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東大首位の利益剰余金ランキングで読む国立大学財務力の実像と課題

by 小林 美咲
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東大首位を示す利益剰余金の読み方

国立大学の「利益剰余金ランキング」は、大学の財務体力を考える入口として注目されています。大学改革支援・学位授与機構の令和7年度版財務データ概要では、令和6年度決算の利益剰余金が東京大学で1610億円、大阪大学で1279億円となっています。いずれも研究大学としての規模、附属病院、外部資金、施設投資が大きく、単なる「黒字の多さ」では説明できない厚みがあります。

ただし、利益剰余金は企業の内部留保と同じ感覚で読める数字ではありません。国立大学法人は利益獲得を目的とする会社ではなく、教育研究、医療、人材育成を担う公共性の高い法人です。剰余金には、現金を伴う余力だけでなく、会計基準や中期目標期間の処理によって生じる形式的な利益も含まれます。受験生、保護者、社会人学習者が見るべきなのは、順位そのものよりも、その大学が将来の教育・研究環境を維持できる構造を持っているかです。

会計基準が生む剰余金と現金の距離

国立大学法人会計の特殊性

文部科学省の令和6事業年度決算資料によると、集計対象は国立大学法人と大学共同利用機関法人を合わせた85法人です。貸借対照表では、資産の部が11兆3034億円、負債の部が2兆8271億円、純資産の部が8兆4763億円となっています。純資産の内訳には、政府出資金、資本剰余金、利益剰余金が並びます。

利益剰余金は、前中期目標期間繰越積立金、目的積立金、積立金、当期未処分利益などに分かれます。文科省資料では、前中期目標期間繰越積立金5908億円、目的積立金751億円、積立金1兆117億円、当期未処分利益411億円が示されています。これらを合わせると、国立大学法人等全体の利益剰余金は約1兆7187億円規模です。

しかし、ここで重要なのは「利益剰余金イコール自由に使える現金」ではない点です。文科省資料は、前中期目標期間繰越積立金には現金等がない額が含まれること、積立金も会計処理上の形式的・観念的利益を含み、法人に現金等が残っているものではないことを明記しています。ランキングの数字だけで「余裕がある大学」と判断すると、大学財務の実態を見誤ります。

目的積立金と積立金の違い

国立大学法人で実際の戦略余地を考えるうえでは、目的積立金の扱いが大切です。損益計算上の利益は、原則として積立金に整理されます。積立金は赤字補てんに使われる性格が強く、大学が自由に新規事業へ回せる資金とは言い切れません。一方で、文部科学大臣の承認を受けた剰余金は、中期計画で定めた使途の範囲内で教育研究の質向上などに充てることができます。

たとえば、研究設備の更新、学生支援、老朽施設への対応、デジタル教育環境の整備などは、大学の競争力に直結します。利益剰余金が多い大学ほど選択肢を持ちやすい面はありますが、その内訳が目的積立金なのか、現金を伴わない積立金なのかで意味は変わります。

この違いは、受験生や社会人学習者にも関係します。大学の財務力は、授業料の水準だけでなく、少人数教育、研究室配属、留学支援、キャリア支援、データサイエンス教育、リカレント教育の充実度に跳ね返ります。ランキングを見るなら、利益剰余金の絶対額だけでなく、自己収入比率、外部資金、施設の老朽化、学生一人当たり教育経費もあわせて見る必要があります。

会計改訂がランキングに与える影響

近年の国立大学法人会計では、資産見返負債の処理などをめぐる会計基準改訂も、損益や利益剰余金の見え方に影響しています。東京大学の令和6事業年度決算概要でも、当期総利益の改善について、前年度に続く会計基準改訂の影響が大きいと説明されています。

つまり、ランキング上位に入ることは財務基盤の厚さを示す一つのサインですが、毎年度の教育研究活動から恒常的に資金余力を生み出しているとは限りません。大規模研究プロジェクト、寄附金、附属病院、施設整備、会計制度の変更が複合的に反映されます。

大学財務を読む際には、「どれだけ利益剰余金があるか」よりも、「その剰余金がどのように生じ、どこまで教育研究へ再投資できるか」を見るべきです。国立大学の強さは、帳簿上の厚みと、現場に投じられる資源の質の両方で決まります。

大規模大学に集中する研究費と病院収益

東京大学の外部資金と研究投資

東京大学の令和6年度財務情報を見ると、資産合計は1兆5048億円、負債合計は2997億円です。大学改革支援・学位授与機構の財務データ概要では、利益剰余金が1610億円と示されています。現金及び預金は1167億円、有価証券は541億円で、資金運用や外部資金を含む財務構造の大きさが際立ちます。

東京大学の決算概要では、経常収益が2991億円、経常費用が2901億円、当期総利益が88億円となっています。収益構成では、国費が約32.4%、自己収入が約28.8%、外部資金が約38.8%です。外部資金は1160億円で、前年度比247億円増とされています。受託研究、共同研究、寄附金、政府系大型プロジェクトが、大学の研究活動と財務の双方を押し上げています。

この構造は、東京大学が単に大きな大学であること以上の意味を持ちます。研究大学としての評価、産学連携の厚み、国際共同研究、大学債を含む資金調達力が、教育研究環境を支えています。学部生にとっても、こうした財務基盤は研究室の設備、大学院教育、留学機会、スタートアップ支援などの形で間接的に効いてきます。

