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地方で本格化する「スマートシュリンク」その背景と自治体の挑戦

by 松本 浩司
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人口減少下で本格化するスマートシュリンク

日本の人口減少が加速しています。2025年の出生数は約70万5,809人と10年連続で減少し、総人口は前年比で約59万人減の1億2,319万人となりました。全国1,729の自治体のうち744が2050年までに「消滅可能性」があるとされ、東京都を除く46道府県すべてで人口が減り続けています。

こうした状況のなかで注目を集めているのが「スマートシュリンク(賢く縮む)」という考え方です。人口減少を食い止めるのではなく、縮小を前提にしながら住民のウェルビーイングを維持・向上させるという発想の転換が、地方自治体の現場で本格化しています。この記事では、スマートシュリンクの概念と実際に取り組む自治体の最新事例を解説します。

スマートシュリンクとは何か

経済学者・小峰隆夫氏が提唱した「賢く縮む」戦略

スマートシュリンクは、大正大学客員教授の小峰隆夫氏が約10年前から提唱している考え方です。小峰氏は2010年に『人口負荷社会』を刊行し、2017年の著書『日本経済論講義』で「これから求められているのはスマートシュリンク」という議論を展開しました。2024年には中公新書『地域と人口減少の経済学—スマート・シュリンクという選択肢』を出版し、長年にわたりこの考え方を発信してきました。

この戦略には3つの柱があります。第一に、人口減少は避けられないという現実を直視すること。第二に、人口増加時代の再現を目指すのではなく、身の丈に合った住民のウェルビーイング重視の地域づくりを進めること。第三に、人口が減っても人々の幸福度を高めることは十分に可能であるという前向きな認識を持つことです。

従来の「成長志向型」地方創生との違い

従来の地方創生は、移住促進や企業誘致によって人口を増やすことを主な目標にしてきました。しかし全国の人口が減少するなかで、ある自治体が人口を獲得すれば別の自治体から流出するという「ゼロサムゲーム」に陥りがちでした。

スマートシュリンクはこの発想を転換します。人口規模の維持ではなく、住民一人ひとりの生活の質を高めることに注力する戦略です。公共施設の集約、行政サービスの効率化、地域コミュニティの再編などを通じて、少ない人口でも持続可能な地域運営を目指します。

先進自治体の実践事例

岡山県美咲町——公共施設60カ所の大胆な再編

岡山県美咲町は、平成の大合併で3町が統合した自治体です。合併後も旧町単位で残った公共施設が財政を圧迫し、県内ワーストクラスの人口減少率に直面していました。

青野高陽町長のもとで「賢く収縮するまちづくり」を基本方針に掲げ、旧学校施設やプール、温泉施設、公民館など約60カ所の施設について解体・売却を推進しました。複数の施設機能を1カ所に集約した多世代交流拠点を整備し、小中一貫の義務教育学校も開校しています。さらに「小規模多機能自治」の仕組みを導入し、住民自身がまちづくりを「自分ごと」として担う体制を構築しました。

高知県——「4Sプロジェクト」で県レベルの推進

高知県は2025年に「4Sプロジェクト」を始動しました。「Smart Shrink for Sustainable Society(持続可能な社会のためのスマートシュリンク)」の頭文字を取った名称で、4つの視点から改革を進めています。

「集合」は複数の事業体を束ねてスケールメリットを追求し、「伸長」は真に必要なサービスを充実させます。「縮小」では重複するサービスの共同化や手法の簡素化を図り、「創造」は前例にとらわれない新たな試みを推進します。具体的には消防の広域化や、運転手不足による大幅な減便に直面する公共交通の抜本的な改革に着手しています。

高知県は人口減少率が全国で3番目に高い地域です。こうした危機感が、県単位でのスマートシュリンク推進という先進的な決断につながりました。

北海道松前町——脱炭素とDXの掛け合わせ

北海道松前町は2023年に「スマート・シュリンクSXビジョン」を策定しました。SXは「サステナビリティ・トランスフォーメーション」の略です。再生可能エネルギーの活用による脱炭素化と、DXを活用したコミュニティの維持を組み合わせた独自のアプローチが特徴です。過疎地ならではの課題をデジタル技術で解決しつつ、持続可能なまちづくりを目指しています。

政策の転換——地方創生2.0との接続

国の方針にもスマートシュリンクの視点

2025年6月に閣議決定された「地方創生2.0基本構想」は、過去10年の地方創生を総括した新たな指針です。注目すべきは、人口減少を「正面から受け止めた上で、人口規模が縮小しても経済成長し、社会を機能させる適応策を講じる」と明記された点です。

これはまさにスマートシュリンクの考え方と軌を一にするものです。政府は「関係人口」を1,000万人創出する目標や、東京圏から地方への若者の流れを倍増させる方針も掲げています。人口の「量」だけでなく、地域との「関わりの質」を重視する方向へ大きく舵を切りました。

経済産業研究所(RIETI)の研究でも、地方創生2.0を成功に導くためにはスマートシュリンクを基本戦略に据えるべきだと提言されています。データを直視し、持続可能性の問題に真剣に取り組む姿勢が不可欠です。

美咲町に学ぶ住民参加と縮小の条件

スマートシュリンクは万能の解決策ではありません。施設の統廃合は住民の反発を招きやすく、「切り捨て」と受け取られるリスクがあります。美咲町のように住民参加型のプロセスを丁寧に構築することが成功の鍵です。

また、「賢く縮む」ことと「衰退を容認する」ことは本質的に異なります。スマートシュリンクはあくまで住民のウェルビーイング向上を目的とした積極的な戦略であり、サービスの質を維持・向上させながらの縮小でなければ意味がありません。

今後は高知県のような県単位の推進や、デジタル技術との融合がさらに進むと考えられます。人口減少が全国で加速するなか、成長を前提としない地域運営の知恵が各自治体に求められる時代に入っています。

地方創生2.0へ広がる地域戦略

スマートシュリンクは、人口減少という避けられない現実を前向きに捉え、「縮んでも豊かに暮らせる地域」をつくるための戦略です。岡山県美咲町の施設再編、高知県の4Sプロジェクト、北海道松前町のSXビジョンなど、すでに具体的な取り組みを進める自治体が現れています。

国の政策も「地方創生2.0」でこの方向に舵を切りました。人口の増減にとらわれず、住民一人ひとりの暮らしの質に目を向けることが、これからの地域づくりの出発点になるでしょう。

参考資料:

松本 浩司

マクロ経済・国際経済

国際経済の潮流を、通商政策・為替・新興国の動向から多角的に分析。グローバル経済の「次の震源地」を見極める。

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