AI時代のコンサル再編でINTLOOPが示す人材戦略の現在地
DX77.8%と生成AIで揺れるコンサル需要
コンサル業界ではここ数年、案件の取り方と人材の抱え方が同時に変わり始めています。背景にあるのは、DX需要の継続と生成AIの普及です。IPAの「DX動向2025」によると、日本企業で何らかの形でDXに取り組む割合は77.8%まで高まりましたが、成果はなお「内向き・部分最適」に偏りやすいとされています。つまり、相談相手としてのコンサル需要は残る一方、従来型の資料作成や要件整理だけでは価値を説明しにくくなっています。
その変化のなかで、大手総合ファームへの発注集中が生む安心感と、同時に生まれる反動も見逃せません。本稿では、タイトルにある「ベイカレ疲れ」を、公開統計では測れない業界用語としてではなく、特定大手への依存が進んだときに起きやすい高コスト化、提案の同質化、運用現場との距離感への反動を指す便宜的な表現として扱います。そのうえで、Baycurrentの拡大型モデルと、INTLOOPが採る正社員と外部プロ人材のハイブリッド型を比較し、AI時代にどちらがどんな強みを持つのかを整理します。
大手一強が生む利便性と反動
ベイカレント拡大が示す営業力と総合化
まず押さえるべきなのは、Baycurrentがいまや独立系コンサルの中でも別格の規模に入っていることです。公式の会社概要では、連結売上高は2026年2月期で1,483億円、連結従業員数は2026年4月時点で7,551名です。AI、クラウド、M&A、人材・組織、マネージドサービスまで広いサービス群を並べており、経営層向けの構想策定から現場実装までを一社で受けやすい体制を持っています。
この規模が意味するのは、単純な売上の大きさではありません。大企業の発注側から見ると、調達先を絞れること、役員説明と現場推進を同じ看板で通せること、全国・複数部門の大型案件にも人を一気に張れることが大きな魅力です。AI領域でもBaycurrentは、技術力だけでなく事業や業務への深い理解が導入の秘訣だと説明しており、構想だけで終わらない「王道アプローチ」を前面に出しています。大企業がまず大手に相談したくなる理由は、ここにあります。
ただし、発注の集中は別の問題も生みます。ひとつは、提案の標準化が進みやすいことです。大規模なファームは再現性のある方法論を武器に成長しますが、その強みは裏返すと、顧客から見た「また同じ絵に見える」という感覚につながりやすいです。もうひとつは、案件単価と社内調整コストの上昇です。特に生成AIの浸透で、リサーチ、要約、ドラフト、論点整理の一部が速く安くできるようになると、発注側は「何に対して高いフィーを払うのか」を以前より厳しく見ます。
ここで「ベイカレ疲れ」という言い回しが注目される背景が見えてきます。それはBaycurrent固有の問題というより、営業力の強い大手ファームに案件が集まり、変革案件が定型化しやすくなる局面で起きる、買い手側の自然な反応です。大手に頼めば外しにくい一方で、各社が似たスライド、似たKPI、似た組織設計に収束すると、次に求められるのは「その会社の現場で本当に回るのか」という問いになります。安心感が強まるほど、次の差別化は難しくなるのです。
AI普及で揺らぐ人月モデル
この変化を決定づけているのがAIです。PwC Japanの2025年調査では、日本で「社内で生成AIを活用中」または「社外に生成AIサービスを提供中」と答えた企業は56%に達しました。一方で、日本企業は他国より効果創出が弱く、生成AIを業務や事業構造の抜本改革よりも、身近な効率化の手段として捉える傾向が強いとされています。これは、企業がコンサルに期待する役割が「資料を増やすこと」から「変革を定着させること」へ移ることを意味します。
IPAの「DX動向2025」も同じ方向を示しています。日本企業のDXは進んでいるものの、「内向き」で「部分最適」に偏りやすく、部門横断や外部連携が弱いと分析されています。つまり、課題は構想不足ではなく、全体最適の設計と実装不足にあります。ここでは人月を多く入れるだけでは不十分で、業務知識、データ設計、変革マネジメント、内製化支援をどう束ねるかが問われます。
