最新1人当たり営業利益ランキングで浮かぶ高収益企業の共通条件
1人当たり営業利益が注目される背景
企業の「稼ぐ力」を見る指標として、売上高や営業利益率だけでなく、従業員1人当たり営業利益への関心が高まっています。計算は単純で、営業利益を期末従業員数で割るだけです。しかし、そこには事業モデル、資本効率、無形資産、人員配置の思想が濃く表れます。
特に物価上昇と人手不足が同時に進む局面では、「多くの人を抱えて成長する会社」だけでなく、「少人数で大きな利益を生む会社」の強さが見えやすくなります。本稿では、有価証券報告書や決算短信で確認できる営業利益と従業員数をもとに、上位企業に共通する収益構造を財務の視点から読み解きます。
3億円を超えたINPEXの収益構造
比率を読み解くための前提
今回の計算では、原則として連結営業利益を連結従業員数で割っています。決算期は企業ごとに異なり、IFRSと日本基準の違いもあります。そのため、厳密な全社横断の順位表というより、同じ計算式で高収益企業の構造を比較するための分析です。
確認できた主要企業を並べると、突出しているのはINPEXです。2025年12月期の営業利益は1兆1354億円、同年末の連結従業員数は3720人でした。単純計算では、1人当たり営業利益は約3億523万円に達します。多くの製造業や小売業では数百万円から数千万円台にとどまるため、桁が一段違います。
| 企業 | 対象決算期 | 営業利益 | 連結従業員数 | 1人当たり営業利益 |
|---|---|---|---|---|
| INPEX | 2025年12月期 | 1兆1354億円 | 3720人 | 約3億523万円 |
| 日本取引所グループ | 2026年3月期 | 1162億円 | 1268人 | 約9171万円 |
| 中外製薬 | 2025年12月期 | 5988億円 | 7872人 | 約7606万円 |
| キーエンス | 2025年3月期 | 5497億円 | 1万2261人 | 約4484万円 |
| ZOZO | 2026年3月期 | 693億円 | 1894人 | 約3662万円 |
この表で重要なのは、業種がばらばらである点です。資源開発、金融市場インフラ、医薬品、FA機器、ファッションECが並びます。共通するのは、単純な労働投入量ではなく、権益、制度、研究開発、データ、ブランドといった「人員数に比例しにくい資産」が利益を押し上げていることです。
INPEXが突出する資源権益モデル
INPEXの高い数値は、石油・天然ガス開発という資本集約型ビジネスの性格を強く反映しています。探鉱、開発、生産には巨額の投資と長い時間が必要ですが、いったん生産段階に入ると、売上と利益は人員数よりも資源価格、生産量、権益比率、為替に大きく左右されます。
同社の決算短信では、2025年12月期の売上収益が2兆113億円、営業利益が1兆1354億円でした。営業利益率は非常に高く、一般的な労働集約型サービス業とは収益の出方が異なります。従業員1人が油田やガス田を直接「作業して稼ぐ」というより、過去から積み上げた鉱区権益とプロジェクト管理能力が利益を生んでいる構造です。
一方で、この強さは市況への感応度と表裏一体です。INPEXの2026年12月期予想では、営業利益は9570億円と前期比で減益を見込んでいます。会社側は油価前提をブレント1バレル63ドル、為替を1ドル151円としており、資源価格や為替が変われば、1人当たり営業利益も大きく動きます。
営業利益に含まれる投資損益の意味
INPEXの連結損益計算書では、持分法による投資損益が営業利益の前に表示されています。2025年12月期は持分法による投資損益が720億円計上されており、これも営業利益に含まれます。IFRSでは、事業の実態に応じて投資損益が営業段階に入るケースがあるため、日本基準の営業利益と単純に比較しにくい面があります。
これは、数字の価値を下げる話ではありません。むしろ、資源開発会社の利益は子会社単体の作業量だけでなく、共同支配企業や持分法投資を含む権益ポートフォリオから生まれることを示します。1人当たり営業利益を見るときは、「社員1人の生産性」というより、「1人が管理する事業資産の収益力」と捉える方が実態に近いです。
高水準企業に共通する無形資産と仕組み
日本取引所グループの市場インフラ性
日本取引所グループも、1人当たり営業利益が高い企業の代表例です。2026年3月期の連結営業利益は1162億円、連結従業員数は1268人で、1人当たりでは約9171万円です。取引関連収益、清算関連収益、上場関連収益、情報関連収益などが収益源で、金融市場そのものを支えるインフラ企業としての性格を持ちます。
市場インフラの強みは、利用者が増えても従業員数が同じ比率で増えにくい点です。システム投資や規制対応には高い専門性が求められますが、売買代金や清算件数の増加が一定の固定費を超えて利益に効きやすい構造です。つまり、売上や取引量が伸びたときに、追加人員よりも既存システムの稼働率向上で利益が伸びやすいのです。
