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コーエーテクモ新社長が継ぐ襟川流経営と世界展開の次の焦点と戦略

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はじめに

コーエーテクモホールディングスでは、2025年6月に鯉沼久史氏が代表取締役 社長執行役員CEOに就任し、襟川陽一氏は代表取締役会長兼取締役会議長、襟川恵子氏は取締役名誉会長へ移りました。公開資料では、この移行は単なる創業者交代ではなく、監督と執行を分けるガバナンス強化と、次世代経営への継承を同時に進める再設計として位置づけられています。

今回の論点は、新社長個人の経歴だけではありません。創業者が長年築いた「創造と貢献」という理念、ゲーム会社としては異色ともいえる資産運用モデル、そしてグローバル市場で戦うための開発体制を、誰がどう引き継ぐのかが問われています。なお、元記事タイトルは「本」に焦点を当てていますが、2026年4月2日時点で公開情報だけから鯉沼氏が何を“教科書”として学んだかまでは確認できません。本稿では、公開情報で確認できる創業者の著書と経営メッセージを手がかりに、「襟川流経営」の輪郭を整理します。

新体制移行の意味

監督と執行の分離という制度設計

2025年4月30日の決算説明資料で、コーエーテクモは2025年6月から新体制へ移行し、創業者夫妻は経営の監視・監督に注力すると説明しました。あわせて社外取締役を増員し、取締役の過半数を社外取締役が占める構成へ移ることも示しています。創業家が全面的に退くのではなく、監督側に回りながら執行は次世代に委ねる形です。

この整理は、同社の特殊性を踏まえると重要です。コーエーテクモはゲーム開発会社である一方、余剰資金の運用でも大きな収益を上げてきました。2025年2月7日には、グループ資金管理や有価証券の保有・運用を担う「コーエーテクモコーポレートファイナンス」を設立し、襟川恵子氏が社長に就任しています。つまり新体制は、ゲーム事業の執行責任を鯉沼氏に集めつつ、創業家が強みを持つ監督とファイナンスの機能を別建てで残す構図です。

公開資料からみる限り、この設計は創業者依存からの脱却と、創業者資産の活用を両立させる試みだと考えられます。特に襟川陽一氏のメッセージでは、2025年6月以降は自身が監督、鯉沼氏が執行を担うこと、女性役員比率が単体で33%になったことも示されました。形式的な肩書変更ではなく、上場企業としての説明責任を意識した体制変更と読むのが自然です。

鯉沼久史氏の昇格が示す人材登用

鯉沼氏は1994年にコーエーへ新卒入社し、プログラマーから出発しました。公式資料では『決戦 KESSEN』のリードプログラマー、「戦国無双」シリーズのプロデューサー、初の協業タイトル実現などが経歴として挙げられています。2015年にはコーエーテクモゲームス社長、2021年にはホールディングス副社長、2025年6月にホールディングス社長執行役員CEOへ進みました。

ここで注目したいのは、創業家出身ではなく、現場から上がった人物がグループ経営の中心に据えられた点です。襟川陽一氏は決算説明資料の中で、鯉沼氏を「クリエイティブ&ビジネス」を体現するリーダーだと評価しました。これは同社の価値観そのものでもあり、単なる後継指名ではなく、社内文化を理解した執行トップを選んだという意味を持ちます。

実際、鯉沼氏の公開メッセージは、6ブランドと1スタジオによる開発体制、AAAスタジオ新設、グローバルIP創造と展開、開発拠点拡充といった論点に集中しています。つまり新社長のミッションは、創業者の代弁者になることよりも、理念を前提にしながら世界市場で再現可能な成長エンジンをつくることにあります。

襟川流経営の中核

理念と著書から見える思考法

コーエーテクモの基本理念は明快です。精神は「創造と貢献」、ビジョンは「世界No.1のデジタルエンタテインメントカンパニー」、価値観には「クオリティ&サティスファクション」「クリエイティブ&ビジネス」「品質・納期・予算」が並びます。経営基本方針でも、「最高のコンテンツの創発」「成長性と収益性の実現」「社員の福祉の向上」「新分野への挑戦」が掲げられています。

