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ランダムグッズ商法が消えない構造的理由を解説

by 佐藤 理恵
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はじめに

2026年3月、BANDAI SPIRITSが公開した「ランダムグッズに関する実態調査」がSNSで大炎上しました。調査対象を「直近1年以内にランダムグッズを購入した人」に限定し、肯定的な回答ばかりを前面に出した内容に対して、消費者から強い反発が起きたのです。

この炎上を受けて、マーケティング企業のHamaru Strategyが独自に実施した大規模調査では、のべ3万5,866件の回答が集まり、「嫌い」「非常に嫌い」と答えた人が89.9%に達しました。9割近い消費者が否定的な感情を抱いているにもかかわらず、ランダムグッズは市場から消える気配がありません。

この記事では、ランダム商法の収益構造と企業側の事情を財務的な視点から分析し、なぜこの販売手法が根強く残り続けるのかを解説します。

バンダイ調査炎上の経緯と問題点

調査設計に潜んでいたバイアス

BANDAI SPIRITSは2026年2月20日〜21日にかけて、18〜59歳の男女1,032人を対象に「ランダムグッズに関する実態調査」を実施し、3月24日に結果を公開しました。調査結果によれば、直近1年以内にランダムグッズを月1回以上購入している人は63.3%にのぼり、ランダムグッズの魅力として「ドキドキ・ワクワク感」や「目当てを引けたときの嬉しさ」がトップに挙がっています。

しかし、この調査には構造的な問題がありました。対象を「直近1年以内にランダムグッズを購入した人」に限定したことで、ランダム商法に嫌気がさして購入をやめた離脱層や、そもそもランダムグッズを買わない消費者の声が完全に排除されていたのです。公開された設問はすべて肯定的な方向に設計されており、紹介された自由回答6件もすべてポジティブな内容でした。

独立調査が突きつけた現実

バンダイの調査に対する批判が高まる中、Hamaru Strategyが2026年3月28日から4月3日にかけて「ランダムグッズに関する消費者意識調査2026」を実施しました。全44問の設問に対してのべ3万5,866件の回答が寄せられ、自由記述には累計269万4,939文字ものコメントが集まるなど、消費者の関心の高さを示す結果となりました。

調査結果は衝撃的です。ランダムグッズに対して「嫌い」「非常に嫌い」と回答した人の合計は89.9%に達しました。嫌いな理由としては、9割以上が「欲しいものが手に入らない可能性がある」「通常販売のグッズよりお金が掛かる」を挙げています。さらに深刻なのは、ランダムグッズの影響でコンテンツ自体への印象が悪い方向に変わった経験があると答えた人が85.2%にのぼったことです。好きな作品のグッズ販売方法が、作品そのものへの好感度を下げているという皮肉な状況が浮かび上がりました。

売上が数十倍変わるビジネス構造

オープン販売との圧倒的な差

それほど嫌われているランダム商法が、なぜなくならないのか。最大の理由は、企業の収益構造にあります。

グッズ製造・販売に携わる関係者の証言によれば、オープン販売(消費者が商品を選んで購入する方式)とブラインド販売(中身がわからない状態で販売する方式)では、売上や利益に数十倍から100倍以上の差が生じるとされています。オープン販売の場合、消費者は自分が欲しいキャラクターの商品だけを1個購入して終わります。一方、ブラインド販売では目当てのキャラクターが出るまで繰り返し購入するため、1人あたりの購入数が跳ね上がるのです。

BANDAI SPIRITSの一番くじ事業を見ると、その市場規模の大きさがわかります。一番くじの累計くじ券発行枚数は8億3,000万枚以上、取扱店は約6万6,000店舗に達し、国内売上は年間724億円規模に成長しています。こうした数字を見れば、企業がランダム商法から容易に撤退できない理由が理解できます。

在庫リスクの平準化効果

ランダム商法には、在庫リスクを分散させる効果もあります。キャラクターグッズは人気格差が激しく、オープン販売にすると人気キャラクターだけが即完売し、不人気キャラクターの在庫が大量に残るという問題が発生します。

ブラインド販売であれば、すべてのキャラクターが均等に消費者の手に渡るため、特定のキャラクターだけが売れ残るリスクを回避できます。また、規格が統一されたパッケージで出荷できるため、倉庫での管理コストや輸送費を抑えやすいという物流面のメリットもあります。

企業にとってランダム商法は、売上の最大化と在庫リスクの最小化を同時に実現する合理的なビジネスモデルなのです。

推し活市場3.5兆円が支える需要構造

拡大し続ける推し活消費

ランダム商法の背景には、推し活市場の急拡大があります。推し活人口は約1,384万人に達し、市場規模は3兆5,000億円と試算されています。推し活にかける年間平均支出額は1人あたり約25万5,000円にのぼり、特に公式グッズの購入は46.7%の人が行っている最も一般的な消費行動です。

