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15年働いても安心できない 派遣切りの構造と身を守る実務確認点

by 小林 美咲
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15年就業でも不安定な派遣雇用構造

同じ職場で10年、15年と働いていれば、普通は「この会社の戦力」と見なされるはずです。ところが派遣労働では、その感覚がそのまま雇用の安定につながるとは限りません。職場での勤務実態は長くても、法的な雇用主は派遣先ではなく派遣元だからです。現場では欠かせない存在でも、派遣契約が終われば立場が急に不安定になる。この落差が、いわゆる「派遣切り」の見えにくい問題です。

厚生労働省の資料では、2024年平均の非正規雇用労働者は2126万人にのぼり、そのうち派遣社員は154万人でした。非正規という働き方は日本の労働市場の大きな柱ですが、長く働いても雇用の見通しが立ちにくい人がなお少なくありません。この記事では、なぜ勤続年数が長くても切られうるのか、どこまでが制度上認められ、どこからが争点になりうるのかを整理します。

長く働いても安泰ではない理由

雇用主は派遣先ではなく派遣元にある

派遣労働の基本は三者関係です。厚生労働省は、派遣元が雇用する労働者を、派遣先の指揮命令で働かせる仕組みだと説明しています。現場で日々指示を出すのは派遣先ですが、賃金の支払い、雇用契約の更新、休業手当の要否など、使用者としての責任の中心は派遣元にあります。実際、厚生労働省のQ&Aでも、派遣先の都合で就業できない場合でも、休業手当の判断主体は派遣元だと明記されています。

ここが、長期就業でも不安定さが残る最大の理由です。例えば同じコールセンターで15年働いていても、法的には「派遣先に15年勤めた正社員」ではありません。派遣先が契約を打ち切れば、派遣元が別の就業先を確保するか、雇用契約を更新するかどうかという話になります。つまり、現場での貢献の大きさと、雇用の強さが一致しにくい構造なのです。

3年ルールは万能の安全網ではない

派遣労働には、よく知られる「3年ルール」があります。厚生労働省によると、原則として、同じ事業所が派遣を受け入れられる期間も、同じ派遣労働者が同じ組織単位で働ける期間も3年が上限です。ただし、ここで誤解が生まれやすい。3年を超えたら自動的に直接雇用されるわけではありません。

まず、事業所単位の受入期間は、過半数労働組合などへの意見聴取を経れば延長できます。さらに個人単位の期間制限も、「同じ組織単位」に対する上限なので、課やグループが変われば継続就業が可能です。派遣元に無期雇用される派遣労働者や60歳以上の派遣労働者などには、そもそも期間制限の例外もあります。したがって、同じ会社で長く働いていること自体が、直ちに違法派遣を意味するわけではありません。

一方で、厚生労働省の改正派遣法Q&Aは、雇用安定措置の適用を避けるために就業期間を不自然に3年未満へ区切る運用は、法の趣旨に反する脱法的な運用であり厳に避けるべきだとしています。長期就業の継続が常に違法とは言えない一方で、形式的な部署変更や契約調整で保護を回避していないかは、重要なチェックポイントです。

どこからが争点になりうるのか

直接雇用は自動ではなく、権利の中身も複数ある

派遣労働で誤解されやすいのは、「長く働けば派遣先に直接雇用されるはずだ」という期待です。実際には、派遣先に自動転換される制度ではありません。違法派遣があった場合には、派遣先が労働契約の申込みをしたものとみなされる「労働契約申込みみなし制度」がありますが、これは期間制限違反など一定の違法行為が前提です。合法的な範囲で派遣契約が終了しただけでは、そのまま直接雇用が成立するわけではありません。

他方で、派遣元との関係では別の保護があります。厚生労働省の「無期転換ルール」では、同一の使用者との有期労働契約が通算5年を超えて更新された場合、労働者の申込みにより無期労働契約へ転換できます。ここで重要なのは、自動ではなく「申込み」が必要なことです。口頭でも有効ですが、後の争いを避けるには書面が望ましいと厚生労働省は案内しています。

つまり、同じ派遣元で契約更新を重ねていた人は、まず無期転換申込権が発生していなかったかを確認すべきです。もし権利があるのに案内されないまま契約終了へ進んでいたなら、見落とせない論点になります。2024年4月からは、無期転換申込権が発生する更新時に、その機会と無期転換後の労働条件を明示することも義務化されました。

雇い止めでも無条件に認められるわけではない

有期契約の終了だからといって、会社側が自由に雇い止めできるわけでもありません。厚生労働省の労働契約ポータルサイトは、反復更新の実態や、雇用継続への合理的期待がある場合には、労働契約法19条により雇い止めが認められないことがあると説明しています。長年にわたり更新が続いていた、更新が当然のように扱われていた、終了理由の説明が一貫しない、といった事情は争点になります。

加えて、2024年4月施行の改正では、有期契約の締結・更新時に、更新上限の有無と内容を明示することが必要になりました。途中で新たに更新上限を設けたり、引き下げたりする場合は、その理由説明も必要です。長年更新されてきた契約が急に終わる局面では、過去の契約書、就業条件明示書、更新通知、メール、面談記録が重要な証拠になります。

実務上は、派遣先が契約を切る話と、派遣元が雇用契約をどう扱うかを切り分けて確認することが重要です。派遣元が新たな就業機会を提示したのか、休業手当の対象になりうるのか、無期転換の申込み余地はあるのか、雇い止め理由の説明はあったのか。この順で整理しないと、問題の所在が曖昧になります。

2024年明示ルールと契約終了時の初動

注意したいのは、長く働いた事実だけで自動的に権利が成立する制度は、派遣では意外に少ないことです。3年ルールは派遣先の受入れ制限であり、5年ルールは派遣元との無期転換です。さらに雇い止め法理は、更新実態と合理的期待を踏まえる個別判断です。名前の似た制度を混同すると、取るべき対応を誤ります。

今後は、2024年施行の労働条件明示ルール見直しが実務でどこまで機能するかが焦点になります。更新上限や無期転換機会の明示が定着すれば、突然の契約終了をめぐる紛争は減らせる余地があります。ただ、厚生労働省による2025年6月公表の令和6年度個別労働紛争解決制度の施行状況では、総合労働相談件数は5年連続で120万件を超えています。制度があっても、現場で十分に使われていない問題は残ります。

契約終了を告げられた場合は、まず書面を集め、口頭説明だけで済ませないことです。そのうえで、都道府県労働局の総合労働相談コーナーや労働組合、弁護士などに早めに相談するのが現実的です。派遣切りは感情的には一つの出来事に見えますが、法的には複数の論点が重なっています。整理して動くことが、最も重要です。

派遣元契約と4点確認による備え

派遣切りの本質は、「同じ職場で長く働いた」という事実と、「誰とどんな契約を結んでいたか」という法的関係が一致しないことにあります。派遣先で15年働いていても、雇用主は派遣元です。だからこそ、3年ルール、無期転換ルール、雇い止め法理を分けて理解しないと、何が守られ、何を自分で主張すべきかが見えません。

確認すべき順番は明確です。派遣先の期間制限違反がないか、派遣元との無期転換申込権が発生していないか、雇い止めに合理性があるのか、更新上限や終了理由の説明は適切か。この4点を押さえるだけでも、突然の契約終了への備えは大きく変わります。長期就業だから安心ではなく、長期就業だからこそ契約の中身を点検する必要があります。

参考資料:

小林 美咲

キャリア・教育

キャリア形成・教育改革・リスキリングなど、人と学びの接点を取材。変化する時代に求められる「働く力」を問い続ける。

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