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不登校から行政書士へ進んだ慶應生に学ぶ通信制高校の進路設計術

by 小林 美咲
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不登校を進路の失敗にしない視点

いじめ被害や不登校を経験した若者が、どのように次の進路を選ぶのか。その問いは、もはや一部の家庭だけの問題ではありません。文部科学省の令和6年度調査では、小中学校の不登校児童生徒数は353,970人、いじめの認知件数は769,022件に達しました。学校に行けない時期を「例外」とみなすだけでは、現実に追いつけない局面です。

悉知信(しっち・あきら)さんは、小学生時代のいじめ被害と中学生時代の不登校を経験し、16歳で行政書士試験に合格、18歳で行政書士登録した慶應義塾大学法学部法律学科の学生です。本人公式ページでは、いじめ・不登校の当事者として教育法制度や子どもの権利擁護に取り組む姿が紹介されています。

ただし、この歩みを「苦境を努力で乗り越えた美談」として消費すると、重要な論点を見誤ります。見るべきは、学校に合わない時期があっても、学びの場、制度理解、資格学習、支援者との接点を組み直せば、進路は再設計できるという点です。本稿では、通信制高校の現実と制度の変化を踏まえ、不登校経験者が進路選択で確認すべき基準を整理します。

行政書士登録が示す学び直しの設計

被害経験を制度理解へ変える動機

悉知さんの公開インタビューでは、小学校6年時のいじめ被害が活動の原点として語られています。被害後、学校や行政の対応に疑問を抱き、なぜ制度が十分に機能しなかったのかを知るために法律を学び始めたという流れです。ここで注目すべきなのは、法律学習が「受験テクニック」ではなく、自分を取り巻く環境を理解する手段になっている点です。

不登校の進路支援では、しばしば「まず生活リズムを戻す」「学校に戻る」「遅れを取り戻す」という順序が語られます。しかし、本人にとって切実な問いが別の場所にある場合、登校だけを先に置いても学習意欲は戻りにくいものです。いじめ対応、情報開示、学校との交渉、子どもの権利といったテーマは、悉知さんにとって社会を読み解く入口になりました。

これは、すべての不登校経験者に難関資格を勧める話ではありません。重要なのは、本人の関心が「制度」「表現」「プログラミング」「福祉」「芸術」「地域活動」など、学校教科の外側に伸びている場合、その関心を進路の軸に翻訳することです。学校復帰の可否だけで判断せず、本人が長く考え続けられるテーマを探すことが、キャリア形成の出発点になります。

年齢制限のない試験と登録年齢の壁

行政書士試験は、年齢、学歴、国籍などに関係なく受験できます。行政書士試験研究センターが公表した令和7年度試験結果では、受験者50,163人、合格者7,292人、合格率14.54%でした。申込者の最年少は9歳、合格者の最年少は13歳とされ、若年層にも門戸が開かれた試験であることが分かります。

一方で、試験合格と行政書士登録は別の段階です。日本行政書士会連合会は、行政書士になるには名簿登録が必要だと説明しています。また行政書士法上、未成年者は欠格事由に含まれます。現在の成年年齢を踏まえると、試験に早く合格しても、実際に行政書士として登録できるのは18歳以降です。

この「受験はできるが、職業として名乗るには登録が必要」という構造は、不登校経験者の進路設計にも示唆があります。資格学習は、すぐに収入や肩書につながらなくても、大学進学、総合型選抜、探究活動、社会活動の実績として意味を持ち得ます。反対に、資格名だけを目標にすると、登録要件や実務範囲を理解しないまま期待が膨らみます。

行政書士は、官公署に提出する書類や権利義務、事実証明に関する書類作成などを担う専門職です。公開インタビューで悉知さんが語るように、内容証明や情報開示請求の助言などは視野に入りますが、弁護士のような裁判代理や紛争交渉とは役割が異なります。進路選択では、資格の名前だけでなく、できる業務、できない業務、次に必要な学びまで確認する必要があります。

資格学習を高校生活へ組み込む時間設計

悉知さんは公開インタビューで、行政書士試験に向けて高校1年の春から11月の試験まで集中的に学習したと語っています。平均して長時間の学習を重ねたことも明かされていますが、ここを単純にまねる必要はありません。むしろ、通信制高校や不登校経験者の進路では、学習時間の量よりも「自分で設計できる環境」をどう作るかが問われます。

通信制高校は、自学自習の割合が高く、全日制よりも時間の裁量が大きい学び方です。その裁量は、資格学習、大学受験、探究活動、アルバイト、療養、通院、家族との時間に振り向けられる一方で、予定を組めないと学習が止まりやすいという弱点にもなります。自由時間は、支援なしでは空白時間になりやすいのです。

