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うなぎパイ好調でも赤字、春華堂を救った「見える化」経営改革の全貌

by 高橋 翔平
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主力好調の裏で膨らんだ「見えない赤字」

「うなぎパイ」が売れているのに、なぜ製造元の春華堂で巨額の部門赤字が発生したのでしょうか。答えは商品の人気ではなく、会社全体の損益を一つにまとめて見る経営管理にあります。高収益の主力事業が生み出す利益によって、不採算部門の問題が表面化しにくくなっていたのです。

今回注目された「約4億円の部門赤字」は、春華堂が過去に抱えていた構造問題を象徴する数字です。ただし同社は非上場企業であり、上場企業の有価証券報告書に相当する詳細な部門別決算は公表していません。別の公開インタビューでは、当時のうなぎパイ以外の赤字を年間約5億円と説明しており、集計時点や対象部門によって数字に差がある点には注意が必要です。

重要なのは赤字額の細かな違いよりも、看板商品への依存が原価管理や組織上の問題を覆い隠していた事実です。春華堂の再建過程は、強い商品を持つ企業ほど部門別採算を厳しく確認しなければならないという教訓を示しています。

部門別採算が暴いた一本足経営の弱点

看板商品が築いた圧倒的な利益基盤

春華堂は1887年に創業し、1961年に「夜のお菓子」のキャッチコピーでうなぎパイを発売しました。東海道新幹線や東名高速道路の開通で人の移動が増え、浜松土産として全国的な知名度を獲得します。地域商品と交通インフラの成長がかみ合った成功例です。

2017年の報道では、うなぎパイの年間生産量は約8000万本、当時の全社売上高約83億円の8割以上を占めていました。2023年にも同商品だけで75億円を売り上げたと報じられており、発売から半世紀以上が過ぎても高い集客力を維持しています。

これほど強い商品があれば、会社全体の損益は黒字に見えやすくなります。しかし連結した数字だけでは、どの部門が利益を稼ぎ、どの部門がその利益を消費しているのかが分かりません。うなぎパイの利益は春華堂の成長を支える一方、経営上の「目隠し」にもなりました。

さらに、うなぎパイは割れやすい商品特性から通信販売を制限し、静岡県と近隣県を中心とする販売戦略を取っています。地域限定性はブランド価値を高めますが、人の移動が止まれば販売機会も失われます。コロナ禍で創業以来初の生産休止に追い込まれたことは、単一商品と土産需要への依存度の高さを浮き彫りにしました。

全社黒字が覆い隠す部門損失の構造

和菓子店として始まった春華堂には、うなぎパイ以外にも和菓子、洋菓子、直営店、営業など複数の機能があります。ところが主力商品の成長が続く間、祖業の和菓子や新たに進出した洋菓子は十分な収益事業に育たず、赤字が継続していました。

こうした状態は「内部補助」と呼ばれます。成長部門の利益を育成中の事業へ振り向けること自体は、長期経営では珍しくありません。問題は、投資期間や撤退基準を定めず、赤字の原因も測らないまま補助を続けることです。戦略投資と慢性的な損失が区別できなくなります。

部門別採算を把握するには、材料費だけでなく、人件費、物流費、店舗費用、販売促進費などを商品や事業へ適切に配賦する必要があります。売価から材料費を引いただけで「利益が出ている」と判断すれば、製造や販売に必要な労働時間を見落とします。職人の経験に依存した値付けも、原材料価格や賃金が上がる局面では持続できません。

春華堂の改革で最初に意味を持ったのは、派手な新商品ではなく数字の分解です。全社損益を事業単位へ切り分けることで、売上不足なのか、価格が低すぎるのか、固定費が重いのかを議論できるようになります。経営再建の出発点は「売れる菓子を考えること」ではなく、損失が生じる場所を特定する管理会計だったのです。

組織改革と新ブランドをつないだ再建策

数字の可視化と人材制度の同時改革

採算表を作っただけでは、現場の行動は変わりません。商品を設計する職人、原価を計算する管理部門、売り場で顧客の反応を見る販売員が同じ目標を共有して初めて、数字が改善につながります。

春華堂は長年の組織改革を通じ、若手が挑戦しやすい風土とマネジメント人材の育成を進めてきたと説明しています。定番の「うなぎサブレ」や「みそまん」も、若手の感性を取り入れて刷新しました。単に赤字商品を削るのではなく、既存の技術と顧客基盤を使って商品価値を再設計した点が特徴です。

生産現場では、手作りの価値を残しながらトンネルオーブンなどを導入し、生産性を高めています。機械化は職人を置き換えることではありません。均一な工程を設備に任せ、手仕事を味や仕上げなど付加価値の高い領域へ集中させる考え方です。