海外のプロフェッショナルサービス市場でも同じ揺れが起きています。Thomson Reutersの2026年レポートでは、組織として生成AIを使っている専門サービス企業は40%に増え、15%がエージェント型AIを利用しているとされます。その一方で、AIのROIを測っている組織は18%にとどまり、AIがジョブや課金モデルを脅かすという懸念も広がっています。ここで重要なのは、AIがコンサル需要を消すのではなく、請求の根拠を「人数と時間」から「成果と実装」に移し始めていることです。
Baycurrent自身もAIページで、導入の鍵は技術力より事業理解だと強調しています。これは、業界全体が単純な人海戦術の限界を自覚し始めている証拠でもあります。AIで削られやすいのは、資料作成や単純分析のように再利用しやすい作業です。逆に残るのは、社内政治を含む合意形成、個社固有の業務再設計、導入後の定着支援です。ここに、次の競争軸が生まれます。
INTLOOPが見出す差別化の核心
正社員と外部人材を束ねる供給設計
INTLOOPの特徴は、正社員のコンサル組織だけで勝負していないことです。会社概要によると、連結社員数は2024年7月末時点で1,159名です。一方、2025年6月の第3四半期決算リリースでは、コンサルタントやITエンジニアなどの登録プロ人材は約49,000名と説明されています。さらに公式サイトでは、約10,000名のPMO人材を保有し、リソースマネジメントまで支援できる点を打ち出しています。
この構造の強みは、案件ごとに必要な人材の粒度を細かく調整できることです。大手ファーム型は、組織の厚みとブランド力で案件を取り、内部の人員配置で回す力に優れます。対してINTLOOP型は、コアとなる社員が上流設計と品質管理を担いながら、外部の専門人材を機動的につなぎ、PMO、IT、業務、実装支援を混成で組み上げやすいです。AIによって単純作業の単価が下がる局面では、固定費の重い陣容より、必要な専門性を必要な期間だけ束ねられる供給設計が効いてきます。
このモデルは、キャリアの観点から見ても含意が大きいです。経済産業省は2026年4月、デジタルスキル標準ver.2.0を公表し、AI活用の前提としてデータマネジメント類型を新設し、ビジネスアーキテクトやプロダクトマネージャーなどの役割を再定義しました。生成AI時代には、単に分析を手伝う人より、業務とデータと実装を横断して設計できる人が価値を持ちます。INTLOOPのように社員と外部専門家が混ざる環境は、こうした横断型人材を案件単位で編成しやすいのです。
同時に、フリーランス人材の活用は単なる安価な外注では成立しません。2024年11月1日に施行されたフリーランス法は、取引の適正化と就業環境の整備を目的に、報酬減額や買いたたきなどを禁じました。厚生労働省の実態調査も、フリーランスの取引環境を政策課題として継続把握しています。つまり、外部人材を使う側は、単価交渉のうまさではなく、透明な契約、再委託管理、品質保証、情報管理まで含めて仕組みを持たなければなりません。INTLOOPの差別化が本物になるかどうかは、この運用能力にかかっています。
収益性重視とAI実装の接続
INTLOOPの直近業績を見ると、狙いは量の拡大だけではありません。2025年7月期第3四半期累計の売上高は247.87億円で前年同期比26.5%増、営業利益は15.14億円で同56.8%増でした。会社側は、収益性を重視した営業活動と、高収益案件の獲得進捗を強調しています。ここで注目すべきは、売上進捗率が通期計画に対して71.7%にとどまる一方、営業利益進捗率は76.9%と高い点です。案件の取り方そのものを変え、粗利の出る仕事に寄せていることがうかがえます。
この姿勢は、AI時代のコンサル経営と相性が良いです。人月商売が苦しくなる局面では、売上総量よりも、どの工程で利益を確保するかが重要になります。AIで置き換えやすい作業を安く長く請けるより、経営課題に近い上流、全社変革の設計、複数部門をまたぐPMO、データ活用やAI導入の定着支援に寄せた方が利益率を守りやすいからです。INTLOOPが主要顧客向けの専任営業部署を設け、ハイレイヤー人材の採用を進めているのも、この文脈で理解できます。
