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ゾス熱狂と起業ブームに潜む短期志向の落とし穴と持続性低下問題

by 白石 葵
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はじめに

最近、強い掛け声や過剰な一体感を前面に出す営業組織が、SNSやテレビで大きな話題になる場面が目立ちます。拒否感を抱く人が多い一方で、そこに「成長の速さ」や「人生を変える熱量」を感じて惹かれる若者も少なくありません。同じ構図は、政策面でも追い風を受ける起業ブームにも見られます。短期間で大きく伸びる物語は魅力的ですが、組織や事業の持続性は別問題です。

本記事では、営業現場の熱狂と起業ブームを同じ「短期志向」の問題として捉えます。可視化しやすい熱量や勢いが、なぜ人を惹きつけ、同時に燃え尽きや淘汰を生みやすいのか。公的資料や調査をもとに、その構造を整理します。

熱量が評価を上書きする採用市場

炎上と憧れが同時に生まれる構図

2026年3月末、マイナビニュースは、フジテレビ系「ザ・ノンフィクション」で描かれた営業会社の厳しい指導や独特の掛け声がSNSで賛否を呼んだと報じました。こうした話題は、外から見ると古い体育会系文化や同調圧力の象徴に映ります。しかし、別の角度から見ると、努力と成果の関係が分かりやすく、承認も早い環境として映る面があります。

ここで重要なのは、SNSが組織文化の「外形」だけを拡散しやすいことです。大きな声、強い言葉、密な人間関係、数字の競争は、映像として非常に強い印象を残します。一方で、育成制度の中身、離職率、マネジメントの再現性、メンタル負荷の高さといった持続性の情報は拡散されにくい傾向があります。短期で見えるシグナルだけが先に市場に流れ、長期で問われるコストが見えにくくなる構図です。

これは採用市場でも同じです。若手人材は「成長できるか」を強く意識しますが、その判断材料として、実際の技能蓄積よりも、熱量の高さや成功者の物語が先に届きやすいからです。ここから推測できるのは、炎上型コンテンツが単なる逆効果ではなく、強い選別装置として働く可能性です。合わない人は去り、短期で変化を起こしたい人だけが集まります。

政策主導の起業ブームという追い風

この「熱量の可視化」が最も制度的に後押しされている分野の一つが起業です。政府の「スタートアップ育成5か年計画」は、2027年度にスタートアップへの投資額を10兆円規模にする目標を掲げ、「第二の創業ブーム」の実現を打ち出しました。経済産業省は2024年7月、外部出資を受けた約9000社のスタートアップを対象に、創出GDPが10.47兆円、間接波及効果を含めると19.39兆円、雇用創出が52万人との試算を公表しています。

こうした数字は、起業が個人の自己実現だけでなく、国の成長戦略でもあることを示しています。日本政策金融公庫の2024年調査でも、起業に関心を持つ層は「収入を増やしたい」「自由に仕事をしたい」といった理由を挙げています。起業は、会社の中で昇進を待つより早く、自分の努力をリターンに変えられる手段として認識されやすいのです。

ただし、ここに営業組織の熱狂と似た落とし穴があります。短期間で伸びた調達額、急拡大した採用、SNS映えするオフィスや創業者の発信は注目を集めやすい一方、地味な内部統制、採算管理、顧客継続率、人材育成といった持続性の指標は話題になりにくいからです。起業ブームが悪いのではなく、可視化されやすい成功の型が短期偏重になりやすい点が問題です。

短期成果が招く燃え尽きと淘汰

即効性のある報酬設計と長時間労働

短期志向の職場は、努力の見返りが早いという強みを持ちます。数字で評価され、称賛も叱責も即時に返ってくるため、ゲームのように没入しやすい構造です。デロイトの2025年グローバル調査でも、Z世代とミレニアル世代は、昇進そのものよりも、成長機会、意味、ウェルビーイングの両立を重視する傾向が示されています。つまり若手は、地位よりも「自分が前に進んでいる実感」を求めています。

問題は、その実感を短期の競争で過度に供給すると、疲弊も加速しやすいことです。WHOとILOの共同研究では、週55時間以上の労働は、週35〜40時間労働と比べて脳卒中リスクを35%、虚血性心疾患による死亡リスクを17%高めると報告されています。しかも長時間労働による死亡は世界で推計74万5000人に達しました。短期の成果を出すために稼働時間を積み上げるモデルは、本人の熱意が高いほど歯止めが利きにくいのです。

営業組織でもスタートアップでも、初期フェーズでは無理が称賛されがちです。しかし、無理が制度化されると、成長の再現性は落ちます。個人の根性で回る組織は、採用を広げた瞬間に品質がぶれ、マネジメント負荷も急増します。見かけの熱量が高いほど、裏側で属人的な運営が温存されやすい点に注意が必要です。

起業の裾野拡大と失敗コストの現実

起業の裾野が広がること自体は前向きです。雇用を生み、新しい技術やサービスを育てるからです。ただ、日本政策金融公庫の調査では、起業に関心があっても踏み出せない理由として、自己資金不足、失敗時の生活不安、借入への心理的抵抗が上位に並びます。関心が高まっても、リスク許容度や資金調達力が一気に改善するわけではありません。

企業倒産全体を見ても、東京商工リサーチは2024年5月の全国企業倒産が1009件となり、11年ぶりに月間1000件を超えたと公表しました。もちろん倒産件数はスタートアップだけを示す数字ではありませんが、資金コスト上昇や人手不足、物価高の局面では、勢いだけで事業を維持することが難しい現実を映しています。短期で資金や人材を集められても、継続課金や粗利の構造が弱ければ、外部環境の変化に耐えられません。

ここで見えてくる共通点は明確です。営業の熱狂も起業ブームも、初速の魅力が強いほど、見えにくい基礎体力の差が後から効いてきます。採用であれば育成の厚み、起業であれば資金繰りと顧客基盤です。短期で勝つ設計と、長期で残る設計は一致しないことが多いのです。

注意点・展望

注意したいのは、熱量そのものを否定しすぎないことです。新規開拓営業にも起業にも、一定の突破力は不可欠です。問題は、突破力が唯一の価値基準になり、休息、育成、検証、撤退判断が軽視されることにあります。勢いは成長の条件にはなっても、十分条件にはなりません。

今後は、起業支援でも採用広報でも、短期成果の演出より持続性の情報開示が重要になります。たとえば、離職率、育成期間、管理職の定着状況、創業後の生存率、資金調達以外の収益指標などです。派手な成功談の量ではなく、失敗時の備えや再挑戦の仕組みまで見せられる組織のほうが、結果として信頼を得やすくなります。

まとめ

営業現場の「ゾス」的な熱狂と、政策に支えられた起業ブームは、一見すると別の話に見えます。しかし両者に共通するのは、短期で可視化できる成果が、長期の持続性を上書きしやすいことです。熱量は人を集めますが、組織や事業を残すのは、地味な仕組みと基礎体力です。

読者が見るべきなのは、勢いの強さだけではありません。そこに再現可能な育成、健全な労働設計、無理を前提にしない収益構造があるかどうかです。短期の眩しさを疑う視点こそ、これからの採用市場と起業環境を読み解くための基準になります。

参考資料:

白石 葵

SaaS・DXスタートアップ

SaaS企業やDXスタートアップを、同世代の目線から取材。プロダクトの仕組みとビジネスモデルの両面から新興企業の実力を見極める。

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