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ソリウム現実化で浮上するカザフスタンのトリウム資源戦略最前線

by 伊藤 大輝
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ソリウムが示す資源安全保障の現実

『機動戦士ガンダム』に登場する「ソリウム」は、架空の鉱物でありながら、現実のトリウムを想起させる資源として語られてきました。作品内の資源争奪はSFの小道具に見えますが、レアアース、原子力燃料、鉱山副産物をめぐる現在の産業構造に重ねると、かなり生々しい論点が浮かびます。

トリウムは、単体でただちに原子炉を動かす魔法の燃料ではありません。しかし、レアアース鉱物に同伴しやすく、核燃料サイクルの研究対象でもあるため、資源開発と放射性物質管理の境界に位置します。ここに、カザフスタンが注目される理由があります。同国はウラン生産、鉱物資源、原子力研究基盤を持ち、さらに希土類開発を国家戦略に組み込み始めています。

レアアースに同伴するトリウムの産業価値

モナザイトが抱える二つの顔

トリウムはアクチノイド元素の一つで、自然界ではトリウム232として存在する割合が高い元素です。USGSは、トリウムがトール石やトリアナイトなどにも含まれる一方、商業的にはレアアースを含むリン酸塩鉱物のモナザイトが主要な供給源だと説明しています。つまり、トリウムは「原子力専用の鉱石」だけでなく、レアアース鉱山の副産物として現れる資源でもあります。

この構図は、製造業にとって重要です。EV、風力発電、産業用モーター、ロボット、半導体製造装置では、ネオジムやジスプロシウムなどの磁石材料が欠かせません。IEAは、レアアースが風力タービンやEVモーターの永久磁石に不可欠であり、磁石向けレアアースの需要が2040年に向けて強く伸びると見ています。一方で、レアアースの採掘と分離精製では、トリウムやウランなどの自然起源放射性物質をどう扱うかがコストと許認可の壁になります。

従来、このトリウムは価値よりも管理負担として扱われがちでした。放射性残渣を安全に保管できなければ、レアアースの採掘そのものが地域社会や規制当局から受け入れられにくくなります。逆に言えば、トリウムを分離し、保管し、将来の燃料サイクル研究に接続できる国は、単なる鉱石輸出国ではなく、資源処理の上流から下流までを握る可能性があります。

副産物から戦略資源への転換

USGSの研究は、トリウムがレアアース、チタン、ウラン、スズ、鉄などの鉱山から副産物として回収できる可能性を指摘しています。既存鉱山のインフラを使える場合、新鉱山を開くより環境負荷を抑えやすく、尾鉱から放射性核種を取り除く効果も期待できます。ここが、トリウムを「廃棄物」ではなく「管理された戦略資源」と見直す入口です。

ただし、資源価値は市場価格だけでは決まりません。トリウム燃料を本格利用するには、トリウム232を中性子で照射し、核分裂性のウラン233に転換するプロセスが必要です。燃料製造、再処理、保障措置、廃棄物管理まで含めた産業設計がなければ、鉱山に眠るトリウムはエネルギー資源ではなく、規制対象の副産物にとどまります。

それでも関心が高まるのは、レアアース供給網が地政学リスクを帯びているためです。IEAは、主要な重要鉱物の精製・加工が一部の国に集中し、レアアースでは上位精製国への依存が極めて高いと分析しています。採掘国を増やすだけでは不十分で、分離、精製、金属化、磁石製造までの中流・下流を分散しなければ、供給網の脆弱性は残ります。トリウム管理は、その分散化に付随する避けて通れない実装課題です。

カザフスタンが核燃料拠点化する条件

ウラン大国から原子力利用国への移行

カザフスタンは、すでに核燃料産業で大きな存在感を持っています。USGSによると、同国は2024年に世界最大のウラン生産国で、世界生産の39%を占めました。国営企業カザトムプロムも、天然ウラン供給で世界首位の地位を強調し、2025年にはカザフスタンで累計10億ポンドのウラン採掘に到達したと発表しています。

重要なのは、同国が「掘る国」から「使う国」へ踏み出している点です。2024年10月6日の国民投票では、原子力発電所建設への賛成が投票参加者の71.12%を占めました。政府は電力不足と脱炭素を背景に原子力を位置づけ、2025年6月にはロシアのロスアトムが国際コンソーシアムを率いる形で、アルマトイ州ジャンブール地区の案件に関するロードマップを承認しました。

2025年8月には、ウルケンで大型原発建設に向けたエンジニアリング調査が始まりました。カザフスタン原子力庁の発表では、50本以上の調査井を深さ30〜120メートルで掘削し、地震、地下水、地質条件を評価するとされています。計画の炉型は第3世代プラスのVVER1200で、商用トリウム炉ではありません。それでも、規制、人材、燃料、保守、放射性廃棄物管理の制度が整えば、将来の先進炉研究を受け止める土台になります。

