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串カツ田中55円無限串の客数増を支える採算構造と外食M&A戦略

by 佐藤 理恵
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55円串が外食値上げ局面で刺さる理由

外食各社が原材料高、人件費、物流費の上昇を価格に転嫁するなかで、串カツ田中の「無限串」は逆方向に見える施策です。1本50円、税込55円という価格は、客単価を上げたい外食企業にとって一見すると利益を削る判断に映ります。

しかし、同社の月次と決算を追うと、狙いは単品粗利の最大化ではなく、来店動機の再設計にあります。2026年4月度の串カツ田中グループ既存店売上高は前年同月比114.9%、客数は112.5%でした。客単価も102.1%と前年を上回っており、低価格商品が客単価を壊していない点が重要です。

日本フードサービス協会の2026年3月度調査でも、外食全体の売上は105.7%、パブ・居酒屋業態は104.8%と堅調でした。ただし、伸びの中身は客数と単価の両方をどう取るかに分かれています。串カツ田中の無限串は、値上げ疲れの消費者に「安く試せる理由」を差し出しながら、店内での追加消費に接続する商品です。

客数を動かす無限串の商品設計

小ぶりで頼みやすい価格の心理効果

無限串シリーズは、2025年4月24日に「無限ニンニクホルモン串」として始まりました。公式発表では、発売から約2週間で累計販売数100万本を突破し、それまで月間販売数が最大約60万本だった「串カツ豚」を上回ったとされています。2025年6月には累計300万本、2026年3月下旬にはシリーズ累計2000万本、累計売上10億円に到達しました。

この伸び方を見ると、55円という価格は単なる値引きではなく、注文の心理的ハードルを下げる価格設計です。通常の串カツより小ぶりで軽く食べられること、にんにくやホルモンの味付けで酒類と合わせやすいことも、注文本数を増やす方向に働きます。安いから1本だけ試すのではなく、「とりあえず数本」と頼みやすい点が強みです。

外食では、低価格商品が利益を圧迫するか、集客装置になるかの差は大きいです。例えば主力メニューを大幅に値引きすれば、既存の粗利を直接削ります。一方で、無限串は小ぶりな専用商品として設計されているため、通常の串カツ価格体系を全面的に崩しません。顧客にとっては安く、企業にとってはブランド全体の値崩れを避けやすい構造です。

ここで注目すべきは、価格が「安い」だけでは話題が長続きしないことです。2026年1月には「無限土手みそホルモン串」と「無限柚子ぽん酢ホルモン串」が加わりました。こってり系とさっぱり系を用意し、初代商品の終売後もシリーズとして鮮度を保っています。ヒット商品の寿命を延ばすには、同じ価格帯で味の違いを作り、再来店理由を更新することが欠かせません。

サワーと追加注文を生む店内導線

無限串が財務的に意味を持つのは、55円の串だけで完結しないからです。串カツ田中の4月度月次では、無限串専用サワー「ツンデレ」「寄り添い」が1カ月で累計12万9000杯を記録し、客単価上昇にも寄与したと説明されています。低価格の串を入り口に、酒類や他の串、一品料理へ注文を広げる導線が組まれているわけです。

居酒屋業態では、最初の注文がテーブル全体の雰囲気を決めます。価格が高いメニューばかりだと、消費者は注文量を絞りがちです。逆に、最初に55円の商品があると、来店直後の心理的な緊張が下がります。安いメニューを起点に会話が生まれ、チンチロや飲みパスのような既存の店内体験とも組み合わせやすくなります。

この設計は、ファミリー層や若年層にも効きます。串カツ田中は大衆酒場の楽しさを打ち出してきましたが、全店禁煙化や子ども向け施策によって、居酒屋でありながら家族利用も取り込んできました。55円串は、酒を飲む人にはつまみとして、飲まない人には少量の追加メニューとして機能します。利用シーンを狭めないことが、客数増の下支えになります。

また、SNSで拡散されやすい価格である点も見逃せません。物価高のニュースが続く環境では、「安いのに楽しい」という投稿は目立ちます。広告費をかけて認知を買うだけでなく、来店者自身が話題を広げる余地を持つ商品は、販促効率の面でも優れています。無限串は、価格、味、注文本数、写真映えの複数要素が重なることで、店外の認知を店内の注文に戻す循環を作っています。

決算に表れた低価格商品の収益力

既存店売上を支えた客数増

ユニシアホールディングスの2026年11月期第1四半期決算では、串カツ田中セグメントの売上高は49億2060万円、前年同期比121.4%でした。セグメント利益は6億5317万円です。会社側は、ヒット商品の無限串を集客ドライバーとして来店者数が増加したと説明しています。

月次でも同じ傾向が見えます。2026年3月度の串カツ田中グループ既存店売上高は116.1%、客数は114.6%でした。4月度も売上高114.9%、客数112.5%と、伸びの中心は客数です。客単価だけに頼る増収ではなく、来店人数を増やしているため、外食チェーンとしては質の高い伸び方です。

これは、2025年11月期の好調にもつながっています。通期売上高は210億9100万円、前期比25.1%増、営業利益は11億8500万円、同39.8%増でした。売上高営業利益率は5.6%で、前期の5.0%から改善しています。値上げ環境下で低価格商品を投入しながら営業利益率を維持・改善した点は、原価管理や追加注文の設計が一定程度機能したことを示します。

もちろん、55円串そのものの採算は外部資料だけでは断定できません。重要なのは、単品損益ではなく客数、客単価、粗利ミックスを合わせた店舗損益です。会社側は第1四半期説明資料で、物流費削減や仕入れ業者の選定により原価を一定に保ったとしています。低価格商品の成功には、表の価格だけでなく、裏側の購買・物流・オペレーション改善が必要です。

