児童虐待4分類の定義としつけとの境界線
22万5509件に増えた児童虐待相談
児童虐待の相談対応件数は年々増加を続けており、令和5年度には全国の児童相談所で22万5,509件に達しました。前年度比5.0%増という数字は、社会全体で子どもの安全を守る意識が高まる一方で、虐待そのものが減少していない現実を示しています。
「しつけのつもりだった」という言葉が、虐待事件の報道でたびたび聞かれます。しかし、2020年4月施行の改正児童虐待防止法では、しつけを目的とした体罰が明確に禁止されました。しつけと虐待の境界線はどこにあるのでしょうか。
この記事では、児童虐待防止法が定める4つの虐待分類を詳しく解説するとともに、しつけと体罰の違い、虐待を発見した際の通報方法、そして2026年4月施行の共同親権制度との関係まで、子どもを守るために知っておくべき知識を網羅的にお伝えします。
児童虐待防止法が定める4つの分類
児童虐待の防止等に関する法律(児童虐待防止法)では、保護者が監護する児童に対して行う虐待行為を4つに分類しています。それぞれの定義と具体例を確認していきます。
身体的虐待
身体的虐待とは、児童の身体に外傷を生じさせる、または生じるおそれのある暴行を加えることです。令和5年度の統計では、全体の22.9%にあたる5万1,623件が報告されています。
具体的には、殴る・蹴る・投げ落とす・激しく揺さぶる・やけどを負わせる・溺れさせるといった行為が該当します。首を絞める、縄などで拘束するといった行為も含まれます。
外見上の傷やあざが確認できるケースだけでなく、衣服で隠れる部位への暴力や、傷跡が残りにくい方法による暴行も身体的虐待に該当します。
性的虐待
性的虐待とは、児童にわいせつな行為をすること、または児童にわいせつな行為をさせることです。子どもへの性的行為の強要、性的行為を見せること、ポルノグラフィの被写体にすることなどが含まれます。
性的虐待は発覚しにくい特徴があります。被害を受けた子ども自身が状況を理解できなかったり、加害者から口止めされていたりするためです。周囲の大人が子どもの些細な変化に気づくことが、早期発見の鍵となります。
ネグレクト(養育の放棄・怠慢)
ネグレクトとは、児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食や長時間の放置、保護者としての監護を著しく怠ることです。
食事を与えない、不潔な環境で生活させる、病気になっても病院に連れて行かない、学校に登校させないといった行為が該当します。また、同居人による虐待を放置することもネグレクトに含まれます。
自動車の中に放置する、家に閉じ込めるなどの行為も、重大なネグレクトとして認識されています。夏場の車内放置による死亡事故は毎年のように報道されており、短時間であっても危険な行為です。
心理的虐待
心理的虐待とは、児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うことです。令和5年度の統計では最も多く、全体の59.8%にあたる13万4,948件が報告されています。
大声で怒鳴る、無視する、きょうだい間で差別的な扱いをする、子どもの目の前で家族に暴力をふるう(面前DV)といった行為が含まれます。「お前なんか生まれてこなければよかった」「出ていけ」といった暴言も心理的虐待です。
心理的虐待の件数が最も多い背景には、面前DVが心理的虐待として計上されるようになったことがあります。配偶者間の暴力を目撃すること自体が、子どもに深刻な心理的ダメージを与えるという認識が広まっています。
「しつけ」は虐待の言い訳にならない
2020年の法改正で体罰が全面禁止に
2020年4月に施行された改正児童虐待防止法では、親権者によるしつけ名目の体罰が明確に禁止されました。児童虐待防止法第14条第1項は、「児童の親権を行う者は、児童のしつけに際して、体罰を加えることその他監護及び教育に必要な範囲を超える行為により当該児童を懲戒してはならない」と定めています。
この法改正の背景には、「しつけのつもりだった」という弁明のもとで繰り返される深刻な虐待事件がありました。法律は、どのような理由があっても体罰は許されないという明確なメッセージを打ち出しています。
体罰の具体例と境界線
