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横浜駅西口はなぜ繁華街になったのかムービル閉館でたどる発展史

by 伊藤 大輝
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相鉄ムービル閉館が示す西口再開発の節目

横浜駅西口の複合施設「相鉄ムービル」が2026年9月30日に閉館します。これは一つの商業ビルが役目を終える話に見えますが、公開資料を追うと、実際には戦後70年以上続いた西口の都市形成が次の段階へ移る節目とみるべき出来事です。相鉄グループはムービル閉館を、2024年に打ち出した「横浜駅西口大改造構想」の皮切りと位置付けています。

横浜駅西口は、最初から現在のような巨大繁華街だったわけではありません。横浜市西区の回顧資料では、終戦直後の西口は砂利などの資材置き場だったと振り返られています。そこから百貨店、地下街、映画館、飲食街、ライブハウスが重なり、買う街であると同時に遊ぶ街へと育ってきました。この記事では、ムービル閉館のニュースを入り口に、西口がどう形成され、再開発で何が問われるのかを整理します。

砂利置き場から繁華街への転換

相鉄による戦後開発の起点

横浜駅西口の転換点は、相鉄グループが1952年にこの一帯の土地を取得したことです。相鉄の公式資料によれば、ここから西口の本格開発が始まりました。横浜市西区の資料でも、終戦直後は砂利などの資材置き場だった場所に、1956年に「髙島屋ストア」と「横浜駅名品街」が開業したとされています。西口は港に近い東口とは違い、戦後復興のなかで後発的に手が入った空間でしたが、だからこそ鉄道会社主導で面的に作り替えやすかったとも言えます。

1959年には横浜髙島屋が本格開店し、駅前の買い物機能は一気に厚みを増しました。この段階で重要だったのは、単に店が増えたことではありません。駅を降りてすぐ消費できる導線が整い、西口が「通り過ぎる場所」から「立ち寄る目的地」へ変わったことです。相鉄の資料でも、1956年の名品街と髙島屋ストア開業を起点に、西口が県下一の繁華街へ成長したと整理されています。

五番街とジョイナスが固めた西口の重心

繁華街化を決定づけたのは、百貨店だけではありません。横浜市西区の回顧資料では、西口五番街が1961年にオープンし、この頃に交通手段が市電中心から電車利用へ広がるなかで、西口へ若者が集まったとされています。喫茶店や飲食店が密集した五番街は、駅前消費を日常のたまり場へ変える役割を果たしました。西口の魅力が「大型店」と「雑多な街路」の組み合わせで成立したことは、この時期に形づくられたとみてよいでしょう。

さらに1973年には「相鉄ジョイナス」が開業し、1978年に全館完成しました。ジョイナス50周年資料によれば、名称は一般公募1万3,324通の中から選ばれ、屋上庭園も併せて整備されました。駅直結の大規模商業施設が百貨店、高架下や地下街、個店の並ぶ五番街と接続されたことで、西口は単なる駅前商業ではなく、回遊型の繁華街として完成度を高めました。現在の横浜駅西口の強みとされる「ターミナル性」と「繁華性」は、この積み上げで生まれたものです。

ムービル閉館が映す再開発の転換点

映画館集積が育てた西口の文化性

西口を買い物の街から娯楽の街へ押し広げた象徴がムービルです。横浜市西区の資料では、1956年の横浜駅名品街に封切映画館が生まれ、1971年には現在の横浜ベイシェラトンホテル&タワーズの場所に、5館を備えた初代「相鉄ムービル」が誕生したとされています。それまで封切映画を見に伊勢佐木町方面へ向かっていた観客を西口へ引き戻したことは、西口の重心が商業だけでなく文化消費にも広がったことを意味します。

その後、1988年11月12日に現在地で二代目の相鉄ムービルが開業しました。相鉄グループによれば、建物は地上6階建て、延床面積は13,571.06平方メートルで、2026年3月時点で17店舗が入居しています。ここには映画館だけでなく、相鉄本多劇場、ライブハウス、ジャズバーも入り、映画、演劇、音楽を横断する複合文化拠点として機能してきました。西口の個性が「巨大商業施設の便利さ」だけでなく、「少し雑然としていて面白い文化の混ざり方」にあるとすれば、ムービルはその核でした。

Well-Crossing構想と次の70年

もっとも、ムービルの歩みは一直線ではありません。ヨコハマ経済新聞によれば、映画館5館はシネコン台頭の影響で2006年5月末に一度閉鎖が決まり、その後同年6月から東急レクリエーションが運営を継承し、名称を「ムービル」として再出発しました。つまり西口の娯楽機能は、時代の変化に合わせて運営形態を変えながら生き延びてきたわけです。今回の2026年閉館は、映画需要の変化だけでなく、都市再編の都合で街区ごと役割を変える段階に入った点が過去との違いです。

相鉄の2024年発表によれば、「横浜駅西口大改造構想」は2020年代後半から2040年代までを想定し、歩行者優先の駅前空間や親水空間の整備を進める計画です。上位計画には横浜市の「エキサイトよこはま22」があり、国際都市の玄関口にふさわしいまちづくりが掲げられています。実際、北側では2024年に「THE YOKOHAMA FRONT」が順次開業し、西口更新はすでに始まっています。その一方で、ムービル、1000クラブ、横浜西口一番街を含む南幸側の一体開発は、西口の魅力だった雑多さや文化の受け皿をどう残すのかという難題を突き付けます。再開発の成否は、新しくなることそのものではなく、西口が育ててきた回遊性と文化密度を次世代に持ち越せるかで決まります。

再開発で問われる西口の文化機能と個店余地

このテーマで注意したいのは、「古い街並みが消えるのは寂しい」という感情だけで、再開発を単純に否定しないことです。相鉄の公式資料が示す通り、西口の大規模開発は1952年の着手から70年以上が過ぎ、老朽化や機能更新の必要性が高まっています。歩行者空間の改善や水辺活用は、西口が長年抱えてきた歩きにくさを解消する可能性があります。

一方で、再開発の図面だけでは街の魅力は生まれません。横浜駅西口が強かったのは、百貨店や大型商業施設に加え、五番街の個店、映画館、劇場、ライブハウスが近い距離で混ざっていたからです。今後の焦点は、国際競争力やWell-beingといった大きな言葉を、どれだけ具体的な文化機能や夜のにぎわい、個店の余地に落とし込めるかにあります。ムービル閉館は終わりではなく、西口が「便利な駅前」にとどまるのか、「横浜らしい繁華街」を更新できるのかを試す出発点です。

砂利置き場から次の70年への西口再編集

横浜駅西口は、砂利置き場と回顧される戦後空間から、髙島屋ストア、名品街、五番街、ジョイナス、ムービルを重ねながら、日本有数の駅前繁華街へ育ちました。その歴史を振り返ると、西口の発展は大型開発だけではなく、映画や演劇、飲食といった多層的な滞在価値を加えてきた点に特徴があります。

だからこそ、相鉄ムービルの閉館は単なる閉店ニュースではありません。これは横浜駅西口が次の70年へ向かうための再編集であり、同時に西口らしさを残せるかどうかの試験でもあります。今後の再開発を見るうえでは、新しい建物が何階建てになるかよりも、街がこれまで持っていた文化の厚みと雑多な魅力を、どこまで再構成できるかに注目する必要があります。

参考資料:

伊藤 大輝

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