希土類開発と研究基盤の接続

カザフスタンのもう一つの強みは、希土類とレアメタルを国家的に押し出し始めたことです。政府は、国内に100を超える希少・希土類関連の鉱床があると説明し、タングステン、モリブデン、リチウム、タンタル、ニオブ、ベリリウムなどの資源量も公表しています。重要鉱物の需要が高まる中で、単なる原料輸出ではなく、国内での高付加価値加工を進める方針です。

カラガンダ州のクイレクトゥイコル鉱床も象徴的です。州政府は、同鉱床の推定資源量を2820万トンと発表しました。一方、首相府は2025年発見のクイレクトゥイコルについて、セリウム、ネオジム、イットリウムなど約80万トンの資源に触れています。数字の違いは、鉱石量、酸化物量、有用元素量、分類基準が異なる可能性を示します。投資判断では、見出しの大きな数字より、JORCなど国際基準に基づく資源量、品位、回収率、放射性随伴物の処理計画を見る必要があります。

資金面でも動きがあります。カザフスタン開発銀行は2025〜2030年に、希少金属、レアアース、重要材料の採掘・加工案件を対象とする10億ドル規模の融資プログラムを始めました。融資対象にはランタノイド、スカンジウム、イットリウムのほか、リチウム、コバルト、タングステン、ゲルマニウム、ガリウム、黒鉛などが含まれます。これは、鉱山から分離精製、素材、部品へ進むための政策金融です。

さらに、同国には旧ソ連期から続く原子力研究基盤があります。国立原子力センターは、研究炉IGRやIVG.1M、核燃料や重大事故を模擬する試験設備を保有し、日本、ロシア、フランスなどとの安全研究に関わってきました。トリウム溶融塩炉の商用化拠点がすでに決まったわけではありませんが、鉱物資源、核燃料産業、研究施設、原発導入政策が同じ国内に存在する点は、他の資源国にはない組み合わせです。

溶融塩炉が越えるべき技術と規制の壁

トリウムが注目される最大の理由は、溶融塩炉との相性です。溶融塩炉は、燃料や冷却材に高温の溶融塩を使う先進炉で、低圧運転、燃料利用率の向上、受動安全性などが期待されています。世界原子力協会は、液体燃料型の溶融塩炉では燃料損傷の制約が小さく、核分裂生成物の除去やアクチノイド利用の面で独自の利点があると整理しています。

しかし、ここには大きな距離があります。IAEA関連の技術報告は、溶融塩炉を有望な先進炉技術としつつ、実用化には研究開発が必要な領域が多いとしています。高温塩による材料腐食、トリチウム管理、オンライン化学処理、黒鉛やニッケル合金の寿命、事故時の塩の凝固・回収、保障措置の設計など、発電所として長期運転するには解くべき課題が残ります。

中国はトリウム溶融塩炉の研究で先行し、甘粛省武威の実験炉計画を進めてきました。世界原子力協会の整理では、TMSR計画は固体燃料系と液体燃料系の二本立てで、液体燃料系は閉じたトリウム・ウラン燃料サイクルを狙う一方、技術難度が高いとされています。これはカザフスタンにとって示唆的です。鉱山と研究炉を持つだけでは足りず、塩化学、材料、燃料製造、規制審査を一体で育てなければ、次世代炉の産業拠点にはなれません。

地政学上の注意点もあります。現在進むカザフスタン初の大型原発では、ロスアトムが国際コンソーシアムのリーダーに選ばれています。これは原子力技術導入を加速させる一方、ロシア依存への懸念も伴います。トリウムやレアアースで国際投資を呼び込むなら、技術供給国を複線化し、透明な許認可、環境影響評価、核不拡散対応を示すことが不可欠です。

企業が今注視すべき三つの実装指標

トリウムは、短期的な発電燃料というより、レアアース開発に伴う放射性副産物をどう価値化するかという産業設計のテーマです。カザフスタンが次世代エネルギー拠点に近づくかは、第一に希土類鉱床の国際基準での資源量確認、第二に分離精製と放射性残渣管理の実装、第三に原子力人材と規制の成熟で判断できます。

日本企業にとっては、トリウム炉そのものに飛びつくより、レアアース供給網の分散、放射性副産物処理、材料試験、センサー、遠隔保守、鉱山DXといった周辺領域に商機があります。ソリウムが現実に近づいたというより、SFが描いた「資源を支配する者が技術体系を動かす」という構図が、レアアースと原子力の接点で現実味を帯びてきたのです。

参考資料:

伊
伊藤 大輝

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