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サンマルクカフェ大量閉店後の再成長を支えるFFH新戦略の勝算

by 佐藤 理恵
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大量閉店後に始まったサンマルクカフェの反転局面

サンマルクカフェが、縮小均衡から再成長へと舵を切っています。コロナ前に400店超まで広がった店舗網は、2025年3月期末に285店まで絞り込まれました。ところが、2026年3月期末には289店と小幅ながら純増に転じ、会社側は2029年度までに370店体制を掲げています。

この動きは、単なる出店再開ではありません。閉店で失った規模を取り戻す局面であると同時に、過去の出店判断、商業施設依存、商品体験、労働生産性を作り直す局面です。財務資料と外食市場データを重ねると、サンマルクカフェの課題は「店数」よりも「一店当たりの稼ぐ力」に集約されます。

店舗縮小を促した立地依存と採算管理の再点検

400店超から285店への縮小幅

サンマルクカフェの大量閉店は、コロナ禍だけで説明すると本質を見誤ります。流通ニュースは、サンマルクカフェがコロナ前に400店を超えていた一方、2025年3月期末には285店まで減少したと報じています。2026年3月期決算説明会資料でも、2025年3月期末285店、2026年3月期末289店、2029年3月期に約370店を目指す店舗数見通しが示されています。

閉店が集中した背景には、駅ナカや商業施設への出店を積み上げてきたモデルの限界があります。人流が戻れば回復する立地もありますが、賃料負担が重く、売上のピーク時間が限られ、客席稼働が読みづらい店舗では、損益分岐点が上がりやすくなります。店舗網の拡大が進むほど、現場の個店採算を精密に見る仕組みが弱いと、低収益店が残りやすくなります。

飲食チェーンでは、閉店はしばしば「後退」と受け止められます。しかし会計上は、固定費を抱える赤字店を残す方が損失を長引かせます。賃料、人件費、減価償却、原状回復費を含めて見ると、閉店は短期費用を伴う一方、将来キャッシュフローを改善する資本配分でもあります。

喫茶事業の利益回復と月商改善

サンマルクHDの2026年3月期決算説明会資料によれば、喫茶セグメントの売上高は284億6200万円、セグメント損益は30億2700万円です。前期比では売上高が16億8300万円増、損益が7億8900万円増となり、閉店で売上規模が小さくなった印象とは逆に、利益面は改善しています。

重要なのは、店舗数を減らしながら一店当たりの売上が回復している点です。同資料では、サンマルクカフェの1店舗当たり平均月商を2020年3月期を100とした指数で示しており、2021年3月期には63.6まで落ち込んだ後、2026年3月期には129.2まで上昇しています。これは、閉店後に残った店舗の売上密度が高まったことを意味します。

もちろん、この数字は低採算店の整理による見かけの改善も含みます。だからこそ、今後の出店では「どの立地で、どの投資額なら、この月商を維持できるか」が問われます。閉店後の利益回復は評価できますが、再拡大で同じ採算水準を保てなければ、過去の失敗を繰り返すことになります。

モール偏重から路面店回帰への修正

会社側が打ち出したのは、路面店の出店加速です。PR TIMESで公表されたサンマルクカフェの新成長戦略では、「日常に一番近い街角カフェ」を掲げ、生活者の日常導線に入る路面店を強化するとしています。グルメ Watchや流通ニュースも、新宿御苑前店を起点に「サンマルクカフェ&茶」を展開し、2026年度に新規出店5店、改装・転換25店を計画すると伝えています。

路面店回帰は、ブランド接点を取り戻す意味があります。商業施設内では集客を施設に依存しやすく、店舗体験も周辺テナントとの比較に埋もれます。路面店なら朝食、昼食、手土産、仕事の合間、夕方の休憩といった日常利用を取り込みやすく、営業時間や販促の自由度も高まります。

一方で、路面店は物件取得、内装投資、人員配置の負担も重くなります。サンマルクカフェの再成長が成立するかは、路面店の売上機会を増やすだけでなく、厨房動線と注文方式で人時売上を引き上げられるかにかかっています。

FFHとお茶が変える一店当たり収益の設計

ツーオーダー方式の狙い

新戦略の中核は「FFH」です。Fresh、Fast、Handmadeの頭文字を取ったコンセプトで、注文後に目の前で調理・仕上げを行う「ツーオーダー方式」を導入します。公式発表では、従来の「焼きたてパンを選んで買う」スタイルに加え、ホットサンドやホットドッグなどを注文ごとに仕上げる設計が示されています。

この狙いは、単にできたて感を出すことではありません。財務面から見ると、客単価、粗利率、廃棄率、ピーク対応力の4つを同時に改善しようとする施策です。従来の陳列型ベーカリーは、視認性とスピードに強い反面、時間経過による品質劣化と廃棄の問題を抱えます。注文後仕上げに寄せれば、在庫を部材化し、最終調理のタイミングを需要に合わせやすくなります。

公式発表では、厨房区画を50センチから1メートル拡張し、保温庫や連続焼成可能な機器を導入するとしています。これは見た目のリニューアルではなく、店舗オペレーションへの投資です。セルフレジやモバイルオーダーとの連携も含め、注文情報を厨房に直結させることで、手作り感を残しながら待ち時間を抑える設計です。