そこで必要なのは、本人の意思だけに頼らない設計です。たとえば、週単位でレポート提出日を決める、資格学習の進捗を第三者と確認する、模試や外部コンテストを節目にする、学校の担任やスクールカウンセラーと定期面談を入れるといった仕組みです。特に不登校の背景にいじめや心身の不調がある場合、学習計画は安全確保と回復の計画と一体で考える必要があります。

高校生の資格挑戦は、進路の武器になることがあります。しかし、資格そのものが目的化すると、体調悪化や孤立に気づきにくくなります。本人が「何を証明したいのか」「その資格で誰の役に立ちたいのか」「次の学びにどう接続するのか」を言語化できるほど、学習はキャリア形成に近づきます。

通信制高校で広がる選択肢と支援格差

高校卒業資格と学び方の基本構造

通信制高校は、全日制高校や定時制高校と同じく、高等学校卒業資格につながる正規の高校です。文部科学省の通信制高校情報サイトは、通信制高校を、レポート提出、スクーリング、試験、多様なメディアを用いた学習などで学ぶ仕組みだと説明しています。卒業に必要な単位数は74単位以上です。

大きな特徴は、毎日決まった時間に登校することを前提にしない点です。スクーリングや試験の日を除けば、自宅などでの自学自習が中心になります。テレビやインターネットなどのメディアを利用した学習により、面接指導時間の一部が免除される仕組みもあります。通学頻度を抑えながら高校卒業を目指せることは、不登校経験者にとって大きな選択肢です。

一方で、「通信制なら楽に卒業できる」という理解は危険です。レポートの提出、スクーリングへの参加、試験の受験は必要であり、学校ごとに学習支援、進路指導、相談体制、サテライト施設の運営実態は異なります。特に広域通信制高校では、本校、面接指導等実施施設、学習等支援施設の役割を保護者が見分けにくい場合があります。

角川ドワンゴ学園のS高等学校のように、学校教育法第一条に定められた高等学校として、単位制・通信制課程で高校卒業資格を得られる学校もあります。ネット学習を軸にした学校は、不登校経験者だけでなく、専門活動や大学受験、創作、起業などに時間を使いたい生徒にも選ばれています。選択肢が増えたこと自体は前向きですが、学校選びには情報の読み解きが欠かせません。

入学者に多い不登校経験と相談体制の差

文部科学省の令和7年度通信制高等学校実態調査速報版によると、調査対象となった通信制課程を置く高校は323校です。設置形態では私立が70.3%を占め、広域通信制高校は全体の41.2%でした。通信制高校が、公立中心の補完的な制度から、多様な民間主体も含む大きな教育市場へ広がっていることが分かります。

同調査で特に重要なのは、令和7年度入学者のうち、中学3年生のときに不登校だった生徒が44,461人、割合で57%に上った点です。通信制高校は、不登校経験者にとって珍しい進路ではなく、すでに主要な受け皿の一つです。だからこそ、学校側には学習面だけでなく、心理面、生活面、対人関係面の支援が求められます。

しかし、支援体制には差があります。スクールカウンセラーに相談できる体制を整えている学校は、公立では98.8%、私立では79.7%、株式会社立では80%でした。数字だけを見ても、公私間、学校間で相談体制に開きがあります。さらに、専任教員と兼任教員の比率、教員の主な勤務場所、サテライト施設の評価公表状況にも差が見られます。

文部科学省は、通信制高校が多様な背景の生徒に教育機会を提供する一方、一部で不適切な学校運営や教育活動の実態が指摘されているとして、質の確保に向けたガイドラインや点検調査を進めています。学校説明会で明るいパンフレットを見るだけでは、支援の実態は分かりません。退学、転学、休学、卒業、進路、教職員組織、相談体制の情報が公開されているかを確認することが重要です。

大学進学を支える自由時間と孤立リスク

通信制高校から大学進学は可能です。文部科学省の通信制高校FAQでは、令和6年度間に通信制高校を卒業した者のうち、約29%が大学等へ進学したと説明されています。大学受験に向けて自分のペースで勉強したい生徒にとって、通信制高校は戦略的な選択肢になり得ます。

ただし、大学進学を考える場合は、学校の卒業要件と受験対策を分けて考える必要があります。通信制高校の必修学習は、高校卒業資格を得るための土台です。難関大学や専門性の高い進路を目指す場合、英語、数学、小論文、面接、探究活動、資格学習などは、学校内外の支援を組み合わせて補う場面が出てきます。