一方で、東京大学自身も財務状況の改善を課題としています。人件費は1105億円で前年度比34億円増、物件費も受託研究等の拡大で増えています。研究力を高めるほど、研究者、職員、設備、安全管理、情報基盤への支出も増えます。利益剰余金が大きい大学ほど、成長投資と固定費増加の両面を抱える構図です。

大阪大学に見る病院と大型施設投資

大阪大学も利益剰余金ランキングの上位に位置します。大学改革支援・学位授与機構の令和7年度版財務データ概要では、令和6年度決算の利益剰余金が1279億円です。大阪大学の事業報告書では、資産合計が6074億円、負債合計が1911億円、純資産合計が4163億円となっています。

大阪大学の特徴は、附属病院と大型施設投資の影響が強いことです。令和6年度は医学部附属病院統合診療棟や感染症総合教育研究拠点新棟の新営により、資産と負債の双方が大きく動いています。長期借入金は医学部附属病院統合診療棟の新営に伴って増加し、負債合計も前年度比で大きく増えました。

損益面では、経常収益が1826億円、経常費用が1698億円、当期総利益が132億円です。大阪大学の事業報告書は、感染症総合教育研究拠点新棟新営に伴う寄附金債務の収益化が、経常利益や当期総利益の増加要因になったと説明しています。ここでも、利益の増加は単純な「儲け」ではなく、施設整備や寄附金処理と密接に関係しています。

附属病院を持つ国立大学では、医療収入が大学財務を支える一方、診療経費や人件費も大きく膨らみます。文科省は、令和6年度の附属病院セグメントについて、全国立大学法人の業務活動の約45%を占める重要セグメントとしています。同時に、物価・人件費高騰や高額医薬品の影響により、附属病院セグメントは約286億円の損失を計上したと説明しています。

上位校と小規模校を同じ物差しで測る限界

利益剰余金ランキングでは、東京大学、大阪大学のような大規模総合大学が目立ちます。背景には、学部・研究科の規模、附属病院、共同利用・共同研究拠点、外部資金、寄附金、施設規模の違いがあります。利益剰余金は規模に連動しやすいため、小規模単科大学や教育系大学と単純比較するには注意が必要です。

たとえば、教員養成系大学は地域の学校教育を支える重要な役割を持ちますが、附属病院収益や大型受託研究があるわけではありません。芸術系、体育系、技術科学系、大学院大学も、教育研究の特性が大きく異なります。利益剰余金が少ないから教育の質が低いとは言えず、反対に利益剰余金が多いから学生支援が手厚いとも限りません。

本当に見るべきなのは、大学の使命と財務構造がかみ合っているかです。地域教員を育てる大学なら、学校現場との連携、実習支援、教員採用への支援が重要です。研究大学なら、研究費、大学院教育、国際共同研究、若手研究者支援が焦点になります。ランキングは入口であり、大学選びや政策評価の結論ではありません。

少子化と物価高が迫る財務戦略の再設計

日本の高等教育は、人口減少の圧力を正面から受けています。文科省の学校基本統計では、令和7年度の大学全体の在学者数は297万2千人、学部は264万6千人、大学院は27万7千人で、いずれも過去最多とされています。しかし、長期的には18歳人口の縮小が避けられません。文科省の高等教育政策資料では、18歳人口が2040年に88万人程度へ減少する前提が示されてきました。

この環境で国立大学が財務基盤を保つには、授業料収入だけに依存しない設計が必要です。受託研究、共同研究、寄附金、リカレント教育、海外からの学生・研究者の受け入れ、大学発スタートアップ支援など、収入源の多様化が求められます。文科省の令和6事業年度決算でも、運営費交付金は近年同程度で推移する一方、外部資金は増加傾向とされています。

ただし、外部資金の拡大は万能ではありません。大型研究費は採択年度によって変動し、研究者や事務職員の負担も増やします。病院収益は地域医療を支える一方、高額医薬品、人件費、設備更新で利益を圧迫します。施設整備は教育研究環境を改善しますが、借入金や維持管理費も伴います。

さらに、物価高と賃上げ圧力は大学運営を直撃します。教育研究には、電気代、情報基盤、実験材料、図書、清掃警備、学生支援など、価格転嫁しにくい支出が多くあります。国立大学の財務戦略は、利益剰余金の大きさを競う段階から、限られた資源をどの教育研究価値へ配分するかを説明する段階へ移っています。

受験生と社会人が見るべき大学財務指標

国立大学の利益剰余金ランキングは、大学の安定性を考える有力な手がかりです。ただし、順位だけで進学先や学び直し先を選ぶのは早計です。受験生や社会人は、利益剰余金、外部資金、自己収入比率、学生一人当たり教育経費、教員一人当たり研究経費、施設の老朽化、附属病院の有無を組み合わせて見ると、大学の実像に近づけます。

東京大学や大阪大学のような上位校は、研究力と資金調達力を背景に大きな教育研究投資を進めています。一方で、その規模の大きさゆえに、病院経営、施設更新、人件費、外部資金依存という重い課題も抱えます。小規模大学には、地域密着や専門特化という別の強みがあります。

大学財務を見ることは、単に「お金のある大学」を探すことではありません。これからの大学が、学生にどんな学びを提供し、研究をどう社会につなぎ、地域や産業の変化にどう応えるかを読む作業です。利益剰余金の数字は、その問いを始めるための入口として使うべき指標です。

参考資料:

小
小林 美咲

キャリア・教育

キャリア形成・教育改革・リスキリングなど、人と学びの接点を取材。変化する時代に求められる「働く力」を問い続ける。

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