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中国外骨格ロボ急成長 杭州RoboCTの医療発消費市場戦略全貌

by 伊藤 大輝
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はじめに

中国ロボット産業の話題は、ここ1年で人型ロボットや工場自動化に集中しがちです。もっとも、足元で着実に伸びているのは、医療や歩行支援に近い外骨格ロボットの領域でもあります。とくに浙江省杭州市のRoboCTは、病院向けリハビリ機器で積み上げた臨床実績を土台に、2025年から個人向け製品へ一気に広がり始めました。

この会社を語る際に頻繁に使われるのが、「外骨格は人間の新しい器官になる」という表現です。ただし、これは医学的な定義ではなく、創業者や会社が掲げる将来像です。重要なのは、その比喩の裏側に、杭州の政策支援、高齢化による需要、医療データの蓄積、そして価格を下げた消費者製品という複数の現実要因が重なっている点です。本記事では、その構造を整理します。

杭州集積と政策支援の実像

杭州が外骨格企業を育てる産業基盤

杭州はAlibabaやUnitreeの知名度で語られがちですが、実際にはロボット関連企業の裾野がかなり厚い都市です。杭州市が公表した「杭州市人形机器人产业发展规划(2024-2029年)」によると、同市にはロボット関連企業が200社超あり、2023年のロボット産業チェーン工業産値は150億元に達しました。行政文書の対象は人型ロボット中心ですが、医療、物流、巡検、家庭サービスまで含めた応用面の広がりを前提にしています。

同計画は、2027年までに3〜4社の世界級整機企業の誘致育成、30以上の応用実証シーンの形成を掲げ、2029年には産業規模500億元を目指しています。ここで重要なのは、杭州が単に研究開発拠点を集めるだけでなく、検証、中試、場面実装、金融支援まで一体で整備しようとしていることです。RoboCTのような応用型企業にとって、病院や高齢者ケア、家庭サービスへ橋を架けやすい環境がすでに用意されているわけです。

中国ロボット市場拡大と医療領域への波及

中国全体のロボット投資も、RoboCTの追い風です。国際ロボット連盟(IFR)によると、中国は2024年に29万5000台の産業用ロボットを導入し、世界導入量の54%を占めました。稼働在庫は200万台を超え、国内メーカーの中国市場シェアも57%まで上昇しています。工場向けの数字ですが、部品供給、制御技術、量産ノウハウが国内で厚くなる効果は、外骨格のような周辺領域にも波及します。

加えて、需要側の土台も大きいです。中国老齢協会が2026年1月19日に掲載した国家統計局データでは、2025年末の60歳以上人口は3億2338万人で、総人口の23.0%を占めました。歩行支援や在宅リハビリへの潜在需要は、単なる医療機器市場ではなく、高齢化対応の生活インフラとして膨らむ可能性があります。杭州で外骨格が注目されるのは、技術の面白さだけではなく、社会課題との接点が明確だからです。

RoboCT急成長の構造

病院向け実績で築いた技術と信頼

RoboCTは2017年設立で、外骨格の核心部品と制御技術を自社で積み上げてきました。中国康復医学会の2024年4月掲載情報によれば、同社は5系列の康復外骨格製品で、中枢神経病変向けのNMPA登録証を取得しています。さらに、500件超の知的財産を申請し、40カ国超に製品を展開、当時の時点で全国700超の医療機関と連携し、40万回超のサービス実績を持っていました。

この数字は、単なる販促材料ではなく、RoboCTの勝ち筋を示しています。外骨格は、装着感や重量だけでなく、患者の意図をどこまで正確に読み取れるか、安全に繰り返し訓練できるかが重要です。36Kr配信の2025年3月28日記事では、同社の医療級製品は累計62.3万人次を支援し、意図認識の正確率98.7%、日次サービス効率3倍、脳卒中ユーザーの歩行訓練効率約53%向上という社内データを示しました。これらは第三者の大規模査読論文ではなく企業公表値ですが、病院導入を通じて学習データと運用経験を蓄積してきたことは確かです。

