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中国農村10億人説を検証 最新都市化統計と戸籍制度のずれの実像

by 松本 浩司
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AI・EV中国と農村4億5109万人の落差

上海や深圳のAI、EV、半導体の話題だけを見ていると、中国はすでに一様に都市化された国のように映ります。実際、2025年の中国では高技術製造業の付加価値が前年比9.4%増、新エネルギー車の生産は1652.4万台に達しました。ただ、その華やかな数字だけで中国社会の全体像はつかめません。人口、戸籍、所得を分けて見ると、都市の表面とは違う中国が見えてきます。

とくに注意したいのが、「農村10億人」という見出し的な表現です。2026年3月時点で確認できる最新の国家統計では、2025年末の農村常住人口は4億5109万人で、総人口に占める比率は32.1%です。現在の中国で、実際に農村に住む人を10億人と表現するのは統計上無理があります。

もっとも、この数字だけで農村問題が小さくなったと考えるのも早計です。中国では、常住人口ベースの都市化と、戸籍ベースの都市化がなお大きくずれています。この記事では、そのずれを手掛かりに、ハイテク中国の裏側にある農村の実像を整理します。

農村10億人説の検証

常住人口としての農村4.5億人

中国国家統計局の2025年国民経済・社会発展統計公報によると、2025年末の総人口は14億489万人で、このうち都市常住人口は9億5380万人、農村常住人口は4億5109万人でした。都市化率は67.89%まで上がり、前年末から0.89ポイント上昇しています。2024年7月に国務院が打ち出した5カ年行動計画も、常住人口ベースの都市化率を5年で70%近くまで引き上げる方針を示しました。中国の人口配置は、居住地ベースでは都市側へ傾いています。

このため、「今も中国人の大半が農村で暮らす」という理解は、2025年末時点の常住人口統計とは合いません。農村常住人口は前年比で1369万人減っており、現実は「10億人が農村に住む中国」ではなく、「4億人強が農村に住む中国」です。

ただし、ここで話を終えると重要な論点を落とします。中国政府自身が都市化政策を続けているのは、単に住所を都市へ移せば問題が消えるわけではないからです。人口の移動と、教育、医療、年金、住宅保障まで含む制度上の統合は、まだ同じ速度では進んでいません。

戸籍と農民工が生む見えにくい農村

その制度上のずれを最も端的に示すのが戸籍です。中国政府は2024年8月、2014年以降に1億5000万人の農村移住者が都市戸籍を取得した一方、2023年時点の都市戸籍人口比率は48.3%だったと公表しました。裏返せば、2023年時点では総人口の過半がなお都市戸籍に組み込まれていなかった計算です。ここから先は単純計算による推定ですが、戸籍ベースで都市に完全統合されていない層はなお7億人規模に及ぶとみられます。

さらに、国家統計局は2025年の農民工を3億0115万人としています。農民工は、農業戸籍を持ちながら非農業就業に従事する人々です。2024年調査では総数が2億9973万人、平均月収は4961元でした。中国の都市経済は、農村戸籍を持つ巨大な労働力によって支えられています。

この構図を理解すると、「農村人口は減ったのだから農村問題も縮小した」という見方が危ういことが分かります。実態としては、村に住み続ける人、県城に移った人、大都市で働く人が、戸籍や家族、土地利用権を通じて農村と結び付いたままです。中国の農村は地理的な空間であると同時に、制度上の身分区分でもあります。

ハイテク中国の陰で続く格差と改善

所得と生活費負担に残る都市農村差

では、その農村に結び付く人々の暮らしはどこまで改善しているのでしょうか。2025年の1人当たり可処分所得は、都市が5万6502元、農村が2万4456元でした。単純比では都市が農村の約2.3倍です。しかも消費面では、2025年のエンゲル係数は全国平均で29.3%だったのに対し、都市28.3%、農村31.8%と差が残りました。農村のほうが、なお食費の比重が高い家計構造にあります。

社会保障の数字も、地域差が解消していないことを示します。2025年末に最低生活保障を受けた人は都市595万人に対し、農村3340万人でした。もちろんこれは中国の救済制度が農村にも及んでいるという意味でもありますが、逆に言えば、成長の果実が十分に届いていない層が農村に厚く残っていることの裏返しでもあります。

世界銀行も2024年12月の中国経済アップデートで、農村と都市の分断を埋めて経済的流動性を高めることが、内需拡大と不平等縮小の両方に重要だと指摘しました。ハイテク産業の伸びがそのまま家計の安心へつながらないのは、雇用、社会保障、教育機会が地域と戸籍によって偏って配分されているためです。

インフラ改善と農業近代化の同時進行

一方で、中国農村を「取り残された貧困地帯」とだけ描くのも実態を外します。国家統計局の2024年モニタリング報告では、2024年末の農村の水道普及率は94%、衛生的なトイレの普及率は約76%でした。農民工の子どもについても、2024年時点で3〜5歳の就園率は94.5%、義務教育段階の就学率は99.8%とされています。基礎インフラや教育アクセスは、少なくとも全国平均では着実に改善しています。

政策面でも、北京は農村を放置していません。2025年4月には2035年までの農業強国建設計画を打ち出し、2026年2月の「中央1号文件」でも農業、農村、農民を最優先課題と位置付けました。食料安全保障、県域産業の育成、農民所得の安定増加、農村インフラの整備が同時に掲げられています。

つまり現在の中国農村は、都市に取り込まれて消える存在でも、昔ながらの村落がそのまま残る存在でもありません。県城化、農民工化、農業の大規模化、生活インフラの改善が同時に進む過渡期の空間です。ハイテク中国の裏側というより、ハイテク中国を支える土台の再編現場と見たほうが実態に近いでしょう。

農村4.51億人と農民工3億人超の見極め

このテーマで最も避けたいのは、二つの単純化です。第一に、「中国にはまだ10億人の農村住民がいる」という古い人口イメージです。2025年末の農村常住人口は4.51億人であり、常住人口の意味で10億人とは言えません。第二に、「都市化率が高いのだから農村格差はほぼ解消した」という楽観です。戸籍都市化は2023年時点で48.3%にとどまり、農民工は2025年も3億人を超えています。

今後の焦点は、常住人口の都市化をさらに進めることより、都市で暮らす農村出身者をどこまで制度的に統合できるかです。教育、医療、年金、住宅保障を居住実態に合わせて配れるかどうかで、都市化の質は変わります。

農村4.5億・農民工3億・戸籍7億の三層構造

最新統計で見る限り、中国の農村に「今も10億人が住んでいる」とは言えません。2025年末の農村常住人口は4億5109万人で、都市化率は67.89%です。ただし、戸籍ベースでは都市への統合が遅れ、農民工も3億人を超えています。

ハイテク中国の裏側にあるのは、単純な「遅れた農村」ではありません。所得格差が残る一方で、生活インフラは改善し、国家は農業近代化と農村振興を同時に進めています。中国を見るときは、4.5億人の農村常住人口、3億人の農民工、そして7億人規模の戸籍上の未統合層という三層構造で捉える必要があります。

参考資料:

松本 浩司

マクロ経済・国際経済

国際経済の潮流を、通商政策・為替・新興国の動向から多角的に分析。グローバル経済の「次の震源地」を見極める。

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