藤田晋が24歳で実践した「ハッタリ経営」の本質
藤田晋24歳のハッタリ経営の原点
サイバーエージェントを創業した藤田晋氏が、24歳の若き社長時代に実践していた「ハッタリ発言」が改めて注目を集めています。売上ゼロの状態で「来期5億円」と断言し、創業3カ月で「2年後に上場する」と宣言する。一見すると無謀な大言壮語に見えるこれらの発言は、実はすべて現実のものとなりました。
現在では売上高7,000億円規模のメガベンチャーに成長したサイバーエージェントの原点には、若き藤田氏の大胆な「ハッタリ」と、それを裏付ける圧倒的な行動力がありました。本記事では、藤田氏の創業期のエピソードをひもときながら、スタートアップにおける「ハッタリ」の本質と戦略的な意義を解説します。
24歳の起業家が放った「ハッタリ」の中身
売上ゼロで「来期5億円」宣言
藤田晋氏は1973年福井県生まれ。青山学院大学卒業後、1997年に人材サービス会社インテリジェンス(現パーソルキャリア)に新卒入社しました。営業職として入社1年目から頭角を現し、新人ながら同期を大きく引き離す営業成績を記録したとされています。
転機は入社からわずか1年後に訪れます。1998年3月、藤田氏は24歳でサイバーエージェントを設立しました。インターネットビジネスが急速に拡大する時代に、「ネット業界には営業力のある会社が少ない」という着眼点から、自らの営業力を武器に起業したのです。
創業間もない頃、日本経済新聞の記者から業績見通しを聞かれた藤田氏は、「来期、5億円を目指しています」と言い切りました。当時のサイバーエージェントはまだ売上がほぼゼロの状態で、完全な「ハッタリ」でした。しかし注目すべきは、翌1999年9月末時点で、実際に売上高が5億円に到達していたという事実です。
創業3カ月で「2年後に上場」と公言
さらに大胆だったのが、創業わずか3カ月、正社員ゼロ(取締役のみ)で事業内容すら固まっていない時期に、会社のホームページで「2年後をメドに上場します!」と高らかに宣言したことです。当時この宣言を見た多くの人は、若者の無謀な大言壮語としか受け取らなかったでしょう。
ところが、この宣言もまた現実となります。2000年3月、創業からちょうど2年後、26歳の藤田氏は東証マザーズへの上場を果たしました。上場時の調達額は約207億円と報じられています。
「ハッタリ」を実現させた3つの要素
インテリジェンスで鍛えた圧倒的な営業力
藤田氏のハッタリが単なる「大風呂敷」で終わらなかった最大の理由は、その裏側にあった尋常ではない行動力です。インテリジェンス時代、藤田氏は求人広告やDMの制作などの営業で、1年間で5,000万円の粗利を挙げるなど会社の売り上げ記録を何度も更新しました。この実績が、起業後の自信と行動の土台となっています。
インテリジェンスの宇野康秀社長(現USEN-NEXT HOLDINGS代表)からも高く評価され、独立の際には出資まで受けています。営業の現場で叩き上げた実力が、藤田氏の「ハッタリ」に説得力を与えていたのです。
週110時間労働という覚悟
創業後、藤田氏はメンバーに「1週間で110時間働く」と宣言しました。平日は朝9時から深夜2時まで、土日もそれぞれ12時間ずつ働くという計算です。創業当初のメンバーは藤田氏を含めわずか3人で、全員が電子マネー「WebMoney」の取扱サイト開拓やウェブサイトの制作請負など、インターネット関連の営業代行に明け暮れる日々だったとされています。
この猛烈な行動量が、ゼロからわずか1年半で売上5億円を達成するという離れ業を可能にしました。ハッタリは口先だけでは成立しません。言葉と行動のギャップを圧倒的な努力で埋めたところに、藤田流ハッタリの本質があります。
クリック保証型広告への事業転換