食品産業新聞社の報道では、2025年度に国内既存店313店舗のうち約54%にあたる170店舗が過去最高年商を更新しました。大阪のアメリカ村店は年商2億819万1019円に達したとされます。個別店舗の実績を全社に単純に広げることはできませんが、ヒット商品が一部の旗艦店だけでなく、既存店全体の更新力に影響している可能性はあります。

M&A後に重くなるのれん償却

一方で、企業分析としては無限串の成功だけを見ていては不十分です。串カツ田中ホールディングスは2026年3月にユニシアホールディングスへ社名を変え、串カツ単一ブランドから複数業態を束ねる会社へ移行しています。2025年12月には、郊外型イタリアン「PISOLA」を展開するピソラを完全子会社化しました。

このM&Aは売上規模を一気に押し上げます。2026年11月期第1四半期の連結売上高は85億9758万円、前年同期比187.8%でした。ピソラの売上高29億702万円が新たに加わった影響が大きく、連結売上の見た目は大きく変わっています。

ただし、利益には重さも出ています。第1四半期の営業利益は2億3569万円で前年同期比95.0%、経常利益は1億6063万円で50.5%、親会社株主に帰属する四半期純利益は3277万円で26.9%でした。売上は大幅増でも、利益は減少しています。要因の一つが、買収に伴うのれん償却とM&A関連費用です。

決算短信では、ピソラ取得の対価は88億380万円、発生したのれんは暫定で87億753万円とされています。償却期間は15年です。第1四半期だけでピソラ関連ののれん償却額は1億4758万円でした。決算説明資料では、ピソラはのれん償却前では1億1400万円の営業利益を出している一方、のれん償却後は赤字になっています。

この構図は、投資家にとって重要です。無限串が串カツ田中の既存店を押し上げても、連結損益ではPISOLA買収の会計負担がしばらく残ります。2026年11月期計画は売上高361億4000万円、前期比71.3%増ですが、営業利益は10億円で減益見通しです。売上成長をそのまま利益成長と読むと、評価を誤ります。

拡大戦略に残る原価と人件費の圧力

外食産業全体には、引き続きコスト上昇圧力があります。帝国データバンクの食品主要195社調査では、2025年の飲食料品値上げは2万609品目でした。値上げ要因では原材料高が9割超を占め、物流費や人件費の比率も高まっています。居酒屋チェーンは、食材、酒類、配送、人件費のすべてで影響を受けます。

串カツ田中も人材投資を避けられません。2026年11月期第1四半期決算短信では、2025年12月の賃金から定期昇給を含め平均7.5%の賃上げを実施したと説明しています。サービス品質を保つには採用力が必要で、賃上げは中長期的には顧客体験に効きます。ただし、短期的には販売費及び一般管理費を押し上げます。

さらに、出店ペースも負担になります。第1四半期末のグループ店舗数は432店舗で、串カツ田中が350店舗、ピソラ他が67店舗でした。決算説明資料では、2026年11月期末に485店舗を計画し、串カツ田中40店舗、ピソラ21店舗、新業態5店舗、海外1店舗の出店を掲げています。出店は成長の源泉ですが、開業費、人材育成、初期販促、減価償却が先行します。

無限串のような強い集客商品があることは、出店リスクを下げます。新店でもわかりやすい目玉商品があれば、初回来店を促しやすいからです。一方で、ヒット商品の鮮度が落ちた場合、既存店客数の伸びは鈍ります。55円という価格は消費者に強い印象を与える半面、値上げや内容変更を行う際の心理的抵抗も大きくなります。

PISOLAとのシナジーも、まだ検証段階です。ピソラは郊外ロードサイドを中心に展開するファミリーレストラン型で、繁華街や住宅街に強い串カツ田中とは立地と利用動機が異なります。共同購買や人材交流、店舗開発ノウハウの共有が進めばグループ価値は高まりますが、ブランドの客層が違うため、単純な横展開では効果が出にくい可能性もあります。

したがって、無限串の成功は「低価格で勝つ」という単純な話ではありません。価格を下げる一方で、注文本数、酒類、来店頻度、出店効率、仕入れ改善まで組み合わせる必要があります。どれか一つが崩れると、低価格商品は集客装置から利益圧迫要因に変わります。

投資家が追うべき月次と統合効果

今後見るべき指標は三つあります。第一に、串カツ田中グループの既存店客数です。2026年3月と4月は2桁増が続きましたが、無限串効果が一巡した後も客数が高水準を保てるかが焦点です。客単価よりも、客数の粘りがブランドの集客力を示します。

第二に、専用サワーや季節メニューを含む追加注文の動きです。55円串は入口商品であり、利益の厚いメニューへどれだけ接続できるかが採算を左右します。4月に専用サワーが12万9000杯売れたように、低価格串から飲料へ広がる流れが続けば、低価格戦略の説得力は増します。

第三に、PISOLA買収後ののれん償却前利益と営業利益の差です。会計上ののれん償却はしばらく残りますが、償却前で十分な利益が積み上がれば、M&Aの評価は変わります。逆に、出店費用や既存店鈍化で償却前利益が伸びなければ、売上拡大の見栄えに対して利益の回復が遅れます。

串カツ田中の無限串は、外食値上げ時代における逆張りの成功例です。ただし、その本質は安売りではなく、来店理由を作り、追加注文へつなぎ、財務負担を吸収するだけの店舗収益力を磨くことにあります。読者や投資家は、累計販売本数の派手さだけでなく、月次客数、客単価、のれん償却前利益の三点を追うべきです。

参考資料:

佐藤 理恵

企業分析・M&A

会計士としての経験を活かし、企業の財務構造やM&A戦略を深掘り。数字の裏にある経営者の意思決定を読み解く。

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