この並びを見ると、襟川流経営は、クリエイターの理想論だけでも、金融投資の合理主義だけでもありません。面白いものを生み出す創造性、利益を残す事業運営、開発の規律、社員の処遇、新分野への挑戦を同時に求める設計です。ゲーム業界ではヒット志向が強い会社ほど組織運営が属人的になりがちですが、同社は早い段階から「ビジネス」を価値観に明示してきました。

元記事タイトルにある「本」については公開情報だけで断定できませんが、創業者・シブサワ・コウ名義の著書『シブサワ・コウ 0から1を創造する力』は、襟川流を外から理解する有力な手がかりです。hontoの書誌紹介では、同書は「創造」「旗揚げ」「革新」「発展」「継承」を軸に、既存市場にないものを生み出す方法と、厳しい競争を生き残る考え方を扱う構成です。これは公開されている企業理念や、襟川陽一氏が「新分野への挑戦」を語る内容と整合的です。ここから推測できるのは、襟川流経営の本質が、成功体験の固定化ではなく、挑戦を制度化することにあるという点です。

資産運用とグローバルIPの両輪

もう一つの特徴は、ゲーム事業と資産運用の両輪です。2025年3月期の決算説明資料によると、売上高は831億5000万円、営業利益は321億1900万円、経常利益は499億8800万円、当期純利益は376億2800万円でした。営業利益も高水準ですが、経常利益の厚さが際立ちます。営業外収支が成長を支えてきたことが数字に表れています。

ただし、コーエーテクモを「投資会社」とだけ見るのは雑です。同じ資料では、2025年3月期のコンソール・PC分野売上が395億2000万円、販売本数が763万本、海外比率が68.9%、ダウンロード比率が78.1%でした。つまり同社は、デジタル販売を軸にグローバル市場へ広げるゲーム会社として、着実に体質を変えてきた最中でもあります。

2026年3月期第3四半期時点でも、その二面性は続いています。売上高は517億2900万円、営業利益は145億7100万円、経常利益は310億9900万円で、金融市場を見ながらポートフォリオを組み替え、利益を計上したと説明しています。一方で新作発売は下期偏重で、通期予想は売上高920億円、営業利益310億円、経常利益370億円を据え置きました。足元のテーマは、投資益に支えられた安定性を維持しながら、本業側でAAA級タイトルとグローバル販売力をどう積み増すかにあります。

注意点・展望

コーエーテクモの後継論で誤解しやすいのは、創業者が退いたから経営哲学も切り替わる、という見方です。実際には、理念、役員体制、創業者の監督機能、ファイナンス子会社の設計を見る限り、急旋回より継承色の強い移行です。他方で、執行トップが変わった以上、これまでと同じ説明では済みません。鯉沼体制は、創業者の存在感を借りるだけでなく、自らの成長ロジックを数字で示す必要があります。

今後の焦点は三つです。第一に、AAAスタジオを含む開発体制拡充が、販売本数や利益率に結びつくかです。第二に、モバイル分野の弱さをどう補うかです。第3四半期資料ではオンライン・モバイル売上の減少が減収要因として挙げられました。第三に、資産運用益が大きい会社だからこそ、本業の競争力がどこまで独立して評価されるかです。新社長にとっての最初の本格的な審判は、創業者の遺産を守れるかではなく、その遺産を使って次の成長曲線を描けるかにあります。

まとめ

コーエーテクモの社長交代は、世代交代というより、創業者経営を制度化して次世代に接続する作業です。公開情報から見える襟川流経営の核は、「創造と貢献」を軸に、クリエイティブとビジネスを両立させ、挑戦を続けながら利益と財務安定性も確保する点にあります。鯉沼久史氏は、その思想を理解したうえで、AAA開発、グローバル展開、コスト効率を実務に落とし込む役割を担います。

元記事タイトルが示す「本」の答えを公開情報だけで一冊に断定することはできません。ただ、創業者の著書と企業資料を重ねると、襟川流の本質は“読むべき一冊”そのものより、創造と収益の両立を組織に埋め込む考え方にあると見えてきます。新社長体制の成否は、その考え方を世界市場でどこまで再現できるかにかかっています。

参考資料:

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