – but base backs Trump, for now - CSMonitor
- Donald Trump approval rating hits new low as Iran war squeezes economy - The Hill
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