さらに、INTLOOP Strategyのイノベーション事業は、2030年に向けた労働人口減少を前提に、マルチAIエージェントを中心とする新しいソリューション開発を掲げています。ここで語られているのは、AIを単なる社内効率化ツールとして使う発想ではありません。コンサルティング業務の高度化・自動化と、顧客企業の生産性向上を両方視野に入れています。自社の原価低減と顧客向け価値提供を同じ技術基盤でつなぐ構想がある点は、単発のPoC支援にとどまるファームとの差になります。
もちろん、課題もあります。外部人材が多いモデルは、案件ごとの品質ぶれ、顧客との関係資産の蓄積しにくさ、機密情報管理の難しさを抱えやすいです。また、社員数ベースではBaycurrentほどの厚みがないため、巨大案件を一気通貫で大量投入する力では見劣りする場面もあります。ただ、生成AIで定型作業の価値が薄れ、企業が「必要な専門性だけを機動的に使いたい」と考えるほど、この弱みは相対化されます。大量常駐の優位が揺らぐからです。
AI時代の人材ポートフォリオ設計力
「AIがコンサルを不要にする」とみるのは早計です。実際には、AIが削るのは人月そのものではなく、人月の中でも説明しやすい定型工程です。だからこそ、顧客はより厳しく成果を見ますし、ファーム側はより厳しく人材ポートフォリオを組み替えます。今後の勝敗を分けるのは、AIツールの保有数ではなく、案件を分解して、どこを社員が担い、どこを専門家ネットワークで補い、どこをAIに置き換えるかを設計する力です。
その意味で、BaycurrentとINTLOOPは対極というより、別々の強みを持つ二つの解答です。前者は大規模案件をまとめ上げる総合力で優位を持ち、後者は専門人材を束ねる柔軟性と収益性重視の案件選別で勝機を探っています。発注企業にとって重要なのは、ブランド名より、自社課題が「全社変革の統合作戦」なのか、「不足する専門性を早く埋める供給設計」なのかを見極めることです。働く側にとって重要なのは、所属形態より、どの工程で代替されにくい価値を出せるかを見直すことです。
ベイカレ疲れが示す実装力競争への移行
いわゆる「ベイカレ疲れ」が示しているのは、一社の栄枯盛衰ではありません。コンサル業界の競争が、営業力と人数の勝負から、実装力と人材編成力の勝負へ移っているというサインです。Baycurrentの拡大型モデルはなお強力ですが、AIが定型工程を圧縮するほど、INTLOOPのようなハイブリッド型には出番が増えます。
今後の焦点は、どちらがAIを使えるかではなく、どちらがAI時代にふさわしい仕事の切り分けを作れるかです。発注側は「誰に頼むか」だけでなく、「どの仕事を、どの単位で、どの人材構成で頼むか」を見直す必要があります。キャリアの側でも、肩書きや所属先より、変革の現場で再現できる専門性をどう積み上げるかが、これまで以上に重要になります。
参考資料:
- Overview 会社概要 | ベイカレント
- AI | 産業・サービス | ベイカレント
- 産業・サービス | ベイカレント
- 会社概要 | INTLOOP株式会社
- INTLOOP株式会社 公式サイト
- INTLOOPが2025年7月期における第3四半期決算を発表 | INTLOOP株式会社
- イノベーション事業 | INTLOOP Strategy
- DX動向2025 | IPA
- デジタルスキル標準ver.2.0を公表します | 経済産業省
- 生成AI時代のDX推進に必要な人材・スキルの考え方2024 | 経済産業省
- 生成AIに関する実態調査 2025春 5カ国比較 | PwC Japanグループ
- 2026 AI in Professional Services Report | Thomson Reuters
- フリーランスの業務及び就業環境に関する実態調査:調査の概要 | 厚生労働省
- フリーランス取引の状況についての実態調査(法施行前の状況調査)結果について | 厚生労働省
- フリーランス法特設サイト | 公正取引委員会
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