初婚ピーク不変でも進む日本少子化、若者の婚姻減少と家計不安の構造
平均初婚年齢が隠す婚姻分布の実像
日本の少子化をめぐる議論では、平均初婚年齢の上昇がしばしば強調されます。確かに、こども家庭庁の令和8年版こども白書によれば、2025年の平均初婚年齢は夫31.0歳、妻29.7歳です。1990年と比べれば夫は2.6歳、妻は3.8歳上昇しており、晩婚化という説明は間違いではありません。
ただし、平均は「一番多い年齢」ではありません。e-Statの人口動態調査で婚姻年齢の各歳分布を見ると、初婚同士の結婚が最も集中する年齢は、なお20代後半にあります。集計の定義により若干の差はありますが、女性26歳、男性27歳付近が山であることは、平均初婚年齢よりかなり若い現実を示しています。
ここから見えるのは、少子化の主因を「みんなが30代半ばまで結婚しなくなったから」と単純化できないという点です。結婚の山が20年前から大きく後ろへ動いていないのに出生数が減るなら、問題の中心は、結婚年齢のピーク移動だけではなく、結婚する人数そのもの、結婚を選ぶ前提条件、そして結婚後に予定した子ども数を実現できるかにあります。
出生数を押し下げる婚姻件数の縮小
出生数と婚姻件数の同時圧縮
厚生労働省の2025年人口動態統計月報年計によると、2025年の出生数は671,236人、合計特殊出生率は1.14でした。こども白書も、出生数は統計開始以来最少、合計特殊出生率は過去最低と整理しています。婚姻件数は489,119組で前年より4,027組増えましたが、1972年の最多109万9,984組と比べれば半分以下です。
この数字は、婚姻件数が少し戻っても出生数の下げ止まりには直結しにくいことを示します。日本では婚外出生の割合が低いため、婚姻件数の縮小は出生数に強く効きます。しかも出生適齢期に当たる世代の人口そのものが細っているため、婚姻率が同じでも結婚する人数は減りやすい構造です。
二十代後半に残る結婚の山
初婚の最頻年齢が20代後半に残っている事実は、見方を変えれば「結婚する人は今も比較的若い時期に結婚している」ということです。平均初婚年齢が30歳前後に見えるのは、30代以降や中高年の初婚も平均値を押し上げるためです。
このずれを読み違えると、政策も個人の判断も遅れます。平均値だけを見て「30歳を過ぎてから考えればよい」と受け止めると、実際には同世代の多くがすでに結婚市場から抜けた後になります。人口動態を経済変数として見るなら、重要なのは平均ではなく分布です。分布の山が変わらないまま面積が小さくなっていることこそ、少子化の重いサインです。
未婚割合の長期上昇
こども白書は、2020年時点の未婚割合について、男性30~34歳で47.4%、35~39歳で34.5%、女性30~34歳で35.2%、35~39歳で23.6%と示しています。50歳時点未婚割合も、2020年に男性28.3%、女性17.8%まで上昇しました。
これは一時的な結婚延期だけではありません。結婚の先送りが、そのまま生涯未婚や子どもを持たない人生に接続しやすくなっているということです。出生数の減少は、晩婚化だけでなく、未婚化と若年人口の減少が重なった結果です。
若年所得とジェンダー規範の二重制約
結婚意思の後退と出会いの細り
国立社会保障・人口問題研究所の第17回出生動向基本調査は、2025年6月時点の結婚意識を示しています。18~34歳の未婚者で「いずれ結婚するつもり」と答えた割合は、男性75.1%、女性77.8%でした。前回2021年調査の男性81.4%、女性84.3%から下がり、初めて8割を下回っています。
それでも、多くの若者が結婚を完全に否定しているわけではありません。25歳以上で独身でいる理由は「適当な相手がいない」が最多です。ただし、これは単なる出会い不足だけを意味しません。結婚したい相手像と実際に出会える相手の所得、働き方、家事育児観がかみ合わないという、構造的なミスマッチも含んでいます。
所得と婚姻率の強い結びつき
内閣府の日本経済白書は、30代男性有業者では年収が高いほど未婚率が低い傾向があると指摘しています。若年層の所得向上は、婚姻率を高めるうえで重要です。これは単に「男性が稼げば結婚できる」という古い話ではありません。住宅費、教育費、出産後の収入減、将来の雇用不安を考えれば、結婚は家計リスクを引き受ける意思決定になります。
日本の問題は、若い世代の所得が伸び悩むだけではありません。結婚後に誰が家事、育児、転勤、介護の調整負担を背負うのかが見えにくい点も大きいです。女性が高学歴化し、就業継続を望むほど、旧来型の「男性主稼得、女性調整役」モデルは結婚の魅力を下げます。
子ども数の希望低下
第17回出生動向基本調査では、未婚者の希望子ども数が男性1.64人、女性1.70人へ低下しました。夫婦調査でも、理想子ども数は2.18人、予定子ども数は1.95人となり、予定子ども数は初めて2人を下回りました。