厚生労働省の指針では、「身体に何らかの苦痛を引き起こし、又は不快感を意図的にもたらす行為(罰)である場合は、どんなに軽いものであっても体罰に該当する」と定義されています。
体罰に該当する具体例として、以下の5つが挙げられています。
- 注意したが言うことを聞かないので頬をたたく
- いたずらをしたので長時間正座させる
- 友達を殴ってけがをさせたので同じように殴る
- 物を盗んだのでお尻をたたく
- 宿題をしなかったので夕飯を与えない
一方で、道に飛び出しそうな子どもの手をつかむ、他の子どもに暴力をふるうのを制止するといった行為は、子どもの安全を守るための行動であり、体罰には該当しません。
言葉による暴力も虐待
体罰だけでなく、怒鳴りつけること、辱めること、笑いものにすること、けなすことなど、子どもの心を傷つける言動も問題視されています。「バカ」「ダメな子」といった日常的な暴言が、子どもの自己肯定感を著しく低下させることが研究で明らかになっています。
しつけの目的は子どもの健全な成長を促すことです。恐怖や苦痛によって行動を制御することは、しつけではなく虐待であるという認識を、社会全体で共有することが求められています。
虐待の早期発見と通報の仕組み
児童相談所虐待対応ダイヤル「189」
虐待かもしれないと思ったときに利用できるのが、児童相談所虐待対応ダイヤル「189」(いちはやく)です。全国共通の電話番号で、最寄りの児童相談所につながります。令和元年12月からは通話料も無料化されました。
通報にあたって重要なのは、通報する側が虐待かどうかを判断する必要はないという点です。「おかしいな」「心配だな」と感じた段階で連絡して問題ありません。通告・相談は匿名で行うことも可能で、通報者の情報は守られます。
通報後の対応の流れ
児童相談所が通告を受理した場合、原則として48時間以内に子どもの安全確認が行われます。状況に応じて、子どもを一時的に保護する措置がとられることもあります。
児童虐待防止法では、学校の教職員、医師、保健師、弁護士など、子どもに関わる職務に従事する者に対して、虐待の早期発見に努める義務を課しています。しかし、虐待の発見は専門家だけの役割ではありません。近隣住民や地域全体で子どもを見守る姿勢が重要です。
主な虐待者の傾向
令和5年度の統計によると、主な虐待者は「実母」が48.7%と最も多く、次いで「実父」が42.3%です。虐待は特殊な家庭だけで起きるものではなく、育児ストレスや社会的孤立など、さまざまな要因が重なることで、どの家庭でも起こりうる問題です。
2026年共同親権と子どもの安全確保
2026年4月施行の共同親権制度との関係
2026年4月1日から施行される改正民法では、離婚後の共同親権が導入されます。この制度では、父母双方が親権を持つことが選択肢として加わりますが、子どもへの虐待のおそれがある場合や、一方の親から他方の親へのDVのおそれがある場合には、単独親権とすることが定められています。
離婚という大きな環境変化に加えて虐待のリスクが重なる場合、子どもの不利益は極めて大きくなります。共同親権制度の運用においては、子どもの安全を最優先とする判断が不可欠です。
社会全体で子どもを守る意識の醸成
児童虐待の相談件数が増加し続けている背景には、社会の認知度向上という肯定的な側面もあります。以前であれば見過ごされていた行為が、虐待として認識・通報されるようになったことで、数字が増加している面もあるのです。
しかし、通報件数の増加に対して、児童相談所の体制が十分に追いついていないという課題も指摘されています。専門人材の確保や、関係機関の連携強化が急務です。
4分類と体罰禁止、189通報の基本
児童虐待は、身体的虐待・性的虐待・ネグレクト・心理的虐待の4つに分類されます。2020年の法改正により、しつけ名目の体罰は全面的に禁止されました。「しつけのつもりだった」という言葉は、虐待の正当化には決してなりません。
子どもを守るために、一人ひとりができることがあります。虐待が疑われる場面に遭遇したら、ためらわずに児童相談所虐待対応ダイヤル「189」に連絡してください。匿名での通報も可能で、通話料は無料です。子どもの安全を守る第一歩は、周囲の大人が声を上げることから始まります。
参考資料:
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