日立VOS3終了で揺れる地銀勘定系、共同化移行先と銀行名一覧
VOS3終了が勘定系刷新を前倒しする理由
日立製作所がメインフレーム用OS「VOS3」の販売を2027年11月、保守を2034年12月に終える方針を示したことで、地方銀行の勘定系システムは「いつかの刷新」から「期限のある移行課題」へ変わりました。停止できない預金、為替、融資、口座振替を担う勘定系では、数年単位の検討と移行リハーサルが必要です。
重要なのは、2034年まで時間があるように見えても、実際には選択肢を狭めるカウントダウンが始まっている点です。共同化に乗るのか、クラウド型の受け皿へ寄せるのか、メインフレーム継続を前提にモダナイズするのか。この記事では、公開資料で確認できる銀行名と移行先候補を整理し、地銀経営にとっての判断軸を読み解きます。
公開資料で見える移行先候補と銀行名
日立発表で確定した販売終了の期限
日立の2026年5月29日付発表は、単なる製品ライフサイクルの通知ではありません。発表では、VOS3システムの販売終了を2027年11月、保守終了を2034年12月と明記し、今後はAIを活用した基幹システムのモダナイゼーション事業へ経営資源を移す方針を示しました。日立は約80年にわたるミッションクリティカル領域の知見を強調していますが、銀行側から見れば、日立系メインフレームを前提にした長期更改計画をそのまま延ばすことは難しくなります。
日立は2018年に新メインフレーム「AP10000」を投入し、VOS3/XSを搭載した高信頼環境を提供していました。当時の資料では、プロセッサ単体性能を従来比約3.8倍、最大処理性能を約2.9倍へ高め、標準メモリを4GBから64GBへ拡大したと説明しています。最大構成時の設置面積を約80%削減するなど、ハードウェア刷新としては大きな前進でした。
それでも、今回の論点は性能ではなく継続性です。AP10000は基幹ソフトウェア資産の継承を掲げた製品でしたが、VOS3の保守終了が示された以上、銀行はアプリケーション資産、帳票、バッチ処理、接続先ネットワークを含めて、出口戦略を明文化する必要があります。
TSUBASA共同化に並ぶ5行の名前
公開資料で最も銀行名が具体的に確認できるのは、TSUBASAアライアンスの共同化です。TSUBASAアライアンスの会社ページは、基幹系システム共同化の対象として、千葉銀行、第四北越銀行、中国銀行、北洋銀行、東邦銀行の5行を挙げています。これは「日立VOS3からの移行先」と直接公表されたものではありませんが、地銀が勘定系の単独運営から広域共同化へ重心を移している事実を示す重要な材料です。
TSUBASAアライアンスは2015年10月、千葉銀行、第四銀行、現在の第四北越銀行、中国銀行の3行で発足しました。現在は10行が参加し、2026年3月末時点の10行合計で総資産100兆円、預金79兆円、貸出金63兆円、法人顧客216万先、個人顧客2318万人という規模を公表しています。単独行では背負いにくいIT投資を、広域連携で薄く広く負担する構図が見えます。
同じTSUBASAの枠内では、千葉銀行、第四北越銀行、東邦銀行、北洋銀行と日立が、バックオフィス業務の共同化に向けた「TSUBASA共同事務センター株式会社」を2026年7月に設立し、2027年4月の業務開始をめざすことも発表されています。共同基盤はAWS上に整備され、相続手続きのシステムは2027年度上期中の稼働を予定しています。勘定系そのものではありませんが、周辺事務をクラウド基盤へ切り出す動きは、将来の勘定系移行に向けた業務標準化の前段階と見られます。
| 銀行・枠組み | 公開資料で確認できる受け皿 | 読み解き |
|---|---|---|
| 千葉銀行、第四北越銀行、中国銀行、北洋銀行、東邦銀行 | TSUBASAの基幹系システム共同化 | 地銀5行が勘定系共同化の中核に位置づけられている |
| 千葉銀行、第四北越銀行、東邦銀行、北洋銀行 | TSUBASA共同事務センター、AWS上の共同基盤 | 振込、口座振替、検印、相続など周辺事務を共同化 |
| 地銀共同センター | NTTデータの統合バンキングクラウド | 2028年ごろの更改に向けて適用範囲を検討 |
