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百貨店が消えた春日部 ベッドタウン衰退の縮図と再生への道

by 伊藤 大輝
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2016年西武閉店に見る春日部の衰退

埼玉県春日部市は、高度成長期に東京のベッドタウンとして発展した街です。しかし近年、人口減少と商業施設の撤退が続き、「衰退するベッドタウン」の象徴として語られることが増えています。

その代表的な出来事が百貨店の消滅です。春日部市にはかつてたった1つの百貨店がありました。ロビンソン百貨店として開業し、西武百貨店に転換されたのち、2016年にひっそりと閉店しています。本記事では、百貨店消滅の経緯と、その背景にある街の構造的な変化、そして再生の展望を探ります。

ロビンソンから西武へ——30年間の軌跡

ピーク時345億円からの転落

1985年11月、イトーヨーカ堂が全額出資する形で、ロビンソン百貨店春日部店がオープンしました。「百貨店の空白地帯」に送り込まれた郊外型百貨店は、開業当初こそ物珍しさもあり集客に成功します。

売上高は1991年にピークの345億円を記録しました。バブル景気の追い風もあり、春日部の商業を支える存在として機能していたのです。しかし、バブル崩壊後は客足が遠のき、売上は急速に縮小していきます。最盛期の約3分の1にまで落ち込んだとされています。

名前を変えても止まらない衰退

売上低迷が続く中、2007年にはセブン&アイ・ホールディングスの経営判断により、ロビンソン百貨店の営業がそごう・西武に移管されました。2013年3月にはブランド名を「西武春日部店」に変更しています。

しかし、看板の架け替えだけでは根本的な問題は解決しません。消費者の購買行動は変わり続けていました。ネット通販の普及、近隣のショッピングモールとの競合、そして春日部市そのものの人口減少が重くのしかかります。

2015年10月に閉店が発表され、2016年2月29日、約30年の歴史に幕を下ろしました。春日部市から百貨店が完全に消えた瞬間です。

イトーヨーカドーも撤退

百貨店の消滅に追い打ちをかけるように、2024年にはイトーヨーカドー春日部店も閉店しました。アニメ「クレヨンしんちゃん」に登場する「サトーココノカドー」のモデルとしても知られた店舗で、1972年の開業から半世紀以上の歴史がありました。

春日部駅周辺を支えてきた大型商業施設が相次いで姿を消し、街の空洞化が一層深刻になっています。

人口減少が止まらない街の現実

数字が示す衰退の深刻さ

春日部市の人口は約23万5000人ですが、2000年頃から減少に転じています。埼玉県全体の人口増加率が1.0%であるのに対し、春日部市はマイナス1.9%を記録しています。

特に深刻なのは生産年齢人口の減少です。2035年時点の推計では、2005年比で夜間人口が23.4%減、生産年齢人口にいたっては36.1%も減少するとされています。若い世代の流出と高齢化が同時に進行する、典型的な「縮退都市」の姿がここにあります。

地価の下落も顕著です。平均地価公示は2017年で1平方メートルあたり約9万6000円と、ピーク時の1990年(約19万5000円)から50%以上の下落を記録しています。

隣の越谷はなぜ元気なのか

対照的なのが隣接する越谷市です。2008年に国内最大級のショッピングセンター「イオンレイクタウン」が開業したことで、越谷市は大きく変貌しました。

レイクタウン駅の新設により、商業施設と住宅地が一体的に開発され、今では「住みたい街ランキング」に入るほどの人気エリアとなっています。同じ東武スカイツリーライン沿線にありながら、春日部と越谷の明暗は鮮やかに分かれました。

この差を生んだ要因はいくつかあります。都心へのアクセス時間の違い(越谷の方が近い)、大規模商業開発の有無、そして行政の都市計画戦略です。春日部駅周辺は長らく大規模な再整備が行われず、老朽化した駅舎と狭い駅前広場が街の発展を阻む要因になっていました。

跡地の行方と百貨店なき街の模索

匠大塚の出店

西武春日部店の閉店後、跡地には大塚家具の創業者・大塚勝久氏が設立した「匠大塚」が2016年6月に本店としてオープンしました。地上7階建ての建物を取得し、約2万7000平方メートルを家具・インテリアの売場として展開しています。

しかし、百貨店が担っていた日常的な集客拠点としての機能は失われたままです。高級家具店は訪問頻度が低く、毎日のように人が集まる商業施設とは性格が大きく異なります。

全国で加速する百貨店の消滅

春日部の事例は決して特殊なものではありません。全国では百貨店の閉店が加速しています。主要10都市以外の百貨店は、1999年の213店舗から2026年時点で91店舗へと半数以下にまで減りました。山形県、徳島県、島根県では百貨店が1つも存在しない状態です。

一方で、都心の旗艦店はインバウンド需要で過去最高の売上を記録するなど、百貨店業界の「二極化」は鮮明になっています。地方・郊外の百貨店は構造的に存続が難しい時代に入ったといえます。

2031年度高架化と駅前再開発

春日部駅の高架化プロジェクト

暗い話題が続く春日部ですが、希望もあります。2019年に事業認可された「春日部駅付近連続立体交差事業」が着々と進行しているのです。

東武伊勢崎線と東武野田線が交差する春日部駅を高架化し、駅周辺の踏切を解消する大型プロジェクトで、2031年度末の完成を目指しています。2025年時点で用地確保は94.9%に達しており、仮線路への切り替えも進んでいます。

駅前再開発で街は変わるか

さらに、駅西口では約2.6ヘクタールのエリアで市街地再開発事業が計画されています。4つの街区に最大27階建ての住宅棟3棟と20階建て1棟が建設される予定で、商業施設やオフィス、病院などの複合的な都市機能が導入されます。

ただし、かつてのような百貨店が戻ってくることは期待できません。重要なのは、百貨店という業態に固執するのではなく、街のにぎわいを生み出す新たな仕組みを構築することです。駅前再開発によって複合商業施設と住宅が一体的に整備されれば、新たな居住者と消費の循環が生まれる可能性があります。

百貨店なき春日部再生の試金石

春日部市の百貨店消滅は、郊外ベッドタウンが抱える構造的な衰退を象徴する出来事です。人口減少、消費行動の変化、近隣都市との競合という三重苦の中で、百貨店は存続の基盤を失いました。

しかし、春日部駅の高架化と駅前再開発という大型プロジェクトが進行中であり、街は転機を迎えつつあります。百貨店のない街がどのように新たな商業とにぎわいを取り戻すのか。春日部の挑戦は、人口減少時代における全国の郊外都市にとっても重要な試金石です。

参考資料:

伊藤 大輝

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