総合型選抜や学校推薦型選抜では、不登校経験そのものよりも、その期間に何を学び、どのように社会と接点を持ち、どの進路課題を深めたかが問われます。悉知さんのように、いじめ被害から教育制度や法律への関心を深め、行政書士試験や政策提言につなげる歩みは、その意味で「空白期間」ではなく「探究期間」として説明できます。

一方で、通信制高校では人間関係が希薄になりやすい生徒もいます。スクーリングやオンライン交流で友人関係を築ける学校もありますが、全員に自然な居場所が生まれるわけではありません。自由に学べる環境ほど、本人が困ったときに助けを求める経路を事前に作っておく必要があります。担任、相談員、家族、外部支援者、同世代コミュニティのうち、少なくとも複数の接点を持つことが望ましいです。

学校外の学びを進路に変える制度活用

不登校支援の制度は、この数年で大きく変わっています。教育機会確保法の通知では、不登校というだけで問題行動と受け取られないよう配慮すること、児童生徒の意思を尊重すること、いじめから身を守るために一定期間休むことも状況に応じた支援として考えることが示されています。学校に戻ることだけを唯一のゴールにしない考え方は、文部科学省の通知にも反映されています。

令和6年度調査では、小中学校の不登校児童生徒数は12年連続で増加し、過去最多となりました。一方で、不登校児童生徒のうち、学校内外の機関や担任等から相談・指導等を受けていた割合は95.8%とされています。支援につながる子どもは増えていますが、専門的な相談・指導を受けていない児童生徒も135,724人います。制度があっても、家庭が情報にたどり着けない問題は残っています。

学習面では、欠席中の学習成果を評価する仕組みも整備されています。文部科学省は令和6年8月、不登校児童生徒が学校外の機関や自宅等で行った学習成果を、一定の要件の下で成績評価に反映できることを法令上明確化しました。令和6年度調査では、自宅や学校外の機関等での学習成果を指導要録に反映した児童生徒数は81,467人でした。

また、自宅でICT等を活用した学習活動を行った場合、一定の要件を満たせば指導要録上出席扱いとすることができます。令和6年度には、自宅におけるICT等を活用した学習活動を出席扱いとした児童生徒数は13,261人でした。高校段階でも、全日制・定時制に在籍する不登校生徒に対して、遠隔授業や通信教育による単位認定を一定範囲で可能にする制度が動いています。

いじめが背景にある場合は、進路選択の前に安全確保が優先です。いじめ防止対策推進法は、いじめを心理的または物理的な影響を与える行為で、対象となった児童生徒が心身の苦痛を感じているものと定義しています。令和6年度のいじめ重大事態は1,404件で、重大事態として把握される前にいじめとして認知されていなかったものも490件ありました。本人が苦痛を訴えているのに「様子見」で済ませることは、制度の趣旨に合いません。

記録を残す、学校のいじめ対策組織に正式に相談する、教育委員会や第三者的な相談先につなぐ、必要に応じて医療や法律の専門家に相談する。こうした手順は、転校や通信制高校への進学を考える場合にも重要です。進路変更は逃げではなく、安全と学びを取り戻すための環境調整です。ただし、環境を変えるだけで傷つきが消えるわけではないため、学習支援と心理的支援を切り離さないことが欠かせません。

本人と保護者が確認したい選択基準

不登校経験者の進路選択で最初に確認すべきなのは、本人の状態です。今すぐ学習量を増やせるのか、まず休養が必要なのか、対面の人間関係に負担が大きいのか、オンラインなら参加しやすいのか。学校名や偏差値よりも、本人の回復段階と学び方の相性を見ます。

次に、学校の支援体制を具体的に確認します。担任との連絡頻度、スクールカウンセラーの有無、レポート未提出時のフォロー、スクーリング欠席時の対応、進路指導の実績、大学受験や資格学習の支援、追加費用、サテライト施設の役割は、入学前に質問すべき項目です。パンフレットの「手厚い支援」という表現より、困ったときに誰が何日以内に動くのかが重要です。

最後に、進路の軸を本人の言葉で作ります。悉知さんの歩みが示すのは、不登校の経験を消すことではなく、その経験から何を問い、何を学び、どの社会課題に向き合うかを形にする力です。資格、大学進学、探究活動、創作、就労体験は、そのための手段です。

不登校は進路の終点ではありません。学校に戻る道、通信制高校で学ぶ道、学校外の学習を評価につなげる道、資格や探究を軸に大学へ進む道があります。本人が安全に学べる環境を選び、支援者が制度を読み解き、家庭が「遅れ」ではなく「再設計」として伴走できるか。そこに、進路選択の最も大きな分かれ目があります。

参考資料:

小林 美咲

キャリア・教育

キャリア形成・教育改革・リスキリングなど、人と学びの接点を取材。変化する時代に求められる「働く力」を問い続ける。

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