| MEJARなど他システム | 統合バンキングクラウドへの展開候補 | NTTデータが他システムへの展開を検討すると説明 |
| 武蔵野銀行、琉球銀行 | TSUBASAとじゅうだん会の重複参加 | 複数共同化枠組みにまたがる銀行の存在を示す |
NTTデータが示す統合バンキングクラウド
もう1つの大きな受け皿は、NTTデータの「統合バンキングクラウド」です。同社の金融向けページは、勘定系システムについて、バンキングアプリケーション「BeSTA」を共同利用型などで提供してきたと説明しています。そのうえで、メインフレームの供給減、価格上昇、技術者不足によりサステナビリティが懸念されていると指摘しています。
NTTデータは、BeSTAをオープン化し、ハードウェアやミドルウェアを集約してクラウドとして提供する構想を掲げています。まずは2028年ごろを予定する地銀共同センターの勘定系システム更改に向け、統合バンキングクラウドの適用範囲や実現内容を検討するとしています。さらに、MEJARなど他システムへの展開も検討すると明記しており、地銀勘定系の移行先候補として存在感を増しています。
この公表内容から読み取れるのは、銀行単位の「どこへ移るか」より先に、共同センター単位の「どの標準アーキテクチャへ寄せるか」が問われていることです。地銀勘定系の移行は、単一ベンダーの乗り換えではなく、共同利用モデルそのものの再設計になりつつあります。
技術選択を左右する共同化とクラウドの実像
基幹系と周辺事務の分離
勘定系システムの刷新を、古いプログラムを新しい基盤へ移すだけの作業と見ると、判断を誤ります。銀行の現場では、オンライン取引、夜間バッチ、帳票、営業店端末、ATM、インターネットバンキング、全銀システムとの接続、監査証跡が複雑に絡みます。移行先を選ぶ前に、どの業務を共同化し、どの業務を自行の競争領域として残すのかを切り分ける必要があります。
TSUBASA共同事務センターの動きは、この切り分けを進める実例です。発表資料では、振込、口座振替、検印、相続手続きなどのバックオフィス業務を、共同基盤上で複数銀行が相互に委託・受託する構想が示されています。相続業務では、書類チェックから振込などの最終処理まで一気通貫でペーパーレス対応をめざします。
製造現場でいえば、老朽設備を置き換える前に、工程そのものを標準化する作業に近いです。工程が銀行ごとにばらばらのままでは、どれほど新しいクラウド基盤を導入しても、個別カスタマイズが膨らみます。共同事務センターは勘定系の直接移行ではないものの、将来の基幹系刷新で効いてくる業務標準化の実験場です。
メインフレーム継続とオープン化の境界
日立のVOS3終了は、メインフレームそのものの終焉を意味するわけではありません。IBMはIBM Zについて、z/OS、Linux、z/TPF、z/VMを稼働させ、ハイブリッドクラウドやAIと組み合わせる基幹インフラとして位置づけています。つまり、メインフレーム継続、オープン系移行、クラウド型共同センターのどれにも技術的な理屈はあります。
ただし、日立VOS3上の業務資産をIBM Zやクラウド環境へそのまま移せるわけではありません。COBOLやデータベース、ジョブ制御、帳票、運用監視、障害時の切り戻し手順まで含めた移植性を検証する必要があります。日立がAIエージェントを使った資産分析、仕様書再生、言語変換、データ移行、テスト自動化を掲げるのは、移行作業が単純なコード変換では終わらないからです。
NTTデータの統合バンキングクラウドも、単なるクラウド移行ではありません。BeSTAを核にした勘定系アプリケーション、共同センター運用、外部接続、運用要員を束ねる産業インフラ化の構想です。銀行から見ると、クラウドを使うかどうか以上に、標準機能へどこまで業務を合わせられるかが成否を分けます。
この点で、移行先の有力候補は「製品名」ではなく「運用共同体」です。TSUBASA、地銀共同センター、MEJAR、じゅうだん会といった枠組みは、単なるシステム名ではなく、費用負担、仕様決定、障害対応、人材育成を共同で担う単位です。地銀の勘定系移行は、技術選定であると同時に、地域金融機関の経営連合をどう設計するかという問題になっています。
移行プロジェクトに潜む業務と人材の制約
