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障害者雇用率ランキング上位企業に見る人的資本経営の実力と課題

by 佐藤 理恵
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法定雇用率2.7%時代の企業選別

障害者雇用率ランキングは、単なる社会貢献の順位表ではありません。2026年7月に民間企業の法定雇用率が2.7%へ引き上げられたことで、雇用率は人事部門だけでなく、経営管理、店舗運営、M&A後の統合、投資家向け開示にも関わる指標になりました。

10位にファーストリテイリング、9位にTrailhead Global Holdings、8位にしまむらが入った今回のランキングは、小売・外食・製造など現場を持つ企業の差を浮かび上がらせています。見るべきは「何%か」だけではなく、どの業務に組み込み、どの範囲で算定し、継続雇用をどう支えているかです。

ランキングを読む前提になる制度変更

2.7%引き上げで広がる対象企業

厚生労働省の直近集計では、2025年6月1日時点の民間企業における雇用障害者数は70万4610.0人、実雇用率は2.41%でした。雇用人数と実雇用率はいずれも過去最高圏にありますが、法定雇用率達成企業の割合は46.0%にとどまります。つまり、制度全体では前進している一方で、半数超の企業はなお達成できていない構図です。

2026年7月以降、民間企業の法定雇用率は2.7%となり、従業員37.5人以上の事業主は1人以上の障害者雇用義務を負います。これまで「40人に1人」で制度対象を意識していた中堅企業も、採用計画や職域設計を見直す必要が出てきました。法定雇用率は段階的に上がってきたため、過去の達成実績がそのまま将来の余裕を意味するわけではありません。

制度面で重要なのは、雇用率の引き上げだけではありません。短時間勤務の算定特例、除外率の縮小、雇用の質を問う政策運営が重なり、企業は「人数をそろえる」対応から「働き続けられる職務を作る」対応へ移行を迫られています。特に精神障害者の求職・就職件数は伸びが大きく、採用後の体調変動、面談、勤務時間調整を組織的に扱えるかが実務上の差になります。

納付金制度と合理的配慮の重み

障害者雇用納付金制度は、未達成企業から納付金を徴収し、達成企業への調整金や設備整備への助成につなげる仕組みです。常用労働者100人超の企業は、未達が続けば直接的な費用負担を意識せざるを得ません。採用難の中で納付金を「コスト」として処理するだけでは、人的資本経営としては弱い判断になります。

加えて、雇用分野では障害者差別の禁止と合理的配慮の提供が義務化されています。募集・採用、配置、教育訓練、福利厚生、昇進などで不当な差別的取り扱いを避けるだけでなく、障害特性に応じた必要な措置を講じることが求められます。職場環境の改善、援助者の配置、休憩時間への配慮、業務工程の見直しは、単なる福利厚生ではなく、法務・労務リスク管理の領域です。

財務面から見ると、障害者雇用は費用項目だけで測るべきではありません。採用費、教育費、設備投資は先行しますが、定着率が高まり、欠員補充の頻度が下がれば、人件費全体の安定性に寄与します。現場作業の標準化やマニュアル整備は、障害のある社員だけでなく、外国人材、短時間勤務者、シニア人材にも効きます。ランキング上位企業の強さは、この横展開にあります。

上位企業に共通する職務設計の厚み

小売業で機能する店舗分散モデル

ファーストリテイリングは、ユニクロで2001年から本格的に障がい者雇用を始め、「1店舗1名以上」を掲げてきました。2025年6月1日時点の国内グループ雇用率は4.77%、国内で約1200名、グローバルで約1700名が働いていると公表しています。大規模小売でこの水準を維持している点は、雇用率だけでなく、店舗網を活用した職域の広さを示します。

同社の特徴は、雇用を本部の専門部署だけに閉じていないことです。店長や社員向けの研修を行い、店舗運営の中で品出し、清掃、バックヤード、接客補助などを組み合わせています。大企業の場合、雇用人数が多くても、売上成長や出店により分母も増えます。比率を保つには、単発採用ではなく、各店舗が受け入れを前提に動く仕組みが必要です。

しまむらも店舗分散型の強みが鮮明です。2025年6月現在、障がい者雇用率は5.36%、国内で973名が働くと公表しています。2026年2月時点で422名の社員が障害者職業生活相談員の認定を取得している点も重要です。相談員を本社に集中させず、ブロックマネージャー層に広げることで、採用後の定着支援や現場判断の速度を高めています。

小売業は、接客、商品整理、陳列、レジ補助、バックヤード、清掃など職務が多層です。一方で、繁忙時間帯や顧客対応があり、現場管理者の理解が欠けると定着は難しくなります。高い雇用率を保つ企業は、障害者雇用を「本部指示」ではなく、店舗運営の標準機能として扱っています。

