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SHEINの中国色再浮上で強まるIPO・通商・規制圧力の行方

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はじめに

SHEINは、シンガポール本社のグローバル企業という顔と、中国に深く根を張る供給網企業という顔を併せ持ってきました。成長局面では、中国の生産集積を使いながら、海外では「中国企業そのもの」と見えにくい形で拡大できたことが強みでした。

ただ、2025年から2026年にかけて、その曖昧さは防御ではなく弱点に変わっています。米国では小口輸入優遇の停止が進み、欧州では消費者保護とデジタル規制が強まり、上場では英国当局の承認だけでは足りず中国当局の判断が重くのしかかっています。本稿では、SHEINに訪れた苦難を「出自」「通商」「規制」「収益」の4つの軸から整理します。

出自隠し戦略の限界

シンガポール本社化と残る中国実体

SHEINは近年、シンガポール拠点を前面に出してきました。しかし、外形上の本社所在地だけで企業の実体は切り替わりません。Public Eyeは、本部機能が広東省広州の番禺区にあり、少なくとも14の中国子会社や持ち株会社が集まると整理しています。さらに、香港、英領バージン諸島、ケイマン諸島などをまたぐ複雑な法人構造も指摘しています。

ロイターは2025年4月、SHEINが2022年に南京からシンガポールへ本社を移した後も、上場審査では中国当局の承認が必要だと報じました。その理由は単純です。SHEINは自前工場を持たず、約5800の委託先工場の大半を中国に抱えているためです。つまり、法人登記や本社表示を海外に置いても、供給網の重心はなお中国にあります。

重要なのは、当局が企業を見る基準が「形式」ではなく「実質」に寄っている点です。これは推論ですが、SHEINが出自を曖昧にすることで得ていた柔軟性は、規制当局の審査では通用しにくくなったとみるのが自然です。

上場審査が映す中国依存

2025年4月、SHEINはロンドン上場に向けて英国金融行為監督機構(FCA)の承認を得たと報じられました。通常なら大きな前進です。しかし同じ報道で、中国証券監督管理委員会(CSRC)の承認がなお必要だとされました。英国で上場しても、中国の供給網に深く依存している以上、中国側の審査を避けられない構図が明確になったわけです。

その後の2025年5月には、ロンドン上場が中国当局の承認を得られず停滞し、香港上場へ軸足を移す動きが報じられました。これは単なる上場先の変更ではありません。SHEINが「中国色を薄めた国際企業」として資本市場に出るより、中国との制度的整合性を優先せざるを得なくなったことを示しています。

通商環境の急変

米国デミニミス見直しの直撃

SHEINの価格競争力を支えてきた柱の1つが、小口貨物を大量に個別配送する仕組みでした。米連邦議会の対中委員会は2023年6月、SHEINとTemuだけで米国に日々届くデミニミス貨物の30%超を占め、中国発に限ればほぼ半分に達する可能性が高いとしました。SHEINの低価格モデルが、小口輸入優遇に強く依存していたことを示す材料です。

この前提を変えたのが、2025年4月2日のホワイトハウスの措置です。中国本土と香港からの800ドル以下の貨物について、5月2日からデミニミス適用を停止しました。さらに国際郵便経由の貨物には、価格の30%または1品目25ドルの関税を課し、2025年6月1日以降は1品目50ドルに引き上げるとしています。

そして圧力は中国向け措置だけで終わっていません。2026年2月20日の大統領令では、デミニミス停止を全ての国に広げる方針が示され、2月24日以降の適用が明記されました。SHEINにとっては、中国発小口配送に依拠した旧来モデルが一時的な逆風ではなく、制度変更として固定化しつつあることを意味します。

欧州小口輸入優遇の縮小

欧州でも事情は似てきました。欧州委員会の税制・関税当局によると、EUで扱われた150ユーロ未満の低額越境EC貨物は、2024年に46億点へ膨らみ、2025年7月時点でも前年同月比36%増でした。2025年上半期の輸入点数ベースでは、低額貨物が全体の97%を占めています。しかも、その95%が中国発です。

この数字が示すのは、SHEINやTemuのようなモデルが欧州の通関制度そのものを揺さぶる規模になったという事実です。EU理事会は2025年12月、150ユーロ未満の小口貨物に対し、2026年7月1日から1品目あたり3ユーロの固定関税を課すことで合意しました。対象はEU向けEC流通の93%を占めるとされます。

ここでも論点は「中国企業たたき」だけではありません。安全性、税負担の公平性、税関の処理能力、域内小売りとの競争条件をどう整えるかという制度問題です。ただし、輸入の大半が中国発である以上、実務上の影響はSHEINに集中しやすいと考えられます。

規制圧力の多面化

消費者保護とプラットフォーム監督

欧州では、SHEINは単なる衣料通販ではなく、大規模プラットフォームとして扱われ始めています。欧州委員会は2024年4月、SHEINをEU域内月間利用者4500万人超の「超大規模オンラインプラットフォーム(VLOP)」に指定しました。これにより、未成年保護やシステミックリスクの低減まで含む、より重い義務を負うことになりました。

