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シニア活用企業ランキングで読む65歳処遇改革と人手不足対策の焦点

by 佐藤 理恵
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シニア雇用が採用難の主戦場となる理由

シニア社員の活用は、もはや福利厚生や法令対応だけのテーマではありません。帝国データバンクの2026年4月調査では、正社員不足を感じる企業が50.6%に達し、建設や運輸などでは6割を超える業種もあります。採用市場で若手・中堅を取り合うだけでは、事業の維持に必要な人員を確保しにくくなっています。

厚生労働省の高年齢者雇用状況等報告では、65歳までの雇用確保措置は99.9%まで普及しました。一方、70歳までの就業確保措置を実施済みの企業は34.8%です。ここに企業間の差が出ています。ランキングで上位に入る企業を読むうえで重要なのは、制度の数ではなく、シニアを「低コストの補助人員」ではなく「生産性を支える戦力」として処遇しているかどうかです。

上位企業に共通する処遇改革の中身

65歳定年と役職定年廃止

先進企業の共通点は、60歳を境に仕事と処遇を大きく切り離さないことです。ダイキン工業は2024年4月から定年を60歳から65歳へ引き上げ、56歳としていた管理職の役職定年を廃止しました。さらに、65歳まで資格等級・評価・賃金制度を継続し、年齢で一律に賃金が下がらない仕組みに改めています。

この改革の意味は、人件費の増加だけでは測れません。同社はカーボンニュートラル、ソリューション事業、グローバル工場立ち上げなどの成長課題を抱えています。熟練社員を退職や低処遇で流出させれば、採用費や教育費だけでなく、現場判断や顧客対応の品質も失われます。会計上、人材は貸借対照表に資産計上されませんが、経済実態としては収益力を支える無形資産です。

大和ハウス工業も、年齢だけを理由にした60歳一律の役職定年制度を2022年度から廃止しました。2025年4月からは一部社員を対象に、65歳または67歳を選べる選択定年制も導入しています。建設業では、施工管理や設計の経験値が安全・品質・工程管理に直結します。2024年問題による労働時間制約も重なるなか、ベテランを現場から急に外すことは、売上機会の損失や外注費上昇を招きかねません。

ここで注目すべきは、単なる定年延長ではなく、評価と報酬を現役世代に近づける点です。再雇用後に同じ職務を担いながら賃金だけが大きく下がれば、本人の意欲も職場の納得感も損なわれます。逆に、役割・成果・賃金を連動させれば、シニア社員は若手の補助役に固定されず、専門職、管理職、メンター、プロジェクト人材として機能します。

70歳就業と社外活躍の選択肢

2021年施行の改正高年齢者雇用安定法は、70歳までの就業機会確保を努力義務としました。選択肢は、70歳までの定年引き上げ、定年廃止、継続雇用制度だけではありません。業務委託契約や社会貢献事業への従事も制度上の選択肢に含まれます。

太陽生命は2017年に65歳定年制と70歳まで働ける継続雇用制度を導入し、役職定年や年齢に応じた一律の処遇引き下げを廃止しました。大同生命も2022年4月に定年を65歳へ延長し、最長70歳までの再雇用制度を整えています。61歳以降はフルタイムに加え、週2日または週3日の勤務も選べる仕組みです。

金融業では、顧客基盤や審査・引受・営業管理の知見が長期で蓄積されます。シニア社員の経験は、商品販売だけでなく、若手育成やコンプライアンス判断にも効きます。T&Dグループ傘下の生命保険会社の取り組みは、処遇改革を人材流出対策にとどめず、顧客接点の品質維持に結びつけている点で示唆があります。

サントリーは2013年に65歳定年制を導入し、本人と会社が合意すれば最大70歳まで契約を更新できる制度を運用しています。社内公募や地方自治体への派遣、50歳以上を対象にした生成AI研修など、社内外での活躍先を広げている点も特徴です。70歳までの就業は、会社に残すか辞めてもらうかの二択ではなく、専門性をどこで生かすかを設計する段階に入っています。

業種ごとに異なるシニア人材の使い方

製造・建設で進む技能継承投資

製造業や建設業でシニア活用が進みやすいのは、技能・安全・品質の暗黙知が業績に直結するためです。堀場製作所の公開事例では、60歳定年後に70歳までの継続雇用制度を用意し、週3〜5日の勤務や兼業も可能にしています。後継者育成や、余人をもって代えがたい専門領域での活用が制度の柱です。

こうした制度は、教育投資の回収期間を延ばす効果があります。若手技術者を採用しても、独力で顧客対応や設備保全を担えるまでには時間がかかります。ベテランが残れば、OJTの密度が上がり、トラブル対応の失敗コストも抑えやすくなります。人件費率だけを見ると重く見えても、品質不良、納期遅延、受注抑制を防ぐ保険として評価する必要があります。