製造業で強い基幹業務組み込み型

エフピコは、障害者雇用を事業の周辺業務ではなく、食品トレー容器の製造とリサイクルという基幹業務に組み込んでいます。2025年3月時点で障がい者雇用人数401名、雇用率12.6%、雇用率換算数676名を公表しています。特例子会社から始まった取り組みを、全国の拠点整備と工程設計に発展させてきた点が特徴です。

同社では、成形加工、組立加工、検品、包装、使用済みトレーの選別など、品質管理とリサイクルシステムに直結する作業で障害のある人材が活躍しています。これは「雇用のために仕事を探す」のではなく、「事業に必要な工程を、働きやすく標準化する」発想です。製造業では工程分解がしやすく、品質基準も明確なため、職務設計が雇用率向上に結びつきやすい面があります。

キトーもサステナビリティデータで高い障がい者雇用率を示す企業です。2024年度の障がい者雇用人数は36名、雇用率は7.5%と公表されています。従業員数704名規模のメーカーでこの水準を保つには、採用時の見極めだけでなく、配属、教育、安全管理、周囲の理解を継続的に運用する必要があります。重量物や機械を扱う製造現場では、安全配慮が職務設計の中核になります。

持株会社化とM&Aで動く分母

Trailhead Global Holdingsは、ランキング9位として注目されました。同社は2026年3月期の連結売上高18億2600万円、単体売上高11億8300万円を公表し、グループ会社の経営管理と不動産賃貸を事業内容に掲げています。公式サイトでは、飲食事業、ブランド開発、海外展開、M&Aを通じて食のプラットフォーム企業を目指す姿勢も示しています。

ここで投資家が見るべきなのは、雇用率の高さと同時に、分母の変化です。持株会社化やM&Aでグループ構造が変わると、従業員数、算定範囲、職務構成が短期間で動きます。少人数企業や再編途上の企業では、数人の採用が雇用率を大きく押し上げる一方、買収先の従業員が加わると比率が低下する可能性もあります。

これは評価を下げる材料ではなく、読み方の問題です。障害者雇用率は、売上高営業利益率や自己資本比率のように、分子と分母の定義を確認して初めて比較できます。M&Aを進める企業では、買収後の人事制度統合、店舗・工場ごとの受け入れ体制、合理的配慮の標準化が問われます。人的資本KPIは、再編後の組織統合力を測る手掛かりにもなります。

高雇用率だけでは測れない開示リスク

ランキング上位企業の取り組みは評価できますが、雇用率だけを絶対視するのは危険です。障害者を3人以上雇用している企業を対象にしたランキングでは、母数が小さい企業ほど比率が跳ねやすくなります。反対に、数百人、千人規模で雇用している企業は、比率では中位でも社会的インパクトが大きい場合があります。

もう一つの論点は、雇用の質です。法定雇用率を満たしていても、業務が限定され、昇給やキャリア形成が乏しければ、人的資本経営としての評価は限定的です。厚生労働省の基本方針も、職域開発、教育訓練、適正な処遇、安全管理、相談支援、職場内の意識啓発を重視しています。高雇用率企業ほど、次に問われるのは処遇と成長機会です。

2023年度のハローワークを通じた障害者就職件数は約11.1万件、新規求職申込件数は約24.9万件でした。精神障害者の件数が比較的大きく伸びており、今後は体調変動を前提にした勤務設計がより重要になります。採用広報で高い雇用率を掲げる企業ほど、相談窓口、休職・復職、管理職研修、現場負荷の開示が求められます。

投資家が追うべき三つの確認軸

障害者雇用率ランキングを読む際は、第一に雇用率と雇用人数を分けて見ることです。比率が高い企業、人数が多い企業、両方を満たす企業では、経営上の意味が異なります。第二に、職務が本業に組み込まれているかを確認することです。製造、リサイクル、店舗運営、接客補助など、収益活動と接続しているほど持続性があります。

第三に、開示の連続性です。M&A、持株会社化、出店、海外展開で分母が変わる企業では、過年度比較が難しくなります。投資家や求職者は、単年度順位よりも、雇用率、人数、定着支援、相談体制、職域拡大の説明が毎年更新されているかを見るべきです。障害者雇用は、企業の社会性だけでなく、現場を動かす管理能力を映す指標になっています。

参考資料:

佐
佐藤 理恵

企業分析・M&A

会計士としての経験を活かし、企業の財務構造やM&A戦略を深掘り。数字の裏にある経営者の意思決定を読み解く。

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