ここで重要なのは、夫婦が子どもを望まなくなったというより、望む数を実現しにくくなっている点です。同調査は、理想の数の子どもを持たない理由として「子育てにお金がかかる」「育児の心理的・肉体的負担」が増えていると示しています。出産や育児は、家計、時間、キャリアの三つを同時に圧迫します。この制約が強まるほど、結婚しても出生数は増えにくくなります。
政策効果を削る都市集中と時間不足
支援拡充だけでは埋まらない生活コスト
政府は児童手当拡充、高等教育費支援、育休給付、住宅支援などを強めています。こども白書の令和8年版でも、子育て世帯の家計や仕事と育児の両立を支える施策が大きく扱われています。方向性は妥当ですが、現金給付だけで少子化が反転するとは限りません。
理由は、家計負担が一回限りの費用ではなく、長期の固定費だからです。都市部では住宅費が高く、通勤時間も長く、保育や学童の利用可能性も地域差があります。教育費への不安は、子どもの数だけでなく、子ども一人にどれだけ資源を注ぐかという判断にも影響します。所得支援があっても、住まい、保育、働き方が変わらなければ、第二子以降への踏み出しは鈍くなります。
共働き社会に残る片働き型の制度感覚
内閣府は、少子化対策として若年世代の賃上げ、共働き・共育て環境、住居費や教育費負担の軽減を挙げています。これは、出生率を個人の価値観だけで説明せず、制度と市場の組み合わせで見る視点です。
共働きが標準になった社会では、保育の量だけでは不十分です。急な発熱、学校行事、長期休暇、介護との重なりまで含めて、働き続けられる設計が必要です。出生動向基本調査では、2020~24年に第1子を出産した妻の就業継続率が80.5%へ上昇し、夫の日常的な育児参加も広がっています。これは前進ですが、同時に「働きながら育てる」負荷が家庭内に積み上がっていることも意味します。
国際比較が示すサービス投資の重要性
OECDは、日本の家族支援支出が2000年から2020年にかけて増えた一方、OECD平均をやや下回る水準にとどまると分析しています。また、乳幼児教育・保育への公的支出や利用可能性は、就業と家族形成の両立により強く効くとされています。
国際比較から得られる教訓は、出生率は単独施策で上がるものではないということです。現金給付、保育、育休、住宅、労働時間、男女の賃金格差是正が一体で効く必要があります。日本の少子化は、家族政策だけではなく、労働市場政策、都市政策、教育政策、社会保障財政をまたぐマクロ経済問題です。
読者が確認すべき少子化指標
少子化を理解するには、平均初婚年齢だけを追うのではなく、五つの指標を並べて見る必要があります。第一に婚姻件数、第二に年齢別の初婚分布、第三に未婚割合、第四に夫婦の予定子ども数、第五に若年層の実質所得と住居費負担です。
2025年の出生数67万1236人、合計特殊出生率1.14という数字は、単なる人口統計ではありません。将来の労働供給、社会保障の支え手、国内市場、地域の維持可能性に直結します。結婚のピーク年齢が20代後半に残るなら、政策の焦点は「平均年齢を見て晩婚を嘆くこと」ではなく、20代から30代前半が結婚と出産を選べる所得、時間、住まい、保育、キャリアの条件を整えることです。
少子化の本当の理由は、若者の意識が急に冷えたからではありません。結婚と子育てを選んだ場合の家計リスクが、以前より見えやすく、重くなったからです。人口減少を止める処方箋は、家族に努力を求めることではなく、家族形成を経済的に合理的な選択へ戻す制度設計にあります。
参考資料:
- 厚生労働省「人口動態統計月報(概数)(令和7(2025)年12月分(年計を含む))」
- 厚生労働省「令和6年(2024)人口動態統計(確定数)の概況」
- e-Stat「人口動態調査 婚姻件数,届出時の年齢(各歳)・夫-妻・初婚-再婚別」
- e-Stat「人口動態調査 婚姻 中巻第6表」
- こども家庭庁「令和8年版こども白書」
- こども家庭庁「令和8年版こども白書 第2部第1章」
- 国立社会保障・人口問題研究所「第17回出生動向基本調査」
- 国立社会保障・人口問題研究所「第16回出生動向基本調査」
- 国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集(2026年版)」
- 内閣府「日本経済2022-2023 第2章第2節 少子化と家計経済」
- 内閣府「日本経済2022-2023 おわりに」
- 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」
- OECD「Economic Surveys: Japan 2024」
- OECD「Family benefits public spending」
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