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若手の体調不良退職を招く残業削減後の職場ストレス構造と実践対策

by 河野 彩花
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残業削減だけでは防げない若手の不調

残業時間を減らし、有給休暇も取らせている。それでも若手社員が体調不良を理由に離職する職場では、「労働時間」だけを健康リスクの物差しにしている可能性があります。長時間労働対策は不可欠ですが、若手の不調は仕事量、責任、対人関係、相談しにくさ、キャリア不安が重なって起こります。

厚生労働省の令和7年労働安全衛生調査では、仕事や職業生活に強いストレスを感じる労働者は67.5%でした。20〜29歳では72.0%に上り、全体平均を上回っています。見かけの残業が減っても、仕事の密度や心理的負荷が増えれば、回復の余白は失われます。

強いストレスを生む仕事量と責任の再配分

20代に集中する仕事量ストレス

働き方改革の成果は、統計にも表れています。令和7年版労働経済の分析は、2024年の月間総実労働時間が前年差1.4時間減の137.0時間となり、週60時間以上働く雇用者の割合も4.6%に低下したとしています。年次有給休暇の取得率も、比較可能な1984年以降で過去最高を更新しました。

しかし、労働時間が短くなったことと、仕事が楽になったことは同じではありません。会議時間の短縮、チャットでの即時対応、少人数化、採用難による欠員補充の遅れが重なると、1時間あたりの判断量は増えます。若手は経験による見通しがまだ少ないため、同じタスクでも中堅より認知的負荷が高くなりやすいのです。

令和7年労働安全衛生調査では、強いストレスの内容として「仕事の量」と「仕事の失敗、責任の発生等」がともに39.5%で最多でした。20〜29歳では「仕事の量」が51.6%と目立ちます。残業を減らすために仕事を前倒しし、締め切りを詰め、レビューの回数を減らすと、若手は早く帰れても緊張状態を持ち帰ることになります。

健康管理の観点では、労働時間の長さだけでなく、睡眠の質、食事時間、運動、休日の回復感も確認する必要があります。定時退社が続いていても、勤務中に休憩を取れない、昼食を抜く、帰宅後も仕事の失敗を反すうする状態なら、身体症状や気分の落ち込みにつながります。残業削減は入口であり、負荷の再設計まで踏み込まなければ予防策にはなりません。

失敗責任の早期化と相談の遅れ

若手の不調を悪化させるもう一つの要因は、責任の早期化です。人手不足の職場では、入社数年目でも顧客対応、プロジェクト管理、後輩フォローを任されることがあります。任せること自体は成長機会ですが、判断基準、優先順位、失敗時の支援が曖昧なまま責任だけが増えると、成長負荷ではなく健康リスクになります。

WHOの職場メンタルヘルス資料は、過剰な仕事量、仕事への低い裁量、支援の乏しさ、役割の不明確さを心理社会的リスクとして挙げています。これは日本の若手にも当てはまります。本人が「自分の能力不足」と受け止めやすい課題の多くは、実際には業務設計の不足です。

特に注意したいのは、失敗を避けるために相談が遅れるパターンです。若手は「こんなことを聞くと評価が下がる」「上司が忙しそうで話しかけられない」と感じると、小さな違和感を抱え込みます。問題が表面化する頃には、納期遅延、顧客クレーム、睡眠不調、出社困難が同時に起こっていることがあります。

管理職が「困ったら言って」と伝えるだけでは足りません。相談のタイミング、相談してよい状態、判断を仰ぐ基準を具体化する必要があります。たとえば「30分考えて進まなければ相談」「顧客返信前に必ずレビュー」「初回対応は上司が同席」といった運用は、若手の自律性を奪うものではなく、早期の安全柵です。

相談できても辞める若手を増やす職場構造

表面化しない体調不良退職

厚生労働省の調査では、過去1年間にメンタルヘルス不調により1か月以上休業した労働者または退職した労働者がいた事業所は13.5%でした。このうち、退職者がいた事業所は6.5%です。情報通信業では、休業または退職者がいた事業所が37.4%と高く、知的労働の職場でも深刻な問題です。

ただし、企業が把握できる体調不良退職は一部にすぎません。パーソル総合研究所の若手従業員調査では、過去3年以内に治療なしでは日常生活が困難なほどのメンタルヘルス不調を経験した正規雇用者は14.6%でした。20代では男性18.5%、女性23.3%と、若年層ほど高い傾向が示されています。