実際、2025年5月にはEUの消費者保護当局ネットワークが、偽の値引き表示、虚偽の購入締切による圧力販売、返品や返金権に関する不十分な説明など、EU消費者法違反の疑いをSHEINに通知しています。さらに2026年2月17日には、欧州委員会がデジタルサービス法(DSA)に基づく正式調査を開始しました。調査対象は、違法商品の流通防止、依存的な設計、レコメンドの透明性です。

BEUCも2025年6月、21カ国25団体でSHEINを提訴しました。無限スクロールや偽の在庫逼迫表示など、いわゆるダークパターンが過剰消費をあおるという主張です。SHEINの強みだったアプリ上の高い購買転換率が、規制の側からは消費者操作の疑いとして見られ始めたことになります。

労働・品質・安全管理の再点検

SHEIN自身も、批判に対応するため監査や検査を増やしています。2025年公表の2024年サステナビリティ報告では、中国拠点の供給業者と下請けに対して4288件の現地監査を行い、SHEINブランド商品の調達額ベースで約95%をカバーしたとしています。A・B評価の比率は47%へ上がり、D・E評価は8%へ低下したと説明しています。

一方で、英国議会向けの回答として2025年2月に報じられた内容では、SHEINは2024年に2件の児童労働事案を把握したとしています。監査件数は約4300件、対象労働者は約31万7000人でした。監査強化が進んでも、問題が完全に消えたとは言い難い状況です。

品質面でも安心はまだ十分ではありません。SHEINは2024年に200万件超の製品安全試験を実施し、2025年には1500万ドル超を追加投資するとしています。ところが、Greenpeace Germanyの調査を紹介したGreenpeace European Unitは2025年11月、調査した56点のうち18点、比率で32%がEUの化学物質規制REACHの基準を超える有害化学物質を含んでいたと発表しました。SHEINの改善努力と、外部から見た信頼不足が同時進行しているのが現状です。

収益性と評価の圧迫

成長鈍化とバリュエーション低下

規制や通商の話は、最終的には収益と企業価値に跳ね返ります。ロイターが2025年2月に引用したフィナンシャル・タイムズ報道によると、SHEINの2024年純利益は約10億ドルで、前年から4割近く減少しました。売上高は19%増の380億ドルでしたが、利益率の悪化が目立ちます。

同じくロイターは、2023年に660億ドルだった評価額を、ロンドン上場では約500億ドルまで引き下げる方向だと伝えました。上場先の不透明さに加え、米国の関税と小口輸入優遇の見直しが、SHEINの将来利益を割り引く材料になったためです。低価格を維持するには物流や関税の追い風が要りますが、その追い風が制度的に弱まっています。

SHEINは需要予測、小ロット生産、SNS販売の結合で巨大化しましたが、その優位性は「通関コストが低い」「配送が速い」「規制負担が軽い」という前提に支えられていました。その前提が崩れる局面では、供給網の俊敏さだけでは十分ではありません。

中国回帰の意味合い

ここでいう中国回帰は、必ずしも本社を直ちに中国へ戻すという意味ではありません。むしろ、SHEINがどれだけグローバル企業として振る舞っても、資本市場では中国の承認、通商では中国発物流、規制では中国の供給網管理という3点から逃れにくい、という現実を指します。

この見方は、各ソースを並べるとかなり一貫しています。FCAの承認を得てもCSRCの承認が要ること、ロンドン上場が詰まると香港案が浮上したこと、主要な委託工場が依然として中国に集中していること、EU向け低額EC貨物の大半が中国発であることです。形式上の国際化より、実体としての中国依存が企業価値を左右する段階に入ったと考えるべきでしょう。

注意点と今後の焦点

SHEINをめぐる議論では、「安い服が売れているだけ」とみるのは不十分です。本質は、中国供給網を基盤にした越境ECモデルが、各国の通商制度、消費者保護法、プラットフォーム規制、労働監督と真正面からぶつかり始めた点にあります。

今後の焦点は明確です。第1に、上場先がロンドンなのか香港なのか、あるいはさらに先送りされるのか。第2に、EUで2026年7月1日に始まる小口貨物関税が価格設定と配送戦略をどう変えるか。第3に、DSA調査や消費者保護調査の結果として、アプリ設計や販促表示の見直しがどこまで迫られるかです。

見落としやすいのは、これらの圧力が相互に連動していることです。関税が上がれば価格訴求は弱まり、販促圧力が強まれば今度は消費者保護の規制対象になりやすくなります。SHEINの苦難は、一つの不祥事ではなく、ビジネスモデル全体の再設計を迫る連鎖として見るべきです。

まとめ

SHEINの問題は、「中国企業か、グローバル企業か」というブランド上の問いではなく、「どの制度圏のルールで動く企業なのか」という実務上の問いに変わりました。供給網は中国、上場は海外、販売は欧米という三層構造が、いまや強みより摩擦を生みやすくなっています。

出自を曖昧にして成長した時代は終わりつつあります。これからのSHEINに必要なのは、中国依存を隠すことではなく、その依存を前提にしても通用する透明性、法令順守、収益構造を作り直せるかどうかです。

参考資料:

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