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20代NISA急伸と高齢者株離れから読む日本家計の資産大転換

by 高橋 翔平
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はじめに

「貯蓄から投資へ」という言葉は、長く政策スローガンの域を出ませんでした。しかし2024年の新NISA開始後、家計の行動には明確な変化が出ています。若年層は少額から投資信託を積み立て、高齢層は保有株を見直す。両者は一見すると逆方向ですが、どちらも家計がインフレ、長寿化、相続、非課税制度に対応し始めた結果です。

重要なのは、「全員が株を買い始めた」という単純な理解ではありません。日本証券業協会の全国調査では有価証券保有率が上昇する一方、年代や性別でみると高齢層の一部では株式保有率が低下しています。この記事では、金融庁、日銀、日本証券業協会、J-FLEC関連資料をもとに、日本人のお金の動きの本質を読み解きます。

データが示す若年層の投資入口

NISA口座急増の実像

金融庁が2026年2月に公表した速報では、2025年12月末時点のNISA口座数は2,826万口座、累計買付額は71兆円に達しました。政府目標は2027年12月末までに口座数3,400万口座、買付額56兆円でしたから、買付額はすでに前倒しで超えています。制度の恒久化、年間投資枠の拡大、非課税保有限度額1,800万円という分かりやすい上限が、家計の行動を押し出しました。

日本証券業協会の2024年度「証券投資に関する全国調査」でも変化は確認できます。株式、投資信託、公社債のいずれかを保有する有価証券保有率は、2021年度の19.6%から2024年度は24.1%へ上昇しました。株式の保有率は14.1%、投資信託は12.6%です。特に投資信託は前回調査から2.5ポイント上昇し、NISAと相性のよい長期・積立型の商品が家計に浸透していることを示します。

意識面の変化も大きいです。同調査では、証券投資を「必要だと思う」とする回答が2021年度の30.9%から2024年度は42.6%へ上がりました。NISAの認知度も57.6%から77.9%へ伸びています。つまり、口座数の増加は単なるキャンペーン効果ではなく、「預金だけでは足りない」という認識の広がりを伴っています。

20代が投信を選ぶ理由

20代の投資行動は、従来の株式売買中心ではありません。アドバイザーナビが2024年6〜7月に実施した20代対象の調査では、資産運用を始めたきっかけとして「老後資金を貯めるため」が65.3%で最多となり、「新NISAが始まったから」も19.8%でした。サンプル数は121人と限定的ですが、若年層の入り口が短期売買ではなく、老後資金と制度利用に寄っている点は示唆的です。

同調査では、運用先として投資信託を選ぶ回答が71.1%、株式が43.8%でした。20代はリターンを求めながらも、最初から個別株だけに集中するのではなく、投資信託で分散を確保しようとしています。NISAのつみたて投資枠が、低コストの投資信託を選びやすくしていることも背景にあります。

日本証券業協会の2025年「個人投資家の証券投資に関する意識調査」でも、新NISA開始後の行動変化として「資産形成についてより興味を持つようになった」が37.2%で最も高く、「NISA口座での投資を始めた」が25.0%でした。さらに若い年代ほど、資産形成への関心やNISAでの投資開始の割合が高い傾向があるとされています。若年層の投資率上昇は、相場の熱狂よりも制度とスマホ証券、低コスト投信の組み合わせで起きています。

高齢層の株離れと取り崩しの論理

保有率低下の読み方

一方で、高齢層は若年層と同じ理由で投資を増やしているわけではありません。日本証券業協会の2024年度全国調査の時系列表をみると、有価証券全体の保有率は上昇していますが、株式については高齢層の一部で低下が見られます。たとえば70歳以上男性の株式保有率は、2021年度の27.4%から2024年度は23.0%へ下がっています。

この数字だけで「高齢者全体が株を売った」と断定するのは危険です。女性や年齢細分によって動きは異なり、投資信託や債券、預金への移し替えも含まれます。ただし、株式保有を続けるより、価格変動を抑え、生活資金や相続に備える方向へ資産配分を見直す高齢層がいることは自然です。

株式投資には時間が必要です。20代なら大きな下落を経験しても、給与収入と投資期間で回復を待てます。70代以上では、医療・介護費、配偶者の生活費、相続の準備が近い課題になります。資産が多いほど株式を保有し続けられるとは限らず、むしろ値上がり益を実現し、現金化する合理性が高まります。

相続と生活防衛の資産配分

高齢層の株離れは、投資への失望だけでは説明できません。日本株は2024年に史上最高値を更新し、2025年末にかけても株式と投資信託の評価額は膨らみました。上昇局面で利益確定し、預金や個人向け国債、保険商品に移す行動は、リスク管理として理解できます。