この巨大市場を取り込むために、グッズの種類と販売頻度は年々増加しています。しかし、グッズの増加はランダム商法と結びつくことで、消費者に過剰な負担を強いる構造を生み出しています。Hamaru Strategyの調査では、欲しいものが手に入らなかった経験が「非常によくある」「たまにある」の合計で94.8%に達し、定価以上の転売品を購入した経験がある回答者は63.3%にのぼりました。

「嫌いだけど買う」という矛盾

ランダム商法の最大の特徴は、消費者が嫌いだと感じながらも購入を続けているという矛盾にあります。これは「推し」に対する感情的な結びつきが、合理的な購買判断を上回るためです。

行動経済学の観点から見ると、ランダムグッズにはギャンブル的な要素が含まれており、射幸心を刺激する仕組みが組み込まれています。ライブ会場やアニメイベントなど気分が高揚している場面では、冷静な判断が難しくなり、つい大量に購入してしまうケースも少なくありません。企業側はこの消費者心理を熟知しており、販売チャネルや販売タイミングの設計にも反映させています。

転売市場と二次流通の問題

転売を助長する構造

ランダム商法は、転売市場を拡大させる構造的な要因にもなっています。消費者が推しキャラクターを引き当てるために複数個購入すると、必然的に不要なキャラクターのグッズが発生します。これらはSNS上でファン同士が交換する場合もありますが、メルカリなどのフリマアプリで転売されるケースが増加しています。

人気キャラクターのグッズは定価を大幅に上回る価格で取引される一方、不人気キャラクターのグッズは定価以下で叩き売りされるという二極化が進行しています。中古アニメショップでは、ランダムグッズの買い取り持ち込みが増加し、在庫が過剰になる事態も発生しています。一部の大手中古ショップが特定作品のグッズについて「買い取りも販売も行わない」と表明するほどの状況です。

消費者が負担するコストの全体像

ランダムグッズの価格帯も上昇傾向にあります。近年では1個2,000円を超えるランダム商品も登場し、5種類をコンプリートするには最低でも1万円が必要になる計算です。実際には目当てのキャラクターが出るまでの重複購入コストが加わるため、消費者の実質的な負担はさらに膨らみます。

ランダム商法を許容する声は「ある程度許容」「かなり許容」を合わせても16.0%にとどまっており、大多数の消費者が不本意ながら購入しているという実態が浮き彫りになっています。

変化の兆しと今後の展望

企業側に広がる見直しの動き

消費者の声を受けて、一部の企業ではランダム販売を見直す動きが出始めています。2025年10月には「刀剣乱舞-ONLINE-」のぬいぐるみが当初ランダム販売(1,980円・全6種)の予定でしたが、SNSでの批判を受けて個別選択可能な受注販売(2,640円)に変更されました。価格は約33%上昇しましたが、確実に推しキャラクターを入手できる方式に切り替わったのです。

2026年4月末には、バンダイのブランド「クレアボーテ」が『アイドリッシュセブン』と『刀剣乱舞ONLINE』のキャラコスメシリーズについて、ランダム仕様での販売を取りやめ、好きな種類を選べる通常販売に変更すると発表しました。注目すべきは、価格を現行のまま維持すると明言した点です。企業側がコスト増を吸収してでもランダム販売からの転換を図った事例として注目されています。

法規制のグレーゾーン

現行の景品表示法では、2012年に「コンプガチャ」(複数の異なるアイテムを集めて特典を得る方式)が「カード合わせ」に該当するとして実質的に禁止されました。しかし、単純なブラインド販売やランダム商品については明確な規制がなく、法的なグレーゾーンが続いています。

今後、消費者庁がランダムグッズ全般に対して何らかのガイドラインを策定する可能性はありますが、現時点では業界の自主規制に委ねられている状況です。消費者の不満が高まる中で、企業が自主的にどこまで販売方法を見直せるかが、業界全体の信頼回復の鍵を握っています。

まとめ

ランダムグッズ商法がなくならない最大の理由は、企業にとっての収益インパクトが圧倒的に大きいことにあります。オープン販売と比較して売上が数十倍から100倍以上変わるとされる状況では、消費者の9割が嫌いだと答えても、企業が簡単に撤退できる話ではありません。

一方で、刀剣乱舞やクレアボーテの事例のように、消費者の声を受けてランダム販売を取りやめる動きも確実に広がっています。推し活市場が3兆5,000億円規模に成長した今、消費者との信頼関係を損なうビジネスモデルが長期的に持続可能かどうかは疑問です。コンテンツへの印象が悪化したと感じる消費者が85%を超える現状は、業界にとって深刻な警告といえるでしょう。

消費者としては、ランダムグッズの購入前に「本当に必要か」「予算の上限はいくらか」を明確に決めておくことが重要です。また、企業のランダム販売見直しの動向を注視し、消費者として声を上げ続けることが、市場全体の健全化につながると考えられます。

参考資料:

佐藤 理恵

企業分析・M&A

会計士としての経験を活かし、企業の財務構造やM&A戦略を深掘り。数字の裏にある経営者の意思決定を読み解く。

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