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メルカリとfreeeの良い赤字が黒字に変わる財務構造の見抜き方

by 佐藤 理恵
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赤字企業を読む前に見るべき資金余力

成長企業の赤字は、損益計算書だけで判断すると見誤ります。赤字は利益が出ていない状態を示しますが、すぐに倒れるかどうかは貸借対照表とキャッシュフローで決まります。現金、借入余力、粗利率、顧客基盤が十分にあれば、赤字は将来の収益を先に買う投資になり得ます。

メルカリとfreeeは、その典型例です。メルカリは2020年6月期に営業赤字193億円、親会社所有者帰属利益で227億円の赤字を出しながら、2023年6月期に営業利益170億円へ転換しました。freeeも2020年6月期から2024年6月期まで営業赤字を続けましたが、2025年6月期に営業利益6億円、調整後営業利益18億円を計上しました。

重要なのは「赤字だったか」ではなく、「赤字の原因が顧客資産を増やす投資だったか」「その投資を止めれば利益が出る構造だったか」です。財務諸表を分解すると、両社の赤字は見た目ほど同じではありません。メルカリは巨大なマーケットプレイスの粗利と広告投資の調整余地、freeeはSaaSの継続課金と前受収益が支えになっていました。

メルカリの赤字を支えた厚い粗利と現金

売上成長が先に示した市場の厚み

メルカリの赤字を「危ない赤字」と決めつけにくかった理由は、売上収益が伸び続けていたことです。2018年6月期の売上収益は357億円でしたが、2020年6月期には762億円まで拡大しました。同じ期間に営業赤字は44億円から193億円へ広がっていますが、これは需要が失われて赤字になったというより、成長市場を取りにいくための投資負担が先行した形です。

この差は、マーケットプレイス型ビジネスの損益構造を見れば理解できます。CtoC取引では、商品在庫を自社で抱える小売業とは異なり、売上総利益率が比較的高くなります。2025年6月期のメルカリは売上収益1926億円、売上総利益1382億円で、粗利率は7割を超えています。赤字局面でも、取引が増えれば粗利のプールが厚くなる構造だったわけです。

「良い赤字」は、売上が伸びるほど将来の固定費吸収力が増す赤字です。反対に、売れば売るほど粗利が薄くなる赤字は危険です。メルカリの場合、2020年6月期の赤字は重く見えましたが、2021年6月期には営業利益51億円へ黒字転換し、2022年6月期に再び赤字化した後も、2023年6月期には営業利益170億円を出しました。損益の振れは大きいものの、黒字を出せる事業基盤は確認できていました。

広告費を絞れる構造と黒字転換

赤字の質を読むうえで、販売費及び一般管理費の中身は決定的です。メルカリの2025年6月期の販管費は1106億円でした。このうち広告宣伝費は399億円で、前年の442億円から減っています。広告費はゼロにはできませんが、在庫仕入れや工場維持費よりも経営判断で調整しやすい費目です。

つまり、広告を増やしてユーザー獲得や利用頻度を押し上げている間は赤字になりやすい一方、一定の認知とネットワーク効果ができた段階では、広告費を抑えて利益を出しにいけます。2025年6月期の営業利益278億円は、広告費をなお大きく使いながら出た利益です。これは、広告を削っただけの一時的黒字ではなく、本業の粗利が厚くなった結果と読めます。

もちろん、メルカリの赤字が常に良質だったわけではありません。米国事業、Fintech、メルカリ ハロなど、成長領域への投資は不確実性を伴います。特にFintechは債権残高の増加が収益機会にもリスクにもなります。信用コストが想定以上に膨らめば、損益計算書の黒字はすぐ圧迫されます。良い赤字かどうかは、投資対象ごとに分けて見る必要があります。

利益剰余金の赤字と倒産リスクの違い

財務諸表で誤解されやすいのが、利益剰余金のマイナスです。メルカリの2025年6月期末の利益剰余金は30億円のマイナスでした。過去の累積損失が残っているためで、これだけを見ると不安に見えます。しかし同じ時点で、現金及び現金同等物は1470億円、資本合計は996億円ありました。

倒産リスクを測るうえでは、過去損失の累計よりも、今後の支払いに使える資金と、損失を吸収できる資本の厚さが重要です。メルカリは2025年6月期に営業利益278億円、親会社所有者帰属利益261億円を出しています。一方で営業キャッシュフローは119億円のマイナスでした。これは営業債権などの増加が大きく、損益だけでは資金の動きが読めないことを示しています。

ここに財務分析の要点があります。メルカリは黒字企業になっても、Fintechを含む事業構造のためにキャッシュフローが揺れます。したがって「黒字だから安全」でも「営業CFがマイナスだから危険」でもありません。売上総利益、広告費、債権残高、貸倒引当金、現金残高を同時に見て、利益の質と資金繰りを切り分ける必要があります。

freee黒字化を生んだARR成長と費用統制

SaaSの赤字を読むARRと前受収益

freeeの赤字は、メルカリとは別の読み方が必要です。freeeはクラウド会計や人事労務を中心とするSaaS企業で、売上の多くが継続課金です。有価証券報告書では、サブスクリプション売上比率が90%超で、2025年6月期の月次平均解約率は約1.1%とされています。つまり、一度獲得した顧客から翌期以降も売上が積み上がりやすい財務モデルです。

