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トランプとネタニヤフの対イラン戦略、協調と亀裂を読む

by 松本 浩司
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トランプ氏とネタニヤフ氏の対イラン目標差

イスラエルのネタニヤフ首相と米国のトランプ大統領は、ともにイランを安全保障課題とみなしています。ただ、強硬姿勢の裏にあるゴールは同じではありません。トランプ氏は、イランの核開発を抑えつつ米国の負担拡大を避けたい立場です。これに対しネタニヤフ氏は、核計画だけでなく弾道ミサイルや親イラン武装勢力まで含めて、脅威を削ぎたい考えを持っています。

この違いは、2025年4月の核協議再開、同年6月のイスラエルによる対イラン攻撃、そして2026年3月のホルムズ海峡対応をめぐる同盟国の消極姿勢の中で鮮明になりました。

同盟でも一致しない対イランの優先順位

トランプ氏は「核阻止」と「米国の負担抑制」を両立させたい

トランプ氏の基本線は一貫しています。イランの核保有は認めない一方で、米軍を中東の長期戦に深く引き込むことも避けたい、というものです。2025年4月7日、トランプ氏はイランとの直接協議を開始すると表明し、軍事衝突より合意を優先する姿勢を示しました。さらに4月中旬には、イスラエルが準備していた対イラン核施設攻撃の計画を、交渉を優先する観点から見送らせたと報じられています。

この判断から見えるのは、トランプ氏が軍事力を「交渉を有利にする圧力」としては使っても、目的なき全面戦争には慎重だという点です。2025年6月のイスラエルによる大規模攻撃後も、トランプ氏は停戦仲介に動き、6月24日にはイスラエルとイランの停戦成立を打ち出しました。強硬発言が多い一方、最終的には「短期で区切る」「米国単独の責任を拡大しない」という判断が前面に出ています。

ネタニヤフ首相は「一時停止」ではなく「脅威の構造転換」を求める

イスラエルにとっての脅威は、濃縮ウランの蓄積だけではありません。イランの弾道ミサイル、革命防衛隊、レバノンのヒズボラなど代理勢力への支援まで含めて、一体の安全保障問題として捉えています。そのため、核協議で濃縮活動の一部が止まっても、ミサイル開発や地域ネットワークが維持されるなら不十分だという発想になりやすいのです。

この立場は、2026年2月の米イスラエル首脳会談でもにじみました。ロイターは、ネタニヤフ氏が核問題だけでなく、ミサイルや親イラン勢力まで協議対象に含めるようトランプ氏に求めたと報じています。イスラエル側にとっては、核施設への一撃や一時停戦ではなく、イランの軍事的再建能力をどこまで削れるかが重要だからです。両首脳は「イランを弱めたい」という点では一致しても、トランプ氏が欲しいのは管理可能な取引であり、ネタニヤフ氏が欲しいのは再発しにくい力関係です。

ずれが表面化した三つの局面

交渉再開の局面では、トランプ氏が軍事オプションを抑え込んだ

最初の分岐点は、2025年春の交渉再開です。トランプ氏はオマーンを舞台にイランとの協議に道を開きました。背景には、国際原子力機関がイランの60%濃縮ウラン在庫の増加や査察協力の不十分さを繰り返し指摘し、放置コストが高まっていた事情があります。ただし、そこでトランプ氏が選んだのは即時攻撃ではなく、交渉で上限をかけるやり方でした。

ネタニヤフ氏にとってこれは不満の残る選択です。イスラエルは、協議が長引くほどイランに時間を与えると警戒してきました。実際、2025年6月にイスラエルが100カ所超を狙う大規模攻撃に踏み切った際も、背景には「交渉で問題は解決しない」という長年の不信感がありました。つまり、トランプ氏には「軍事圧力を交渉に変える」発想があり、ネタニヤフ氏には「交渉は軍事行動を遅らせるだけだ」という発想があるわけです。

攻撃後の収束局面では、トランプ氏が早期打ち切りを急いだ

二つ目の分岐点は、2025年6月の攻撃後です。イスラエルが核関連施設や軍事拠点を打撃したあと、トランプ氏は戦果の拡大より停戦の成立を急ぎました。これは、米国が全面関与すれば原油市場、海上輸送、国内支持率にまで負担が波及するためです。米国にとって中東の戦争は、軍事問題であると同時に、インフレ、株価、選挙情勢に直結する内政問題でもあります。

一方のネタニヤフ氏は、停戦よりも抑止力の回復を重視します。イラン側に「再建すれば再び打たれる」と認識させるには、打撃の深さと継続性が必要だと考えやすいからです。イスラエルが攻撃の成果を強調しても、トランプ氏が早い段階で出口戦略を優先すれば、イスラエルから見れば詰め切れないまま政治決着が先行する形になります。

2026年3月には、同盟国もトランプ氏の戦線拡大に距離を置いた

三つ目の分岐点は、2026年3月のホルムズ海峡対応です。2月28日の米国・イスラエルによる対イラン軍事行動のあと、トランプ氏は海峡の安全確保へ同盟国の支援を求めました。しかしロイターによると、3月16日時点でドイツ、イタリア、スペインなどは即時参加に慎重で、英国やデンマークも「検討」はしても、戦争への巻き込まれを避ける姿勢を崩していません。

ここで見えるのは、トランプ氏の対イラン政策が、イスラエル支援の文脈では理解されても、米国主導の戦線拡大としては支持を集めにくいという現実です。正当化が揺らげば、欧州諸国も米国内世論も積極支持に回りにくくなります。ネタニヤフ氏は脅威認識の共有を求めますが、トランプ氏は同盟網と国内政治の制約の中で動かざるを得ません。

核限定合意とホルムズ負担の再燃リスク

この問題で注意すべきなのは、「米国とイスラエルは常に一枚岩だ」と見ると情勢を読み違えることです。両国は戦術では協力しても、戦略目標は同じではありません。トランプ氏が求めるのは、核開発を抑えつつ市場と世論の反発を管理できる枠組みです。ネタニヤフ氏が求めるのは、イランの再軍備と地域影響力を長く縛ることです。この差は、交渉の対象を核に限定するのか、ミサイルや代理勢力まで広げるのかという形で表れます。

今後の焦点は三つあります。第一に、米イラン間で核問題を軸にした限定合意の余地が残るかです。第二に、イスラエルがその限定合意を安全保障上十分とみなすかです。第三に、ホルムズ海峡や原油価格をめぐる負担が長引いたとき、トランプ政権がどこまで軍事関与を継続できるかです。情勢が長引くほど「同床異夢」は再び表面化する可能性があります。

米イスラエル強硬姿勢を分けて読む鍵

ネタニヤフ首相とトランプ大統領は、イランを抑え込む必要性では一致しています。しかし、トランプ氏は交渉とコスト管理を優先し、ネタニヤフ氏は軍事的な再発防止を優先します。2025年4月の交渉再開、同年6月の攻撃と停戦、2026年3月の海峡対応を追うと、この差は構造的だと分かります。

中東情勢を読むうえでは、「米イスラエルの強硬姿勢」という一括りでは不十分です。誰が何を成果と見なし、どこまでの負担を引き受ける覚悟があるのかを分けて見ることが、戦争拡大リスクや外交余地を判断する鍵になります。

参考資料:

松本 浩司

マクロ経済・国際経済

国際経済の潮流を、通商政策・為替・新興国の動向から多角的に分析。グローバル経済の「次の震源地」を見極める。

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