さらに同社は、無創脳機接口や脊髄電刺激と外骨格の組み合わせも模索しています。ここでのポイントは、外骨格を単独ハードとして売るのではなく、リハビリ計画、クラウド管理、遠隔支援まで含むサービスとして組み上げていることです。2026年1月のCES 2026でRoboCTは、自社のRaaSモデルを「病院から家庭まで連続する支援基盤」と位置づけました。外骨格を「新しい器官」と呼ぶ表現は、この継続支援型モデルの延長線上に置かれています。

消費者市場への拡張と価格破壊

RoboCTが一段と注目を集めたのは、2025年に個人向け外骨格へ本格参入したからです。21経済網が2025年4月1日に報じたところでは、同社の無電源型「易行EasyGo外骨格助行器」は約2500元で発売され、上线15秒で数百台が完売しました。重量は2.5キロ未満で、充電不要という設計は、高齢者やライトユーザーに入りやすい構成です。

この低価格化は、医療機器としての高度機能をそのまま家庭へ移したというより、用途を絞り込んだ結果です。36Kr系の2026年3月5日記事で創業者の王天氏は、病院向けで技術スタックを磨いた後、消費者向けでは「減法」がやりやすいと説明しています。つまり、万能機を目指すのではなく、歩行補助、登山補助、関節負担軽減など、場面ごとに必要機能を切り出して価格と重さを下げる戦略です。

資本市場もこの移行を評価しています。2025年3月28日にBラウンド、2026年3月5日から13日にかけては億元級のB+ラウンドが報じられました。毎日商報によると、RoboCTの累計サービスは92万人次を超え、2025年3月投入の個人向け製品は2599元前後で15秒以内に約200セットを売り切りました。医療機関向けで稼働実績を積んだ企業が、個人向けでは価格を抑え、量産と販路拡張に投資する構図がはっきり見えます。

注意点と今後の展望

外骨格を「人間の新しい器官」とみなす見方には、誤解もあります。現時点の外骨格は、スマートフォンのように誰もが常時使う一般消費財ではありません。適合する身体条件、装着時間、バッテリーや重量、故障時対応、安全基準、保険償還の仕組みなど、普及を左右する論点はまだ多く残ります。医療向けの性能が高いことと、一般家庭で無理なく日常利用できることは、同じ意味ではありません。

もう1つの論点は、企業発表値の扱いです。RoboCTの回復効率や意図認識の精度は魅力的ですが、本文で触れた通り、多くは会社や提携メディア経由の数字です。したがって、投資家や読者は、今後どこまで第三者検証や医療論文、保険制度との接続が進むかを見極める必要があります。

それでも、展望は明るいです。杭州の産業政策、高齢化、中国のロボット供給網、そして病院から家庭へというサービス設計が、RoboCTには同時に追い風になっています。2026年1月のCESで同社は、外骨格を高齢化対応、産業安全、アウトドア支援へ広げる構想を打ち出しました。今後の焦点は、話題性そのものではなく、低価格製品で継続利用者をどこまで増やせるか、医療実績をどこまで家庭用途へ変換できるかにあります。

まとめ

杭州の急成長ロボ企業としてRoboCTが注目される理由は、派手な比喩だけでは説明できません。背景には、杭州市の産業政策、中国全体のロボット供給網拡大、3億人超の高齢人口、病院向けで積んだNMPA登録と運用実績、そして2500元級の個人向け製品という現実的な積み上げがあります。

言い換えれば、「新しい器官」という言葉は、まだ未来予想図です。ただ、その未来予想図を空想で終わらせないだけの政策、資金、導入実績、価格戦略が、2025年から2026年にかけて揃い始めたのも事実です。中国ロボ産業を追ううえでは、人型ロボットだけでなく、外骨格のような生活密着型ロボットがどこまで日常へ浸透するかにも注目する価値があります。

参考資料:

伊藤 大輝

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