このタイプの会社では、当期の営業赤字だけを見ると投資過多に見えます。しかし、顧客獲得費用を先に負担し、売上が複数年にわたって回収されるため、成長期には損益が先に悪化します。2025年6月期末のARRは343億円で、前期比31.8%増でした。有料課金ユーザー企業数は60万6533件、ARPUは5万6704円に伸びています。赤字の裏側で、将来売上の土台が増えていたことが分かります。

貸借対照表にもSaaSらしい特徴があります。2025年6月期末の現金及び預金は357億円、流動資産は458億円でした。同時に前受収益は146億円あります。前受収益は、顧客から先に受け取ったものの、会計上はまだ売上にしていない金額です。負債に計上されますが、銀行借入のように利息を払って返済する性質とは異なります。現金が先に入り、サービス提供に応じて売上へ振り替わるため、資金繰りを支える要素にもなります。

費用統制が見えた黒字化の順序

freeeが潰れなかったもう一つの理由は、赤字の間も資本と現金が残っていたことです。2020年6月期の営業赤字は26億円、2021年6月期は24億円、2022年6月期は30億円でした。その後、2023年6月期に79億円、2024年6月期に83億円まで赤字が拡大しましたが、2025年6月期には営業利益6億円へ転換しました。

この動きは、単にコストを切っただけでは説明できません。2025年6月期の売上高は332億円で、前年から30.8%増えました。売上総利益は273億円、粗利率は82%台です。高い粗利率のビジネスで売上が増え、販売費及び一般管理費が前年の293億円から267億円へ減ったことで、営業利益が一気に黒字へ転じました。

特に注目すべきは、調整後営業利益です。freeeの2024年6月期の調整後営業損失は75億円でしたが、2025年6月期は18億円の黒字です。株式報酬費用やM&A関連の無形資産償却などを調整した後の利益が黒字化したことは、事業運営そのものの採算が改善したサインです。会計上の黒字だけでなく、管理会計上の採算も転換した点が大きいです。

メルカリとの違いにある回収速度

メルカリとfreeeの赤字は、どちらも成長投資ですが、回収速度は異なります。メルカリは取引が発生すれば手数料収入が比較的早く損益に反映されます。広告投資の効果も、アプリ利用やGMVの増減として短期間で見えやすいです。一方、freeeは顧客獲得から売上回収までが長く、ARRや解約率を追わなければ赤字の質を判断できません。

そのため、メルカリでは広告費、GMV、粗利、債権の質が中心指標になります。freeeではARR、有料課金ユーザー数、ARPU、前受収益、粗利率が中心です。同じ「赤字企業」でも、見るべき勘定科目はまったく違います。財務諸表を読むときは、事業モデルに合わせて指標を選ぶ必要があります。

2026年6月期に入ってからの四半期データも、この違いを示しています。メルカリは第3四半期累計で売上収益1672億円、営業利益345億円と高い利益水準を保っています。freeeも第3四半期累計で売上高308億円、営業利益6億円を計上していますが、利益額はまだ薄い段階です。黒字化した後の安定度では、メルカリのほうが先行しています。

良い赤字を危ない赤字に変える三つの兆候

赤字が良質かどうかは、将来の黒字化ストーリーだけでは判断できません。成長企業の説明資料には、顧客獲得、AI活用、プロダクト拡充、海外展開といった前向きな言葉が並びます。しかし、会計上はそれらの投資が本当に資産性を持つか、毎期検証されます。投資家や読者が見るべき兆候は三つあります。

第一に、粗利率の低下です。売上が増えても売上総利益率が下がり続ける場合、成長が値引きや高コストの顧客獲得に依存している可能性があります。メルカリの粗利率は2025年6月期で7割超、freeeは8割台です。ここが崩れれば、赤字の意味は大きく変わります。

第二に、資金余力の縮小です。現金残高が減り、営業キャッシュフローのマイナスが続き、借入条件が厳しくなると、経営の選択肢は急に狭まります。freeeの2025年6月期末現金は357億円、メルカリは1470億円と大きいですが、将来も同じ余力が続くとは限りません。特にメルカリは金融債権の増加、freeeはM&Aや営業投資の増加に注意が必要です。

第三に、赤字の説明が「投資」から「構造問題」に変わることです。広告を増やせば伸びる段階は投資ですが、広告を止めると売上が急落するなら依存です。開発費を増やして解約率が下がるなら投資ですが、解約率が改善しないならコストです。良い赤字は、将来の粗利や継続収益を増やします。危ない赤字は、毎期の資金を消費するだけで再現性のある収益基盤を残しません。

財務諸表で見抜く成長赤字の評価軸

メルカリとfreeeが赤字でも潰れなかった理由は、赤字の裏に資金余力と収益モデルがあったからです。メルカリは厚い粗利、広告費の調整余地、巨大な現金残高を持っていました。freeeは高い粗利率、ARRの積み上がり、前受収益を伴うSaaSモデルを持っていました。どちらも、損益計算書の赤字だけでは実態を説明できません。

読者が同じタイプの成長企業を見るときは、五つの順番で確認すると判断しやすくなります。まず現金残高と営業キャッシュフロー、次に売上総利益率、三つ目に販管費の中身、四つ目に継続収益や顧客数の伸び、五つ目に黒字化後も利益が残るかです。赤字は悪ではありませんが、無条件に許されるものでもありません。財務諸表は、その境目をかなり冷静に教えてくれます。

参考資料:

佐
佐藤 理恵

企業分析・M&A

会計士としての経験を活かし、企業の財務構造やM&A戦略を深掘り。数字の裏にある経営者の意思決定を読み解く。

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