VOS3の保守終了期限が2034年12月であっても、地銀は2030年代に入ってから本格検討を始める余裕はありません。勘定系移行では、現行資産の棚卸し、移行先の選定、基本設計、詳細設計、データ移行、接続試験、総合運転試験、営業店訓練、並行稼働、切り替え判定が必要です。特に預金残高、利息計算、延滞管理、手数料、税務帳票の整合性は、銀行の信用に直結します。
最大の制約は人材です。日立と千葉銀行などの共同事務センター発表は、地域金融機関が少子高齢化や都市部への人口集中のなかで、人員確保や業務効率化、コスト適正化を急ぐ必要があると説明しています。NTTデータの地域金融機関ホワイトペーパーも、地域金融機関がノンコア部分を外部化・共同化し、限られた経営資源を集中する必要性を示しています。
これはIT部門だけの問題ではありません。勘定系の仕様は、融資審査、預金事務、営業店運営、監査、法務、顧客対応の積み重ねでできています。ベテラン行員が暗黙知として持つ例外処理を洗い出せなければ、新システムに移した途端に、営業店の現場で手戻りが発生します。AIによる仕様書再生は有効な補助線になりますが、最終的には業務担当者の検証が不可欠です。
もう1つのリスクは、共同化の速度差です。基幹系共同化に入る銀行、周辺事務だけを先に共同化する銀行、既存の共同センター更改を待つ銀行では、投資のタイミングがずれます。共同化はコストを下げる半面、仕様変更の合意形成に時間がかかります。銀行ごとの営業戦略や地域商慣行をどこまで標準に寄せるかを曖昧にしたまま進めると、後工程で調整コストが膨らみます。
したがって、今回のVOS3終了は「日立から他社へ逃げる」という単純な話ではありません。日立はモダナイゼーション支援を強化し、NTTデータは統合バンキングクラウドを打ち出し、IBMはメインフレームをハイブリッドクラウド時代の基幹インフラとして位置づけています。銀行側が問われているのは、ベンダーの看板ではなく、自行の業務をどの標準へ載せる覚悟があるかです。
地銀経営が今期確認すべき移行判断軸
地銀経営がまず確認すべきは、VOS3上の資産を「残すもの」「置き換えるもの」「共同化へ寄せるもの」に分ける棚卸しです。プログラム本数だけでなく、夜間バッチ時間、手作業の補正、外部接続、帳票、障害時の代替手順まで見える化しなければ、移行費用は見積もれません。
次に、移行先を個別行の最適化ではなく、共同化単位で検討することです。公開資料で確認できる銀行名を見る限り、千葉銀行、第四北越銀行、中国銀行、北洋銀行、東邦銀行はTSUBASAの基幹系共同化に並び、千葉銀行、第四北越銀行、東邦銀行、北洋銀行は日立と共同事務センターを進めています。一方、NTTデータは地銀共同センターの2028年ごろの更改を起点に、統合バンキングクラウドの適用を検討しています。
最後に、移行の成否をベンダー選定だけで評価しないことです。勘定系刷新で本当に不足するのは、現行業務を理解し、標準化の痛みを引き受け、移行後の運用まで設計できる人材です。2034年の保守終了は遠い期限ではなく、地銀が今期のIT投資計画で共同化、クラウド化、メインフレーム継続の線引きを始めるための実質的な号砲です。
参考資料:
- AIを徹底活用し、お客さまの基幹システムのモダナイゼーションを加速 - Digital Highlights:デジタル:日立
- エンタープライズサーバ AP10000:日立
- エンタープライズサーバ「AP10000」を販売開始:日立
- 金融ソリューション:日立
- 日立、千葉銀行・第四北越銀行・東邦銀行・北洋銀行と、バックオフィス業務の共同化に向けた合弁会社設立に合意
- TSUBASA共同事務センター株式会社の設立および相続手続の共同化に向けたシステム開発について
- 「TSUBASA共同事務センター構想」の検討開始について
- TSUBASAアライアンス
- TSUBASAアライアンスとは
- T&Iイノベーションセンター株式会社
- 金融 | NTTデータ - NTT DATA
- 地域金融機関ホワイトペーパー | NTTデータ
- IBM Zメインフレームのサーバーとソフトウェア
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