ただし、金融市場インフラは公共性も高く、単純に利益率だけで評価する対象ではありません。システム障害、サイバーセキュリティ、市場制度の信頼性など、利益に直結しない投資も不可欠です。高い1人当たり営業利益は強みですが、同時に社会的責任の重さも映しています。
中外製薬とキーエンスの無形資産
中外製薬は、2025年12月期の営業利益が5988億円、連結従業員数が7872人で、1人当たり営業利益は約7606万円です。医薬品ビジネスでは、研究開発、特許、臨床開発、販売権、グローバル提携が利益の源泉になります。製品が成功すれば、売上の拡大に対して人員増が緩やかになり、高い利益率が生まれます。
同社はロシュグループとの関係を背景に、研究開発やグローバル展開で独自のポジションを築いています。医薬品は開発失敗リスクも高い一方、成功した製品の収益性は大きく、1人当たり営業利益の高さは「知識資本の蓄積」を反映しやすい業種です。
キーエンスも、無形資産型の高収益企業です。2025年3月期の営業利益は5497億円、連結従業員数は1万2261人で、1人当たり営業利益は約4484万円です。同社の有価証券報告書には、「最小の資本と人で最大の付加価値を上げる」という考え方が示されています。営業利益率の高さは、製品企画力、直販体制、顧客現場の課題把握、グローバル販売網が組み合わさった結果です。
キーエンスの場合、製造業でありながら、単なる設備保有型ではありません。商品開発と営業の接続が強く、顧客の生産現場で生じる課題を高付加価値商品へ変換する仕組みが収益源です。高い1人当たり営業利益は、社員数の少なさだけでなく、顧客接点から利益率の高い製品を生み出す経営システムの強さを示します。
ZOZOやMonotaROに見るデータ化の効用
デジタル基盤を持つ企業も、1人当たり利益を高めやすい傾向があります。ZOZOは2026年3月期の営業利益が693億円、連結従業員数が1894人で、1人当たり営業利益は約3662万円でした。ファッションECは物流やカスタマー対応を伴いますが、プラットフォーム、ブランド集客、決済、データ活用が収益性を支えます。
MonotaROも、間接資材購買をEC化することで成長してきた企業です。2025年12月期決算概要では、連結売上高3338億円、連結営業利益473億円が示されています。営業利益率は14.7%で、売上成長を上回る利益成長が続いています。現場ごとに分散していた購買行動をデータ化し、検索性、品ぞろえ、短納期を組み合わせることで、労働集約型の卸売とは異なる効率を実現しています。
こうした企業では、利益の源泉が「店舗数」や「営業担当者数」だけではありません。顧客データ、検索ログ、推薦アルゴリズム、物流設計、購買管理システムとの接続などが、従業員数に比例しない利益を生みます。人を減らしているのではなく、人が担う仕事の中心が、反復作業から仕組みづくりへ移っている点が特徴です。
指標だけでは見誤る会計と人員の落とし穴
1人当たり営業利益は便利ですが、万能ではありません。第一に、会計基準の違いがあります。IFRSでは営業利益に持分法投資損益や特定の投資損益が含まれる場合があり、日本基準の営業利益と完全にはそろいません。金融、資源、医薬品、投資会社では、営業利益の中身を必ず確認する必要があります。
第二に、分母である従業員数の違いです。有価証券報告書の従業員数は、多くの場合、臨時雇用者や派遣社員を外数で示します。ZOZOのように臨時雇用者が多い企業では、正社員・準社員ベースの従業員数だけで割ると、物流現場を含む実際の人手より高く見える可能性があります。
第三に、M&Aや外部委託の影響です。買収でホテル、保険、物流などの人員が増えれば、利益水準が同じでも1人当たり営業利益は低下します。逆に、生産や物流を外部委託すれば、分母が小さくなり数値は高く見えます。これは経営効率の一面ではありますが、すべてを「社員の生産性」と呼ぶのは危険です。
したがって、この指標は単独で優劣を決めるものではなく、営業利益率、ROIC、キャッシュフロー、研究開発費、設備投資、外注費、臨時雇用者数と一緒に読むべきです。数字の高さよりも、「なぜ少人数で利益を出せるのか」「その仕組みは持続するのか」を見ることが重要です。
投資家が確認すべき3つの補助指標
1人当たり営業利益を投資判断に使うなら、まず営業利益の質を確認することです。本業の販売利益なのか、資源価格や為替、持分法投資、評価益に依存しているのかで、持続性は大きく変わります。営業利益が伸びても、営業キャッシュフローが伴わない場合は慎重に見る必要があります。
次に、分母の変化です。連結従業員数が増えているのに1人当たり利益も上がっている会社は、事業拡大と効率化が両立している可能性があります。反対に、人員を絞った結果として一時的に高く見えるだけなら、成長余地や組織負荷を点検すべきです。
最後に、再投資の中身です。高収益企業ほど、研究開発、人材、システム、ブランド、資源権益への投資が次の利益を左右します。1人当たり営業利益のランキングは、単なる効率表ではありません。会社がどの資産で利益を生み、その資産をどう更新しているのかを見抜く入口です。
参考資料:
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