相続の観点でも、個別株は扱いが難しい資産です。銘柄ごとに値動きがあり、相続人が投資判断を引き継げるとは限りません。投資信託に集約する、現金比率を上げる、配当目的の個別株を整理する、といった動きは、家族全体の管理コストを下げます。高齢層の資産配分は「増やす」よりも「守る」「渡す」「使う」に重心が移ります。

J-FLECの家計調査をもとにした生命保険文化センターの整理では、金融資産を保有する世帯の保有目的は「老後の生活資金」が単身世帯55.2%、2人以上世帯62.3%で最多です。50代以上では「病気や不時の災害への備え」も重くなります。高齢層が株式を減らす動きは、投資離れというより、人生後半のキャッシュフロー管理への移行です。

家計金融資産2351兆円の構造変化

現預金50%割れの意味

日銀の資金循環統計によると、2025年12月末の家計金融資産は2,351兆円でした。内訳では現金・預金が1,140兆円、株式等が342兆円、投資信託が165兆円、保険・年金・定型保証が581兆円です。現金・預金は依然として最大項目ですが、構成比は48.5%まで下がり、半分を切っています。

この変化は、家計が一斉に預金を投資へ移したことだけを意味しません。株高によって株式や投資信託の評価額が膨らんだ影響も大きいです。日銀資料では、株式等の前年比は22.6%、投資信託は21.3%と大きく伸びています。つまり、資金流入と価格上昇が重なり、リスク資産の構成比が上がった形です。

ただし、構成比の変化は心理に影響します。現預金が過半を割ったという事実は、個人投資家に「預金だけでは標準的な家計管理ではないかもしれない」と意識させます。インフレが続く局面では、預金の名目額が減らなくても実質購買力は落ちます。現金は安全資産ですが、物価上昇には弱い資産でもあります。

投資ブームではなく制度インフラ化

今回の変化を単なる投資ブームと見ると、判断を誤ります。ブームなら相場下落で参加者が離れますが、NISAは制度インフラとして家計に組み込まれつつあります。給与日に自動積立を行い、全世界株式や先進国株式の投資信託を買う。これは短期の相場観ではなく、家計の固定費に近い行動です。

大和証券が紹介する新NISA白書の整理でも、2024年12月末時点のNISA口座数は約2,559万口座に達し、40代以下が約半数を占めるまで若年層の比率が高まりました。制度開始初期は60代以上が中心でしたが、新NISAでは現役世代の利用が主役になりつつあります。

一方で、投資の裾野が広がるほど、投資経験の浅い層も増えます。20代調査では、運用経験が3年以内の回答者が7割超でした。上昇相場しか経験していない投資家は、下落時の損失額を過小評価しやすいです。制度の普及は望ましい一方、リスク許容度を超えた積立額や、SNSで話題の銘柄への集中投資には注意が必要です。

注意点・展望

最大の誤解は、「若い人は投資を増やし、高齢者は投資をやめる」という二分法です。実際には、若年層でも生活防衛資金が不足したまま投資額を増やす人がいれば、高齢層でも配当株や投信を保有し続ける人は多くいます。大切なのは年齢そのものではなく、収入の安定性、使う予定の時期、価格変動に耐えられる期間です。

今後は、NISA口座数の伸びよりも「続けられるか」が焦点になります。2024〜2025年は制度改正と株高が追い風でしたが、円高、海外株安、日本株の調整が重なれば、含み損を抱える初心者が増えます。長期投資は、下落時に積立を止めない設計があって初めて機能します。

高齢層では、資産寿命の延伸が重要になります。すべてを現金化すれば短期の値下がりは避けられますが、20年単位の老後ではインフレに弱くなります。生活費3〜5年分の安全資産を確保しつつ、残りを分散投資で残すという考え方が、取り崩し期の標準になっていく可能性があります。

まとめ

日本人のお金の動きは、ようやく「預金一択」から離れ始めました。NISA口座は2,826万口座、累計買付額は71兆円に達し、家計金融資産では株式等と投資信託の存在感が増しています。若年層は投資信託を入口に長期積立へ進み、高齢層は株式の一部を整理して生活資金や相続に備えています。

個人投資家に必要なのは、世代の流行をまねることではありません。20代なら時間を味方にしつつ投資額を急ぎすぎないこと、50代以降なら取り崩し計画を含めて資産配分を整えることです。投資率の上昇と株離れは矛盾ではなく、人生の段階に応じたリスク管理の違いです。

参考資料:

高橋 翔平

株式・投資戦略

株式市場の構造変化と投資戦略を、個人投資家の視点から分析。企業の財務データを読み解き、マーケットの本質に迫る。

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