同調査では、メンタルヘルス不調を経験した20代の退職率は35.9%でした。さらに、メンタルヘルス不調による退職者のうち、職場に相談した20代は45.1%にとどまります。つまり、職場から見ると「突然辞めた」「本当の理由が分からない」退職の中に、体調不良が相当数含まれている可能性があります。

この構造は、退職面談でも見えにくいものです。本人は次の転職に影響する不安から、メンタル不調を明言しない場合があります。企業側も「キャリア志向の変化」「本人都合」と整理してしまうと、業務負荷や職場関係の問題を学習できません。離職理由を個人の弱さや世代論に回収すると、同じ部署で同じ退職が続きます。

心理的安全性と裁量の不足

若手が辞める職場では、必ずしも上司が厳しいとは限りません。むしろ、ハラスメントを避ける意識が高まり、叱責は減っている職場もあります。それでも不調が増えるのは、支援の量が減っているからです。声を荒らげないことと、安心して相談できることは別の問題です。

心理的安全性は、何を言っても許される緩い空気ではありません。仕事のリスク、分からない点、ミスの兆候を早めに出しても、人格否定や過度な評価低下につながらないという信頼です。この信頼がないと、若手は「大丈夫です」と言い続け、限界に近づくまで助けを求めません。

労働安全衛生調査では、ストレスを相談できる人がいる労働者は94.8%と高い水準でした。一方で、実際に相談したことがある人は71.2%です。20〜29歳でも相談できる人がいる割合は98.6%ですが、実際に相談した割合は72.7%でした。相談先が存在しても、相談行動に移るには心理的な段差があります。

職場が見るべきなのは、相談窓口の有無ではなく、相談後に何が起きるかです。相談した人が業務調整を受けたのか、評価に不利益がないと説明されたのか、上司が抱え込まず産業保健スタッフにつないだのか。ここが不透明だと、制度はあっても使われません。

裁量の不足も見逃せません。若手に自由度を与えず細かく管理すると、失敗は減るように見えますが、本人の納得感は下がります。一方で、自由に任せすぎると孤立します。必要なのは、目的、期限、判断権限、相談条件をセットで渡すことです。裁量と支援の両方がある職場ほど、若手は負荷を成長経験として処理しやすくなります。

休ませるだけで終わらない予防と復職設計

体調不良が表面化したとき、「まず休ませる」判断は重要です。睡眠障害、食欲低下、動悸、涙もろさ、出社前の腹痛などが続く場合、本人の努力で乗り切らせるのは危険です。医療機関や産業医につなぎ、勤務軽減や休職を検討することは、健康被害を広げないための基本対応です。

ただし、休ませるだけでは再発予防になりません。復職後に同じ業務量、同じ上司、同じ評価圧力へ戻せば、再び不調に向かいます。WHOの職場メンタルヘルス指針も、個人のストレス対処だけでなく、業務条件そのものを評価し、心理社会的リスクを低減する組織的介入を重視しています。

企業が整えるべき実務は三つあります。第一に、休職前の業務棚卸しです。どの業務が量的負荷、質的負荷、対人負荷になっていたかを切り分けます。第二に、復職後の段階的な負荷設計です。短時間勤務、担当顧客の制限、レビュー頻度の増加を期間付きで設定します。第三に、評価への影響を説明することです。若手は休職が成長機会の喪失につながると不安を抱きやすいため、処遇方針の透明性が回復を支えます。

管理職だけに対応を背負わせないことも重要です。メンタルヘルス不調者の業務を周囲に振り分けると、別の社員の負荷が増えます。人事、産業医、保健師、外部相談機関を含めた支援体制を使い、職場全体の業務量を調整しなければ、不調者が戻る場所そのものが疲弊します。

経営と現場が確認すべき不調予防の指標

若手の体調不良退職を減らすには、残業時間と有給取得日数だけでなく、仕事の密度と回復可能性を測る必要があります。見るべき指標は、急な担当変更、休日後の欠勤、昼休み取得率、チャット返信の深夜化、相談から業務調整までの日数、休職後の定着率です。

新規大卒就職者の3年以内離職率は、令和4年3月卒で33.8%でした。離職が珍しくない時代だからこそ、企業は「辞めた理由」を本人の適性だけでなく、職場の設計として検証する必要があります。若手を守る職場は、甘い職場ではありません。負荷を見える化し、相談を早め、成長機会と安全性を両立させる職場です。

参考資料:

河野 彩花

健康・ライフスタイル

医療・健康・食の最新動向を、エビデンスに基づいて発信。管理栄養士の資格を活かし、生活に役立つ健康情報を届ける。

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