モーニングとランチで埋める時間帯別需要

サンマルクカフェの弱点は、チョコクロの認知度に比べ、食事需要の想起が限定的だった点です。新戦略では、朝の「あさマルクカフェ」、昼の「ひるマルクカフェ」を全国展開し、モーニングはドリンク付き390円から、ランチはドリンクセット550円からという価格帯を打ち出しています。

この価格設計は、節約志向が強い局面では合理的です。日本フードサービス協会の2026年3月度外食産業市場動向調査では、外食全体の売上は前年比105.7%でしたが、物価高による節約志向で客数が伸び悩む業態もあると説明されています。喫茶業態は売上105.3%、客数101.5%、客単価103.7%でした。つまり、市場は伸びていますが、伸びの多くは客単価上昇に依存しています。

その環境で高単価メニューだけを増やすと、客数を取り逃がします。低価格の入口商品で来店頻度を保ち、注文後仕上げのホットサンドやドリンク強化で客単価を上げる二段構えが必要です。サンマルクカフェの再拡大は、価格訴求と体験価値のバランスを崩さないかが焦点になります。

&茶で広げる非コーヒー需要

もう一つの柱が「サンマルクカフェ&茶」です。新宿御苑前店の公式案内では、FFHに加え、お茶にフォーカスしたメニューを展開すると説明されています。PR TIMESの発表では、黒糖タピオカ凍頂烏龍ミルクティー、ジャスミンフルーツティー、紅茶のエッグタルトなどが例示されています。

この施策は、若年層や非コーヒー需要を取り込む意味があります。スターバックスは2026年3月末で国内2116店、ドトールグループは2026年2月末で国内1289店と、規模の大きい競合が存在します。コーヒーを正面から競うだけでは、サンマルクカフェは価格でもブランド体験でも中途半端になりやすい構図です。

お茶とベーカリーを組み合わせると、差別化の軸が変わります。コーヒーだけでなく、フルーツティー、タピオカ、エッグタルト、ホットサンドを組み合わせることで、午後需要、若年層のテイクアウト、手土産需要を取り込みやすくなります。看板商品のチョコクロに依存しすぎた売場から、複数の利用動機を持つ店舗へ変えられるかが鍵です。

再出店フェーズで問われる投資規律と人手不足耐性

サンマルクカフェの次のリスクは、再成長そのものです。2026年3月期決算説明会資料では、サンマルクHD全体の売上高は884億3200万円、喫茶セグメントはそのうち284億6200万円です。グループ全体では牛カツ業態のM&Aも成長に寄与しており、喫茶事業だけで全社の成長を説明することはできません。

そのため、投資家が見るべきなのは、サンマルクカフェの店舗数が増えるかどうかだけではありません。新規店の初期投資、改装費、減価償却、既存店売上、退店数、セグメント利益率を合わせて見る必要があります。出店を急げば売上は増えますが、投資回収期間が長くなれば資本効率は悪化します。

外部環境も甘くありません。総務省統計局の2025年平均消費者物価指数では、食料が前年比6.8%上昇し、菓子類も原材料価格、物流費、光熱費の上昇などで8.9%上昇しました。チョコクロを主力に持つサンマルクカフェにとって、チョコレートや乳製品、小麦、エネルギー、人件費の上昇は避けられない圧力です。

人手不足も大きな制約です。FFHは「手作り」を売りにしますが、作業が複雑になれば教育コストとピーク時の負荷が上がります。セルフレジやモバイルオーダーで省人化できる部分と、人が担う仕上げ工程の切り分けが曖昧だと、店舗体験は改善しても利益率が伸びません。

再出店局面で最も避けるべきは、売上成長を優先して低収益店を再び抱えることです。2029年度370店という目標は、2026年3月期末289店から約80店の純増を意味します。数年単位では現実的な伸びですが、物件選定を誤れば、また閉店費用を伴う調整局面に戻ります。

読者が次に確認すべき3つの経営指標

サンマルクカフェの復活を判断するには、第一に既存店売上の中身を見るべきです。客単価上昇だけで伸びているのか、客数も戻っているのかで、ブランドの再評価は大きく変わります。日本フードサービス協会の喫茶業態データでも、客単価主導の成長が目立つため、客数の継続回復は重要です。

第二に、新フォーマット店の投資回収です。FFHや&茶は魅力的なコンセプトですが、厨房拡張や新機器導入には投資が必要です。改装後の売上増、粗利改善、人時売上の改善が改装費を上回るかを確認する必要があります。

第三に、退店数の抑制です。出店数が増えても、退店数が高止まりすれば店舗網は安定しません。サンマルクカフェの再成長は、400店超から285店まで縮小した経験を、次の店舗選定と運営設計にどこまで反映できるかで決まります。読者は、店数の見出しよりも、一店当たり月商、既存店客数、喫茶セグメント利益率を追うべきです。

参考資料:

佐
佐藤 理恵

企業分析・M&A

会計士としての経験を活かし、企業の財務構造やM&A戦略を深掘り。数字の裏にある経営者の意思決定を読み解く。

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