もう一つの重要な要素が、事業の方向転換を躊躇なく行った判断力です。創業当初は営業代行がメインでしたが、1998年夏頃に「クリック保証型広告」という新しいインターネット広告モデルに出会い、すぐさまインターネット広告代理事業へとビジネスモデルを転換しました。
この「サイバークリック」と呼ばれるサービスが大きく成長し、サイバーエージェントをインターネット広告のリーディングカンパニーへと押し上げる原動力となりました。変化の激しいIT業界で、柔軟かつ大胆に事業を転換する決断力が、ハッタリを現実に変えるもう一つの鍵だったといえます。
起業家にとっての「ハッタリ」の戦略的意義
自己暗示とチームの求心力
藤田氏の「ハッタリ」には、単なるメディア向けのパフォーマンス以上の意味がありました。大きな目標を公に宣言することで、自分自身を追い込み、退路を断つ効果があったのです。心理学でいう「公的コミットメント」の効果で、人は公言した目標に対して達成への動機付けが高まることが知られています。
また、大胆なビジョンはチームの求心力にもなります。藤田氏は20歳の頃にジェームズ・C・コリンズの『ビジョナリー・カンパニー』を読み、「21世紀を代表する会社を創る」という壮大な目標を掲げました。この目標はサイバーエージェントの企業理念として今も生き続けており、社員の採用や組織づくりの求心力として機能しています。
孫正義氏にも共通する「大言壮語」の系譜
こうした「ハッタリ」的な経営手法は、藤田氏だけのものではありません。ソフトバンクの孫正義氏は、創業初期に従業員を前にして「1兆、2兆の事業をする」と宣言し、当時の社員が呆れて辞めていったというエピソードが知られています。しかし孫氏もまた、その宣言を現実のものとしました。
こうした起業家に共通するのは、「ハッタリ」の裏側に深い思考と覚悟、そして達成に向けた徹底的な行動が伴っているという点です。言葉だけが先行する「空約束」とは本質的に異なるものだといえるでしょう。
ハッタリ成功条件とABEMA後の成長期
ハッタリが機能する条件
藤田氏の事例から学べるのは、ハッタリが有効に機能するためには明確な条件があるということです。第一に、自分の能力や市場環境に対する冷静な分析が必要です。藤田氏は「ネット業界には営業力のある会社が少ない」という市場の隙を正確に見抜いていました。第二に、宣言した目標を裏付ける行動量が不可欠です。そして第三に、状況に応じて柔軟に手段を変える判断力が求められます。
単なる「口だけ」のハッタリは信用を失うだけです。藤田氏の事例を表面的に真似るのではなく、「大胆な目標設定」と「圧倒的な実行力」のセットとして理解することが重要です。
サイバーエージェントの現在と今後
サイバーエージェントは創業から約28年を経て、インターネット広告事業に加え、「ABEMA」などのメディア事業、ゲーム事業、AI関連事業など多角的に展開する大企業へと成長しました。藤田氏は近年、後継者育成にも着手しているとされ、同社は次の成長フェーズに入りつつあります。24歳の若者が放った「ハッタリ」が、日本を代表するIT企業の礎となったことは間違いありません。
来期5億円を現実にした実行力
藤田晋氏が24歳で実践した「ハッタリ発言」の本質は、無謀な大言壮語ではなく、自らを追い込み、チームを鼓舞し、メディアの注目を集めるための戦略的なコミュニケーション手法でした。売上ゼロの段階で「来期5億円」と宣言し、創業3カ月で「2年後に上場」と公言した藤田氏は、そのすべてを現実のものとしています。
その背景には、インテリジェンス時代に培った営業力、週110時間という猛烈な行動量、そして市場の変化を読んだ大胆な事業転換がありました。スタートアップにおいて重要なのは、大きなビジョンを語る勇気と、それを裏付ける実行力のバランスです。藤田氏の創業期の物語は、「言葉で未来を切り拓く」ことの可能性を教えてくれます。
参考資料:
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