共通テストに登場「好適環境水」が注目される理由
はじめに
2026年1月17日に実施された大学入学共通テストの英語リスニング第5問に、「A New Way of Fish Farming(魚養殖の新しい形)」と題した問題が出題されました。問題の中で取り上げられた「the new type of water(新しいタイプの水)」は、架空の物質ではありません。岡山理科大学が開発し、実際に国内外で活用されている「好適環境水」がモデルとされています。
この出題は受験生の間で大きな話題となり、岡山理科大学も公式にコメントを発表しました。なぜ共通テストにこの技術が取り上げられたのか、そして好適環境水とはどのような技術なのかを解説します。
共通テストに登場した「魔法の水」
出題の内容と構成
英語リスニング第5問は、講義形式の長文を聞き取り、ワークシートを完成させる技能統合問題です。2026年の出題では、海水魚の陸上養殖に関する講義が素材として使われました。
問題文では、この水を「海水に含まれているミネラルを淡水に加えたもの」と説明し、「塩分及びミネラルの含有量が海水より低い混合水」と定義しています。さらに、この水を使うことで「海水魚が内陸国で育てられる」「成長が早い」「病気にかかりにくい」という特性が紹介されました。
岡山理科大学の反応
岡山理科大学は、共通テストへの出題を受けて公式トピックスで「共通テストの英語リスニングに『the new type of water』の陸上養殖が登場!」と発表しました。問題文の内容が、同大学で開発された好適環境水の特長と一致していることを説明しています。
好適環境水とは何か
淡水でも海水でもない「第三の水」
好適環境水は、2006年に岡山理科大学の山本俊政准教授によって開発された人工水です。淡水にナトリウム、カリウム、カルシウムという、魚の代謝に不可欠な3種の電解質を海水よりもはるかに低い濃度で添加して作られます。
塩分濃度は海水の約4分の1と低く、淡水でも海水でもない「第三の水」として位置づけられています。最大の特徴は、この水の中で海水魚と淡水魚が同時に生存できるという点です。従来の養殖の常識を覆す画期的な技術として、発表当初から注目を集めてきました。
驚異的な養殖成果
好適環境水による養殖では、通常の海水養殖と比較して顕著な成果が報告されています。ベニザケの養殖実験では、通常の約3.1倍の成長速度を達成し、生存率は94%に達しました。ベニザケは病気にかかりやすく養殖が難しい魚種として知られていましたが、好適環境水を使った陸上養殖により、世界で初めて成功を収めたのです。
魚にとって海水中の余分な塩分を排出する作業は大きなエネルギー消費を伴います。好適環境水では塩分濃度が低いため、魚のストレスが軽減され、そのエネルギーを成長に回せることが成長速度向上の主な要因と考えられています。
内陸国での養殖を可能に
好適環境水の技術は、海のない内陸地域でも海水魚の養殖を可能にします。実際に、モンゴルでは交雑ハタの陸上養殖が実現しており、海に面していない国や地域でも新鮮な海水魚を生産できることが実証されています。
この技術は、世界的な食糧問題の解決策としても注目されています。共通テストの問題文でも「世界的な食糧不足に対処するための重要な手段の一つ」として養殖が位置づけられており、好適環境水の社会的意義が反映された出題内容となっています。
なぜ共通テストに出題されたのか
変化する入試の出題傾向
近年の大学入学共通テストでは、単純な語学力だけでなく、科学技術や社会問題に関する理解力を問う出題が増えています。英語リスニングにおいても、日常会話レベルの問題から、学術的な講義を聞き取る力を測る問題へとシフトが進んでいます。
好適環境水の出題は、この傾向を端的に示す例です。受験生には、英語の聞き取り能力に加えて、科学的な概念を理解し、グラフから情報を読み取り、それらを統合して判断する力が求められました。
SDGsや社会課題への関心の反映
食糧安全保障、持続可能な水産業、環境技術といったテーマは、SDGs(持続可能な開発目標)と密接に関連しています。共通テストの出題者が、受験生に求める「知識」の範囲が、従来の教科書的な内容から現実社会の課題へと広がっていることの表れといえます。
好適環境水は、環境問題と食糧問題の両方に対するソリューションとして、出題素材としての適性が高かったと考えられます。
好適環境水の今後の展望
アクアポニックスへの応用
岡山理科大学では、好適環境水を活用した循環型農法「アクアポニックス」にも取り組んでいます。魚の養殖と野菜の水耕栽培を組み合わせた持続可能な食料生産システムです。岡山県立東岡山工業高校では、大学の協力のもと、タマカイの養殖とバナナなどの水耕栽培を組み合わせたプロジェクトが進行しています。
商業化への課題
好適環境水の技術は研究段階から実証段階へと進みつつありますが、大規模な商業化にはコスト面での課題が残ります。電解質の管理や水質維持にかかるコスト、設備投資の回収期間など、経済的な持続可能性の確保が今後の焦点となるでしょう。
まとめ
2026年共通テストへの出題は、好適環境水という日本発の革新的技術を、多くの受験生に知らしめる機会となりました。「魔法の水」と呼ばれるこの技術は、海水魚を内陸で育てるという常識を覆す発明であり、世界の食糧問題への貢献が期待されています。
入試問題としても、英語力と科学的リテラシーの双方を問う良問として評価されています。今後、好適環境水の商業化が進むにつれて、この技術の社会的なインパクトはさらに大きくなるでしょう。受験勉強の枠を超えて、注目すべき技術です。
参考資料:
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