春日部「開かずの踏切」が招いた街の東西分断と衰退
はじめに
埼玉県春日部市の中心部を走る東武鉄道の踏切が、ピーク時に1時間あたり53分も遮断される「開かずの踏切」として、長年にわたり街の発展を阻んできました。鉄道によって東西に分断された市街地は、人や車の往来が妨げられ、商業施設の撤退や人口流出といった深刻な衰退を招いています。
かつてロビンソン百貨店が進出し、にぎわいを見せた時代もありましたが、その百貨店も閉店に追い込まれました。春日部の事例は、鉄道インフラが街の盛衰を左右する典型例として注目されています。現在進行中の高架化事業は、この問題を根本から解決できるのでしょうか。
1時間に53分閉まる踏切の実態
全国でも屈指の「開かずの踏切」
春日部駅付近には10か所の踏切があり、そのうち4か所が国土交通省の定義する「開かずの踏切」に該当します。特に深刻なのが東武伊勢崎線第124号踏切(県道さいたま春日部線)で、ピーク時には1時間あたり53分も遮断されます。つまり、1時間のうちわずか7分しか通行できません。
国交省の定義では、ピーク時の遮断時間が1時間あたり40分以上を「開かずの踏切」としていますが、53分という数字はこの基準を大きく上回ります。全国に500か所以上あるとされる「開かずの踏切」の中でも、特に厳しい部類に入ります。
東武伊勢崎線と野田線が交差する要衝
春日部駅は東武伊勢崎線(東武スカイツリーライン)と東武野田線(東武アーバンパークライン)が交差する鉄道の要衝です。2路線の列車が頻繁に行き交うため、踏切の遮断時間が長くなります。朝夕のラッシュ時には通勤・通学客を運ぶ列車が次々と通過し、踏切が閉まったままの状態が延々と続くことになります。
歩行者や自転車利用者は長時間の待機を強いられ、中には遮断機をくぐって横断する危険な行為も見られます。自動車にとっても深刻で、踏切前後の渋滞は周辺道路にまで波及し、地域全体の交通機能を低下させています。
鉄道分断が招いた商業衰退の連鎖
ロビンソン百貨店の盛衰が映す街の変化
春日部駅の東口には、1985年にロビンソン百貨店が開業しました。イトーヨーカ堂と米ロビンソン社の提携による新業態で、従来の百貨店よりやや低価格の「ミディアムプライス帯」を掲げた意欲的な店舗です。ピーク時の1991年には年間売上高345億円を記録するなど、地域の商業核として機能していました。
しかし、バブル崩壊後の消費低迷に加え、郊外型大型商業施設の相次ぐ出店により競争環境が激化します。踏切による東西分断は、西口方面からの集客を困難にしていました。売上は年々減少し、2013年にはブランドを「西武」に転換しましたが、回復には至りません。2015年の売上高はピーク時のわずか3分の1にまで落ち込み、2016年2月に閉店しました。
イトーヨーカドーも撤退した春日部
ロビンソン百貨店の前から春日部に根を下ろしていたイトーヨーカドー春日部店も、約半世紀の歴史に幕を下ろしています。アニメ「クレヨンしんちゃん」に登場する「サトーココノカドー」のモデルとしても知られた同店の閉店は、春日部の商業衰退を象徴する出来事でした。
踏切が街を分断することで、駅の東側と西側がそれぞれ孤立した商圏となり、いずれも十分な集客力を持てなくなります。百貨店や大型スーパーが撤退した跡地の活用も進まず、街の空洞化が加速するという悪循環に陥っています。
高架化で変わる春日部の未来
2031年完成を目指す連続立体交差事業
この長年の課題を解決するため、春日部駅付近の連続立体交差事業が進行中です。東武伊勢崎線約1.4km、東武野田線約1.5kmの計約2.9kmを高架化し、10か所すべての踏切を除却する大規模プロジェクトです。
2019年12月に事業認可が下り、2023年2月には東口仮駅舎がオープン、2024年5月には伊勢崎線の仮上り線と仮上りホームの供用が開始されました。工事は当初計画通りに進捗しており、2031年度の完成を目指しています。
東西一体のまちづくり構想
高架化の最大の効果は、鉄道によって分断されていた東西の市街地が一体化することです。高架下には自由通路が設けられ、東口と西口を自由に行き来できるようになります。駅前広場の再整備も計画されており、歩行者中心のにぎわい空間の創出が構想されています。
西口から伸びる大通りは現在の4車線から2車線に縮小し、歩道を拡幅する計画もあります。車中心から人中心のまちづくりへの転換を図る狙いです。
注意点・展望
高架化だけでは解決しない課題も
全国の事例を見ると、高架化は交通渋滞の解消には効果的ですが、それだけで商業のにぎわいが戻るわけではありません。JR阪和線の高架化では交差道路の旅行速度が8km/hから19km/hに改善されましたが、商業活性化には駅前再開発やテナント誘致などの総合的な取り組みが不可欠です。
春日部の場合、大型商業施設の撤退が相次いだことで、駅周辺の求心力は大きく低下しています。高架化完成後にどのような商業施設を誘致し、どのようなまちづくりを進めるかが問われます。
全国500か所以上の「開かずの踏切」
春日部の問題は、全国共通の課題でもあります。東京都内だけでも200か所以上の「開かずの踏切」があり、全国の約半数を占めています。立体交差化事業は莫大なコストと時間がかかるため、すべての踏切で実現できるわけではありません。各自治体は財政状況と都市計画のバランスを取りながら、優先順位を付けて対策を進めていく必要があります。
まとめ
春日部の「開かずの踏切」問題は、鉄道インフラが街の発展と衰退を左右する典型的な事例です。ピーク時に53分も閉まる踏切が東西の往来を阻み、百貨店の撤退や商業の空洞化を招きました。
2031年完成予定の連続立体交差事業は、10か所の踏切を一挙に除却し、東西分断を解消する大きな転機となります。ただし、インフラ整備だけでは街のにぎわいは戻りません。高架化を契機に、駅周辺の再開発や新たな商業施設の誘致など、総合的なまちづくりをどう進めるかが、春日部の将来を左右する鍵となるでしょう。
参考資料:
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