大和ハウスのように一部技術系職種で年齢上限を撤廃する動きは、まさに技能の希少性を反映しています。建設現場では、図面を読める、協力会社を動かせる、行政や顧客との調整ができるといった能力が複合的に求められます。これらは短期採用で代替しにくく、M&Aのデューデリジェンスでも人材年齢構成と技能継承の仕組みは事業継続性を左右する確認項目です。

一方で、中小企業にも導入余地があります。JEEDの70歳雇用推進事例集では、建設、運送、旅館、社会福祉などで、勤務形態の見直し、作業負担の軽減、定年廃止、職務創出などの事例が紹介されています。大企業のように大規模な人事制度を一気に変えなくても、熟練者が続けやすい仕事の切り出しは可能です。

金融・外食で広がる柔軟勤務

金融やサービス業では、シニア活用の焦点が少し異なります。金融では専門知識と顧客理解、外食では店舗運営を支える安定的な労働力が重要です。すかいらーくホールディングスの報告では、店舗で働く50代以上が全体の約20%、65歳以上も3,000人超に上ります。2024年には65歳以上の新規入社が750人を超えました。

外食業のシニア雇用では、体力面への配慮とオペレーションの標準化が欠かせません。すかいらーくは、デジタル技術を使って注文・配膳・片付けの負担を軽くし、シニアや外国籍人材も働きやすい環境づくりを進めています。単に採用対象年齢を広げるだけではなく、業務そのものを再設計している点が重要です。

商船三井は、60歳から65歳までの選択定年制度に加え、50歳以上の社員が週休3日・4日を選べるフレックスキャリア制度を導入しています。海運業はグローバルな市況変動を受けやすく、専門人材の配置が業績の振れを左右します。柔軟勤務は、介護や健康上の事情を抱える社員をつなぎ留めるだけでなく、繁閑や専門性に応じた人材ポートフォリオを作る手段になります。

財務面で見ると、シニア活用は固定費増にも変動費化にもなり得ます。65歳定年で正社員処遇を維持すれば固定費は増えますが、能力の高い人材を中核業務に残せます。一方、週2〜3日勤務や業務委託を組み合わせれば、本人の希望と会社の需要を調整しやすくなります。優れた企業は、この両方を業務特性に応じて使い分けています。

賃金上昇と安全管理が問う制度の実効性

シニア活用にはリスクもあります。第一に、人件費の増加です。役職定年廃止や処遇維持は、短期的には利益率を押し下げる可能性があります。ただし、採用難で人員不足が受注制約や品質低下につながる局面では、単純なコスト削減よりも、稼働能力を維持する投資のほうが合理的です。

第二に、若手の昇進機会とのバランスです。シニアがポストを占有するだけでは、組織の新陳代謝が弱まります。役職を残す人、専門職で貢献する人、後継者育成に回る人を分け、評価基準を明確にする必要があります。年齢ではなく役割で処遇する制度ほど、職務定義の精度が問われます。

第三に、安全・健康管理です。建設、物流、外食、介護では、体力低下や通院、介護との両立を前提にした勤務設計が欠かせません。70歳まで働ける制度を掲げても、事故や過重労働が増えれば企業価値は毀損します。勤務日数、作業負荷、教育、健康診断、デジタル支援を一体で設計することが、制度の実効性を左右します。

投資家と経営者が注視すべき人的資本指標

シニア活用企業ランキングを読む際は、順位よりも中身を見るべきです。確認したい指標は、60歳以降の継続勤務率、65歳以降の就業者数、役職定年の有無、再雇用後の賃金・評価制度、リスキリング参加率、安全関連指標、後継者育成の仕組みです。これらは人的資本開示の質にも直結します。

経営者にとっては、全社員を一律に長く雇うことが目的ではありません。どの職務で経験が収益力を支え、どの職務で体力負担や技術更新が課題になるのかを分解することが先です。投資家にとっても、シニア処遇改革は単なる人件費増ではなく、人手不足下で売上機会を守る資本配分の一つとして見る必要があります。

2025年4月には、65歳までの継続雇用対象者を労使協定で限定できた経過措置も終了しました。次の競争軸は、70歳までの形式的な就業機会ではなく、シニアが成果を出し続けられる職務・処遇・学びの設計です。人手不足が常態化するほど、この差は採用力、利益率、事業継続力の差として表れます。

参考資料:

佐藤 理恵

企業分析・M&A

会計士としての経験を活かし、企業の財務構造やM&A戦略を深掘り。数字の裏にある経営者の意思決定を読み解く。

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