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介護帰省の交通費は誰が負担するのか親のお金と家族会議の現実

by 河野 彩花
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介護帰省が家計問題になる高齢化の背景

親の介護や見守りで実家に通うことは、かつての「たまの帰省」とは性質が違います。通院付き添い、介護認定の手続き、ケアマネジャーとの面談、施設見学、住宅改修の立ち会いなど、平日に動かざるを得ない用事が重なります。

問題は、交通費が介護保険サービスの自己負担とは別に発生する点です。厚生労働省の2025年国民生活基礎調査では、在宅の要介護者等について、主な介護者のうち「別居の家族等」は13.4%を占めています。遠くに住む子が関わる介護は、すでに例外的な話ではありません。

さらに介護は長期化しやすい支出です。生命保険文化センターの2024年度調査では、介護期間の平均は55.0カ月、月々の介護費用は平均9.0万円です。ここに毎月の新幹線代や航空券代が加われば、親孝行の気持ちだけで続けるには重い家計課題になります。

交通費負担をこじらせる親孝行観

遠距離介護に隠れる月次コスト

遠距離介護の費用は、切符代だけでは終わりません。金曜夜や早朝に移動するためのタクシー代、実家での食費、留守宅の外食費、親戚や近隣への手土産、急な宿泊費まで含めると、家計簿上は「交通費」ではなく「介護帰省費」としてまとまった支出になります。

たとえば月1回の帰省でも、夫婦と子どもの生活費を抱える世帯では負担感が大きくなります。介護が始まる年代の子世代は、住宅ローン、教育費、自分たちの老後資金づくりが重なる時期でもあります。親のために使うお金が、子世帯の将来不安を増やす構図です。

一方で、親世代にも経済格差があります。高齢社会白書では、公的年金・恩給が家計収入のすべてとなっている高齢者世帯が43.4%と示されています。二人以上世帯で見れば65歳以上世帯の貯蓄中央値は全世帯より高い一方、年金依存度が高い世帯も少なくありません。つまり「親が出せばよい」とも「子が全額負担すべき」とも一律には言えません。

重要なのは、交通費を誰かの気持ちで処理しないことです。介護帰省は、親の生活を守るための家族内インフラです。通院や手続きに必要な移動なら、親本人の生活維持に必要な支出として、本人の資産から払う選択肢も現実的です。

親のお金への抵抗感の正体

「親から交通費をもらうのは親不孝」という反応には、親を助ける子は無償であるべきだという価値観が隠れています。とくに男性は、家計の外側で親孝行を考え、女性は日々の買い物や介護の手間まで含めて現実の収支を見やすい、というズレが起きがちです。

もちろん、男女だけで単純に分けられる話ではありません。ただ、統計上は介護負担の偏りがあります。2025年の国民生活基礎調査では、同居の主な介護者は男性36.5%、女性63.5%です。別居の家族等でも男性29.0%、女性66.9%と、女性の比率が高くなっています。

男女共同参画白書も、家事関連時間が女性に偏る現状を指摘しています。介護に関しても、かつての「嫁が介護する」形は減り、息子や夫が担う比率は増えていますが、家事、段取り、連絡、支払い管理まで含めると、見えにくい負担は残ります。

そのため、夫婦間で揉める本質は「親のお金を使うか」ではなく、「誰の時間と家計を介護に差し出しているのか」です。怒鳴って道徳論にすると、実際に移動し、職場調整をし、家計をやりくりする人の負担が見えなくなります。

親の預貯金を使うための家族ルール

本人費用と子ども費用の線引き

介護費用は、まず親本人の生活を守るための費用として整理するのが基本です。介護サービス利用料、医療費、おむつ代、住宅改修、配食、見守り機器、通院付き添いに必要な交通費などは、本人の暮らしに直接関わります。親に判断能力があり、本人も納得しているなら、本人の年金や預貯金から支出することは不自然ではありません。

ただし、何でも親の財布に寄せるのは危険です。子が自分の都合で帰省日程を決め、ついでの旅行や家族滞在費まで混ぜると、他のきょうだいから見れば不透明な支出になります。本人のための費用、介護を担う子の実費、子世帯の生活費は分けて考える必要があります。

目安になるのは「その支出がなければ、親の生活や介護体制に支障が出るか」です。通院付き添いの往復交通費、介護認定調査の立ち会い、施設契約、退院調整などは説明しやすい費用です。一方、帰省中の高額な外食や家族全員分の観光的な移動費は、介護費用として扱うには慎重さが必要です。