人材投資は現在も続いています。春華堂は2026年4月から既存正社員の基本給を平均4.5%引き上げ、契約社員とアルバイトの時給も100円増額しました。2027年入社の新卒初任給についても、職種に応じて6.8%から18.5%引き上げる方針です。

賃上げは黒字化を直接証明する資料ではありませんが、人材を単なるコストではなく、技能承継と商品開発の基盤として扱う姿勢を示します。逆に収益力を伴わない賃上げは固定費を増やすため、今後は一人当たりの付加価値や価格転嫁力も問われます。

商品開発と観光施設を一体化した成長投資

春華堂は2014年、和菓子ブランド「五穀屋」とパイ専門ブランド「coneri」を立ち上げました。うなぎパイ、和菓子、洋菓子を三本柱とする構想です。新ブランドを既存商品の派生品にとどめず、五穀や発酵、粉の風味といった異なる価値で設計したことが、顧客の重複を避ける狙いにつながりました。

同じ年には、浜松市で体験型施設「nicoe」を開業しました。報道によると総工費は31億円です。工場、売り場、飲食、庭園、遊び場を組み合わせ、商品を買うだけだった顧客接点を滞在型の体験へ広げました。

2005年開業の「うなぎパイファクトリー」は、2024年6月に累計来場者1000万人へ到達しています。工場見学は製造工程そのものを広告資産に変え、職人技への理解や浜松を訪れる理由を生み出しました。通常なら費用として扱われる工場が、観光施設とブランド発信拠点を兼ねているのです。

2021年には本社、店舗、カフェ、信用金庫を併設した「SWEETS BANK」を開業しました。開業から約1カ月半で延べ8万人が訪れ、併設店の売上は改装前の2倍になったと報じられています。短期の来場実績だけで施設全体の投資回収を判断することはできませんが、新しい顧客層を呼び込む効果は確認できます。

これらの施設には、販売拠点に加えて試作品への反応を確かめるテストマーケティングの役割もあります。商品開発、ブランド広告、観光、地域連携を一つの設備で行えれば、広告費だけでは測れない複合的な収益を期待できます。

2025年の春華堂担当者への取材では、かつて売上高の9割を占めたうなぎパイの比率は7割まで低下し、将来は5割を目指すと説明されています。主力商品の売上を落とすのではなく、他事業の成長によって構成比を下げることが、三本柱化の本来の意味です。

復活後も残る大型投資と観光依存のリスク

春華堂の改革を成功物語だけで評価するのは早計です。nicoeやSWEETS BANKのような施設は、減価償却費、修繕費、人件費、光熱費を長期間発生させます。来場者が増えても、客単価や再訪率が低ければ投下資本を回収できません。

また、事業分散を進めても各施設が浜松への来訪需要に依存すれば、リスクが完全に分散したとはいえません。感染症、災害、景気後退、交通量の減少は、うなぎパイと体験施設の双方へ同時に影響します。ECを含む遠隔販売、法人需要、地域外店舗とのバランスが次の課題です。

原材料価格、為替、物流費、賃金の上昇も無視できません。高付加価値商品は値上げしやすい半面、日常菓子から離れすぎれば購入頻度が下がります。販売数量を維持した値上げなのか、単価上昇で数量減を補っているだけなのかを見極める必要があります。

最大の注意点は、非上場企業である春華堂について、部門利益、営業キャッシュフロー、有利子負債、施設別の投資回収状況が公表されていないことです。売上構成の改善や賃上げは前向きな材料ですが、利益率や資本効率まで改善したとは断定できません。「復活」は、現在確認できる事業展開とブランド分散を指す評価として捉えるべきです。

投資家が春華堂から学ぶ収益構造の見方

春華堂の事例が示す第一の教訓は、全社黒字と全部門の健全性は同じではないことです。突出したヒット商品を持つ企業ほど、商品別の粗利益、共通費配賦後の利益、在庫回転、固定費負担を分けて確認する必要があります。

第二の教訓は、不採算部門を切り捨てることだけが再建ではない点です。職人、製造技術、地域との関係を再配置し、新ブランドと体験施設へつなげれば、過去の固定費を将来の競争力へ変えられます。ただし、投資額に見合うキャッシュを生むかという検証は欠かせません。

春華堂を今後評価する際は、うなぎパイ以外の売上比率だけでなく、和洋菓子の利益率、施設のリピーター比率、価格改定後の販売数量、人件費上昇を吸収する生産性に注目すべきです。強い主力を守りながら第二、第三の柱を利益事業として定着させられるかが、復活劇の次章を左右します。

参考資料:

高
高橋 翔平

株式・投資戦略

株式市場の構造変化と投資戦略を、個人投資家の視点から分析。企業の財務データを読み解き、マーケットの本質に迫る。

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