税務上も、親子など扶養義務者の間で生活費等に充てるため必要な都度渡される金銭は、通常必要と認められる範囲で贈与税がかからない扱いがあります。ただし、多額の一括送金や預金化は別問題です。交通費の精算が継続的かつ高額になる場合は、領収書を残し、税理士や自治体の相談窓口で確認する姿勢が安全です。

きょうだい間で残す支出記録

介護のお金でもっとも揉めやすいのは、金額そのものより「知らないうちに使われていた」という不信感です。親の口座から交通費を払うなら、誰が、いつ、何のために、いくら使ったかを記録する必要があります。

難しい会計ソフトは不要です。共有スプレッドシートやノートに、日付、目的、支払者、金額、領収書の有無を書くだけでも十分です。新幹線、航空券、高速代、ガソリン代、宿泊費、介護用品、配食、見守りサービスを同じ表で管理すれば、介護全体のコストが見えます。

きょうだいがいる場合は、負担を「移動できる人」と「お金を出す人」に分ける考え方もあります。遠方に住む長女が月1回帰省し、近居の兄が通院付き添いをし、帰省できない弟が交通費の一部を負担する、といった設計です。全員が同じことをする必要はありませんが、全員が見える形で関わることが大切です。

親が元気なうちに、年金額、預貯金、保険、ローン、口座の場所、キャッシュカードの扱い、延命治療の希望まで確認しておくと、介護開始後の混乱を減らせます。判断能力が低下してからでは、口座の利用や契約が難しくなり、成年後見制度などの検討が必要になる場合もあります。

制度と見守りで帰省回数を減らす設計

帰省を減らす勤務制度と見守り

交通費を減らす最も効果的な方法は、1回あたりの割引だけでなく、帰省回数そのものを適正化することです。親の状態が安定している時期は、毎月の帰省を2〜3カ月に1回へ見直し、その間を地域包括支援センター、ケアマネジャー、配食サービス、見守り機器で補う方法があります。

勤務先の制度も早めに確認すべきです。厚生労働省の介護休暇制度では、対象家族が1人なら年5日、2人以上なら年10日まで、1日または時間単位で取得できます。通院付き添い、ケアマネジャーとの打ち合わせ、介護サービスの手続き代行にも使えるため、無断欠勤や有給の使い切りを避けやすくなります。

より大きな体制変更が必要なときは、介護休業も選択肢です。介護休業給付は同じ家族について93日を限度に3回まで支給対象となり、給付額は原則として休業開始時賃金日額に支給日数と67%を掛けて算出されます。これは介護に専念するためだけでなく、介護体制を組み直す期間として使う制度です。

航空券割引より大きい頻度管理

遠距離介護では、航空会社の介護帰省割引や早割、新幹線の会員制割引、高速バスなどを比較することも有効です。JAL、ANA、ソラシドエア、スターフライヤーなどには介護帰省に関わる割引制度が紹介されています。一方、鉄道には介護目的そのものを対象にした全国一律の割引があるわけではなく、年齢や会員条件に応じた割引を組み合わせる形になります。

ただし、安いチケットを探す努力だけでは限界があります。親の状態が悪くなるたびに即日移動する体制では、航空券も宿泊費も高くなります。緊急時の連絡先、近所の協力者、かかりつけ医、ケアマネジャー、地域包括支援センターを一覧化し、誰が最初に動くかを決めておくことが、結果的に交通費を抑えます。

デジタル見守りも、監視ではなく帰省判断の材料として使うと効果的です。冷蔵庫の開閉、配食時の安否確認、緊急通報機器、テレビ電話などで日常の変化を把握できれば、「心配だから帰る」という曖昧な移動を減らせます。介護の質を落とさずに帰省回数を減らすことは、親にも子にも必要な持続策です。

介護前に決めたい三つの費用合意

介護帰省の交通費は、親孝行か親不孝かで裁く問題ではありません。親の生活を守るために必要な支出を、誰の財布から、どの基準で、どの記録を残して払うかという家族運営の問題です。

まず決めたいのは、親本人の費用に含める範囲です。通院、契約、介護調整に必要な交通費は本人負担にするのか、上限を月いくらにするのかを話し合います。次に、きょうだい間の分担です。移動、手続き、電話対応、金銭負担を見える形にします。

最後に、夫婦間の合意です。配偶者の親の介護であっても、交通費は家計に影響します。「親からもらうのは恥ずかしい」という感情を否定する必要はありませんが、その感情だけで家計を削るのも続きません。介護は長距離走です。親のお金を尊厳を守るために使うという視点へ切り替えることが、家族を消耗させない第一歩になります。

参考資料:

河野 彩花

健康・ライフスタイル

医療・健康・食の最新動向を、エビデンスに基づいて発信。管理栄養士の資格を活かし、生活に役立つ健康情報を届ける。

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